001 男色ゴブリンのぬるぬるダンジョン

 ダンジョン。それは未知なる世界。

 どのような地形か、何が出てくるのか、手に入る物もほぼ全てがランダム。

 運が良ければ難易度が低く、お宝が豪華なる。

 だが逆に運が悪ければ、難易度が高く、お宝が貧相になってしまう。

 では運が狂っていれば、いったいどうなる?

「来い! お宝はショボくてもいい! どうかまともなダンジョンを頼む!」

 俺の名前は狂咲混くるいざきこん。どこにでもいる普通の高校二年生……だった。

 今俺が対峙しているのは、場違いにも神殿にある巨大なガチャガチャ。

 大きさは吹き抜けになっている神殿の天井に、もう少しで届きそうなほどだ。
 
 しかしその巨大な見た目に反して、回すレバーと排出口は通常サイズと変わらない。

 そんなガチャガチャを、俺は祈る思いで回している。

「頼む、頼むぞ!」

 周囲に人がいないこともあり、俺は声を上げた。

 そして毎回お馴染みのガチャガチャという音を鳴らし、真っ白なカプセルが排出される。

 俺は緊張から唾を飲み込むと、カプセルを手に取った。

「まともなダンジョン、来い!」

 この時ばかりは、何回やっても慣れることは無い。

 カプセルをひねり、開封する。

『おめでとう!【男色ゴブリンのぬるぬるダンジョン】の鍵を手に入れた!』
 
「男色……ゴブリン……? ぬるぬる……?」

 謎のアナウンスと共に、銅の鍵が現れた。

 ちなみに、カプセルは開封時に消えてなくなっている。

「は、はは……ま、またか……またなのか……コンチキショウ!!!」

 俺は自分の狂った運を呪いながら、鍵を床に叩きつけるのであった。

 そもそも何故なぜ、俺がダンジョンに潜る羽目になっているのか知りたいか?

 何を隠そう、現代にダンジョンが出現して冒険者ブーム! ……なら良かったんだが、現実は違う。

 『やあ、私は神だよ。地球は人が増えすぎてヤバいから、間引くことにした。まあ処分はもったいないから、仕分けしてそれぞれ有効活用させてもらうよ』

 ある日どこからともなく、おっさんの声でこのような台詞が聞こえてきた。

 するとどういうことだろうか、俺は高校で授業を受けていたのにもかかわらず、気が付けば二畳ほどの白い空間にいた。

 何故か部屋は明るく、壁にはおそらく32インチほどの画面が埋め込まれている。

 リモコンなどは見当たらず、そもそも他に何もない。

 玄関や窓すらなく、当然俺は混乱した。

 ブレザーのポケットに入れていたスマホを取り出しても、当然繋がらず県外。

 助けを呼ぶ手段がなかった。

 なので、唯一存在している画面を確認する他にはない。

 どこかにスイッチがないか探すも、壁に埋め込まれていて隙間が見当たらなかった。

 前面にもボタンらしきものは見当たらない。

 正直この時は、詰んだかと思った。

 けれども画面に指が触れた瞬間、画面が起動する。

 どうやら、タッチパネル式のタブレットのようなものだった。

 そこからは試行錯誤だ。

 様々なアプリのようなものがあり、それで全てが完結するようだった。

 買い物や連絡、動画配信サイトなども完備されている。

 しかしこの三つは、ある意味使用できなかった。

 持っている現金は使えず、連絡相手の登録は無し、動画配信サイトに至っては動画が何もない。

 せめて現状の説明動画くらいあって欲しかったが、無いものは仕方がなかった。

 結局使用できそうなのは、『ダンジョン神殿』というアプリだけである。

 タップすると、まず初めに『ソロ』と『パーティ』を選択できるようだった。

 この状況で一人は心細かった事もあり、おれはパーティを選択する。

 すると次に『特定のメンバー』と『ランダムパーティ』が現れた。

 特定のメンバーを選択しても変化がなかったので、仕方なくランダムパーティを選ぶ。

 そうして俺は気が付けば、あの巨大なガチャガチャのある神殿に移動していたのである。

 周囲には俺を含めて、六人の男女がいた。

 ある意味この瞬間、俺の狂った運が産声を上げたのだろう。

 このとき俺が引くことになったガチャガチャから、ろくでもないダンジョンが出たのだから……。

 ◆
 

 そんな過去を思い出しつつ、俺はガチャガチャに背を向ける。

 正面には巨大な扉と、腰までの高さの台に乗った、水晶があった。

 水晶に近づいて、手に入れたばかりの鍵を差し込む。

 見た目とは裏腹に、水晶は鍵の形へと凹んでいく。

 そして鍵を回すと、正面の巨大な扉がゆっくりと開いた。

 扉の先は虹色に光る膜になっており、ここからでは中を確認することはできない。

「男色ゴブリンのぬるぬるダンジョンか……いやだなぁ……」

 どう考えても、貞操を失う危険があった。

 だが一度手に入れた鍵は使用しなければ、次の鍵を手に入れることができない。

 逃げることはできないのだ。

 本来であればフルメンバーで臨むべきだけど、無理だよなぁ……。

 俺はとある事情から、ソロで活動するしかなかった。

 いや、事情も何も、毎回特殊なダンジョンを引き当てるのが原因なんだよな……。

 俺は重い溜息を吐いて、仕方なく扉を潜るのであった。

 ◆ ◆ ◆

 こんが男色ゴブリンのぬるぬるダンジョンに挑む少し前、動画配信サイトMytubeでは盛り上がりを見せていた。 

 タメゾー『お、巨根の放送始まってんじゃん!』

 ルイルイ『クルコン相変わらず引きがおかしくて 草』

 明信『っていうか、そろそろ巨根かクルコンで名前統一しようぜ……』

 友達0人異常『男なら巨根一択だろ!!www』

 はみ出し女子『本人がクルコンって言ってるんだから、クルコンでいいじゃん。そもそも、このチャンネルもクルコンTVだしさ』

 サンダーフォース『いやいや、自由に呼んでいいでしょ。(笑)むしろ今から統一するとか無理だから』

 彼ら彼女らは混と同じく、ある日この謎の世界に転移させられた者たちである。

 部屋の壁に設置されている画面を操作して、混のダンジョンアタックの生放送を視聴していた。

 なおダンジョンに挑むと、自動的に生放送が始まってしまう。

 また嵐のように流れる一般コメント欄ではなく、同好の士が集まる専用の部屋を用意して視聴していた。

 混はとある事情からアンチが多く、一般コメント欄は居心地が悪いのだ。

 そうした理由から彼ら彼女らは、混が引き当てる特殊なダンジョンで起きる突拍子もない出来事を目当てに、こうして同好の士で集まった訳である。

 タメゾー『参加するのはごめんだが、見る分には面白いんだよな』

 鳥頭丑三つ『そうか? 俺は参加したいけどな。だって特殊なアイテムとか装備とか出やすいらしいじゃん』

 爆弾トマト『ビギナーさんかな? ここは良くも悪くもクルコンを知っている者が集まる部屋だが』

 仏の狂戦士『まあまあ、いいじゃないか。こういうクルコンビギナーが部屋に迷い込んで来るのも醍醐味だよ。もちろんアンチは除くけどね』

 ルイルイ『クルコンビギナーさんは、毎回欲に目がくらんでこれ言うよね。(笑)』

 幼精紳士ペロロ『君も実際参加したら分かるよ……僕はしばらくクルコン君とは組めないかな……』

 友達0人異常『というか、過去のアーカイブ見ろよ。あれはヤバイ』

 はみ出し女子『初放送の服だけ溶かすスライムのダンジョンは、ある意味地獄でしたね』

 明信『あれほど嬉しくない服だけ溶かすスライムは、初めて見たよ……』

 サンダーフォース『現実は無慈悲だ……』

 鳥頭丑三つ『え? 何それ! もしかして裸の女の子とか出る感じ!?』

 タメゾー『出る出る。裸の女性が出るよ』

 友達0人異常『熟女の貴重な裸体シーンだったぞ!』

 鳥頭丑三つ『うひょー! マジかよ! ちょっと見て来るわ!』

 サンダーフォース『……また新たな犠牲者が出てしまったな……』

 幼精紳士ペロロ『唯一の救いは、肝心なところが謎の光で見えないことか……』

 明信『彼は犠牲になったのだ……』

 ルイルイ『いやいや、犠牲って誘導したんじゃん! 何も知らないのにかわいそ』

 タメゾー『お、ダンジョンに入ったみたいだぞ! 巨根の貞操がどうなるのか楽しみだな!』

 そうして生放送のコメント欄が更に盛り上がり始めたころ、混はダンジョンへと足を踏み入れるのであった。

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