053 ハパンナダンジョン ⑥

 扉の先は、しばらく直進の道が続く。

 そして以前と同様に、中央には豪華な宝箱がある部屋が現れた。

 近くには脱出用の魔法陣もあり、この部分はダンジョン共通のようである。

 流石にここまで来て罠は無いと思われるが、一応ゴブリンを召喚して開けさせた。

 当然思った通り何も起こることはなく、ゴブリンを送還して宝箱を覗く。

 ふむ。色々と入っているな。

 ゴブリンのダンジョンでは、下級生活魔法のスキルオーブだけだった。

 まあゴブリンのダンジョンはできたばかりだったし、あれは仕方がないか。

 変わってこのダンジョンは、周辺にちょっとした村のようなものができるくらい長くある。

 中身が多いのも当然だろう。

 俺は一つずつ、中身を確かめていくことにした。

 まず手に取ったのは、持ち手が緑色をした立派な片手剣。

 名称:緑斬リョクザンのウィンドソード
 説明
 ・装備中に限りスキル【ウィンド】【ウィンドカッター】をこの武器から発動できる。
 ・この武器は時間経過と共に修復されていく。

 どうやら装備中に限り、ウィンドとウィンドカッターが使えるらしい。

 ホブンに渡したスマッシュクラブとの違いは、適性が無くても使える事だろうか。

 そう考えると、かなり優秀な武器ということになる。

 これまでずっと初心者冒険者用の剣を使っていたので、この機会に変えることにした。

 鞘もついているので、左腰に取り付ける。

 大きさもピッタリだし、問題はなさそうだ。

 そしてこれまで世話になった初心者冒険者用の剣は、ストレージに収納した。

 さて、次は何が出るかな。

 そうして俺が次に手に取ったのは、指輪である。

 名称:収納リング
 説明
 ・魔力を込めることで、アイテムなどを収納することができる。
 ・容量は使用者の魔力総量によって決まる。
 ・登録者以外は使用することができなくなる。
 ・この指輪は時間経過と共に修復されていく。

 うーん。先ほどの剣以上に凄い物なんだろうが、正直微妙だ。

 俺にはストレージがあるし、それを誤魔化すための物にしては立派過ぎる。

 おそらく時間も止まらないし、指輪の装備枠も圧迫してしまう。

 という訳で、この指輪はストレージの奥で眠ることになった。

 次は個人的に使えるものが欲しい。

 少し損した気持ちになりながら、俺は次に小さな袋を取り出す。

 袋自体は普通の物であり、その中には硬貨が入っていた。

 ん? 見たことのない硬貨だな。

 硬貨は中心が金色、その周りが青、更にその周りがオレンジと、三色の層になっている。

 一応鑑定してみるか。

 名称:金貨
 説明
 金、ミスリル、オリハルコンが使われた硬貨。
 小金貨のおよそ十倍の価値があるとされている。

 なるほど。これが金貨なのか。

 中心に金が使われているから、金貨ということだろう。

 おそらく金以上に、ミスリルとオリハルコンの価値の方が高いと思われる。

 また『小金貨のおよそ十倍の価値があるとされている・・・・・』とあるので、実際の価値は違うのかもしれない。

 しかしこんなところで、金貨を見ることになるとは思わなかった。

 加えて袋には、合計三枚も入っている。

 たった三枚であるが、大金だ。

 俺のブラックヴァイパーの装備一式が金貨一枚分だと考えれば、その価値が分かる。

 なのでこれは、普通に嬉しい。

 大事にストレージへと収納しておく。

 そして宝箱に残った最後の物は、スキルオーブが三つ。

 俺はそれを続けて鑑定していく。
 

 名称:上級鑑定妨害のスキルオーブ
 説明
 適性があれば、使用することで上級鑑定妨害のスキルが習得できる。

 名称:五感共有のスキルオーブ
 説明
 適性があれば、使用することで五感共有のスキルが習得できる。
 
 名称:以心伝心のスキルオーブ
 説明
 適性があれば、使用することで以心伝心のスキルが習得できる。

 なるほど。流石は魔物を従える国ということか。

 テイマーやサモナーなどが、喜びそうなスキルが出てきた。

 上級鑑定妨害と以心伝心に関しては、あのグリフォンが習得していたスキルである。

 また適性があればという事は、そのために下位互換となるスキルを習得しており、尚且なおかつそれなりに使い慣れている必要があるはずだ。

 以前幸運の蝶のパーティにいたとき、そんなことを聞いた気がする。

 今後転生者との遭遇も増えるだろうし、上級鑑定妨害のスキルは欲しい。

 それと五感共有は、モンスターの目や耳を共有することができそうなので、俺にとっては必須級だ。

 以心伝心も、おそらくモンスターと心を通わせるのに適しているだろう。

 またグリフォンが習得していたことを考えれば、モンスターに覚えさせるのもありという訳だ。

 とりあえず、使えるか試してみてダメだったら考えよう。

 そう思い、まずは上級鑑定妨害のスキルオーブを使ってみる。

『スキル【上級鑑定妨害】を習得しました』
『神授スキル【二重取り】が発動しました。スキル【上級鑑定妨害】を獲得しました』
『スキルが重複しているため、スキルが統合されました。スキル【上級鑑定妨害】は、スキル【超級鑑定妨害】に進化しました』

 んん? 習得できてしまったのだが?

 中級鑑定妨害が無ければダメかと思っていたが、なぜだ?

 関係ありそうなのは、エクストラの鑑定と偽装だろう。

 おそらく完全に下位互換のスキルが必要という事ではなく、それと関係するスキルでも良いようだ。

 説明欄にも下位互換が必要ではなく、適性があればと表記されている。

 つまりは、そういう事だろう。

 であるならば、他のも行けるかもしれない。

『スキル【五感共有】を習得しました』
『神授スキル【二重取り】が発動しました。スキル【五感共有】を獲得しました』
『スキルが重複しているため、スキルが統合されました。スキル【五感共有】は、スキル【全感共有】に進化しました』

『スキル【以心伝心】を習得しました』
『神授スキル【二重取り】が発動しました。スキル【以心伝心】を獲得しました』
『スキルが重複しているため、スキルが統合されました。スキル【以心伝心】はこれ以上進化できません。スキル【以心伝心】は、スキル【以心伝心+】に変質しました』

 思った通り習得できたが、以心伝心の様子がおかしい。

 どうやら進化することができず、その代わりに変質したようだ。

 よく分からないがとりあえず、習得したスキル効果を確認してみることにしよう。

 名称:超級鑑定妨害
 効果
 あらゆる鑑定を妨害する。

 名称:全感共有
 効果
 合意した対象と全感覚を共有することができる。
 また一部の感覚に限定することや、片方だけが相手の感覚を一時的に得ることも可能。

 名称:以心伝心+
 効果
 ・対象と心と心で通じ合うことができる。
 ・一方的に心を繋げて対象の心を読むことができる。
 ・精神的な干渉を遮断することができる。 

 まず超級鑑定と全感共有はいいだろう。思った通りの効果だ。

 しかし、以心伝心+が問題だな。

 一つ目がおそらく、本来の効果だろう。

 そして二つ目と三つ目が、変質した事で得た能力になる。

 これはかなり強力だ。特に一方的に相手の心を読むというのがヤバイ。

 つまり相手は嘘をついても意味がなく、秘密にしていることも知られてしまうことになる。

 使い方を間違えれば、不味いことになりそうだ。

 ちなみに以心伝心+を習得できたのは、カード召喚術・軍団行動・軍団指揮の三つが情報共有や意思疎通に関連する効果があるからだろう。

 全感共有は、正直習得できないと思っていた。

 カード召喚術でモンスターとの居場所が互いに分かるくらいしか、共有されている項目はない。

 もしかしたら俺が把握していないだけで、他のスキルなどが何かを共有していたのだろうか。

 まあ現状不明な点はあるが、まずは習得できたことを良しとしよう。

 とりあえずこれで宝箱は空になったので、帰還する……前にコアの様子を確認しに行くか。

 俺はそう考えて更に奥へと進むと、ダンジョンコアのある部屋へとやってきた。

 部屋の中央には、全長一メートルほどの赤色のキューブが回転しながら宙に浮いている。

 よし、まずは鑑定してみよう。

 名称:ダンジョンコア
 説明
 ・ダンジョンを動かす心臓のようなものであり、破壊されるとダンジョンが崩壊する。
 ・ダンジョン内や周囲から得られた魔力を元にして、一定の期間経過でモンスターや宝箱などを全自動で補充する。
 ・魔力量が一定値を越えた場合、ダンジョンの外へと大量のモンスターを吐き出すことで魔力を消費する。
 

 どうやら、崩壊する雰囲気はなさそうだ。

 念のための確認であったが、俺の杞憂きゆうで良かった。

 これでダンジョンを攻略したということで、いいだろう。

 俺はダンジョンコアの確認を終えたので、先ほどの部屋へと戻る。

 そして帰還用の魔法陣を発動させると、俺はレフと共にダンジョンから脱出をするのだった。

 そうして視界が切り替わると、なぜか俺はどこかの部屋の中にいた。

「どこだここは?」

 周囲には豪華な家具などがあり、窓は無い。

 部屋は十人くらいは、余裕でくつろげそうだった。

 唯一あるドアに近付いてみれば、鍵がかかっている。

 部屋の中からは、どうやら開けられないようだ。

 ダンジョンの帰還用魔法陣の移動先に、このような部屋。

 どう考えても、嫌な予感しかしない。

 すると俺がそう思った瞬間、ドアが開く。

「ダンジョンの踏破おめでとうございます。まずは皆さま落ち着いて……お一人ですか?」

 そう言って現れたのは、執事服を着た初老の男性だった。

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