076 聞き取りの結果

 質問をしていくと、様々な事が浮き彫りになっていく。

 この事件は、単なるテロではなかった。

 ミシェルの裏には、ラブライア王国と転移者がいる。

 転移者の名前は、アソブ・ツクロダというらしい。

 どうやら、無から魔道具を作り出す能力を持っているようだ。

 銃と輪も、ツクロダの作品とのこと。

 また現在では伯爵の地位を得て、ラブライア王国の姫を嫁に貰っていることが判明した。

 転移して来てからそこまで経過していないが、ここまで短期間で成り上がるとは驚きだ。

 しかしそれには、ラブライア王国ならではの理由があった。

 元々ラブライア王国は、テイマーやサモナーでなくても、力さえあれば成り上がれるらしい。

 加えて物語のように、運命的にも姫を助けたようだ。

 何でもツクロダは、多少先の未来を見通す魔道具まで作れるようである。

 ゆえに、今回の失敗をミシェルは嘆いていた。

 本来成功を約束されていたのに、失敗したからだ。

 けれどもこの失敗は、おそらく俺が関わっていたからだろう。

 ツクロダの未来視は、俺の存在を感知できないと思われる。

 でなければ俺のことを警戒して、何らかの手を打ってきていただろう。

 これは予想だが、ツクロダの作れる魔道具には、制限や限界があるのかもしれない。

 輪は五つ身につける必要があるし、ライフル銃はシンプルで現代的なものではなかった。

 しかしいずれ成長した時、どうなるのかは分からない。

 ボタン一つで相手を服従させられるようになるかもしれないし、現代の戦車を作れるようになる可能性もある。

 まったく、末恐ろしい神授スキルだ。

 おそらく転移者の中でも、上位のチートスキルだろう。

 ミシェルもツクロダに心酔しており、この心酔こそが、作戦に参加できた理由らしい。

 またサモナーだったことも、影響していたようだ。

 リビングアーマーを大量に呼び出し、銃を撃たせるだけで大抵の者は倒せる。

 実際会場にいた俺とリード、ハパンナ子爵以外は全滅した。

 観客は逃げ出しているが、騒ぎを起こさせる為にあえて生かしているようだ。

 その隙に、他の仲間の一人がモンスター園を襲撃しているらしい。

 ハパンナ子爵の屋敷にいるモンスターは、最後の仕上げに二人で行う予定だったみたいだ。

 だがミシェルはこの手で捕らえたので、屋敷の襲撃は実質防げたも同然である。

 しかし問題なのはモンスター園の襲撃であり、これがかなり不味かった。

 なぜならモンスター園には、テイマーやサモナーが自分のモンスターを預けているからである。

 そこにもここと同じく、五十匹のリビングアーマーを連れて向かったらしい。

 また最終的に今回の襲撃の主な目的は、以下の三つだと判明した。

 ・決勝トーナメントに出るような、将来性の高い優れたテイマーやサモナーの排除。
 ・街を統治する貴族の排除。
 ・テイマーやサモナーのモンスターの排除。

 しかもこの襲撃は、他の街でも行われているとのこと。

 この国はテイマーやサモナーの力がとても強いので、これはとてつもない痛手だろう。

 完全に、国を弱体化させに来ている。

 ミシェルの辛い過去や、テイマーやサモナーへの恨みなども分かったが、そんなことはどうでもいい。

 今はまだ陽動の時間であり、モンスター園の襲撃は行われていないらしい。

 おそらく、街の衛兵などがここに目を向けるのを待っているのだ。

 だからこそ、ミシェルは目立つように行動をした。

 未来視では、それが成功していたのだろう。

 しかしそれは、俺がいなければの話だ。

 本来であれば優勝はおそらくリードであり、最初に仕留められていたのだろう。

 ミシェルが決勝トーナメントで負けたのは、背後から優勝者を狙うためのわざとだと思われる。

 二次予選優勝者は、この国のテイマーとサモナーの、未来を背負う者たちだ。

 各街の優勝者を消すだけで、将来的な脅威が一気に減る。

 なんと、悪辣あくらつな手段だろうか。

 ラブライア王国が、本気でこの国を落としにかかっていることに他ならない。

 またミシェルがこれほどまでに多くのリビングアーマーを従えることができていたのには、理由がある。

 それは、使役数増加の指輪という魔道具だ。

 身につけているだけで、使役できるモンスターの上限が大幅に増加する。

 ただしデメリットとして、寿命を大きく削るようだ。

 またミシェルから取り外されると、爆発する。

 俺が以心伝心+ではなく拷問で無理に聞き出そうとすれば、ミシェルは躊躇ためらわずに指輪を外して、周囲を巻き込みながら自害しただろう。

 それをしないのは、モンスター園襲撃までの時間を稼ぐためだと思われる。

 なので俺は指輪のあるミシェルの腕を爪で切り飛ばした瞬間、ストレージを展開して爆発前に収納した。

 これで非常時の切り札が一つ増えたと同時に、ミシェルの自害を阻止することができる。

 ミシェルが悲痛の叫びを上げ、リードたちが何か言いたげなので、軽く説明をしておく。

 ついでに分かったことも教えて、今は一刻も早くルーナたちと合流することを勧める。

 不意打ちだから危なかったが、先にモンスターを召喚していればリードたちは大丈夫だろう。

 ミシェルも余りの苦痛から最後の足掻きでモンスターを召喚してきたが、それも瞬殺した。

 俺に状態異常はほとんど効かないので、相手にはならない。

 それよりも俺はここからは二人と別行動で、モンスター園へと向かうことにする。

 なにやら訊きたいことがあるみたいだが、時間がない。

 正直、かなり時間をロスしてしまった。

 急がなければ、襲撃が始まってしまう。

 ならばこういう時こそ、あいつを召喚するべきだ。

 俺はそう思い、これまで召喚していなかったグリフォンを呼び出す。

「グルルゥ!」

 その背に俺はまたがると、急いで飛び立つことにした。

 二人なら、おそらく大丈夫だろう。

 ちらっと兵士たちも集まって来ていたし、他にやっかいな敵はいなさそうだ。

 ただこれはミシェルが自分で思っているだけであり、こっそり他の者が潜んでいるかもしれない。

 だがそれを気にし過ぎれば、モンスター園が壊滅する。

 なので最後にハイオークとオーク軍団を召喚して、リードとハパンナ子爵の言うことを聞くように命令しておく。

 これなら、例えリビングアーマーが来ても凌げるだろう。

「もしかして、君はジン君なのか……?」
「ん? そうだよ。よくわかったね。けど、今は急がなきゃ」

 どうやらリードは何かの切っ掛けで俺の正体に気が付いたようだが、話している余裕はない。

 俺はそう言うとグリフォンに乗って、モンスター園を目指す。

 幸いこの前行った時に、場所はおおよそ聞いていた。

 あれだけ大きな施設なので、空から見れば分かるだろう。

「全速力で頼むよ」
「グルル!」

 俺の言葉を聞き、グリフォンが空を駆ける。

 空には障害物が無いので、走るよりも断然速い。

 そしてあっという間に、俺はモンスター園へと辿り着く。

 しかし見れば、何者かが園内の預かりエリアで、既にリビングアーマーを召喚している。

 間に合わなかったのか!?

 俺はそれを見て、急いで駆けつけるのだった。

 

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