ダンジョン内は相変わらず人が多いが、人気の場所は決まっているらしい。
少し気になるので、俺も行ってみることにする。
ちなみにグレイウルフは注目が集まるので、今回は召喚していない。
幾人かの冒険者たちが同じ方向へと進んでいるので、俺もついていく。
するとしばらくして、そこに辿り着いた。
なるほど。駆け出しには打って付けだな。
見ればあちこちにホーンラビットがおり、一匹も逃げださずに冒険者へと向っている。
ホーンラビットは素材の宝庫なので、駆け出し冒険者には人気のようだ。
それにホーンラビットは角こそ危険だが、決して強くはない。
一人が注意を引いて、もう一人が背後から攻撃すれば簡単に倒せる。
むしろ獲物の取り合いで、冒険者同士で争いが起きているほどだ。
駆け出しにはよくても、俺にとっては微妙だな。確認もできたし移動しよう。
ダンジョンの草原は広く、しばらく歩けば人気がなくなる。
そこでこのダンジョンで生まれたグレイウルフを召喚して、昨日のように宝箱までの道案内を頼む。
「バウ!」
俺の命令を聞いて走り出すグレイウルフの後を追いながら、道中現れるモンスターを倒していく。
といっても、現れるのはゴブリンやホーンラビットが多い。
稀にグレイウルフが現れるくらいだ。
すると次第に、草原に変化が現れる。
少しずつだが、草原の草が伸びているのだ。
気が付けば、腰くらいの高さになっている。
これは、どこから敵が来るのか分からないな。
なので俺は、シャドーアーマーを身に纏うことにした。
マッドクラブの鋏も通さないこの鎧であれば、大抵の攻撃はどうにかなる。
実際それを示すかのように、藪の中から何かが飛び出してくる。
とっさにそれを掴むと、それは緑色の蛇だった。
種族:グリーンスネーク
種族特性
【毒牙】【熱感知】
鑑定するとグリーンスネークというモンスターだが、どう見てもただの蛇にしか見えない。
普通の蛇と、モンスターの違いは何だろうか。
まあ、猛毒の蛇とか実際地球で遭遇すれば、モンスターみたいなものだしな。
そんなことを考えながら、蛇の頭を握りつぶして仕留め、カード化する。
道中何度かグリーンスネークを仕留めながら、引き続きグレイウルフの後をついていく。
するとようやく宝箱を見つけたのだが、無数のグリーンスネークが宝箱を覆っていた。
周囲にもたくさんおり、人によっては卒倒してしまうような光景が広がっている。
本来なら地獄絵図だが、俺にとってはボーナスタイムだ。
気にせずそのまま進んでいく。
そうすれば当然、グリーンスネーク達が襲い掛かってきた。
けれどもシャドーアーマーを突破することができず、まとわりつくだけ。
逆にシャドーネイルを伸ばし、グリーンスネークを仕留めていく。
宝箱に纏わりついている個体も引きはがして、どんどん処理していった。
倒したグリーンスネークは何匹かはカード化して、残りはストレージに収納していく。
「よし、これで全部か」
多少時間はかかったが、全てのグリーンスネークを仕留めることに成功した。
そして毎回お馴染みのゴブリンの宝箱開封だが、今回は運良く罠がなかったらしい。
ゴブリンをカードに戻して、宝箱の中身を確認する。
入っていたのは、一本の短剣。
鑑定してみると、以下の効果が判明した。
名称:毒牙の短剣
説明
斬りつけた相手に一定の確率で、毒(小)を付与する。
うーん。個人的には、これも微妙だ。
毒にするより、殴ったほうが早い。
あれ、俺ってかなり脳筋だな……。
ゴブリンに渡すにはもったいない気がするし、これは取っておこう。
毒牙のナイフをストレージにしまい、グレイウルフに次の宝箱へと案内させる。
ちなみに、グリーンスネークのカードは十枚確保した。
これからは、使い道があまりなくても十枚は確保することにする。
この先、何があるか分からないからな。
そう考えると、ホーンラビットは三枚しか持っていない。
道中シャドーアーマーを解除した俺は、ホーンラビットを見つける度にカード化していくのだった。
◆
それからいくつか宝箱を回ったが、全て空振りに終わる。
見つけやすい物や、手に入りやすい物は既に取られた後だった。
まあ、これだけ冒険者がいれば当然か。
今思えば、泥沼やグリーンスネークの宝箱は割に合わないのだろう。
実際中身も大したことがなかったし、中堅以上が欲しがるとは思えない。
それと宝箱を探している途中で、やけに人が多いところがあった。
気になって行ってみると、地下への階段があることが判明する。
その周囲で、冒険者たちが野営をしているようだった。
おそらく、あの階段はダンジョンの二階層に続いているのだろう。
どうりで、この草原には駆け出し冒険者ばかりなわけだ。
それなりの腕がある冒険者たちは、二階層目以降にいるに違いない。
このダンジョンがどこまで続くのか、とても楽しみだ。
しかし今から行くには時間が過ぎているので、ダンジョンを出て宿に戻ることにする。
明日には宿を引き払い、本格的にダンジョンで寝泊まりするつもりだ。
こうしたフットワークの軽さも、ソロの良いところである。
そうして俺の一日が終わり、翌朝には宣言通り宿を引き払う。
やはり、銀貨二枚は普通に高かったな。
これが街価格なのか、足元を見たぼったくりなのか。
宿の値段は似たようなのが多かったが、雰囲気のよさそうな宿は満室だった。
そう考えると、俺の泊っていた宿はサービスに適した価格ではないのだろう。
なら、ぼったくりだな。
それからダンジョンに入る前に冒険者ギルドに行き、掲示板を眺める。
なるほど、グリーンスネークはEランクの納品依頼なのか。
未解体なら一匹小銀貨二枚か。三匹で依頼一回分になる。
また冒険者は自身のランクより一つ上まで依頼を受けられて、上のランクを熟すと二回分の貢献度だ。
更に俺の場合上のランクなら、二重取りで実質一度で四回分の貢献度になる。
グリーンスネークはかなりストレージにあるので、今の内に提出しておこう。
掲示板からグリーンスネークの納品依頼を引きはがし、受付に並ぶ。
常備依頼は関係ないが、それ以外は依頼書を取る必要がある。
それから俺の順番が来たので依頼書を出すと、無事に受理された。
次に納品専用窓口に並び依頼書を提出して、ついでに常備依頼の納品もあることを伝えると、受付から番号札が渡される。
しばらく待つ必要があるので、冒険者ギルドに備え付けられている椅子に座って待つ。
おそらく納品窓口は夕方が一番混むと思われるが、早朝なので比較的すいていた。
窓口上部の札が、俺の番号に変わる。
そして窓口に行き番号札を差し出すと、奥の部屋へと通された。
部屋は倉庫のようになっており、何人かがモンスターを解体している。
「おう、グリーンスネークか。最低三匹納品で、上限はない。それと常備依頼の納品か。出してくれ」
俺の担当になった男がそう言うので、肩掛けバッグからグリーンスネークを取り出していく。
しかし実際には、ストレージから取り出していた。これは見せかけのフェイクだ。
続けてゴブリンの耳やホーンラビット、あとは一応納品物ではないが、ゴブリンの魔石も提出する。
マッドクラブ? あれを出すのはとんでもない。
「これで全部だ」
「おおぅ。すげえ数だな。少し待ってろ」
男は俺の出したグリーンスネークなどの仕分けを始める。
「どれも一撃で仕留められている。状態も悪くない。他のも含めて全て適正価格の評価だ」
そう言って依頼書と新たに用意した紙に何かを書き込むと、男はハンコを押した。
俺はその依頼書と紙、納品確認書を受け取ると、部屋を後にする。
最後に並ぶのは、依頼を受けた受付列だ。
『神授スキル【二重取り】が発動しました。依頼貢献度と報酬が倍になります』
そして案の定二重取りが発動して、どこからともなく硬貨が現れる。
この世界は創造神が通貨を統一しているらしいので、硬貨が多少増えても問題ないのだろう。
そのおかげで、俺の懐がだいぶ温かくなった。
グリーンスネークが一匹で小銀貨二枚。
納品数は三十二匹。合計小銀貨六十四枚。
それが二重取りで百二十八枚だ。
両替で小金貨一枚、銀貨二枚、小銀貨八枚になる。
グリーンスネークの依頼だけで、貢献度が二十一も増えた。
更には、常備依頼の分もそこへ足される。
どうやら魔石の売却も依頼と一纏めにされたことで、二重取りの適用範囲になったようだ。
本来魔石の売却では発動しないが、こうした抜け穴があったららしい。
これだけ金銭が貯まれば、しばらくは大丈夫だろう。
しかし一度にたくさん金を稼げば、こういう輩が現れるのも必然である。
「おい、景気がよさそうだな」
「俺たちと少し話をしようぜ」
二人の冒険者が、ギルドを出た俺を路地裏へと連れ込んでそう言った。
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