質問をしていくと、様々な事が浮き彫りになっていく。
この事件は、単なるテロではなかった。
ミシェルの裏には、ラブライア王国と転移者がいる。
転移者の名前は、アソブ・ツクロダというらしい。
どうやら、無から魔道具を作り出す能力を持っているようだ。
銃と輪も、ツクロダの作品とのこと。
また現在では伯爵の地位を得て、ラブライア王国の姫を嫁に貰っていることが判明した。
転移して来てからそこまで経過していないが、ここまで短期間で成り上がるとは驚きだ。
しかしそれには、ラブライア王国ならではの理由があった。
元々ラブライア王国は、テイマーやサモナーでなくても、力さえあれば成り上がれるらしい。
加えて物語のように、運命的にも姫を助けたようだ。
何でもツクロダは、多少先の未来を見通す魔道具まで作れるようである。
ゆえに、今回の失敗をミシェルは嘆いていた。
本来成功を約束されていたのに、失敗したからだ。
けれどもこの失敗は、おそらく俺が関わっていたからだろう。
ツクロダの未来視は、俺の存在を感知できないと思われる。
でなければ俺のことを警戒して、何らかの手を打ってきていただろう。
これは予想だが、ツクロダの作れる魔道具には、制限や限界があるのかもしれない。
輪は五つ身につける必要があるし、ライフル銃はシンプルで現代的なものではなかった。
しかしいずれ成長した時、どうなるのかは分からない。
ボタン一つで相手を服従させられるようになるかもしれないし、現代の戦車を作れるようになる可能性もある。
まったく、末恐ろしい神授スキルだ。
おそらく転移者の中でも、上位のチートスキルだろう。
ミシェルもツクロダに心酔しており、この心酔こそが、作戦に参加できた理由らしい。
またサモナーだったことも、影響していたようだ。
リビングアーマーを大量に呼び出し、銃を撃たせるだけで大抵の者は倒せる。
実際会場にいた俺とリード、ハパンナ子爵以外は全滅した。
観客は逃げ出しているが、騒ぎを起こさせる為にあえて生かしているようだ。
その隙に、他の仲間の一人がモンスター園を襲撃しているらしい。
ハパンナ子爵の屋敷にいるモンスターは、最後の仕上げに二人で行う予定だったみたいだ。
だがミシェルはこの手で捕らえたので、屋敷の襲撃は実質防げたも同然である。
しかし問題なのはモンスター園の襲撃であり、これがかなり不味かった。
なぜならモンスター園には、テイマーやサモナーが自分のモンスターを預けているからである。
そこにもここと同じく、五十匹のリビングアーマーを連れて向かったらしい。
また最終的に今回の襲撃の主な目的は、以下の三つだと判明した。
・決勝トーナメントに出るような、将来性の高い優れたテイマーやサモナーの排除。
・街を統治する貴族の排除。
・テイマーやサモナーのモンスターの排除。
しかもこの襲撃は、他の街でも行われているとのこと。
この国はテイマーやサモナーの力がとても強いので、これはとてつもない痛手だろう。
完全に、国を弱体化させに来ている。
ミシェルの辛い過去や、テイマーやサモナーへの恨みなども分かったが、そんなことはどうでもいい。
今はまだ陽動の時間であり、モンスター園の襲撃は行われていないらしい。
おそらく、街の衛兵などがここに目を向けるのを待っているのだ。
だからこそ、ミシェルは目立つように行動をした。
未来視では、それが成功していたのだろう。
しかしそれは、俺がいなければの話だ。
本来であれば優勝はおそらくリードであり、最初に仕留められていたのだろう。
ミシェルが決勝トーナメントで負けたのは、背後から優勝者を狙うためのわざとだと思われる。
二次予選優勝者は、この国のテイマーとサモナーの、未来を背負う者たちだ。
各街の優勝者を消すだけで、将来的な脅威が一気に減る。
なんと、悪辣な手段だろうか。
ラブライア王国が、本気でこの国を落としにかかっていることに他ならない。
またミシェルがこれほどまでに多くのリビングアーマーを従えることができていたのには、理由がある。
それは、使役数増加の指輪という魔道具だ。
身につけているだけで、使役できるモンスターの上限が大幅に増加する。
ただしデメリットとして、寿命を大きく削るようだ。
またミシェルから取り外されると、爆発する。
俺が以心伝心+ではなく拷問で無理に聞き出そうとすれば、ミシェルは躊躇わずに指輪を外して、周囲を巻き込みながら自害しただろう。
それをしないのは、モンスター園襲撃までの時間を稼ぐためだと思われる。
なので俺は指輪のあるミシェルの腕を爪で切り飛ばした瞬間、ストレージを展開して爆発前に収納した。
これで非常時の切り札が一つ増えたと同時に、ミシェルの自害を阻止することができる。
ミシェルが悲痛の叫びを上げ、リードたちが何か言いたげなので、軽く説明をしておく。
ついでに分かったことも教えて、今は一刻も早くルーナたちと合流することを勧める。
不意打ちだから危なかったが、先にモンスターを召喚していればリードたちは大丈夫だろう。
ミシェルも余りの苦痛から最後の足掻きでモンスターを召喚してきたが、それも瞬殺した。
俺に状態異常はほとんど効かないので、相手にはならない。
それよりも俺はここからは二人と別行動で、モンスター園へと向かうことにする。
なにやら訊きたいことがあるみたいだが、時間がない。
正直、かなり時間をロスしてしまった。
急がなければ、襲撃が始まってしまう。
ならばこういう時こそ、あいつを召喚するべきだ。
俺はそう思い、これまで召喚していなかったグリフォンを呼び出す。
「グルルゥ!」
その背に俺はまたがると、急いで飛び立つことにした。
二人なら、おそらく大丈夫だろう。
ちらっと兵士たちも集まって来ていたし、他にやっかいな敵はいなさそうだ。
ただこれはミシェルが自分で思っているだけであり、こっそり他の者が潜んでいるかもしれない。
だがそれを気にし過ぎれば、モンスター園が壊滅する。
なので最後にハイオークとオーク軍団を召喚して、リードとハパンナ子爵の言うことを聞くように命令しておく。
これなら、例えリビングアーマーが来ても凌げるだろう。
「もしかして、君はジン君なのか……?」
「ん? そうだよ。よくわかったね。けど、今は急がなきゃ」
どうやらリードは何かの切っ掛けで俺の正体に気が付いたようだが、話している余裕はない。
俺はそう言うとグリフォンに乗って、モンスター園を目指す。
幸いこの前行った時に、場所はおおよそ聞いていた。
あれだけ大きな施設なので、空から見れば分かるだろう。
「全速力で頼むよ」
「グルル!」
俺の言葉を聞き、グリフォンが空を駆ける。
空には障害物が無いので、走るよりも断然速い。
そしてあっという間に、俺はモンスター園へと辿り着く。
しかし見れば、何者かが園内の預かりエリアで、既にリビングアーマーを召喚している。
間に合わなかったのか!?
俺はそれを見て、急いで駆けつけるのだった。
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