114 ダガルマウンテン ④

 翌日の早朝、外は肌寒い。

 オレンジ色の朝日と、雲海が広がっていた。

「これは、凄いな」

 正に、絶景と呼べるだろう。

 山頂まではもう少しかかるが、ここも既に結構な標高がある。

 山登りなどこれまで興味がなかったが、これが見れるのなら登るのもありかもしれない。

 それとデミゴッドでなければ、気温の変化や過酷な道中に体調を崩していた可能性がある。

 こうした普通は行くことが難しい場所へ気軽に行けるのは、この種族の強みだろう。

 実際寒いとは思っても、それで体調が悪くなることはない。

 ただレフやアサシンクロウには寒すぎるので、もう少し日が昇ってから山頂を目指すことにする。

 そうして俺は洞窟に戻ると、朝の支度や朝食を済ませた。

 ちなみに今更だが、この洞窟は少し臭い。

 生活魔法の清潔により、これでもましになった方である。

 まあ、一晩過ごしたら流石に鼻も麻痺したが。

 それとここはリザードシュトラウスの巣になっていたこともあり、幼体がいた。

 幼体の種族名も変わりなく、リザードシュトラウスのままだ。

 加えて種族特性も同じだが、成体と違ってその能力を十分に発揮できない。

 なのでこれまでは幼体をカード化するメリットは無かったが、生贄としての価値が生まれた。

 幼体を生贄にするというのは、心情的にあまりよろしくないが仕方がない。

 幼体でもそのランクということに違いなく、成体と同じ点数になるのだ。

 これを見逃す訳にはいかない。

 なのでリザードシュトラウスの幼体は、オーバーレボリューションの時の生贄にすることにした。

 それとこの洞窟にはモンスターの残骸や、草木などが集められている。

 リザードシュトラウスの主食は、ロックイヤーウィグのようだ。

 ロックイヤーウィグは、見た目が巨大なハサミムシのモンスターである。

 ロックベアーやロックゴーレムは岩なので、必然的にそうなったのだろう。

 ロックリザードについては、生息する場所と距離があるのでその残骸が少ない。

 こうした残骸については、流石に持っていく気は無かった。

 そうして時間が過ぎていき、俺たちは洞窟を出る。

 次のメンバーは、俺・レフ・アサシンクロウで行く。

 ホブンは復活しているが、少々力不足だ。

 それとホワイトキングダイルであるグインは登山に向いていないので、戦闘時に呼ぶことにする。

 そうして、俺たちは山頂を目指して歩き出した。

 ここまでくると、出てくるモンスターにBランクが増えてくる。

 ロックゴーレムが、複数同時に現れることもあった。

 他にも、リザードシュトラウスの群れにも遭遇する。

 足場がかなり悪かったが、それでも無事に倒していき、俺たちは順調に先へと進んでいく。

 アサシンクロウによる空中からの偵察も、かなり役に立った。

 リジャンシャン樹海ではなく、先にこのダガルマウンテンに来ていたら、かなり面倒なことになっていただろう。

 流石にここまでくると、フォレストバードでは力不足過ぎる。

 リザードシュトラウスは意外と目がよく、ロックゴーレムは視力というよりも魔力を感じ取って襲ってくる。

 なのでフォレストバードなどは、簡単にやられていただろう。

 対してアサシンクロウは隠密のスキルもあるので、見つかることがまずない。

 初めて見た時から使えるとは思っていたが、実際かなり優秀だ。

 こいつをカード化して良かった。

 そしてレフも、活躍している。

 シャドーアーマーはもちろんだが、ダークネスチェインがやはり優秀だ。

 俺もレフと融合していた時は、とても重宝ちょうほうした。
 
 相手の動きを封じれば、倒すのも楽になる。

 またレフは気配感知も所持しており、いち早く敵を見つけてくれた。

 あとは隠密を習得させたことも、役に立っている。

 俺の装備も一応下位互換である姿隠しを使えるので、全員で隠密系スキルを発動させれば道中がかなりスムーズになった。
 
 そんな風に俺たちは山を登り続け、ようやく山頂へと辿り着く。

「ここが山頂か」

 山頂の火口からは、僅かに煙が立ち込めている。

 周囲にモンスターは見られない。

 そう、周囲・・には。

 くぼんだ火口の奥底に、そいつはいた。

 背中に無数の茶色いコブを持つ、赤色のさい

 確か同じモンスターを、オブール王国の王都で見たはず。

 俺を上空から呼び止めた男が、使役していたはずだ。

 まさか、こんなところにいるとは。

 俺はとりあえず、鑑定を飛ばす。

 種族:バーニングライノス
 種族特性
【火地無属性適性】【火地属性耐性(大)】
【炎弾連射】【大噴火】【物理耐性(大)】
【チャージ】【ホーミング】【気配感知】

 それを見た瞬間、俺は咄嗟とっさにレフを抱いてその場から飛び去る。

 すると直後に無数の炎弾が叩きこまれ、俺のいた場所が吹き飛ぶ。

 くっ、気が付かない振りをして、油断を誘ったのか。

 種族特性の気配感知で、俺の存在を把握していたと思われる。

 隠密状態のレフとアサシンクロウはともかく、俺の姿隠しでは見つかってしまう。

 それとあの背中のコブは、炎弾を発射するための器官にもなっているらしい。
 
 おそらくだが、他のモンスターが同じ炎弾を発射しても、威力や速度に差が出る気がする。

 実際グインは水弾連射という似たスキルを持つが、それよりも断然威力や速度が上に見えた。

 直撃すれば、かなり危ない。

 だがそれよりもまずは、体制を整えよう。

 俺がそう思ったのと同時に、空高く無数の炎弾が撃ち上がる。

 一見的外れな攻撃に思えたそれは、まるで生きているかのように俺に向ってきた。

「なにっ!?」

 俺はその場から駆け出すが、炎弾の軌道が修正される。

「にゃ!」

 それに対してレフがシャドーニードルと飛ばすが、簡単に消し飛んでしまった。

 狙われているのは俺のようなので、レフを降ろして剣からウィンドカッターを放つ。

 すると命中した炎弾が爆発して、熱風が周囲に広がる。

「にゃにゃ!」

 続けてレフもダークネスチェインを振り下ろして、炎弾を処理していく。

 そうして全ての炎弾を撃ち落としたところで、次の炎弾が飛来する。

 面倒だな。これがおそらく、ホーミングという種族特性のスキルだろう。

 効果は放った魔法を、狙った相手に向かうようにする感じか。

 想像以上に、やっかいな能力だ。

 俺はそう思いながら、合間に何十羽ものアサシンクロウを召喚する。

「「「ガァ!」」」

 加えて敵の注意を引かせるように、命令を下した。

 すると予想通り、炎弾がアサシンクロウたちに向く。

 俺はその隙に、グインを召喚した。
 
「グオウ!」

 続けてグインに、全力のウォーターブレスを命じる。

「グイン、全力のウォーターブレスだ!」
「グゴオゥ!」

 そして俺の命令を受けたグインが、バーニングライノスへウォーターブレスを放った。

「ブォオ!?」

 火口で固定砲台と化していたバーニングライノスは、それを避けられずまともに受ける。

 だが耐久力が高く、簡単には倒れない。

「にゃにゃ!」

 レフも攻撃の届くシャドーニードルで、応戦する。

 俺も見ているだけではなく、ウィンドカッターを放った。

 しかしそれでも、バーニングライノスは倒れない。

 これでも倒れないのか。種族特性には無いが、魔法耐性もかなり高いみたいだな。

 耐久力も半端ではない。

 正に、重戦車のような相手だ。

 それに立地も、相手の有利になっている。

 本来は高所の方が有利になるが、敵の能力がそれを逆転させていた。

 今はアサシンクロウに気がひかれているが、すぐに俺たちの方が危険だと気が付くだろう。

 むしろこの攻撃で、バーニングライノスも優先するべき敵を理解した可能性が高い。

 であるならば、火口の底は埋まっているようだし、直接乗り込むのも一つの手だろう。

 しかしその手段を実行するのは、もう少し後にした方がいいかもしれない。

 なぜならこの火口に入るのを、相手が待っている気がする。

 未だ発動させていない、大噴火という種族特性が気になって仕方がない。

 それにチャージというスキルで、今も力を溜めている可能性が高かった。

 この火口に入って使われれば、まず逃げ場はないだろう。

 召喚転移を使うとしても、かなりの集中力と操作性を必要とする。

 直接戦いながら発動させるのは、難しかった。

 けれども俺はそこで、あることを思いつく。

 いや、可能なのか? それに俺の考え通りなら……。

 試す価値は、あるかもしれない。

 であるならば、まずは行っても問題ないモンスターを送り込むことからだ。

 俺はそう思い、所持している成体のリザードシュトラウスを全て召喚する。

 そしてバーニングライノスへと、突撃させた。

「「「グギュルルル!」」」
「ブモオゥ!?」

 バーニングライノスもこれには予想外だったのか、驚愕きょうがくの声を上げる。

 加えてリザードシュトラウスの強力な蹴りが、いくつも放たれた。

 もちろんその時は、邪魔にならないように俺たちも攻撃を止めている。

「ブモォオオ!!」

 脚力に特化しているリザードシュトラウスの蹴りをいくつも受ければ、流石に敵もたまったものではない。

 ロックゴーレムさえも容易に砕く蹴りなので、まあ当然だろう。

 だがそれでも油断は、まったくできない。

 俺とレフはその隙にシャドーアーマーを纏い、魔力を溜めていく。

 なおこのとき、レフは元の大きさに戻っている。

 するとバーニングライノスも切り札を出すしかなくなったのか、とうとう大噴火を発動するのだった。

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