029 最悪を避けるために

 それから落ち着いた俺は、考えていたことを全てペロロさんに話す。

 するとそれを聞いたペロロさんは、慌てることなく落ち着いている。

 そして、俺の悩みを吹き飛ばすように、こう口にした。

「なら答えは一つだね。先にオタオークの上位種を、僕らが倒せばいいだけだよ」
「え……?」

 確かに俺たちがオタオークの上位種を倒せば、最悪は避けられる。

 だけど口にするのは容易いが、実行するとなれば難易度が高い。

「ふふんっ、何そんなに心配しているんだい? もしかして、負けた時のことを考えているのかな? 大丈夫さ。僕は強いからね!」
「ペロロさん……」

 ペロロさんはそう言うが、おそらく俺のために強がっているのだろう。

 オタオークの上位種に負ければ、ただでは済まない。

 それに負けそうになっても、都合よく自決丸を使用できるかは不明だ。

 加えて俺にはまともな武器が無いし、戦闘ではペロロさん頼りになる。

 何よりもオタオークの上位種は、仙人河童に匹敵するモンスターだ。

 簡単に倒せるとは思えない。

「色々考えているようだけど、それしか道はないと思うよ? 何もクルコン君だけのためじゃないよ。僕だってこの問題を引き起こした一人だからね。今後の事を考えたら、どうにかしたいのさ」

 どうやらペロロさんは、覚悟を決めているようだった。

 それにこんな世界で炎上騒動が起きれば、ただでは済まないだろう。

 相手を自殺に追い込む誹謗中傷をしても、罪に問われることはない。

 それに今回は、イベントという大舞台だ。

 これまで以上に多くの人が、注目している。

 特にダンジョンを引くことになった人物は、必然的に知名度が上がってしまう。

 つまり、俺の行動は十中八九大勢の人々に知られることになる。

 それが炎上騒動に繋がる事であれば、なおさらだろう。

 更に俺と行動をしているペロロさんも、その標的になる可能性が高かった。

 オタオークの上位種を倒せるかは分からない。

 それに倒したとしても、炎上するかもしれない。

 だが、倒せば今よりは確実にマシになる。

 あとは、俺が覚悟を決めるだけだった。

「……分かった。オタオークの上位種を倒そう」

 そうして俺とペロロさんは、オタオークの上位種を倒すことを目標にするのだった。

 ◆

 現在俺とペロロさんは、ロリコンと鏡の森ダンジョンの探索を進めている。

 簡易的な地図は周囲の山が接近したことにより、以下の通りになった。

 山山山山山山山
 山ロロロロロ山
 山ロロロロ☆山
 山ロロ塔森森山
 山森森森拠森山
 山森森森森森山
 山山山山山山山

 ☆=現在地
 拠=拠点
 塔=中央の塔
 森=森
 山=山
 ロ=未探索

 オタオークの住処は無くなっており、北上したようである。

 それはオタガッパも同様で、ダンジョンの南側は僅かにオタオークとオタガッパが残っているだけだ。

 俺とペロロさんは翌日のダンジョンの縮小と、安全を考慮して塔から見て南東に仮拠点を構えた。

 ペロロさんの持っていた木のうろの安全地帯は、残り三つあるらしい。

 当然リュックサックは、仮拠点に置いてきている。

 それはそうと、北側はリンゴなどの果物が生っていた。

 試しに食べてみたが、甘酸っぱくて美味しい。

 もしかしたら、南より北の方が安全地帯だった可能性がある。

 しかしそれも、オタオークやオタガッパが北上したことで、状況が変化してしまった。

「がっぱ!」
「ろりっ!」
「すもうっぱ!」

 果物はオタガッパが食い荒らし、とてもじゃないが悠長に採取することができない。

 俺は初期装備の木剣を振るい、オタガッパを撃破する。

「ぐげぇ!?」

 案外木剣は丈夫であり、オタガッパ程度なら倒すこともできた。

「ふぅ。もうオタガッパじゃ相手にならないね」
「ペロロさん程じゃないけど、俺もそう思うよ」

 俺がオタガッパを倒している間に、ペロロさんは易々と複数のオタガッパを倒している。

 おそらくこれなら、オタオークも相手ではないだろう。

 ただ上位種に指揮されたオタオークの群れを倒すのは、流石に難しいと思われた。

 なのでどうにか隙をついて、上位種を先に倒す必要がある。

「がっぱ!」
「ががっぱ!」
「すもうっぱ!」
「ぶひぃ!!」

 すると北東に迷い込んできていたオタオークを、複数のオタガッパが囲んでなぶっていた。

 だが不思議と、オタガッパがオタオークを犯すことはない。

 プレイヤーは男でも関係なく襲っていたが、オタオークは例外のようだ。

 おそらく、その逆も同様だろう。

「オタオークと敵対しているオタガッパは、今後積極的には倒さない方がいいかもな」
「そうだね。僕たちの目的はオタオークの上位種だし、争ってもらった方が特になるからね」

 先ほど襲ってきたオタガッパたちを倒してしまったが、これからは自制することにした。

 けれども北東を探索していることには変わりないので、危ないようであれはその限りではない。

 そうしてオタガッパを避けつつ、北東の探索を終えた。

 山山山山山山山
 山ロロ☆果河山
 山ロロ森森果山
 山ロロ塔森森山
 山森森森拠森山
 山森森森森森山
 山山山山山山山

 ☆=現在地
 拠=拠点
 塔=中央の塔
 森=森
 果=果物
 河=オタガッパの群れ
 山=山
 ロ=未探索

 どうやら、オタガッパの群れは北東に集まっているようだ。

 それを考えると、オタオークの上位種は北西にいる可能性が高い。

 また北側は果物の木が結構あり、採取に来ていたプレイヤーを何人か見かけた。

 だが、接触自体はしていない。

 最悪の状況であれば助けたが、幸いそれを見かける事はなかった。

 もしかしたら群れに持ち帰られたのかもしれないが、現状確認しに行く余裕はない。

 俺たちは正義の味方ではないし、助けられる範囲にいれば助けるくらいでいいだろう。

「ここからは、慎重に探索しよう」
「了解。索敵はクルコン君の方が得意だし、任せたよ」
「ああ」

 あの時オタオークの上位種は、周囲の鏡を通して俺を発見した。
 
 範囲はどれくらいか分からないが、見つかった場合即座に撤退しなければ手遅れになる。

 いや、見つかった時点でアウトだろう。

 なので群れがどこにいるのか、確実に把握しておく必要がある。

 予測では、ダンジョンの北西の端にいると思われた。

 実際そちらの方角に、オタオークの数が多い。

 そして俺とペロロさんはゆっくりと南下していき、また北上していく。

 なお道中のオタオークは、見つけ次第仕留めている。

 やはりオタオークでも、ペロロさんの相手ではなかった。

「オタオークの上位種は、予想通りの場所に居そうだね」
「それにどうやら、簡易的だが住処を作っているみたいだな」

 頬に入れていた小さなバッグから取り出した双眼鏡で、俺は見た光景を報告する。

 オタオークの群れは元の住処から持ってきた物や、周囲の木々で不格好な柵や家を立てているようだった。

「どうだい? 上位種はいるかな?」

 そう俺の耳に囁くペロロさんの声が。少しこそばゆい。

 ちなみにペロロさんは俺の背中に引っ付いており、現在いるのは木の上である。

 俺はオタオークの群れの中を探し続け、とうとう目的の上位種を見つけた。

 ちょうど奥にある、出来立てのボロ小屋から出てきたところだ。

 なぜか妙に、顔がスッキリしているように見えた。

 これは、嫌な予感がする。

「いた。奥のボロ小屋にいたらしい。たぶん、捕まったプレイヤーがいるのかもしれない」
「本当かい? けど、目的を忘れてはいけないよ? 余裕があれば、介錯をしてあげればいいよ」
「そうだな……」

 俺は複雑な想いを抱えながら、上位種の動きを追う。

 すると先ほどのボロ小屋よりも、少しマシな小屋へと入っていった。

 おそらく、あれが上位種専用の小屋に違いない。

「上位種の寝床を見つけた。けど、わざわざプレイヤーを自分の寝床に入れないのは不思議だな。一番偉い個体が、獲物を一人くらい独占しそうなものだが」
「もしかしたら、子分に分け与えた獲物を味見したか、寝床に入れない理由があるのかもね」

 それを聞いて、俺は思い出す。

 鏡に映った上位種は、何かキーボードのような物を操作していた。

 何かの間違いで、捕まえたプレイヤーに破壊されることを恐れているのかもしれない。
 
 そのことをペロロさんに説明すると、俺の考えに納得したようだ。

「そのキーボードのような物が鍵だね。先に破壊すれば、仲間を呼ばないかもしれないよ」
「なら、それの破壊も作戦に組み込んだ方がよさそうだな」
「そうだね」

 そしてオタオーク住処を見つけて、上位種の居場所も確認した俺たちは、一度仮拠点に戻ることにした。

 次に出るときは、作戦を実行する時である。

 どのような結果になるとしても、やるしかない。

 迫りくる戦いを前にして、俺は高ぶる気持ちを落ち着かせるのだった。

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