055 フュージョン

 フュージョンの仕方は簡単だ。

 光っているレフのカードに、ブラックレオパルドのカードを乗せて念じればいい。

 だが実行するのは、とても緊張する。

 どのような結果になるのかは、未知数だ。

 同じ獣系の四足獣なので、相性は悪くないはずである。

 なので、きっと良い方向へと進化するだろう。

 いくぞ。

 俺は一度息を整えると、フュージョンを行った。

 すると手元にある二枚のカードが輝き、一枚のカードへと変わっていく。

 そして光が止んだ後、新たな一枚のカードが姿を現す。

 種族:グレネスレーヴェ
 種族特性
【闇属性適性】【闇属性耐性(中)】
【威圧】【顎強化(中)】【気配感知】
【シャドーアーマー】【ダークネスチェイン】

 エクストラ
【フュージョンモンスター】

 グレネスレーヴェか。

 カードに描かれているのは、長く黒い毛を生やす猫系のモンスター。

 とりあえず、召喚してみるか。

 俺はさっそく、新たな姿になったレフを召喚した。

「グルゥ!」

 すると現れた姿は、予想以上に大きかった。

 大人二人なら、余裕で背に乗れそうなくらいだ。
 
 客室が広くなければ、大変なことになっていただろう。

 そしてよく見ると、猫というよりもライオンに近い。

 毛長猫ならぬ、毛長ライオンである。

 グローブを取ってその毛に触れてみると、とても触り心地がいい。

 以前とは、比べ物にならないレベルだ。

「みゃーん」

 するとレフは猫のように、甘える声を出してすり寄ってくる。

 どうやら、もっと撫でてほしいらしい。

 グレイウルフの時も撫でられると喜んだが、進化したら自分から撫でられに来た。

 仕方がないので、しばらく撫でながら気になっている部分を確認する。

 まず注目するべきは、種族特性にシャドーアーマーがあることだろう。

 これは偶然なのか、それとも俺が影響したかは不明だ。

 ただシャドーアーマーは強力なスキルなので、これだけでレフはかなり強くなったことになる。

 続いてダークネスチェインは、闇の鎖を出して相手を束縛したりできるようだ。

 これはかなり便利そうなスキルであり、正直俺も欲しい。

 ブラックレオパルドのような素早い敵を束縛できれば、かなり有利に戦えるだろう。

 そして一番気になるエクストラのフュージョンモンスターは、このような効果だった。

 
 名称:フュージョンモンスター
 効果
 ・フュージョン回数に応じて、生命力や魔力、身体能力などが上昇する。
 ・フュージョン回数に応じて、次回のフュージョン時に種族特性をいくつか引き継ぐことが可能になる。
 ・ランクアップが不可能になる。
 ・知力を上昇させ、個を確立する。

 どうやらフュージョン回数を重ねるほど、強くなるらしい。

 ただその代わりに、ランクアップができなくなった。

 強くなるには、次回もフュージョンをするしかない。

 これは元々レフも望んでいたので、問題はないだろう。

 それとイレギュラーモンスターと同じように、知力を上昇させ、個を確立したみたいだ。

 もしかしたら、これによって幻影化ができるかもしれない。

 というより、本来はフュージョンモンスターから幻影化するのが、本来の使い方の可能性がある。

 ホワイトキングダイルとの出会いは、全くの偶然だ。

 対してフュージョンモンスターは、カード召喚術の隠し効果である。

 同じく隠し効果である幻影化と関係していても、何ら不思議はない。

 現状気になるのは、これくらいだろうか。 

 フュージョンしたことにより、レフは望み通り強くなれた。

 これからは、より活躍をしてくれるだろう。

 ただ問題があるとすれば、少し大きすぎることだ。

 ダンジョンの通路は通れそうだが、今のレフには少し狭いだろう。

 確かグリフォンに縮小というスキルがあったし、街で売っているか確認した方がいいかもしれない。

 そうして俺はレフが満足するまで、全身を撫でまわし続けるのだった。

 ちなみにその時気が付いたが、レフはどうやらメスのようである。

 その後カードに戻るのをレフは嫌がったが、見られたら面倒なのでカードに戻した。

 ◆

 翌朝目覚めると、俺は朝食などを終えてから外へと出る。

 執事のセヴァンが言っていた通り、建物は傍から見れば普通の道具屋だった。

 場所はダンジョンの入り口から近く、かなり繁盛している。

 それと建物を出る前にセヴァンから、ダンジョンで使えるポーション類などをタダでもらった。

 また用事が済んだら、この建物に戻ってきてほしいみたいだ。

 おそらく、このまま俺がいなくなる可能性も考慮しているのかもしれない。

 そうして再びダンジョンに入った俺は、モンスターをカード化していく。

 まずは数が中途半端だった、スライムとグリーンキャタピラーを二十枚まで集める。

 ちなみにスモールマウスは既に十枚で十分なので、必要ない。

 続いて階層を下りていき、ホブゴブリンを五十枚まで集めた。

 そして一番時間がかかったのは、やはりソルトタートルである。

 なんとか三十枚までそろえると、これでやることがようやく終わった。

 それから地上に戻ると、あっという間に夕方になる。

 人が多く戻ってくる約束もあり、時間的にレフの強さを確かめられなかったのが少々残念だ。

 ただ代わりに緑斬リョクザンのウィンドソードは、その強さを十分に確認できた。

 遠距離攻撃であるウィンドとウィンドカッターは、かなり使える。

 魔力を込めれば相応に威力も上がるし、これで悩みの一つが無くなった。

 それとこのダンジョンに入る前と後では、俺の戦力は大違いだ。

 正直、ここまで強化できるとは予想外である。

 大会の二次予選がどうなるのか、今から楽しみだ。

 そうしてあの建物に戻ると、セヴァンが満面の笑みで迎えてくれた。

 また明日の午前中に、領主であるハパンナ子爵との面会予定を組んだらしい。

 会うと言ったのは確かなので、俺はそれを受け入れた。

 それから豪華な食事を摂り、一人で使うには大きな風呂に入る。
 
 昨日は断っていたのだが、一日経って問題なさそうだと判断した。

 なんだかんだで、異世界に来て初めて風呂に入った気がする。

 これまでは生活魔法の清潔があったこともあり、必要に感じなかった。

 だが入ってみると、風呂は良いものだ。

 今後機会があれば、こうして風呂に入ることにしよう。

 その後は客室に戻り、時間を持て余す。

 するとカードから、レフが出してくれとせがんでいる気がしたので、出してやる。

「にゃーお!」

 もはや大きな猫になったレフが、俺にじゃれついてきた。

 もふもふして気持ちいいが、風呂上がりのため暑苦しい。

 フュージョンモンスターになり個を確立したことで、レフは甘えん坊になったみたいだ。

 仕方がないので、しばらく構ってやる。

 それにしても、ランクアップとフュージョンか。

 おそらくホブンも、そのうち進化できるだろう。

 だが気になるのは、なぜホブンよりもレフの方が先だったのかということだ。

 カードの入手時期はホブンの方が先だし、モンスターを倒した数もホブンが上である。

 違いがあるとすれば、召喚している時間はレフの方が長いということだろう。

 あとはモンスターとしての格は、ホブンの方がグレイウルフだったレフよりも、上ということだろうか。

 その差が、レフの進化が早かった理由かもしれない。

 つまり弱いほど、進化が早いのだろう。
 
 一つ試しに、何か育ててみるか。

 ザコモンスターのカードは、かなりの種類を持っている。

 できればホブンやレフとは、タイプの違うものがいい。

 よし、飛行対策が欲しかったし、ジャイアントバットにしよう。
 

 種族:ジャイアントバット
 種族特性
【吸血】【超音波】

 それに進化させればなんとなく、吸血鬼とかになりそうな気がする。

 まあ、ただでかいだけの蝙蝠系になる可能性もあるが。

 そこは今後の楽しみとして、期待しておこう。

 あと進化といえば、グリフォンの違和感はこれかもしれない。

 おそらくだが、グリフォンは進化させることが難しいと思われる。

 これは格という事ではなく、何か根本的なものだ。

 そう考えると、他人が大事に育てたというのが影響している可能性が高い。

 カード化すれば絶対服従になるが、以前の飼い主への想いが完全に消えたわけではなないのだろう。

 それが影響して将来性、つまり進化の可能性が無くなったのだと思われる。

 つまり後のことを考えるならば、他人のモンスターを奪うよりも、野生のモンスターを手に入れて育てた方が良いということだ。

 だとするともしかして進化には、信頼や愛情なども関係しているのだろうか?
 
 レフにはそれなりに愛着があったし、普段枕にもしていた。

 それがホブンよりも、レフの進化が早かった理由かもしれない。

 また一つ、この神授スキルへの理解が深まった気がする。

 まだ他にも隠し効果はあるかもしれないし、今後も少しずつ解明していこう。

 俺はそう思いながら、一日を終えるのであった。

 

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