よく考えなくても、これは狂っていると思う。
友人とはいえ、異性に自分の尻を曝け出すのはおかしい。
だがそう思っていたとしても、ペロロさんは止まる様子はなかった。
今俺は上半身を地面に伏せて、ひざを折り尻だけ突き出したポーズをしている。
本当に、やるのだろうか?
俺は不安と、なぜか情けなさが込み上げてくる。
「クルコン君、勘弁したまえ! これは治療行為みたいなものだよ。そう思うんだ」
「ぐっ……」
戦力を上げるためには、仕方がない。
ペロロさんの言った通り、治療行為だと思って諦めるしかない。
「僕だって、実は恥ずかしいんだ。考えてほしいんだけど、年の近い異性のズボンとパンツを降ろすんだよ? ね? 恥ずかしいでしょ?」
そのように俺を諭そうとするが、ペロロさんの言葉の端々からは嬉々とした感情が伝わってくる。
本当は、楽しんでいるのではないだろうか?
そう考えてしまう。
くそっ、だとしてもここまできて、ウジウジしていられない。覚悟を決めるしかないか。
俺は軽く深呼吸をすると、覚悟を決めてペロロさんに声をかける。
「わかったから、もう一思いにやってくれ」
「そ、そうかい? じゃ、じゃあ、降ろすからね? ごクリ」
そしてペロロさんは、俺のズボンとパンツを途中まで降ろした。
何だろう、凄く恥ずかしい。頭がおかしくなりそうだ。
「こ、これがクルコン君の……い、入れるよ……」
「ああ……」
ペロロさんは俺に一声かけると、まずぬるぬるすっきりポーションを注入していく。
生暖かい何かが、俺の中に広がった。
まさに、最悪の気分だ。
続いて、とうとう本命の仙人河童の尻子玉を入れにかかる。
ゴルフボールより一回り大きい球体が、押し込まれていく。
「ぐっ……」
「クルコン君、頑張って! あともう少しだよ! ほら、ひっひっふー、ひっひっふー」
「そ、それは出産時の呼吸法だろ……」
「あれ? そうだっけ?」
そんなくだらないやり取りをしている間に、仙人河童の尻子玉は全部入ってしまった。
ローションが無ければ、ヤバかったかもしれない。
いや、現状もかなりヤバイ。
し、尻が熱い。
「ぐぉ!?」
「クルコン君!」
すると尻の中の球体が溶けて、体に中に浸透していく。
そして仙人河童の尻子玉が完全に吸収されると、体中に妙な感覚が出来ていた。
「だ、大丈夫だ。それより、もういいだろ」
「あっ、うん……」
俺は苦行が終わると同時に、パンツとズボンを履き直す。
終わってから思うことだが、ローションがあれば自分一人でも入れられたのではないだろうか?
いや、この話はもうよそう。もう終わったことだ。
考えるだけで虚しくなる。
そうして俺は力を得る代償として、人として何かを失ったのだった。
◆
「ごめんねクルコン君、お尻の処女だけではなく、開発までしちゃって……」
「あぁ……」
「大丈夫だよ。きっと、元に戻るはずだよ!」
「うん……」
あんな大きな球体を無理やり入れたんだ。仕方がないだろう。
今も尻の違和感が半端ないが、ぬるぬるすっきりポーションの効果で幸いにも切れてはいない。
元に戻ることを、俺は信じている。
それよりも、あれだけの代償を払ったんだ。さっそく手に入れた力を試させてもらおう。
俺は気持ちを切り替えて、体の中に増えた妙な感覚を意識する。
手に入れた能力は、水の生成と水の操作。
両手を前に出し、その中央に水の球体を生成してみる。
すると、コップ一杯分くらいの水がどこからともなく現れた。
そしてそれを目の前で見ていたペロロさんは、興奮したように声を上げる。
「す、すごいよクルコン君! これで君も水属性の魔法使い――あ」
しかし、一瞬集中が欠けた途端、水はパシャリと弾けて地面に落ちてしまった。
「ま、まぁ。最初はこんなものか……」
これでは、とても攻撃手段とは呼べない。
「だ、大丈夫だよ。練習すれば、きっとあの仙人河童みたいにできるよ!」
「そ、そうだな。諦めたらそこで試合終了だよな!」
「うん! そうだよ! 頑張れクルコン君!」
「ああ!」
俺は諦めない。あんな苦行に耐えたんだ。それがこの程度のはずがない!
それからしばらく、俺は水を生成し続けた。
だが結果として俺の水生成、水魔法はコップの水をぶつけるくらいの威力である。
更に連続使用したら頭が痛くなり、吐き気までやってきた。
これはいわゆる、MP切れというやつだろう。
そうだよな、あの仙人河童は名前に”仙人”って付くほどだから、それだけ長い間鍛えたはずだ。
手にしたばかりで成果を出せるほど、甘くはないか。
今は攻撃手段というより、どこでも水を用意できるという事を喜んだ方がいいな。
ちなみに試しに少し飲んでみたが、特に体に異変はないので飲んでも大丈夫そうだ。
「クルコン君、これ落ちていたから拾ってきたよ」
「ああ。ありがとう」
すると俺が一人練習している間に、ペロロさんが落としていた激臭の水鉄砲を拾ってきてくれた。
見た感じ破損は無く、問題なく使用できそうだ。
あの仙人河童は、おれのピンパチを奪っていた。
そのことを考えると、この激臭の水鉄砲も手に入れるつもりだったのだろう。
本来プレイヤーが死亡すれば装備品なども消えるが、もしかしたら残ったのかもしれない。
逆に俺が死亡してピンパチが消えたとき、あの仙人河童は間の抜けた表情を浮かべたのだろうか。
まあ、過ぎたことは気にしても仕方がない。
それよりも激臭の水鉄砲の水鉄砲まで失っていたら、かなりきつかったな。
戻ってきて良かった。
そう思いながらペロロさんから激臭の水鉄砲を受け取ると、ふとあることを閃く。
おもむろに、少し離れた地面に激臭の水鉄砲を撃つ。
「くさっ! な、何で今撃ったの!?」
「ごめん。少し試したいことがあるから、見ててくれ」
突然の行動にペロロさんは非難の声を上げるが、俺は一言謝ってから行動に移す。
右手を激臭の水たまりに向けると、集まるように念じる。
すると水は地面から浮かび上がり、ゆっくりと球体になっていく。
そして前方に飛ばすことを意識すると、水は壁に向けて飛んで行った。
「よしっ!」
俺はその出来栄えに満足して、喜びの声を出す。
激臭の水鉄砲は一度外すとどうしようもなかったが、これなら再利用可能だし、不意を突くことができる。
それにこの水が顔面にかかれば、大抵の相手は無力化することが出来るからな。
激臭の水鉄砲の弾数を気にする必要はあるが、十分凶悪なコンボと言える。
「流石クルコン君! さすクルだね!」
「その褒め方はやめてくれ……」
「ふふっ、冗談だよ。それにしてもこのコンボは酷いね。避けたと思って安心したところに受ければ、たまったものではないと思うよ」
ペロロさんは少しふざけながらも、このコンボの凶悪性には気が付いたようだ。
イベントはまだ続くし、このコンボが活躍する時がいずれ来るだろう。
俺は激臭の水鉄砲を頬にしまうと、続いて小さなバックからペットボトルを取り出す。
若干もったいないが、中身を捨てる。
水生成で飲水は用意できるし、問題ないだろう。
そして壁にぶつけた激臭のする水を、水操作で集めてなんとかペットボトルに入れる。
これは実験だ。
本来激臭の水鉄砲から発射された水は、時間の経過で消えてなくなる。
可能性としては低いが、こうして再利用することができれば弾数を節約できるはずだ。
俺はペットボトルのふたを閉めると、小さなバックに入れてから頬へと戻す。
しばらく時間が経ったら、消えていないか確認してみよう。
さて、ボス戦も終わったことだし、あとは脱出するだけだが……。
「転移の魔法陣、現れないな……」
「うん、どうしよっか……」
本来ボスを倒した時、出口が無ければ脱出用の転移魔法陣が現れる。
しかし、仙人河童を倒したのにもかかわらず、それが現れる気配がなかった。
これは、マジで困ったな。
俺とペロロさんはこの洞窟から脱出するための方法を、改めて考えることになった。
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