020 シルダートのダンジョンで宝さがし

 ダンジョン内は相変わらず人が多いが、人気の場所は決まっているらしい。

 少し気になるので、俺も行ってみることにする。

 ちなみにグレイウルフは注目が集まるので、今回は召喚していない。

 幾人かの冒険者たちが同じ方向へと進んでいるので、俺もついていく。

 するとしばらくして、そこに辿り着いた。

 なるほど。駆け出しには打って付けだな。

 見ればあちこちにホーンラビットがおり、一匹も逃げださずに冒険者へと向っている。

 ホーンラビットは素材の宝庫なので、駆け出し冒険者には人気のようだ。

 それにホーンラビットは角こそ危険だが、決して強くはない。

 一人が注意を引いて、もう一人が背後から攻撃すれば簡単に倒せる。

 むしろ獲物の取り合いで、冒険者同士で争いが起きているほどだ。

 駆け出しにはよくても、俺にとっては微妙だな。確認もできたし移動しよう。

 ダンジョンの草原は広く、しばらく歩けば人気ひとけがなくなる。

 そこでこのダンジョンで生まれたグレイウルフを召喚して、昨日のように宝箱までの道案内を頼む。

「バウ!」

 俺の命令を聞いて走り出すグレイウルフの後を追いながら、道中現れるモンスターを倒していく。

 といっても、現れるのはゴブリンやホーンラビットが多い。

 稀にグレイウルフが現れるくらいだ。

 すると次第に、草原に変化が現れる。

 少しずつだが、草原の草が伸びているのだ。

 気が付けば、腰くらいの高さになっている。

 これは、どこから敵が来るのか分からないな。

 なので俺は、シャドーアーマーを身に纏うことにした。

 マッドクラブの鋏も通さないこの鎧であれば、大抵の攻撃はどうにかなる。

 実際それを示すかのように、やぶの中から何かが飛び出してくる。

 とっさにそれを掴むと、それは緑色の蛇だった。

 種族:グリーンスネーク
 種族特性
 【毒牙】【熱感知】

 鑑定するとグリーンスネークというモンスターだが、どう見てもただの蛇にしか見えない。

 普通の蛇と、モンスターの違いは何だろうか。

 まあ、猛毒の蛇とか実際地球で遭遇すれば、モンスターみたいなものだしな。

 そんなことを考えながら、蛇の頭を握りつぶして仕留め、カード化する。
 
 道中何度かグリーンスネークを仕留めながら、引き続きグレイウルフの後をついていく。

 するとようやく宝箱を見つけたのだが、無数のグリーンスネークが宝箱をおおっていた。

 周囲にもたくさんおり、人によっては卒倒してしまうような光景が広がっている。

 本来なら地獄絵図だが、俺にとってはボーナスタイムだ。

 気にせずそのまま進んでいく。

 そうすれば当然、グリーンスネーク達が襲い掛かってきた。

 けれどもシャドーアーマーを突破することができず、まとわりつくだけ。

 逆にシャドーネイルを伸ばし、グリーンスネークを仕留めていく。

 宝箱に纏わりついている個体も引きはがして、どんどん処理していった。

 倒したグリーンスネークは何匹かはカード化して、残りはストレージに収納していく。

「よし、これで全部か」

 多少時間はかかったが、全てのグリーンスネークを仕留めることに成功した。

 そして毎回お馴染みのゴブリンの宝箱開封だが、今回は運良く罠がなかったらしい。

 ゴブリンをカードに戻して、宝箱の中身を確認する。

 入っていたのは、一本の短剣。

 鑑定してみると、以下の効果が判明した。

 名称:毒牙の短剣
 説明
 斬りつけた相手に一定の確率で、毒(小)を付与する。

 うーん。個人的には、これも微妙だ。

 毒にするより、殴ったほうが早い。

 あれ、俺ってかなり脳筋だな……。

 ゴブリンに渡すにはもったいない気がするし、これは取っておこう。

 毒牙のナイフをストレージにしまい、グレイウルフに次の宝箱へと案内させる。

 ちなみに、グリーンスネークのカードは十枚確保した。

 これからは、使い道があまりなくても十枚は確保することにする。

 この先、何があるか分からないからな。

 そう考えると、ホーンラビットは三枚しか持っていない。

 道中シャドーアーマーを解除した俺は、ホーンラビットを見つける度にカード化していくのだった。

 ◆
 
 それからいくつか宝箱を回ったが、全て空振りに終わる。

 見つけやすい物や、手に入りやすい物は既に取られた後だった。

 まあ、これだけ冒険者がいれば当然か。

 今思えば、泥沼やグリーンスネークの宝箱は割に合わないのだろう。

 実際中身も大したことがなかったし、中堅以上が欲しがるとは思えない。

 それと宝箱を探している途中で、やけに人が多いところがあった。

 気になって行ってみると、地下への階段があることが判明する。

 その周囲で、冒険者たちが野営をしているようだった。

 おそらく、あの階段はダンジョンの二階層に続いているのだろう。

 どうりで、この草原には駆け出し冒険者ばかりなわけだ。

 それなりの腕がある冒険者たちは、二階層目以降にいるに違いない。

 このダンジョンがどこまで続くのか、とても楽しみだ。

 しかし今から行くには時間が過ぎているので、ダンジョンを出て宿に戻ることにする。

 明日には宿を引き払い、本格的にダンジョンで寝泊まりするつもりだ。

 こうしたフットワークの軽さも、ソロの良いところである。

 そうして俺の一日が終わり、翌朝には宣言通り宿を引き払う。

 やはり、銀貨二枚は普通に高かったな。

 これが街価格なのか、足元を見たぼったくりなのか。

 宿の値段は似たようなのが多かったが、雰囲気のよさそうな宿は満室だった。

 そう考えると、俺の泊っていた宿はサービスに適した価格ではないのだろう。

 なら、ぼったくりだな。

 それからダンジョンに入る前に冒険者ギルドに行き、掲示板を眺める。

 なるほど、グリーンスネークはEランクの納品依頼なのか。

 未解体なら一匹小銀貨二枚か。三匹で依頼一回分になる。

 また冒険者は自身のランクより一つ上まで依頼を受けられて、上のランクを熟すと二回分の貢献度だ。

 更に俺の場合上のランクなら、二重取りで実質一度で四回分の貢献度になる。

 グリーンスネークはかなりストレージにあるので、今の内に提出しておこう。

 掲示板からグリーンスネークの納品依頼を引きはがし、受付に並ぶ。

 常備依頼は関係ないが、それ以外は依頼書を取る必要がある。

 それから俺の順番が来たので依頼書を出すと、無事に受理された。

 次に納品専用窓口に並び依頼書を提出して、ついでに常備依頼の納品もあることを伝えると、受付から番号札が渡される。

 しばらく待つ必要があるので、冒険者ギルドに備え付けられている椅子に座って待つ。

 おそらく納品窓口は夕方が一番混むと思われるが、早朝なので比較的すいていた。

 窓口上部の札が、俺の番号に変わる。

 そして窓口に行き番号札を差し出すと、奥の部屋へと通された。

 部屋は倉庫のようになっており、何人かがモンスターを解体している。

「おう、グリーンスネークか。最低三匹納品で、上限はない。それと常備依頼の納品か。出してくれ」

 俺の担当になった男がそう言うので、肩掛けバッグからグリーンスネークを取り出していく。

 しかし実際には、ストレージから取り出していた。これは見せかけのフェイクだ。

 続けてゴブリンの耳やホーンラビット、あとは一応納品物ではないが、ゴブリンの魔石も提出する。

 マッドクラブ? あれを出すのはとんでもない。
 
「これで全部だ」
「おおぅ。すげえ数だな。少し待ってろ」

 男は俺の出したグリーンスネークなどの仕分けを始める。

「どれも一撃で仕留められている。状態も悪くない。他のも含めて全て適正価格の評価だ」

 そう言って依頼書と新たに用意した紙に何かを書き込むと、男はハンコを押した。

 俺はその依頼書と紙、納品確認書を受け取ると、部屋を後にする。

 最後に並ぶのは、依頼を受けた受付列だ。

『神授スキル【二重取り】が発動しました。依頼貢献度と報酬が倍になります』

 そして案の定二重取りが発動して、どこからともなく硬貨が現れる。

 この世界は創造神が通貨を統一しているらしいので、硬貨が多少増えても問題ないのだろう。

 そのおかげで、俺の懐がだいぶ温かくなった。

 グリーンスネークが一匹で小銀貨二枚。

 納品数は三十二匹。合計小銀貨六十四枚。

 それが二重取りで百二十八枚だ。

 両替で小金貨一枚、銀貨二枚、小銀貨八枚になる。

 グリーンスネークの依頼だけで、貢献度が二十一も増えた。

 更には、常備依頼の分もそこへ足される。

 どうやら魔石の売却も依頼と一纏めにされたことで、二重取りの適用範囲になったようだ。

 本来魔石の売却では発動しないが、こうした抜け穴があったららしい。

 これだけ金銭が貯まれば、しばらくは大丈夫だろう。

 しかし一度にたくさん金を稼げば、こういうやからが現れるのも必然である。
 
「おい、景気がよさそうだな」
「俺たちと少し話をしようぜ」

 二人の冒険者が、ギルドを出た俺を路地裏へと連れ込んでそう言った。

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