『こういうイレギュラーがいるからこそ、ゲームは面白い! 程よく狂っているのも実に良いよ!』
邪神はどこか嬉しそうに、一人でそう盛り上がり始める。
『ふふふっ、そうだ、君にはこれを授けよう! うん、これ以上ないほどの適任者だ!』
すると、邪神の言葉と共に、脳内にスキルを取得した時と同様に機械的な声が聞こえてきた。
≪称号『スペード・Joker』を取得しました≫
『まさか、毎回最後まで迷うこれを、最初に授けることになるとはね。今回のゲームは実に楽しみだよ。ふふふっ』
そう言って笑みを零す邪神だが、少ししてわざとらしく何かを思い出したかのように、こう口にする。
『ああ、そうそう、君の殺した子だけれど、あと少しで復活できないところだったよ。いやいや、あの能力は危険だね。悪いけれど封印させてもらったよ。あと、そのかわいそうな子だけれど、邪神の慈悲でバットスキルを消して、更には『スペードの3』っていう称号も授けたよ。確か、日本の大富豪という遊びでは、スペードの3はJokerを倒せるそうじゃないか。きっとこれから面白いことになるはずだね』
長ったらしく、邪神は俺にそう言ってくる。あの少女が俺に恨みを持ち、いずれ復讐に燃えることが分かったうえで、俺を倒すための手段を用意したようだった。
これは、非常に面倒だ。俺を殺すことのできる手段を持った存在。それも、恨みまで持たれている。これは、以前いた異世界と同じことが起きるかもしれないな。俺を邪悪な存在と決めて、人間たちが数多く集まり、そして俺を討とうと向かってくる。そんなことが今後起きる予感がしてならない。
『そうだね。きっとそうなるよ。あの少女には君がプレイヤーということと、そしてヴァンパイアということも教えておいたからね。いずれ力をつけて、復讐に来るはずだよ。我がそう|唆≪そそのか≫しておいたからね』
邪神が俺の心を読んで、そんな風に語り掛けてくる。
最悪だ。あの少女が他のプレイヤーに俺のことを言いふらせば、まずいことになってしまう。くそ、あんなことで過去に縛られた俺が愚かだったということか。
『それと、ここは平等に、君にも少女の情報をあげるね。少女の名はヨモギ・ミツバ。獣人で、結界魔法と直感スキルという、なかなか便利なスキルを持っているよ』
……名前以外知っているのだが。
そんなどうでもいい情報を平等に教えてくれたと邪神は言うが、そもそも、この世界は不平等だと、この世界に来た当初に邪神自らが言っていたことだと、そう思い出す。
『君には、この世界をかき乱してほしいんだ。団結して他世界との戦いだけに備えた世界ほど、つまらないものはないからね。争い、疲弊してからの戦争。それこそが、我の見たいものなのだからね。期待しているよ。レト・キサラギ。スペードのJokerさん』
散々言いたいことだけを言うと、邪神は唐突に消え去る。そのことが、感覚的に理解できた。
「はあ、面倒だ……」
思わず、俺は独り言を吐いてしまう。面倒な役割だけを押し付けられて、そのことから逃れることが不可能だと、本能的に理解していたからだ。
俺のあの状態も、邪神が何かしたのではないかとそう思ってしまう。いや、それは考え過ぎか。そうなったからこそ、邪神は俺に気が付いたのだろうし。どちらにしても、俺の愚かさが原因か。
過去に縛られ、少しでもそこに触れられれば、相手がどのような存在でも容赦することができない。殺した上でその魂までも、葬り去ってしまいたくなる。
俺は、自分で思っていたよりも、狂っているのかもしれない。
そのことに気が付いても、最早手遅れだった。
どんな結果が待っているとしても、進むしかない。俺にはそれしかできないのだから。
森の中。一人俺はそう自分に言い聞かせ、その場から歩き始めた。どこに向かうかすら、分からぬままに。
◆
しかし、スペードのJokerか。おそらく、Joker以外にも、1~12まであるのだろう。それに、他の世界がハート、クラブ、ダイヤというこが容易に予想することができる。つまり、世界は合計四つということか。
俺は一人森の中を進みつつ、先ほど邪神に与えられた称号、『スペード・Joker』について、そんなことを考えていた。
とりあえず、いろいろ変化があったはずだし、まずはステータスを確認してみるか。
そう思い、俺はステータスを呼び出した。
___________________
名称 レト・キサラギ
種族 ヴァンパイア
通常スキル
【吸血1】【霧化1】【影魔法3】【再生1】
【浮遊2】【偽装10】【精神耐性5】【魔力操作2】
【魔弾1】【跳躍1】【未設定】【未設定】
【未設定】【未設定】【未設定】【未設定】
【未設定】【未設定】【未設定】【未設定】
特殊スキル
【聖魔法1】【状態異常耐性5】【豪運10】【未設定】
【未設定】【未設定】【未設定】【未設定】
【未設定】【未設定】
称号
【真祖】【スペード・Joker】
___________________
変わったところと言えば、浮遊と魔力操作のスキルのレベルが上昇したことと、魔弾と跳躍のスキルが増えたところか。それ以外だと、称号にスペード・Jokerがあることだが……。
そう思いつつも、俺はまず魔弾と跳躍のスキル効果を確認する。
名称:魔弾
効果:魔力を圧縮して発射することができる。
名称:跳躍
効果:跳躍時に補正がかかる。
やはり、通常スキルの効果はシンプルだな。さて、問題はこの称号か。
そして、俺は一番気になっていた称号、スペード・Jokerの効果を続けて表示させた。
名称:スペード・Joker
効果:スペードの世界における代表者の証。毎月一対一の防衛戦を行い、敗北した場合には、この称号は勝者へと移動する。Jokerはあらゆる状況で補正がかかり、優位に立つことができる。一時的に他の数字に変化することができ、その能力をコピーすることができる。変化は一戦で一度まで。
これは……想像以上に強力だな。
俺はスペードJokerの効果を確認して、そんなことを思ってしまう。
あらゆる状況で補正がかかり、優位に立つことができる。この補正がどれほどのものかは分からないが、相当な物だろう。そして、他の数字に変化して、その能力を使用することができる。これが最も凄い効果だろう。数字はおそらく1~12まである。どのような効果かは分からないが、その場の状況で使い分けることができれば、弱点などないようなものだ。
しかしそのとき、弱点ということでスペードの3を所持している少女、ヨモギ・ミツバのことを思い出す。
問題は、スペードの3がどれほどのものかということだよな。そこのところには注意しなければならない。
俺はスペードの3を警戒しつつも、今はそのことを頭の隅に追いやる。
あとは、月に一度の防衛戦か。これがどのような条件で相手が決まるのかは分からないが、負けるわけにはいかない。スペードの3という問題はあるものの、ここまで有用なものは他にないだろうからな。その時までに、ある程度鍛えておく必要がある。それに俺が今後狙われる理由は増えていくだろうからな。
そうして、スペード・Jokerについて理解を深めた俺は、周囲も暗くなってきたということもあり、そろそろ睡眠をとることにした。
はあ、にしても暗い。ヴァンパイアが闇を見通せないとは、惨めなものだ。
そのことにため息を吐きながらも、暗い森の中をぼんやりと見つめていた……その時――
≪一定の経験値により、通常スキル『暗視』を取得しました≫
という、なんともご都合主義が起こった。
本当に、こんなことでスキルが手に入ってしまうのだな。これでは、あっという間にスキル枠を使いきってしまいそうだ。
そう思いつつ、俺は影魔法で近くの木の陰に潜むと、いつものように気配を消し、周囲に気を配りながら眠りについた。
≪一定の経験値により、通常スキル『気配遮断』を取得しました≫
≪一定の経験値により、通常スキル『気配感知』を取得しました≫
……もう俺は突っ込まんぞ。
簡単に手に入りすぎるスキルに対し、俺は若干呆れつつも、その日は眠りについた。
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