003 キョウヘンの村

 キョウヘンの村の前までくると、門番のような人がいる。

 俺はそこでポケットから出すようにして、ストレージから万能身分証を出す。

 ベック達が平然とドッグタグのような物を出すので、少し緊張する。

 本来あれが身分証なのだろう。

 俺は恐る恐る、門番に万能身分証を差し出した。

「通ってよし」

 心配とは裏腹に、呆気なく門を通る許可が下りる。

 帰された万能身分証は透明なのだが、この門番にはちゃんとした身分証に見えたのだろう。

 やはりこの万能身分証は、結構チートなのかもしれない。

 そうして万能身分証を再びポケットからストレージにしまうと、俺はようやく村に入る。

 見渡せば、中世ヨーロッパ風の村といった感じだ。

「ジンさん。村に着きましたが、どこを案内すればいいでしょうか?」
「そうだな。実はまだ宿をとってないから。お勧めの宿に案内してくれないか?」
「分かりました。それなら小鳥の宿り木亭がお勧めですよ。案内します」

 それからベック達の案内の元、小鳥の宿り木亭にやって来る。

 朝晩食事付きで、一泊小銀貨四枚らしい。

 おそらく安いと思うので、二日ほど泊まることにする。

 財布を取り出すと、大きさの違う銅貨と銀貨が複数と、小さな金貨が一枚入っていた。

 十進法だと祈りながら、大きい方の銀貨を一枚差し出す。
 
 すると案の定受付の女将はお釣りに小さな銀貨、小銀貨二枚を返してくれた。

 続いて部屋の説明と鍵を受け取ると、一度外に出ることにする。

 実はまだ案内して欲しい場所があった。

「冒険者になろうと思うのだが、そこに案内してくれないか?」
「えっ? ジンさん冒険者じゃなかったんですか?」
「ん? それが何か問題か?」
「い、いえ。冒険者じゃないのにダンジョンにいたことが不思議だったので」

 まあ、そうだろうな。

 下手すると、怪しい人物だと思われたかもしれない。

 だが言い訳は既に考えてある。

「いや、俺はモンスターを召喚する関係上、ダンジョンで手駒を増やしていたんだ。あのゴブリンがそうだよ。これまでは何となく冒険者になっていなかったが、やはり登録しておいていた方が良いと思ってね」
「なるほど……」

 三人は俺の話を聞いて、どうやら納得してくれたみたいだ。

「そういう訳で、案内してくれないか?」
「は、はい! 分かりました。冒険者ギルドまで案内します」

 それから無事に冒険者ギルドまでやって来ると、俺は言った通り冒険者登録をした。

 登録料は銀貨一枚であり、身分証があればFランクからで、無ければGランクからとのこと。

 当然俺は万能身分証を出して、Fランクからになった。

 ちなみに、ランクはG~Aと上がっていき、最上級にSランクがあるらしい。

 その後は簡単な説明を受けた後、名前とランクの掘られた銅のドッグタグが渡される。

 なおこのドッグタグ、冒険者証は、Gが木、F~Eが銅、D~Cが銀、B~Aが金、Sがオリハルコンらしい。

 ランクが上がったら、新しいのと交換してくれるようだ。

 身分証にもなっているようだが、出入りできる場所がドッグタグの質によって決まっている。

 木が発行した村、銅が発行した領、銀が発行した国、それ以上になると他国にも行ける身分証になるらしい。

 普段はこの冒険者証を使って、ここぞいう時に万能身分証を使おう。

 ちなみに現在地は、ラスターダ王国のゴートレール辺境伯領、キョウヘンの村である。

 冒険者証の行ける場所について説明される際に、聞くことができた。

 とりあえずこれで冒険者にはなれたので、後は適当に村の案内をしてもらおう。

 それからベック達に一通り村を案内してもらった後、無事に解散した。

 ゴブリン二匹の対価としては、十分な情報が手に入ったな。

 彼らが今後困ったら、手助けくらいはしようと思う。

 さて、日はまだ高いし、昼食に何か食べたらもう一度冒険者ギルドに行ってみるか。

 そういう訳でまずは村の広場に行くと、屋台のような物が並んでいた。

 串焼き一本銅貨一枚とのことなので、数本買ってから近くのベンチに座って食べる。

 味の濃いタレが食欲をそそり、すぐに食べ終えてしまった。

 鶏肉みたいな味だったが、店主はホーンラビットの肉と言っていたな。

 ウサギ肉も案外うまいものだ。

 串をストレージに入れると、俺は再び冒険者ギルドに足を運ぶ。

 ギルド内はこの時間空いているのか、人がまばらである。

 掲示板に依頼があるとのことなので、その前に移動した。

 Fランクだとそこまで割高な依頼は少なく、薬草採取や清掃、運搬などがほとんどだ。

 他には先ほど食べたホーンラビットの肉の納品や、ゴブリン退治などがある。

 ゴブリン退治は近くにダンジョンがあるので、効率がよさそうだな。

 どうやら右耳が討伐の証明になるらしい。

 だとすれば、ベックが耳と一緒に差し出してきたあの石は何だったのだろうか? 

 多分あれも、価値があるのだろう。

 ゴブリンを倒した際には、右耳と一緒に集めておくか。

 ちなみにゴブリン討伐は、一匹銅貨四枚らしい。

 宿屋で一泊するには、十匹倒す必要がある。

 仲間がいれば、それだけ倒す数も増えるわけだ。

 ベック達であれば単純に三十匹倒して一泊であり、昼食や雑費などを入れればもっと狩る必要がある。

 あの石が幾らで売れるか不明だが、売れたとしても結構大変そうだ。

 それよりも、森での依頼の方が稼げそうに見える。

 ゴブリン討伐は、あまり旨味がなさそうだ。

 しかし最初の依頼としては良さそうだし、これにしよう。

 なおこの依頼は常備依頼であり、掲示板から取って受付に持っていく必要が無い。

 狩れば狩るだけ、報酬がもらえる。

 また十五匹狩ることで、依頼一回分を熟したと見なされるらしい。

 Fランクは同ランクの依頼を百回熟すとEランクに上がるとのことなので、先は長そうだ。

 そうして俺は冒険者ギルドを出ると、村の外にある初級ゴブリンのダンジョン(暫定)に向かう。

 今回は村を出る際に、万能身分証ではなく冒険者証を使って外に出た。

 そういえば、なぜ初級ゴブリンのダンジョン(暫定)なのだろうか。

 暫定という事は、まだあのダンジョンは確定に至るまでの根拠が不足しているのかもしれない。

 気になるし、依頼を報告する時にでも訊いてみよう。

 その後道中は何事もなく、ダンジョンへと辿り着いた。

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