011 ホブゴブリン襲撃作戦

 召喚したゴブリンたちと、ホブゴブリンを並べる。

 まずは無手のゴブリンを特攻させ、続いて武器持ちを送り込むことにした。

 油断を誘うためというのもあるが、ホブゴブリンの消耗を抑えるためである。

 それに、最初から全軍特攻は面白くない。

 ホブゴブリンが無双してお終いでは、もったいない気がしたのだ。

 そう考えると、俺は結構ろくでなしかもしれない。

 デミゴッドの血がそうさせるのだと、言い訳しておこう。

 ついでに洞窟から逃げ出す者がいるかもしれないので、入り口周辺にはグレイウルフたちを配備しておく。

 ホーンラビット? やつの役目は先ほどので終わっている。

 やつは所詮、我がモンスター軍の最弱よ。

 そういう訳で、さっそく作戦を実行に移す。

「行け」
「「「ごぶっ!」」」

 俺の命令と共に、無手のゴブリンたちが洞窟へと突撃していく。

 少しすると、男たちの怒号が聞こえてきた。

 そろそろいいか。

「次、行け」
「「「ごっぶ!」」」

 続いて、武器持ちのゴブリンたちを送り込む。

 心なしか、先ほどよりも騒ぎが大きくなっている気がする。

 だが所詮はゴブリン、やられるのも早いだろう。

 なので少し早いが、ホブゴブリンも投入する。
 
「行ってこい」
「ゴブブ!」

 ホブゴブリンが向かうと、叫び声が頻繁に混ざるようになってきた。

 やはり、ホブゴブリンは強いみたいだ。

 さて、俺も行くとしよう。

 赤い布を巻いたグレイウルフだけをお供にして、俺も洞窟に入っていく。

「な、何だこいつ!?」
「何でこんなやつがっ!?」
「ひぃい!!」

 見つからないようにこっそり覗くと、ホブゴブリンが無双していた。

 うーむ。投入が早すぎたかもしれない。

 いや、どのみちこうなったか。

「ちくしょう! あんなやつの相手なんかしてられるか!」
「と、頭目助けてくれ!」
「ふざけんな! お前らは俺の囮になりやがれ!」
「そんなぁ!!!」

 すると一人の体格の良い髭面の男が、こちらに向かってくる。

 正確には、出入り口に向かっているともいう。

「行け」
「ガウッ!」

 なので俺は、グレイウルフをけしかけた。

「なっ!? ぐあっ!?」

 突然現れたグレイウルフに気が付くのが遅れ、頭目の男は腕を噛まれて武器を落としてしまう。

 だがグレイウルフ一匹では、頭目の男には勝てそうにない。

 なので俺は、入り口付近で待機させていたグレイウルフを呼び寄せた。

 どうやら多少離れていても、命令を飛ばせるみたいだ。

「バウ!」
「グルル!」
「ガウ!」

 そして複数のグレイウルフが、頭目の男に噛みつく。

「ぐぎゃぁ!? な、何がどうなってやがる!! だ、だれか……」

 頭目の男は最後に助けを口にしたが、誰も助けなどこない。

 けれども、一応生かしておく。後で結局始末するとは思うが。

 またホブゴブリンたちも、盗賊たちを全て倒したようだ。

 出入口もここしかないようなので、逃げている者はいないだろう。

 そうして頭目を含めた生き残りを一か所に集めて、ホブゴブリンたちに見張らせる。

 俺はグレイウルフを一匹連れて、捕まっている人たちがいる場所に向った。

 部屋に着くと、そこには五人の男女が覚悟を決めたような顔で座りこんでいる。

 どうやら盗賊の声で、ゴブリンが襲撃しに来たことを理解していたのだろう。

 だからこそ、俺が現れたことに驚いているようだった。

「助けに来た。安心してくれ」

 その言葉を聞くと、一人の女性が安心したのか意識を失う。

「サマンサ!」

 縄で腕を縛られた男性が、女性に声をかけた。

 見れば女性は破れた衣服しか身につけておらず、盗賊に乱暴されていたと思われる。

 あの盗賊たち、しっかり後で始末しよう。

 とりあえず、先に捕まった人たちの縄をほどいていく。

 そして一人一人中級生活魔法の清潔を発動して汚れを落とし、飲水を使い水を出す。

 サマンサと呼ばれた女性は未だ意識を失っているが、このままでもあれなので、今つけているマントをかける。

「もはや売られるのも時間の問題かと思っていましたが、助かりました。私は行商人をしているハプンと申します」

 そうお礼を言ってきたのは、女性に声をかけた男性だ。

 ハプンというらしく、三十代半ばの細身をした優しそうな雰囲気をしている。

「ん?」

 すると突然、何かを覗き見られそうになり、それに抵抗した感触がした。

 何となくそれをした人物が分かったので、声をかける。

「おい、今俺に何かしたか?」
「ッ! お、お前が早く助けに来たら、母さんがあんな目に合わなくて済んだんだ……」

 ぱっと見同い年くらいの少年が、そう言って俺を睨みつけてきた。

「ハ、ハンスお前! 恩人を無断で鑑定したのか!」
「う、うるせえ! 役立たずの親父は黙ってろ!」
「ハ、ハンス……」

 会話を聞くに、どうやらあの感覚は鑑定されたものらしい。

 だが実力差なのか、それとも他の要因なのか、俺は鑑定に抵抗できたみたいだ。

 それにしても捕まっていたことには同情するが、こいつの言動には呆れる。

 無断で鑑定されたことだし、俺も鑑定しよう。

 名称:ハンス
 種族:人族
 年齢:15
 性別:男
 スキル 
【鑑定】【水属性適性】
【剣適性】【下級生活魔法】

 なるほど。これは増長するようなスキル構成だな。

 水属性の魔法を覚えることができれば、魔法剣士として活躍することができそうだ。

 そして鑑定によって相手のスキル構成が分かるし、アイテムを見極めることもできる。

 下級生活魔法だが、あればかなり便利だろう。

 しかしこうして捕まっていたという事は、盗賊にやられる程度というわけだ。

「お、お前! 今俺のこと鑑定しやがったな!」
「最初に覗こうとしたのはそっちだ。やり返されて当然だろ」
「くそが!」

 するとハンスは、突然俺に殴りかかってきた。

 遅い。

 足を引っかけてやると、面白いように転がる。

 にしても鑑定を持っていると、鑑定されたことに気が付くのか。これは今後気をつけよう。

 そもそも、無断で鑑定することはマナー違反だったようだ。

 今回はそれを知れて、よかったと思うことにしよう。
 
「ぐあっ!?」
「ハンス!」

 先ほどあのようなことを言われたのにもかかわらず、ハプンはハンスを酷く心配していた。

 どうやら息子には甘いようであり、この増長の一因は父親にもありそうだ。

「自分の無力さを人のせいにするな。悔しかったら努力して強くなれ。これ以上面倒をかけるなら、容赦しない」
「クッ……」

 俺がそう言って睨みつけると、ハンスは黙っておとなしくなった。

 どうやら、根性もたいして無いらしい。

 まあ、それでも噛みついてくるようだったら、気絶させたんだけどな。

「助けてもらったのにもかかわらず、息子が申し訳ございません。お礼は十分に致しますので、どうか助けてはくれないでしょうか?」

 頭を下げるハプンに、俺は溜息を吐いて答える。

「わかった。次の村まで送ってやる。それと盗賊に奪われた物は持っていっていい」
「よ、よろしいのですか?」
「ああ、構わない」

 これは別に善意ではない。ただ単に全て俺の物にしたら、道中居心地が悪いと感じるからだ。

 それに余ったものは俺のものだし、今は物や金銭に困っている訳ではない。

 加えて所詮、盗賊の持ち物だ。

 ダンジョン奥で手に入れた希少品なら所有権を主張するが、ここはそうではない。

 まあ結局のところ、気分の問題だ。

 奪われていた物を持ち主に返す。ただそれだけのこと。

「それと、俺は数多くのモンスターを操る。出た先にゴブリンなどがいるが、気にしないでくれ」
「は、はぁ」

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