015

 街道を進んでいると、新しいエリアに入ったのか、マッドゴーレムが複数体出るようになった。しかし、今のところ狩る理由がないので、無視して先に進む。

 鈍足のマッドゴーレムは俺に追いつけない。それと、どうやらこのエリアには新しいモンスターがいなかった。それが少し残念ではあるところだ。

 ん? あれは……町か?

 すると、街道の途中で町を発見した。山に囲まれるように作られたそれは、鉱山の町かもしれない。

 俺は武器をしまうと、早速門に近づいた。因みに防具は変えていない。異人は俺以外にいないだろうし、それに初心者装備だと逆に怪しまれる。

「と、止まれ! お前異人だな!」
「は、はいそうですが」

 俺を一目見ると、衛兵が慌てて止まるように槍を向けてきた。

「この町はどの陣営にも属してはいない! 故に異人であるお前を通すわけにはいかない!」

 どうやら、見つけたらすぐ拠点が陣営に加わるわけではないようだ。しかし、ここまで来て始まりの町まで引き返すわけにもいかない。

「どうすればスペードの陣営にこの町は入ってくれますか?」
「お、俺が知るわけないだろう! とにかく異人を通すなと言われている! どうしてというのならばそこで待て!」
「わかりました」

 上に話は一応通してくれるようで安心した。衛兵が他の者に話をしてどこかに向かわせている。他にどうすることもできないので、このまま待っていよう。

 そうしてしばらく待っていると、戻ってきた者が俺を見張っている衛兵に耳打ちをした。

「待たせたな。町の代表が会うそうだ。ついてきてくれ。だが、くれぐれも何かしようとは思うなよ」
「わかりました」

 やけに高圧的だが、まあ、少なくとも陣営に入れと勧誘してくる異人は、警戒して当然か。

 そんなことを思いつつ、俺は町にある立派な建物の一つに通された。その建物は石材でできている。

「ここだ」

 衛兵がドアを開けると、そこには人族の老人がいた。

「異人の方、初めまして、私はこの町で代表をしておりますバロリックと申します。まずはどうぞおかけください」
「ご丁寧にどうも。失礼します。私は異人のエルル・ショタールです」

 流石にこの場面で偽名を名乗るわけにはいかないよな。

 「さて、早速ですが、この町を陣営に加えたいそうですな。もちろん、神の法に従って、一方的に断ることは致しません。しかし、同じく神の法により、何の試練もなく渡すことも出来ぬのです」

 まあ、そうだろうな。簡単に手に入るはずがない。

「わかりました。では、その試練というものはどうすれば受けられるのでしょうか?」
「それは簡単です。町の代表者たる私がショタール殿に試練を受けるかどうかお聞きして、それを了承すれば、後は神が試練を与えてくださるはずです。乗り越えれば、この町はそちらの神の陣営につきます。乗り越えられなければ、他の陣営の方が一度試練を行うまで、再度受けることはできません。さて、では質問させていただきます。試練を受けますかな?」

 代表の老人、バロリックは真剣な眼差しで、俺にそう問いかけてきた。それに対して、俺は一瞬思考する。

 失敗した場合は、拠点を他の陣営に取られると思ったほうがいい。ただ他の陣営に一度というのは、再度チャンスが回ってくる来る可能性があるということでもある。

 他の陣営が一周するまでとかならば、チャンスもほぼなくなるだろう。そして受けるかどうかは、当然決まっている。

「わかりました。その試練、受けさせてください」

 その瞬間、周囲は灰色となり、時が止まった。それに伴い、俺の体も動かすことができず、思考だけが正常に動いている。

 すると、こんな現象を引き起こした張本人の声、少年と老人が混ざったような声が聞こえてきた。

『素晴らしい。素晴らしいね。皆聞いてくれたまえ。わがスペードの陣営が、他の陣営よりも先に拠点を得る試練を受けられた。そして、最初の試練は、陣営全ての異人が参加するものと決まっている。そこで我が陣営、スペードの強者が幾人か表に出るだろう』

 なんだよそれ。それだと俺の力が露見するじゃないか。面倒どころではないぞ!

 俺がスペード神の言葉に抗議の念を上げるが、スペード神に届かなかったのか、それとも届いているがわざと聞こえないふりをしているのか、そのまま話を続ける。

『そして、これから君たちは試練を受けるわけだけど、基本的にこの三つのルールがある。一つ、試練の場所はこの世界と切り離されていて、今いる場所に戻れば一秒も経過されない状態で戻される。二つ、試練で死ねばペナルティ付きで試練後に復活できる。三つ、試練で手に入れたものは失敗すれば失われ、乗り越えた場合も稼いだ点数分しか持ち出せない』

 死んでもペナルティ付きとはいえ生き返れるのか、案外優しいな。いや、それで死んだらゲームの効率やバランスが悪くなるとかだろう。

 異人なんてすぐいなくなってしまいそうだし、陣営の奪い合いまでいかないかもしれないしな。

『ああ、そうそう。今まさに死ぬ瞬間の異人が複数いるね。もし試練を乗り越えて、なおかつ生きていたら、特別に助けてあげるよ。もちろん、助けるだけの点数・・を稼いでいたらだけどね。せいぜい頑張ってくれたまえ。それと、当然だけどこの試練を用意した人は優遇されるからね。他の人はその人に感謝することだよ。さてさて、見つけられるかな?』

 おい、なぜ複数形で言わないんだ! くそ、完全に面白がってやがる。やはりスペード神は性格が悪いらしい。

『最後に、新しいシステムを導入したよ。これからドロップアイテムはストレージに自動収集されるからね。いちいち拾うの面倒でしょ? それに、ドロップアイテムの奪い合いにもならないし、いいことずくめだね? 我って性格良いでしょ?』

 俺の声ばっちり聞こえてるじゃないか。それに、モンスターキラーの称号で困っていただけに、ありがたいのには変わりない。複雑な気持ちだ。

『ふふふ、じゃあそろそろ試練を始めようか。頑張って試練を乗り越えて、我が陣営の拠点を増やしてくれたまえ!』

 そして、俺の意識は一瞬途絶えた。


目次に戻る▶▶

ブックマーク
0

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA