罠に注目してみると、何やらワイヤーのような物が足元に張られている。
明らかに分かりやすい罠だが、油断はできない。
それ自体がブラフであり、その近くに違う罠がある可能性もあった。
他にも奥を見れば、壁から一定の時間経過で槍が飛び出す罠が見える。
左右で飛び出すタイミングが違うようで、タイミングよく移動しなければあたってしまうだろう。
また霧で分かりづらいが、更にその奥には床から火が吹き出している気がする。
ここにきて、まるでゲームに出てくるダンジョンのようになってきた。
タイミングよく移動できれば、そこまで脅威ではないだろう。
しかしこの麻痺の霧のせいで、難易度がとんでもないことになっている。
実際ブラッドは、麻痺によって動けなくなっていた。
俺だけであれば、この罠を突破するのは可能だろう。
だがブラッドを連れてとなると、それも難しい。
正直、ブラッドをここに置いていきたい気持ちだ。
ブラッドの戦闘をここまで見たが、おそらくホブンより多少強い程度だろう。
であれば、居なくてもどうにかなる。
なるのだが、ブラッドはこれでも転移者だ。
神授スキルを所持している。
その神授スキルが、今のところ分からない。
ツクロダ戦の時使えるのであれば、連れていく価値が生まれるだろう。
なので、ブラッドにそのことを言うしかない。
無理に鑑定してもいいが、無駄な争いの火種を作る必要はないだろう。
そう思い、俺は麻痺で動けないブラッドに問いかける。
「ウルフ、正直君がいてもいなくてもどうにかなりそうだし、置いて行ってもいい?」
「ッ!! ダ、エ」
俺の言葉に動けないながらも、拒否している事が伝わってくる。
まあここに置いていかれること自体、嫌だよな。
「それじゃあ、ウルフの事を鑑定しても良い? 役に立ちそうなら、連れていくからさ。けど鑑定されるのが嫌なら、悪いけど置いていくね? 私はどうしてもツクロダを倒さなきゃいけないから」
「ウッ……ガン、デイ、イイ、ゾ」
「理解してくれてありがとう」
俺自身、自分がかなりクズな発言をしたことは理解しているが、事前にブラッドの能力を把握しておくのは、必要だった。
ブラッドも鑑定を許可してくれたし、さっそく鑑定しよう。
そうして俺は、鑑定を発動させる。
ブラッドが受け入れたからか、抵抗もなくすんなりと通った。
名称:ウルフマン・ブラッドボーン
種族:ウェアウルフ
年齢:27
性別:男
種族特性
【人化】【嗅覚上昇(大)】
【身体能力上昇(中)】【月光強化(大)】
神授スキル
【強制決闘】
エクストラ
【言語理解】【偽装】【鑑定】
【アイテムポケット】【拳適性】
【隠密】【踏ん張り】【物理耐性(中)】
【魔法耐性(中)】
スキル
【強撃】【連撃】【鉄の拳】
【罠感知】【中級罠解除】【中級開錠】
【手加減】【投擲】【毒耐性(小)】
見たところ近距離戦闘型であり、斥候などもできそうな感じだ。
バランスも悪くない。
スキルの効果も名称から、ある程度は予想ができる。
その中で特に気になるのは、やはり神授スキルの強制決闘だろう。
しかしどういう訳か、その効果内容まで鑑定することはできなかった。
エクストラの鑑定では、神授スキルの効果まで鑑定する能力はないのだろう。
いくらか魔力を強めてみたが、結果は同じだった。
これはある程度、自分で予想するしかない。
おそらくこの神授スキルは名称からして、対象の了承なく決闘に持ち込める気がする。
加えて強制ということから、この神授スキルを発動された相手は、逃げることができなくなるかもしれない。
他にも効果はありそうだが、それができるだけでかなり有用だ。
特にツクロダは窮地に陥れば、転移などで逃げる気がする。
元々逃げる前にどうにか決着をつけなければならないと考えていたが、これが上手く決まれば勝機がかなり上昇することは間違いない。
効果を直接訊きたいところだが、それは止めておこう。
ブラッドは現状上手く喋れないし、内容をツクロダに盗み聞きされるかもしれない。
それは避ける必要がある。
これは、想像以上にブラッドの価値が上がったかもしれない。
故にツクロダ戦の時は役に立ちそうなので、このまま連れていくことにした。
「わかった。連れていくよ。あ、効果とかは言わなくて良いからね。ツクロダに聞かれたら事だから」
「お”ぉお”お!」
どうやら、ブラッドも喜んでいるようだ。
そうしてブラッドを連れていくことを決めた訳だが、目の前の罠の問題が無くなった訳ではない。
俺に罠の解除はできないので、やるとすれば物理的に解除するしかない。
しかしそれで、スタート地点に戻されないかという懸念はある。
なのでどうしても難しい場合だけ、それを実行する事に決めた。
またダークネスチェインに魔力を込めれば、ブラッドを持ち上げることは可能だ。
最低限これでどうにかなるだろう。
それと罠ゾーンでアシッドスライムは邪魔になるので、送還に見せかけてカードに戻しておく。
罠を回避する関係上、ここを進む数は少ない方がいい。
そうしてブラッドを持ち上げると、俺は慎重に進み始める。
まずは、ワイヤートラップを跨いで越えた。
おそらく二重の罠はなさそうだし、大丈夫だろう。
よし、思った通り、問題はなさそうだな。
しかし俺がそう思った直後だった。
「えっ!?」
確かに避けたはずなのに、ワイヤーが切れる。
ブラッドは上空に持ち上げているので、関係ない。
他に罠は無いし、理由が分からなかった。
だとすれば、どうして――。
俺は頭を悩ませながらも、後方へと跳躍した。
その直後天井部分が開き、何かが落ちてくる。
よく見れば腹の膨れたネズミのようなモンスターであり、床に落ちると手榴弾のように爆発した。
「くっ!?」
「う”ぉあ”!」
俺とブラッドは、爆風を感じて僅かに声を上げる。
だが幸いにも、爆発前にモンスターの鑑定に成功した。
しかし俺はその結果を見て、唖然としてしまう。
種族:自爆ネズミ
種族特性
【自爆】
エクストラ
【人工モンスター】
人工モンスター……ツクロダは、モンスターまで作れるのか。
その鑑定結果に、俺は嫌な予感がしてならない。
この予感はハズレて欲しいが、今は状況を鑑みて頭の隅に置いておく事にする。
嫌でも、そのうち分かる気がしたからだ。
このダンジョンの奥には、やっかいな存在が待ち受けていそうだな。
俺はそう思いつつ、自爆ネズミとやらをカード化してみる。
どうやら、人工モンスターでもカード化自体はできるようだ。
またカードをポケットの中へと取り出して、そのエクストラを意識すると、効果が脳内に思い浮かぶ。
名称:人工モンスター
効果
・改造により、能力を拡張することができる。
・改造が増えるほど、難易度が上昇する。
・改造に失敗すると、モンスターは自壊する。
・人工モンスターは、元々の個を失う。
なるほど。一見デメリットが多そうだが、ツクロダの技術力次第では、どこまでも強くなれるのだろう。
また人工モンスターは、元々の個を失うらしい。
これは、俺のカード化も近い性質を持っている。
だが効果として明記されている以上、人工モンスターに個が残る可能性は無いに等しいということだ。
カード化してもこの効果は残っているし、人工モンスターを育てても進化はしない気がする。
俺に改造とやらはできないし、人工モンスターを重用することはあまりなさそうだ。
しかし進化させずとも、使えるだけの価値があれば話は別だが。
そういった人工モンスターは、この先に出てくるかもしれない。
さて、人工モンスターについては、この辺でいいだろう。
問題は、なぜワイヤーが勝手に切れたかだ。
あまりにも、切れたタイミングが絶妙すぎる。
これは、何か裏がありそうだな。
例えば、遠隔から罠を発動させるような存在がいるかもしれない。
もしかして、ツクロダが直接操作しているのだろうか?
であれば罠をいくら回避しようとしても、無駄になる。
そう考えると、やはり強引な突破をするしかないだろう。
多少のダメージはこの際、許容するしかないのかもしれない。
俺はこの罠ゾーンの突破方法について、頭を悩ませるのだった。
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