016 街道での高速移動

 道中は今のところ、実に平和だ。

 ハプンたちが追ってくることもないし、盗賊も襲ってきてはいない。

 しかし天候の機嫌が悪いらしく、雨が降ってきた。

 村でエーゲルたちに、あれば便利といわれた雨具を取り出して身につける。

 いわゆるカッパのようなもので、オイルフロッグというモンスターの皮でできているらしい。

 オイルフロッグは様々な用途で使えるオイルが取れるらしく、人気のモンスターだ。

 当然その皮も多く流通した結果、それなりに安く雨具が手に入った。

 といっても、駆け出し冒険者が手を出すのは難しい。

 まさか、小金貨が飛ぶとは思わなかった。
 
 これでも昔よりは安いらしい。

 丈夫で長持ちだし、水をよく弾く。

 旅をするなら、ぜひ欲しい一着だ。

 肌触りは何となく、ビニールに近い気がする。

 この質感でオイルを身に纏ったカエルか。剣など滑って当たりづらそうだ。

 火属性の魔法を使えば、大変なことになるだろう。

 意外と、オイルフロッグは強いモンスターなのかもしれない。

 そんなことを思いながら、雨の中街道を歩いていく。

 なおグレイウルフは、完全に濡れ狼だ。

 カードに戻せばなぜか乾くので、問題ないだろう。

 死亡しても復活するくらいだし、風邪をひいても直ぐ回復しそうだ。

 実際グレイウルフは、雨を気にしていなかった。

 それとこれまでバッグなどを身につけていなかったが、現在では肩掛けバッグを身につけている。

 もちろん雨具の中であり、濡れてはいない。

 どうやら世の中にはアイテムバッグという、ストレージのようなアイテムがあるようだ。

 もちろん容量もピンキリだし、時間は止まらない。

 加えて、バッグの入り口以上の物を入れることもできないようだ。

 そんなアイテムが、ダンジョンから手に入るらしい。

 なのでストレージから物を取り出すフェイクとして、普通の肩掛けバッグをアイテムバッグに見せかけることにした。

 実はエーゲルたちの勧めであり、俺がアイテムポケットやアイテムボックスのスキルを所持していると考え、そうした方がいいと教えてくれたのだ。

 訊いたところアイテムボックスはストレージの下位互換であり、アイテムポケットは更に下位互換のようである。

 そういえばキャラクターメイキングの時にも、エクストラで見かけたスキルだ。

 ストレージが二十ポイント、アイテムボックスが十ポイント、アイテムポケットが五ポイントだった。

 違いは容量が広がる魔力効率と、入れた物の時間経過関係である。

 ポイント差から単純に考えれば、例として魔力十でストレージに十キロ入るとすれば、アイテムボックスは五キロ、アイテムポケットは二.五キロという感じだと予測している。

 時間経過関係は完全停止、時間経過が半分、三分の一ということらしい。

 そうした説明を、キャラクターメイキングの時に見ることができた。

 しかし今思うと完全停止にこだわらなければ、アイテムポケットでも十分だったな。

 デミゴッドの魔力量なら、魔力効率などそこまで気にする必要はない。

 十五ポイントあったら、色々できたんだけどな……。

 今更そう考えたところで、仕方がない。

 俺が知らないだけで、ストレージには隠れた能力がある可能性もある。

 流石にこれだけの差で、五ポイントと二十ポイントという差は生まれないよな。

 アイテムボックスやアイテムポケットの所持者がいたら、知ることができるかもしれない。

 そんなことを考えながら歩いていると、行きかう人たちの中にはびしょ濡れのローブ姿で走っていく者もいる。

 あれば便利だが、やはりオイルフロッグの皮から作った雨具は、中々手が届かないようだ。

 そもそも村にも、数着しか在庫がなかった。

 街などであれば、在庫が豊富でもう少し安いのかもしれない。

 さて、俺も走るかな。

 簡易テントも買ったが、一人寝転ぶのが限界だし、雨で濡れた地面に設置したくない。

 細長い三角形で、入り口と足元が常に解放されている形なのだ。

 雨が止まなければ、浸水は免れない。

 それに俺が今どれだけ速く走れるか知る、いい機会だろう。

 俺はグレイウルフをカードに戻すと、その場から駆け出す。

 最初はゆっくり走り、少しずつ速度を上げていく。

 おおっ、流石デミゴッド。どんどん速くなる。

 次第に馬並みの速度になり、高速道路を走る自動車のようになっていった。

 すれ違う人たちは、一瞬身構えて驚愕きょうがくしている。

 当たり前だが、人が出せる速度ではないらしい。

 これよりも速く走れそうだが、事故りそうなので止めておこう。

 体の感覚が、まだこの速さに慣れていないしな。

 そしておよそ三十分前後で、次の村付近に到着した。

 本来ハジミナの村から歩けば、二日~三日くらいは必要だったはずだ。

 道中のモンスターは全て無視したし、休憩もとっていない。

 速度も、百キロくらいは出ていたのではないだろうか。

 こんなに早く着ければ、歩くのが馬鹿らしくなってくるな。

 まあとても目立つので、ほどほどにした方が良いのだろうが。

 今回は雨だったので、仕方がない。

 雨の日の野宿は嫌だった。

 そして村に入り宿をとると、中級生活魔法の清潔を発動させて汗などを飛ばす。

 しかしまだ午前中なので、再び外に出て冒険者ギルドに足を運んだ。

 この村もさびれているかと思いきや、雨の日なのに人が多い。

 掲示板の前は人だかりであり、向かうのは困難だ。

 時間的に考えると、この人数は普通じゃないな。

 やる気のある冒険者は、朝一番に来て貼られている旨味の良い依頼を持っていく。

 なので通常この時間は午前中とはいえ、残り物がほとんどだ。

 けれども、まるで早朝のようにごった返している。

 普通の村なのに、なぜこんなに人が多い?

 俺が不思議がりながらギルドの端で立っていると、一人の男が近付いてくる。

「お前さん流れものかい? こんな村でこの人数は驚いたか? 実はこれには訳があるんだが……」

 男はそこまで話すと、分かっているだろという風に視線を向けてくる。

 俺も他で訊くのは面倒だし、受付も長蛇の列だ。なので、男に小銀貨を一枚差し出した。

「毎度あり、ちょっと耳を貸してくれ」

 そして男は小声でこの現状を話し出す。

 どうやらこの村の次が国境の街シルダートであり、そろそろ国境門が開く可能性があるらしい。

 それで稼ぎ時と判断した冒険者たちが、シルダートに向っているのだという。

 だが当然似たようなことを考える者は多く、街の宿代が高騰してしまい馬鹿にならない。

 そこで国境門が開くまで、一つとなりの村などに身を寄せているのである。

 シルダートの街の周囲には、そうした村がいくつかあるようだ。

 この村も、その一つである。

 なるほど。だからこんなに冒険者が多いのか。

 宿代が村としては少し高かった理由も、そこにあるのだろう。

 しかしそのおかげで村としては発展しているらしく、村と町の中間レベルの規模だ。

 またそれなりのダンジョンが仮に現れれば、この村は町へと発展すると思われる。

 なので雑用依頼などであれば、人が多くてもいくつかは見つかるだろう。

 逆に村の周辺も冒険者が多いだろうし、討伐依頼や納品依頼の効率は悪そうだ。

 依頼を受けるのは面倒そうだし、雨が止んでいれば明日にでも村を出よう。

 そうして冒険者ギルドを出た俺は、雨の日でも開いている店でいくつか食料を買うと、宿に戻った。

 大きな買い物は、街でしようと思う。

 街の方が品揃えが豊富だろうしな。

 宿は食事処も兼業しているみたいなので、早めの昼食をとる。

 不味くは無いが、うまくもなかった。

 それから空き時間はスキルの確認をしたり、暇すぎて再度外にくり出したりして時間を潰す。

 日が落ち始めたころには、ようやく雨も止んだ。

 なので、早朝に村を出ることを決める。

 就寝時には少し肌寒かったので、宿には悪いと思いつつ、グレイウルフ一匹とホーンラビットを三匹を出して温まるのだった。

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