052 ハパンナダンジョン ⑤

 宝箱を取りつくした後も捜索そうさくを続けたが、結局他のブラックレオパルドは見つからなかった。

 どうやら、本当にあの一匹だけだったようである。

 だが仮にブラックレオパルドが複数いた場合、明らかに難易度が高すぎるだろう。

 直接戦闘になると逃走するし、隙を見ては不意打ちをしてくる。

 本来ブラックレオパルドは、倒さずにボスエリアへと入り込むのが正解なのかもしれない。

 倒すために追いかけ回す方が、リスクが高いだろう。

 あとは探索中、アシッドスライムが宝箱を守る部屋も発見している。

 まるで酸のプールみたいになっていたので、巨大な氷塊で押しつぶした。

 残りも手ごろなサイズの氷塊を作り、投擲することで仕留めている。

 遠距離攻撃としては、今はこれが限界だ。

 そうして無事にすべてを倒し宝箱から出てきたのは、耐酸の指輪。

 名称:耐酸の指輪(中級)
 説明
 装備している間、酸耐性(中)を得る。

 酸系攻撃はかなり限られた場面でしか出てこない気がするので、これはストレージに収納している。

 そうしてアシッドスライムのカードも、無事に五十枚集まった。

 狙っていたカードも全て集まったので、この階層でやることはこれでお終いだ。

 なのでいよいよ、このダンジョンのボス戦へと挑むことにする。

 ボス部屋前で休憩をとったあと、俺はブラックレオパルドを召喚しておく。

「いでよ、ブラックレオパルド」
「グルォウ!」

 召喚したブラックレオパルドは、短く黒い毛と、しなやかな体つきをしている。

 大きさは、子供なら余裕で乗れる大きさだ。

 乗ろうと思えば、俺も乗れるだろう。

 しかしブラックレオパルドに乗っての移動は、現実的ではない。
 
 人が乗りやすいような構造ではないと思われる。

「キュイン」
「ん?」

 するとそんなびるように鳴いたのは、レフである。

 ブラックレオパルドが加わったことにより、自分はもう用無しなのかと怯えていた。

 うーむ。

 確かにこの最終階層において、レフはあまり役に立たなかった。

 以前の俺であれば、カードに戻してほぼ召喚しなくなっているだろう。

 だが名前を付けたことにより、レフには少なからず愛着がある。

 それに他のモンスターとは違い、とても感情豊かなのだ。

 やはり名前を付けて頻繁に連れていると、変化が生じるのかもしれない。

 死亡しても一日経てば復活するし、このままレフを連れていこう。

 レフもそれを望んでいる。

「心配するな。お前もこのままつれていく」
「わぅん!」

 するとレフは嬉しそうに声を上げて、俺に体を擦りつける。

 顔の高さを低くしていれば、おそらく全力で舐めに来ていただろう。

 俺はレフの頭を軽くなでると、いよいよボスエリアの扉を開けることにする。

 ちなみにボスに挑む初期メンバーは、次の通りだ。
 ・俺
 ・レフ
 ・ホブン
 ・ハイオーク
 ・ブラックレオパルド
 
 それに加えて、臨機応変にモンスターを召喚していく予定である。

 俺は若干の緊張をしながらも、扉を開けて先へと進む。

 当然先には、一匹のモンスターがいた。

 まず最初に思うことは、巨大過ぎるということ。

 そして、これまで何度も目にしてきたモンスターでもあった。

 種族:グレートキャタピラー
 種族特性
【眷属召喚】【無属性適性】
【糸吐き】【体力上昇(特大)】
【自然治癒力上昇(特大)】
 
 エクストラ
【ダンジョンボス】

 スキル
【シールド】【衝撃波】
【状態異常耐性(大)】
【自然魔力回復量上昇(中)】

 そのダンジョンボスは、列車のように巨大なグリーンキャタピラー、グレートキャタピラーだった。

 「ギシャア!!」

 そしてグレートキャタピラーが金切り声を上げると、周囲に大量のグリーンキャタピラーが現れる。

 おそらく、種族特性の眷属召喚で現れたのだろう。

 それに対抗して、俺も数を増やすことにした。

 ゴブリン・グレイウルフ・ホブゴブリンをそれぞれ召喚して、敵眷属に向かわせる。

 グリーンキャタピラー程度であれば、これで十分だろう。

 そしてグレートキャタピラーの能力を見る限り、完全に耐久型だ。

 これは長期戦になる。

 そう思った瞬間だった。

 グレートキャタピラーが衝撃波を放ち、味方ごとゴブリンたちを蹴散らし始める。

 ちっ、ザコから狙ってくるタイプか。

 俺はシャドーアーマーを纏うと、その場から駆け出した。

 同時にレフたちにも命令を出して、分散する。

「喰らえ」

 そして跳躍して踵落としを繰り出そうとしたが、透明なシールドに阻まれた。

 同時に攻撃したレフたちも、同様に阻まれている。

 くそ、自然魔力回復量上昇というスキルがあるからか、魔力の使い方に遠慮がない。

 だが、そういつまでも耐えられるものでもないだろう。

 魔力の回復速度より、魔力を使わせる量が上回ればいいだけの話だ。
 
 そのために俺は、ザコモンスターを大量に召喚する。

 ホーンラビット・ジャイアントバット・マッドクラブ・スモールモンキー・ジャイアントリーチ・ビッグフロッグ・スモールマウス・スライム・グリーンキャタピラー・ソルトタートル。

 これにグリーンスネークとポイズンモスを含めなかったのは、毒化して素材の価値を落とさないためだ。

 同じ理由で強酸を放つアシッドスライムも、召喚させるつもりはない。

 カード化したいことは山々だが、ダンジョンボスは諦めるしかなかった。

 なので俺は少しでも、素材を無事に残す戦い方を選択する。

 そうしてザコモンスターたちが群がることで、常に敵はシールドを発動させた。

 また衝撃波を何度も使わせ、魔力を無駄に消耗させることにも成功する。
 
 だがグレートキャタピラーも、このままでは終わらない。

 体を大きく揺らしたり、転がってザコモンスターたちを圧殺していく。

 しかしそうした攻防が続いたことで、とうとうグレートキャタピラーの魔力が尽きる。

 その瞬間を見逃さず、俺は更に追加でオーク軍団とミディアムマウスたちを召喚した。

 オーク軍団の方は、ハイオークに指揮をさせる。

 加えて数十匹のミディアムマウスたちを、グレートキャタピラーに特攻させた。

 俺も魔力を込めて、頭部を中心に攻撃していく。

 ここまでしてもグレートキャタピラーはしぶとく、魔力がなくなってもその巨体であらがった。

 大きく動くだけで、ザコモンスターたちがやられていく。

 けれども確実に、俺たちは敵を追い詰めはじめていた。

 なのでこの状況を更に進展させるために、俺は切り札であるホワイトキングダイルを、ここで召喚する。

「来い! ホワイトキングダイル!」
「グォオッ!」

 召喚されると同時にようやく出番かと声を上げ、ホワイトキングダイルは敵に襲い掛かっていく。

 発射された水弾連射やウォーターブレスを受けて、流石のグレートキャタピラーも限界を迎える。

 そこへ最後のラッシュとばかりに、俺たちは全力で攻撃を叩きこむ。

「ギシャァ……」 

 そしてとうとう巨体が倒れ、グレートキャタピラーが動かなくなる。

「俺たちの勝ちだ」
「グォウ!」

 すると物足りないとホワイトキングダイルが鳴くが、俺は満足だ。

 正直最初からホワイトキングダイルを出しても良かったが、それだと味気ない。

 ザコモンスターたちも含めて全力で戦った方が、満足感が出る。
 
 俺はグレートキャタピラーをカード化したい気持ちを抑えながら、死骸をストレージへと収納していく。

 巨大なグレートキャタピラーが見る見るうちに収納されていき、ストレージがその全てを飲み込んだ。

 自分で入れておいてなんだが、このサイズでも入ってしまうのか。

 やはりストレージを選んだのは、正解だったな。

 だがまあ、このグレートキャタピラーをどう処理するかという問題については、一先ず置いておこう。

 売るにしても、おそらく確実に面倒なことになる。

 そんなことを考えながら、俺はモンスターたちをカードに戻していく。

 唯一レフだけは、何となくカードへと戻さずに残しておいた。

 一人でこの先に行くのは、自分でも少し寂しいと思ったのかもしれない。

 ホブンも残そうと思ったが、どうやら途中でやられてしまったようである。

 逆に、レフが生き残ったことの方が驚きだ。

 ちなみにブラックレオパルドも生き残っており、そちらは俺の手でカードに戻している。

 それとグレートキャタピラーが召喚したグリーンキャタピラーだが、倒すと同時に消えてしまい、カード化できなかった。

 まあそれは別にいいとして、この先には宝箱と、帰還用の魔法陣があるはずだ。

 他にはその更に奥に、ダンジョンのコアがあるのだろう。
 
 このダンジョンも残すところ、あとわずかだ。

「行くぞ」
「うぉん!」

 俺はレフに一声かけると、開いている扉の先を通り抜け、その先へと向かうのだった。

 

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