017 街道の旅は自分の足が一番

 翌朝俺は宿を引き払い、村を出る。

 空を見上げれば、よく晴れていた。

 やはり雨や曇りよりも、晴れの方が好きだ。

 それと今回は徒歩ではなく、乗合馬車に乗っている。
 
 冒険者が多いので、定期的にこの村とシルダートを行き来しているらしい。

 しかしこれも経験だと思って乗ったが、正直失敗した。

 速度は歩くより少し早い程度だし、狭い・臭い・不安定である。

 俺は三半規管が強いのか、酔うことはない。

 だが馬車は凄く揺れるし、他の人は酔うことに加えて尻も痛めている。

 そして何より、この世界の人たちは狭い空間だと臭い。

 特に中年男性がヤバイ。

 他の冒険者たちも臭かった。

 パーティメンバーらしき女性は、顔を歪ませている。

 逆にこの乗合馬車を護衛している者たちの方が、外で気持ちよさそうに歩いていた。

 鼻が麻痺するまで耐えれば良いことだが、それもある事件で限界を迎える。

「オロロロロロ」
「うわっ!?」
「こいつ吐きやがったぞ!」
「くせぇ!」
「馬車を止めろ!」
「最悪だ!」

 一人の男が酔って吐いたのだ。大惨事である。

 俺との距離は離れていて助かったが、その付近の人には吐しゃ物がかかったようだ。

 もう、乗合馬車で長距離移動するのは止めよう。

 それから乗合馬車が停止したので、俺は外に出れた。

 空気がうまい。

 よし、ここで降りよう。

 俺は御者にここで降りることを伝えた。

 当然代金は返ってこないが、構わない。

 あの空間に閉じ込められるのは、拷問だ。

 他にも何人か同様に降りるようであり、顔を歪ませていた女性はパーティメンバーの男にキレていた。

 なにやら乗るのは反対だったとか、金が無駄になったとかで揉めている。

 まあ、俺は関係ないので関わらないでおこう。

 中級生活魔法の清潔を発動させると、俺は走り出した。

 背後から何か声が聞こえるが、気にしない。

 おそらく、清潔を発動するところを見たのだろう。

 しかし関わるのは面倒だったので、そこそこの速度でしばらく走り続けた。

 流石に人外の速度は控える。

 それから道中モンスターにも遭遇することなく、日が沈んでいく。

 冒険者の行き来が激しいからか、モンスターとは出会わなかった。

 ちょうど野営地があったので、そこで一晩過ごすことにする。

 けれども他にも使用している人たちがいるので、注意が必要だ。

 少し離れたところで一人用の簡易テントを張り、グレイウルフとホーンラビットを一匹ずつ召喚しておく。

 グレイウルフには警戒をさせて、ホーンラビットは抱き枕だ。

 狭くても一匹くらいなら問題ない。

 中級生活魔法の種火で火を起こすと、村で買った串焼きやスープ、果物を食べる。

 ストレージ内は時が止まっているので、料理は温かく、果物は新鮮だ。

 すると野営地にいた二人の男が、近付いてくる。

「うおっ、グレイウルフにホーンラビット!? 使役しているのか?」
「おい、よく見れば別嬪だぜ。お嬢ちゃん、こんな場所に一人だと危ないぜ」

 暗いからか、中性的な見た目の俺を少女だと判断したようだ。

「いや、気にしないでくれ」
「何言ってんだよ、俺たちがいるから野営しているんだろ? これって寄生だぜ?」
「そうだ。小金貨一枚か、一晩相手をしてくれるなら見逃してやるよ」

 声の質も中性的なので、男だと気づかれなかった。

 愛玩モンスターにもなるホーンラビットを連れているのも、原因かもしれない。

「払わないし、相手もしない。それに気が付いていないようだが、俺は男だ」

 それを聞いた途端、男たちの態度が一変する。

「なっ!? 騙しやがったな! このカマ野郎!」
「ふざけんじゃねえぞ!」

 更に二人が騒いだからか、奥から残っていた二人が追加でやって来た。

「なに騒いでんだよ? って女か!」
「お前ら、もしかして振られたのか!」

 状況が掴めない男たちがそう言うが、すぐに俺が男だと分かると睨みつけてくる。

「ったく、寄生カマ野郎かよ。仲間の繊細な心が傷ついたし、有り金全部と装備、あと使役しているモンスター二匹で許してやるよ」

 男の言葉に、俺はため息が出た。

 ここまでくると、盗賊と変わりない。

 手慣れているし、こいつらは似たようなことを繰り返しているのだろう。

 ここで処理しておくのが、世の中のためか。

 周囲にゴブリン軍団を召喚して、男たちを襲わせる。

「なっ!? ゴブリン!」
「おいおい! 全員武器もってやがる!」
「数も尋常じゃねえ!」
「お、おい! こんな時だ、お前も戦え!」

 四人の男は焦りながら武器を抜くが、足は震えてガクガクだ。

 そんなんじゃ、生き残れないぞ?

 ゴブリン軍団に襲われている男たちを尻目に、俺はテントを片付ける。

「お、おまっ! こんな時になにして……」
「ぐあぁ!?」
「た、助け!」
「死にたくない!」

 男たちはそれなりに抗うが、武器持ちのゴブリン軍団をどうすることもできず、全滅した。

 うん。やはり人を殺しても何も思わないな。

 一定の基準越えとタイミングが合えば、俺は今後も人を平然と殺すだろう。

 異世界は過酷だし、これくらいがちょうど良い。

 それに、こいつらと盗賊との違いが分からないしな。

 必要な物をゴブリンに剥ぎ取らせ、遠くに遺棄させる。

 やはり、そこそこ金を持っていた。

 野営地で、追い剥ぎのようなことをしていたのだろう。

 野営道具や防具などは、生理的に受け付けなかったので捨て置く。

 武器は短剣をサブ武器にさせることで、ゴブリンに上手く渡している。

 サイズが合えば防具も使わせたのだが、仕方がない。

 やることを終えてゴブリン軍団とホーンラビットをカードに戻すと、代わりに光球を発動させて辺りを照らす。

 デミゴッドは正直、しばらく徹夜しても問題無い気がする。

 ここで寝泊まりする気分じゃ無くなったし、このまま先に進もう。

 それと、暗い中あの速度で走るのは危なそうだ。

 グレイウルフに周囲を警戒させながら、歩くことにする。

 すると光球に誘われたのか、モンスターが顔を見せた。

「ぐげげ」
「ゴブリンか」
「ぐげっ」

 剣を抜いて瞬殺すると、またもやモンスターが現れる。

 それはぱっと見、薄茶色をした巨大なだった。

 種族:ポイズンモス
 種族特性
【毒鱗粉】【毒耐性(小)】

 鑑定してみると、毒の鱗粉を巻き散らすらしい。

 デミゴッドには状態異常耐性(特大)があるので大丈夫だと思うが、急いで仕留めよう。

 そうして剣を振るうと、簡単に倒せてしまった。

 おそらく、ポイズンモス自体はザコモンスターなのだろう。

 毒鱗粉がやっかいなだけなのだと思われる。

 一応持っていないモンスターなので、カード化しておく。

 集団の敵に不意打ちで送り込む時には、それなりに役立ちそうだ。

 そうして夜の街道を歩いていると、光球の明るさに誘われたのか、何度かポイズンモスが襲ってきた。

 稀に以前手に入れたジャイアントバットも混ざっており、残りはゴブリンだ。

 結局最初のポイズンモスも含めて、ポイズンモスのカードは七枚になった。

 ジャイアントバットは元々持っていたのを足して、五枚になる。

 夜に出会いやすいモンスターもいることが知れたので、今後度々夜中に出歩くことにしよう。

 そうして朝日が昇り、休憩して朝食をとる。

 夜通し歩いたが、やはり疲れはほとんど感じない。

 これなら、このまま進んでも問題なさそうだ。

 休憩を終えると、グレイウルフをカードに戻して軽く走る。

 早朝の澄んだ空気が美味しい。

 それから数時間後、俺の目の前には立派な城壁で囲まれた街が見えてくる。

 あれが国境の街、シルダートなのだろう。

 そこで何が待ち受けているのかワクワクしつつ、俺は門へと近付いた。

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