014

 ボスエリアに入ると、景色は一変した。周囲は高い岩肌に囲まれており、脱出不能。おそらくよじ登って出ようとしたとしても、無駄だという雰囲気を俺は感じ取る。

 そして、エリアの中央には、ボスモンスターがこちらを見下ろしているように感じた。

 ……ストーンゴーレム。やはり地属性か。それに、ボスモンスター仕様なのか巨大だ。

 そう、エリア中央にいるストーンゴーレムは、少なくとも7m以上の高さがあるように思えた。マッドゴーレムが3mほどだと考えると、二倍以上の大きさであり、泥から石になったことで強度も段違いに思える。

 そういえばあの崖を上った先に、マッドゴーレムに交じってストーンゴーレムもいたような気がするな。その時の大きさはマッドゴーレムと大差なかった。だとすれば、ボスモンスターはノーマルモンスターを強化した存在なのだろう。

 考えながらも、俺はストーンゴーレムの出方を伺いつつ、警戒を怠らない。

 きたッ!

 すると、ストーンゴーレムは巨大な岩を掌に生み出したかと思えば、それを俺めがけて投擲する。

 マッドゴーレムと違って遠距離攻撃を持っているわけか。それに投げつけるときの腕の振るう速度、下手をすれば回避できないかもしれないな。

 そう思いつつ、健脚と自己重力操作で左方向に跳躍し、投擲を回避すると、地響きと共に粉塵が舞う。

 あれを避けられなかったら危なかったな。俺はまともな遠距離攻撃はできない以上、一方的にやられるだけだし、そろそろ行くか。幸い敵の速度は確認できた。

 俺はストーンゴーレムに向けて駆ける。敵も接近戦は望むところなのか、重鈍な動きでこちらに向かってきた。

 まともに攻撃を受けるわけにはいかない。動きが鈍ればやられる。なら回避優先のカウンターだ。

 そして距離が詰まり、ストーンゴーレム射程範囲に入ったのか、その拳が正面から迫る。

 ここだ!

 それを寸前で回るように回避すると、その勢いのままアクアタートルハンマーを叩き込んだ。それによってストーンゴーレムの腕は想像していたよりあっけなく弾け飛ぶが、まるで増殖するかのようにすぐさま元通りとなる。

 くそ、面倒だな。無限に再生できるとは思わないが、これで短期決戦は難しくなった。

 俺がそう思っている合間に、ストーンゴーレムは再生した腕をそのまま横に振るう。それを跳躍して回避すると、俺はストーンゴーレムの腕に飛び乗り、腕を駆けあがる。

 そして、ストーンゴーレムの頭部を横なぎに粉砕すると、自分の重力を操作して飛び降り、続けざまに右足を弾き飛ばした。

 これならどうだ?
 
 バランスを崩して倒れるストーンゴーレムだが、その途中で既に破壊した部位の再生を終えている。だが、どうやら素早く立ち上がることができないようで、大きな隙ができていた。そこを俺は見逃さず追い打ちをかける。

 くらえッ!

 態勢を崩しながらもストーンゴーレムがこちらに腕を伸ばすが速度がなく、容易にすり抜けると、胸部に渾身の一撃を繰り出す。

 その一撃は、自己重力操作で重力を限界まで上げ、それを健脚と頑丈で耐えると同時に、大型武器と怪力のスキルを軽業で全身の力を一点に集中させた強力なものだ。

 それにより、ストーンゴーレムの胸部は陥没すると共に、その巨体が粉塵を巻き上げながら地面を転がった。

 どうだ?

 確かな手ごたえを感じた俺は、若干息を切らしながらストーンゴーレムから目を離さない。

 そして粉塵が収まると、そこには光の粒子となって消える姿が見えた。

「よし!」

 俺は左手でガッツポーズをとると共に、そんな声を出してしまう。そうして、ストーンゴーレムがいた場所には、いくつかのドロップアイテムが散乱した。

 ≪称号『ボスキラー』を獲得しました。それにより、『ユニークキラー』『ボスキラー』『先達者』が統合され、『モンスターキラー』となりました。続けて称号『統合者』を獲得しました。≫
 ≪スキル『回避』『跳躍』『会心』を獲得しました ≫
 ≪当エリアのボスモンスター初回討伐により『選択の書』を獲得いたしました≫

 そんな抑揚のない女性の声が脳内に響く。どうやら狙っていた通り、ボスモンスターを最初に倒せたようで、ボスキラーの称号が手に入ったようだ。

 しかも三つの称号がそろったことにより、統合して一つになった。モンスター、ボスモンスター、ユニークモンスターを最初に倒したという似た条件だったからかもしれない。

 だとすれば、その条件は難しいどころではないと俺は思った。

 とりあえず、ドロップアイテムを拾ったらいろいろ確認するか。しばらくこの場所は安全な気がするしな。

 最初に俺がいた場所の反対側に、青い魔法陣のようなものが見える。おそらくあれに乗ればここから出ることができるのだろう。

 さて、ドロップアイテムは……ほとんどがゴーレムキューブ(石)か。それと、ストーンブーツが三セット。どうやら重装備のようだし、売却用素材かな。

 ドロップアイテムだけ見ると、ボスモンスターのうまみは経験値くらいか。しかし、それも俺が単独だったからかもしれないな。

 フルパーティである六人ならそこまで良い経験値にならなかったかもしれない。

 そんなことを思いつつ。俺は続けて手に入れた称号とスキルを確認することにした。

 名称:モンスターキラー
 説明:先達者、ボスキラー、ユニークキラーの称号が統合された特別な称号。
 効果:全てのモンスターとの戦闘時、全能力に補正がかかり、ドロップアイテム数+1に加えレアドロップ率が上昇する。選択スキル枠+5

 名称:統合者
 説明:最初に称号を統合した者に送られる称号。
 効果:統合に必要な称号が入手不可能な場合、その称号無しに統合を行う。その場合統合した称号は足りない称号分弱体化する。

 名称:回避
 効果:回避行動時に補正がかかる。

 名称:跳躍
 効果:跳躍時に補正がかかる。

 名称:会心
 効果:会心率と会心時のダメージ増加率が上昇する。

 モンスターキラーの称号効果が良い意味で酷いな。統合した結果他の三つは消えたが、その効果を強化した状態で全てのモンスターに適応されている。

 普通に考えたらまず手に入れるのが不可能に近いだけに、凶悪だ。

 それに統合者という称号も、誰かが称号をとったら統合できないという前提を弱体化するとはいえなくすことができるのは凄いな。正直、ますます人に見られるわけにはいかなくなった。

 モンスターキラーの称号効果で、ノーマルモンスターが通常一つしか落とさないドロップが、俺の場合二つになる。それを知られた場合、面倒どころの騒ぎではなくなるだろう。

 本当に、どんどん人と関わるのが難しくなっていくな。元々組む気はなかったが、特にパーティを組むことはもうあきらめたほうがいいだろう。

 それはそうと、称号のインパクトが大きすぎて、新しいスキルに目が行ってなかったな。シンプルな効果でどれも便利そうだ。スキルに関してはそれ以上特にはない。

 そうして、確認を終えた俺は、魔法陣に乗りボスエリアから脱出した。振り返れば、ボスエリアに入った場所から数歩先に進んだところに立っているあの赤いオーラは消え去り、ボスエリアにはもう入れそうにはなかった。

 どうやら同じ異人は、一度しか同じボスエリアを通れないようだな。一度倒したら誰でも通れるほど甘くはないだろう。

 そうなると、パーティ内で誰かがボスを倒した経験がある場合、一体どうなるのだろうか。気にはなるが、俺はどうせパーティを組まないだろうし、関係ないか。

 俺はそんなことを考えながら、街道に沿って歩き出した。


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