002 異世界転移

 ここは?

 気が付くとそこは、光る石が所々に埋め込まれた洞窟の中だった。

 体を見れば、初心者冒険セットが既に装備されている。

 衣服にマントやブーツ。腰には剣が見えた。

 背中にはリュックが背負われており、ズボンのポケットには財布と四角い透明な板が入っている。

 おそらくこれが万能身分証だろう。

 ちなみに財布の中には、いくつかの硬貨が入っている。

 続いてリュックを下ろし中身を確認すると、水や食料に応急用品、ロープやランタンにナイフなど、冒険に役立ちそうな物がいくつか入っていた。

 とりあえずリュックは邪魔なので、エクストラ能力のストレージを使うことにする。

 効果は時間の止まった異空間に、一定以上の生命力を持たない物を収納することができるらしい。

 容量は魔力量で決まるようなので、デミゴッドであればかなりの量を収納することができるだろう。

 そうしてストレージを意識してみると、目の前に小さなブラックホールのような物が現れる。

 試しにリュックを近付けて見ると、大きく広がって簡単にリュックを飲み込んだ。

 念のために恐る恐る腕を入れてみると、収納した物が脳内に浮かび上がった。

 これなら、問題ないだろう。

 ついでに無くすと困るので、財布と万能身分証も入れておいた。

 これで確認したいことは概ね終わったので、この洞窟内を進むことにする。

 何となくモンスターが現れそうな気がするので、いつでも剣を抜けるように手を添えておく。

 そしてしばらく歩くと案の定、何かが現れた。

「ぐげげ!」
「ゴブリン?」

 現れたのは、緑色をした醜悪な人型生物。

 見た目からして、おそらくゴブリンだろう。

「ぎゃぎゃ!」
「ちっ」

 一応種族選択にあったので声をかけようと思ったが、その前にゴブリンが襲い掛かってきた。

 突っ込んでくるゴブリンを難なく回避すると、剣を抜いてゴブリンを斬り裂く。

「ぐぎゃっ!?」
「悪く思うなよ」

 血しぶきが飛ぶが、構わず俺は怯んだゴブリンの心臓を突き刺した。

 結果としてゴブリンは絶命して、地に倒れる。

 初めての戦闘だったが、思ったより何も感じなかったな。

 これなら、例え人が相手でも気にならないだろう。

 さて、ゴブリンは死んだようだし、さっそくカード召喚術を試してみるか。

 使い方は何となくわかるので、ゴブリンに右手の平を向ける。

 するとゴブリンが一瞬で光の粒子に変わり、俺の右手に集まってきた。

 そしてゴブリンは、一枚のカードに変わる。

 表面にはゴブリンが描かれており、裏面は魔法陣となっていた。

 それ以外は、特に何も書かれていない。

 とりあえず、使ってみるか。

「いでよゴブリン」

 口に出す必要は無かったが、雰囲気で言ってみた。

 するとゴブリンのカードが一瞬光り、目の前に先ほどのゴブリンが現れる。

「ごぶぶ!」

 敵意のようなものは感じられず、むしろ何か繋がりのようなものを感じた。

 おそらく、俺の指示であればどのような事でも行うだろう。

 あとは生前の記憶があるかだが、試してみるか。

「ふむ。お前はこの洞窟の出口を知っているか?」
「ごぶ!」

 言葉は分からないが、何となく知っていると言っている気がする。

 これは言語理解の能力とは別物だな。

 言語理解はあくまで一定以上の知能を持ち、言語を有している場合に発動ができるらしい。

 ゴブリンは、その条件に当てはまらなかったのだろう。

「よし、ならそこに案内しろ。ついでに敵が現れたら、応戦しろ」
「ごぶ!」

 そうしてゴブリンの案内の元、俺は洞窟を歩き出す。

 道中はやはりというべきか、他のゴブリンが現れ、その度に戦闘が起きる。

「ごぎゃぎゃ!」
「ごっぶ!」

 俺は味方ゴブリンが敵ゴブリンの注意を引いているうちに、鑑定を使ってみた。

 種族:ゴブリン
 種族特性
【悪食】【病気耐性(小)】【他種族交配】

 なるほど。鑑定すると種族と特性が確認できるみたいだ。

 特性の一つ一つを意識してみると、悪食は腐っている物でも食べられるようになり、病気耐性(小)は名称通りだ。

 そして他種族交配は、ゴブリンではない生き物とでも、交配できるというもの。

 女性がゴブリンに襲われれば、大変なことになりそうだ。

 もし見かけたら、助けることにしよう。

 そう思いながら、不意打ちで倒していく。

 そして倒すたびにカード化していき、召喚する。

 召喚すると、僅かだが体から何かが抜ける気がするが、これが魔力というものかもしれない。

「ごぶぶ!」
「ごっぶ!」
「ごぶごぶ!」

 そうしていつの間にか、俺の味方ゴブリンの数が六匹までに増えた。

 前後に三匹ずつ連れて、先へと進む。

 だが、これがいけなかった。

「お、おい! 今助けるぞ!」
「は?」
「ごぎゃ!?」

 前方から三人の男が現れて、俺のゴブリンたちに斬りかかる。

「ちょ、ちょっと待て! 敵じゃない!」
「ぶぎゃ!?」
「え?」

 とっさに止めるが、既にゴブリンは二匹やられてしまった。

 やられたゴブリンは光の粒子になり、俺の近くに集まってカードになる。

 カードを掴んで確認してみれば、ゴブリンの絵が灰色になっていた。

 おそらくこの状態から、二十四時間召喚できないという事だろう。
 
「これは俺の召喚モンスターだ」
「えっ、本当に?」
「ああ。現にこいつらはおとなしいだろ?」
「た、確かに……」

 俺が敵だと認識しなかったからか、ゴブリンはおとなしくしている。

「だから武器を下げてくれないか?」
「あ、ああ。すまなかった」
「本当に召喚モンスターっすか……」
「は、初めてみただす」

 そうして落ち着くと、三人の男は俺に頭を下げた。

 見れば顔を青くしており、モンスターの弁償などで頭を悩ませているのかもしれない。

 装備もそこまで質がよさそうでは無いし、金はあまり持っていなさそうだ。

 ここは情報を得る代わりに、許した方が良さそうだな。

 実際二十四時間後には再び召喚できるし、ゴブリンは簡単に手に入る。

「とりあえず、頭を上げてくれ。君たちのことを教えてくれないか? 俺はジンという」
「あっ、ああ。俺たちはここキョウヘンの村を中心に冒険者をしている、守りの剣というパーティだ」
 
 なるほど。キョウヘンという村があるらしい。

 たぶん村もあることから、ここら辺はそこまで危険地帯ではなさそうだ。

 その点は、素直にありがたかった。

「俺はリーダーのベック。こっちの太いのがブンで、こっちの細いのがタールだ」
「ぶ、ブンだす」
「タ、タールっす」

 とりあえず雰囲気から善良そうなので、このまま役に立ってもらうことにする。

「なるほど。実は俺はこの周辺に来たばかりで、様子見で少し入って今帰りなんだ。よければ村などを案内してくれないだろうか? ああ、モンスターの事なら気にしなくていい。所詮はゴブリンだからね」

 そう言うと、三人は安堵して俺の提案を受け入れてくれた。

 本当に善人のようだ。これには少し罪悪感を覚える。

 けど情報は欲しいので、利用させてもらう。

 それからは残りのゴブリンを最後尾に置いて、出口へと向かった。

 三人は罪滅ぼしなのか、道中のゴブリンは進んで倒してくれる。

 また倒したゴブリンから右耳と心臓部から石を取り出すと、俺に差し出してきた。

 おそらく金になるのだろうけど、遠慮しておく。

 それは貰い過ぎだ。情報と案内だけで十分である。

 そうして出口が見えてきたころ、ゴブリンがいると勘違いされるので、カードに戻すことにした。

「戻れ」

 ゴブリン達に右手を向けてそう言うと、光の粒子に変わって右手に集まり、カードに変わる。

「す、すげぇ」
「びっくりだす!」
「こんなスキル見たことないっす」

 俺は三人の視線を受けつつも、ゴブリンのカードをポケットにしまった。

 カード召喚術はなるべく知られない方がいいだろうが、隠し通すのは無理だろう。

 ある程度知られるのは、仕方がない。

 そうして洞窟の入り口を抜けると、森が広がっていた。

 目の前には土道が続いており、後ろには不自然に盛り上がった山に、今出てきた入り口がある。

 近くには看板があり、初級ゴブリンのダンジョン(暫定)と書かれていた。

 見たことない文字だが、言語理解が発動したのだろう。問題なく読める。

「どうかしたんですか?」

 あまりに俺がきょろきょろするからか、ベックが声をかけてきた。

「いや、何でもないよ」

 俺はそう返事をすると、三人の後についていく。

 またその時に、隙をついて三人を鑑定してみた。

 名称:ベック
 種族:人族
 年齢:17
 性別:男
 スキル 
【剣適正】【盾適正】【気絶耐性(小)】

 名称:ブン
 種族:人族
 年齢:17
 性別:男
 スキル 
【槌適正】【筋力上昇(小)】

 名称:タール
 種族:人族
 年齢:16
 性別:男
 スキル 
【短剣適正】【気配感知】

 
 ゴブリンの時とは違い、名称・年齢・性別・スキルの項目が増えている。

 それとどうやら人族には、種族特性が無いみたいだ。

 加えて特に気になるのは、やはりスキルの項目である。

 意識してみると効果が分かったが、だいたい名称の効果だった。

 しかしタールだけは、気配感知があるため違和感があるのか、周囲を見渡して首をかしげている。

 これ以上続けると気が付かれると思い、鑑定を終えた。

 そしてそれから少し歩くと、村のようなものが見えてきた。

 あれがキョウヘンの村なのだろう。

 異世界初の村がどのようなものなのか、楽しみだ。

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