「そ、そうか。お前は魔王なのか! そして俺は英雄、いや勇者になる! これは試練だ。主人公の俺が乗り越える試練なんだ!」
すると立ち上がったタヌゥカは、そう言って手放していなかった剣を振るう。
剣は眩く光っており、おそらく撃滅斬を放つと思われた。
それに対して、俺は何もしない。
「喰らえ! 撃滅斬!」
迫りくる力の奔流。それを、ホワイトキングダイルの幻影が迎え撃つ。
幻影からウォーターブレスが発射され、撃滅斬を相殺した。
「その程度か?」
「なっ、嘘だろ!? なんだよそれ! よく見ればイレギュラーモンスターじゃないか! どういうことだよ! チートだ! ふざけるな!」
タヌゥカがホワイトキングダイルの幻影を指さして、みっともなくそう叫ぶ。
「ファイアボール!」
続いてタヌゥカがファイアボールを無数に放ってくるが、それよりも小さな水弾が撃ち抜いていく。
これは、ホワイトキングダイルの水弾連射だ。
「ぐぁあ!?」
当然ファイアボールよりも連射性は高く、無防備なタヌゥカに直撃した。
それで殺さないように手加減したが、無様に転がったタヌゥカは立ち上がると、情けなくも逃げ出す。
「どこへ行くんだ?」
「あ、悪魔が!」
引き上げられた身体能力で一瞬にして回り込むと、タヌゥカは足をガクガクさせながら後ずさる。
その間に俺はホワイトキングダイルの幻影を首だけにして、右手に移す。
ちなみに幻影は現れた時に俺の背丈に調整されたのか、小さくなっていたりする。
ふむ、おそらくだが、幻影は物に干渉できるだろう。
半実体化といったところか。
それよりも狂化を発動させているが、少しずつ慣れてきたな。
もちろん、怒りと暴れたい衝動はある。
だが、思考が染まり切ることはない。
むしろ怒りの対象を嬲るのであれば、逆に思考がクリアになるほどだ。
そう思いながら右手を閉じたり開いたりすると、連動してホワイトキングダイルの幻影の咢も動く。
「お、おい。何をする気だよ。あ、謝る。許してくれ! そ、そうだ。俺が仲間になるよ。女だって用意するからさ! 俺と君が組めば、最強だ! なあ、そうだろ?」
「黙れ」
「ひぎぃ!?」
あまりに醜いので、幻影を動かしてタヌゥカの右腕を噛み千切る。
「ふむ、バランスが悪そうだ。左も千切ってやろう」
「や、やめっ、ぐぁあっ!?」
続けて左腕も、幻影で噛み千切った。
するとタヌゥカは、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになりながらも、何とか駆けだす。
「逃がすわけがないだろ?」
右手の幻影を振るうと、細いウォーターブレスがタヌゥカの両足を斬り飛ばした。
それにより、タヌゥカは地面へと転がる。
「あ、あぁあ。死にたくない。俺は主人公だ。ここから覚醒するんだ……」
はあ、つまらん。もう飽きたな。
抵抗する気がなくなったタヌゥカは、妄想を垂れ流すだけになってしまった。
なので飽きた俺は、ここで終わらすことにする。
けれどもそれは、楽な終わり方ではない。
「いでよ。ゴブリンども」
「「「ごぶ!」」」
俺の言葉により、無数のゴブリンたちが召喚される。
「そいつを生きたまま喰らえ」
俺の命令を聞いたゴブリンたちが、タヌゥカへと向っていく。
「や、やめっ、こんな終わり方嫌だ! だ、誰かたすけッ――」
「「「ごぶが!」」」
そうしてタヌゥカは、生きたままゴブリンたちに喰われて死亡した。
こいつには、十分すぎる死に方だな。
そんな風に思っていると、突如として脳内に声が聞こえてくる。
『転移者初の転移者殺しを達成いたしました。称号【転移者殺し】を獲得します』
『神授スキル【二重取り】が発動しました。称号【転移者殺し】を獲得します』
『称号が重複しているため、称号が統合されました。称号【転移者殺し】は、称号【転移者の天敵】に進化しました』
どうやら俺は、異世界で初めて転移者を殺した転移者になったらしい。
既に半月くらいは経っているので、達成できたことを意外に感じた。
もしかしたら転移者同士が出会うのは、まだ珍しかったのかもしれない。
それかお互いの神授スキルを警戒して、殺し合いに発展していないのだろう。
そもそも殺し合いに発展するほうが稀で、案外仲良くしている可能性もある。
俺が称号という新しい概念に対してそう思っていると、再び脳内に声が聞こえた。
『転移者を殺害したことにより、20ポイント獲得しました』
『神授スキル【二重取り】が発動しました。追加で20ポイント獲得します』
はぁ、そういうことか。これでは、仲良くするのは難しそうだな。
これがもし転移者に知れ渡れば、転移者同士の殺し合いが頻発するだろう。
いろいろ気になることはあるし、調べたいこともある。
だがそろそろ、ゆっくりはしていられないな。
周囲を見れば、壁の上部に多くの人の姿が見えた。
唯一の出入り口にも、姿が見える。
まあ、この見た目でゴブリンたちを召喚すれば、モンスターを使役するという敵国の人間にしか見えないよな。
しかしこうなることは、何となく予想していた。
なのでこの場所を選んだのも、わざとである。
プリミナたちの事は気になるし、恩返しを出来ていなかった事が心残りだ。
けれどもそれは、もうどうしようもない。
タヌゥカを倒したことで、復讐自体は果たされている。
いつか戻ってこれることがあれば、その時は顔を合わせて恩返しをしよう。
俺はゴブリンたちをカードに戻すと、国境門へと駆けだした。
すると様子をうかがっていた周囲から、怒号と共に魔法と矢などが飛んでくる。
それをホワイトキングダイルの幻影が、ライトウェーブや水弾連射で撃ち落としていく。
デミゴッドの身体能力+シャドーアーマー+狂化が、身体能力を引き上げる。
更に幻影が現れてから、ホワイトキングダイルの力も一部加わっていた。
俺を捕らえることは、並大抵のことじゃないだろう。
それに周囲には、実力者の姿が見えなかった。
俺を現在攻撃しているのは、軍に所属している者のようだ。
いずれ実力者も現れるかもしれないが、それより俺が逃げ切る方が速い。
そうして誰にも止められることなく、国境門へと辿り着いた。
一瞬この国で交友を深めた者たちの顔が、脳裏に浮かぶ
もう出会うことがないかもしれない人たちを思いながら、俺は進む。
国境門は既に開いているので、勢いのままに先へと飛び込んだ。
モンスターを使役する国とは、いったいどのような国なのだろうか。
俺は別れを惜しみながらも、新たな出会いに期待を膨らませるのであった。
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第一章は、これにて完結です。
ここまでご覧いただき、誠にありがとうございました。
第二章も引き続き、更新していきます。
執筆の励みになりますので、応援して頂けるとありがたいです。
そして第二章からは、更新話数が少なくなります。(^-^;
一日三話更新は、流石に地獄でした。
他の作品も書いていたので、実質四話更新です。
しかし期待に応えて、一日二話更新することにしました。
限界が来たら、一日一話更新になると思います。(^-^;
そういう訳で引き続き、この作品をどうぞよろしくお願いいたします。
乃神レンガ
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