017

 出てくる敵はウルフやゴブリンといった弱いモンスターばかりだ。所見ではホーンラビットという角の生えたウサギがいたが、強さに関して言えばウルフよりも弱く、ドロップアイテムはホーンラビットの肉というものだ。

 そういえば、ドロップアイテムは本当にストレージに自動収集されるな。モンスターキラーの効果でしっかり二つ手に入っているし、このシステムは助かる。

 スペード神もたまにはいいことをするな。いや、これも何か狙いがあるのか?

 もはやスペード神に対して疑心暗鬼な俺は、この収納システムも何か裏があるのではないかと思ってしまう。

 まあ、今はそれよりも、先に進んで点数を稼ぐことに集中しよう。

「誰か助けてくれええええええ!!」
「ん?」

 助けを呼ぶような声をする方に視線を移すと、初心者装備の男がイノシシに追われていた。体長2mほどで、名称はボアとなっている。

「だ、だれかあああっ! ぐべらッ!」
「あ、はねられた」

 残念ながら男はボアによってはね飛ばされ、勢いよく地を転がると光と共に消え去った。

 元々助ける気はなかったが、俺が急いだところで間に合うか微妙だったし、仕方がない。だが、せめて仇はとってやろう。あのモンスターは倒したことがない。

「ピギューィッ!?」

 そして迫る俺に気が付き突進してきたボアは、俺の槌によってあっけなく倒された。

 ドロップ品は、ボアの肉か。ん? レアドロップもしているな、運が良い。レアドロップはボアの牙か。

 その結果に満足すると、俺は先へと進んだ。その後は特に何事もなく敵を狩り続けた。

 まずいな。このままだと点数を稼げないまま時間切れになってしまうかもしれない。そもそも、制限時間はあとどれくらいあるんだ?

 そんなことを考えると、目の前にそれが現れる。

 残り16:36:26

 どうやらあと十六時間以上あるようだった。それに続き、ならばと点数を思い浮かべると、思った通り現れた。

 パーティ点数:42点
 個人点数:42点

 これはおそらく俺の倒した数と同じだ。つまり、一匹一点。

 残り時間からして、寝ていた五時間を抜くと、俺はこの森で二時間以上狩りをしているのにもかかわらず、四十二匹しか倒せていないことになる。

 なるべく目に入れば倒しているのだが、思ったより出現率が低い。

 他の異人が狩ったからか? それとも意図的なのか……どちらにしても、このままではまずいのは確かだ。

 そう判断した俺は、その場から駆け出す。敵を見つければすぐさま倒し、見つからなければ見つかるまで走り続けた。

 スキル補正によって、通常よりも楽に走れていることが幸いし、ペースを維持することができている。

 ん? あれは……。

 しばらくして、見覚えのある扉が見えてきた。それは明らかにこの森に来た時に開いた酒場の扉だ。

 なるべく同じ方向を走っていたつもりだが、もしかして戻って来たのか? いや、でも若干周囲の景色が違う気がしないでもない。

 俺は扉がある程度の数森の中にあるものだと思うことにした。でなければ、スタート地点に戻ってきたという最悪の結果になってしまう。

 とりあえず、休憩したほうがいいな。そういえば試練になってから何も食べていない。急ぐ必要はあるが、無理をし続けるわけにはいかないしな。

 そう判断した俺は、また面倒なことにならないようメイン装備を収納し、茶色いローブを羽織ると、酒場の扉を開けた。

『852号店』

 酒場の作りは全く同じだが、看板には前と違う番号が書かれている。

 とりあえず食事を摂って、その後順位とやらを確認してみよう。

 俺は酒場内にある食堂で食事を摂る。値段は普通の店の三倍ほど高い。

 まあ、安全な場所でそれなりのものが食えるなら安いくらいか。

 そう思って食事を続けようとすると、ふと視線を感じた。いや、視線自体は多いが、この視線は俺から少しずれている。そう、俺の食べている食事に向けられていた。

 なんだ?

 その視線の方に視線を移すと、隣のテーブルで突っ伏している十代中頃の少女がいた。ぼさぼさの黒髪が肩まで伸び、両目は前髪で見えない。俺は少々不気味に思いつつも、食事を再開した。

 初心者装備だし、おそらくこの三日間で稼げず所持金が底をついたのだろう。いちいち気にしていたらきりがない。

「目、合いましたよね?」
「ん?」

 すると、気が付けば先ほどの少女が目の前の椅子に座っていた。

 なんだ? 因縁つけに来たのか?

「ご飯恵んでください」
「……やる」
「ありがとうございます!」

 俺がそう言って席を立つと、少女は一心不乱になって俺の食いかけの食事を食べ始めた。

 断っても面倒そうだし、話が長引くのも面倒だ。なら最初からやって距離をとろう。

 俺は基本面倒ごとがすぐに決着がつくようであれば、自分が一歩引いて終わらせるほうがいいと思っている。

 そういうプライドは残念ながら持ち合わせてはいないのだ。

 そうして、酒場に何故か受付のようなとこがあるので、おそらくそこで聞けるだろうと、俺は列に並ぶ。

 幸いローブで顔が隠れているのに加え、周りが初心者装備だらけということもあって誰も絡んではこなかった。

「順位を聞きたいのだが」

 俺の前に並んでいた奴がそう言っていたのでそれを真似る。

「お客様の順位はこのようになっております」

 不思議なことに、受付嬢は本人確認することもなく、俺の順位を目の前に表示した。

 試練だしそういうものなのだろう。因みに、順位表は本人以外には見えない。俺の前にいた奴が更に前の奴のを覗いて見えないのかと愚痴っていた。さて、それで俺の順位は……。

 パーティ名『A』
 点数:72
 順位:圏外

 個人名『エルル・ショタール』
 点数:72
 順位:325位

 個人名……これ他の奴も見れるんじゃないか? ということは既に手遅れなのでは? いや、そもそも個人点数がある時点でそんな気はしていた。しかし、至高の枕を手に入れるためには点数が必要で、点数を稼げば必然的に順位が上がる……おのれスペース神。やりやがったな。

 俺は腸が煮えくりそうになったが、なんとか耐えて受付を離れた。どちらにしても、最早進むしか道はない。

 そうだ。俺がエルル・ショタールだと気付かれなければいい。なんだ何も問題ないじゃないか。至高の枕は俺のものだ。

 そう考えることにした。それしか道はない。

 それにしても、思ったより順位が低かったな。パーティ順位に至っては圏外だし。一定以上の順位以外はそうなのかもしれない。

 あとは、倒されたモンスターが補充されない可能性もあるな。他にも、一点以上のモンスターがいる可能性もある。これは思っていたよりも五時間の遅れはまずいかもしれない。

 残り時間を見たとき、先に睡眠をとっただけで大丈夫だと安心したが、モンスターが早い者勝ちだとすれば、その考えを直す必要がある。

 逆に点数が多く数が少ないモンスターなどがいた場合、それは大問題であり一刻を争う。

 思ったよりもまずい状況だな。先を急ごう。

 俺はそう思い酒場を出るために扉に向かう。

「待って! ご飯の人!」
「いや、待たない」
「ひどいッ! そこは仲間にするとこ……」

 先ほどの物乞い少女の言葉が終わる前に、俺は酒場を出た。

 至高の枕のために、物乞い少女などにかまっている暇などない。


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