009

 あれからダグールさんと話し合い、週に一度まとめて買い取るということとなった。もちろん買い取ってくれる数には限度があるので、ある程度厳選する必要がある。それでも、俺にとってはありがたかった。

 そして、ガンバルさんにも定期的に作った物を見せに行くという約束をしている。なんでも今後どんなものを作るか想像できないので気になるとのことだった。

 さて、何とかまた同じ宿屋で一室借りることができたし、準備を整えて狩りに行くか。

 そうして今日無事に野宿を回避して、昨日と同じ部屋を借りることができた俺は、部屋で素材を机の上に出す。

 錬金鍛冶術で作り出すものはランダムだが、ある程度その方向性を決められる気がするんだよな。もちろん何も決めないで作り出すよりも性能は多少落ちるとは思うが。

 そう、早速俺は売るための装備と、その練習を兼ねて、今持っている素材から装備品を作り出すつもりだ。もちろん、一番の目的は自分の装備を替えること。

 武器は初心者の木槌であるし、身に着けているのは初心者の衣服という地味なシャツとズボンだ。異人によって多少見た目の違いはあるが、大体は似たようなものだ。

 流石に、目立つのを避けるために初心者装備のままというのは馬鹿らしい。

 そう判断した俺は、まず初めにほぼすべてのタートルストーンと、タートルジョエルを用意する。作るのは大型武器だ。この素材で防具を作った場合、軽装備にならない気がした。

 俺のスキルには軽装防具というものがあり、名前の通り軽装備を身に着けるほど補正がかかる。その効果がこれだ。

 名称:軽装防具
 効果:身に着けている軽装防具にプラス補正がかかり、身に着けている重装防具にマイナス補正がかかる。

 なのでそれならと、逆に大型武器にタートル系素材を回そうと思った。

 よし、問題ない。早速作ってみよう。

 そして、俺は数十個のタートルストーンと、一個しかないタートルジョエルに錬金鍛冶術を使用した。

 まばゆい光と共に素材が一瞬輝くと、そこに巨大なハンマーが現れる。とっさに俺は両手で受け止めると、ずしりとした重量を感じた。

 このまま机に出せば、そのまま机を破壊し、床を突き破っていたかもしれない。

 これは凄いのができたな。

 何とか直立させると、長さは2mほどは有りそうだった。柄は茶色く、握りやすいグリップが付いており、八角形のヘッドは左右同じ形をしていた。

 全体は暗っぽい灰色だが、青色をした亀の甲羅の模様が入っている。そしてヘッドの中央には、丸く青い宝石、タートルジュエルが埋め込まれていた。俺は湧き上がる高揚を抑えつつも、その性能を確認する。

 名称:アクアタートルハンマー
 作者:ジャック・ジョーカー
 分類:大型槌
 階級:希少
 耐久:500/500
 能力:『水属性』『物理防御突破(小)』 

 やはりそうか。素材の数や、素材が作りだす物に対して向いているかどうかなど、それも質が上がる条件にあるらしい。

 作り出した直後、感覚的にだが前回よりも良いものが作れたというのは間違いではなかった。

 それはそうと、錬金鍛冶術で作り出した物のネーミングはシンプルになるのか? まあ、必ず名付ける必要があるよりはましか。俺はそんなネーミングセンスいいと思えないし。

 そんなことを思いつつも、俺は宿屋に来る途中で立ち寄った場所で購入した、古ぼけた茶色いローブを取り出した。

 名称:ローブ
 作者:ドドリス
 分類:外套
 階級:粗悪
 耐久:6/20

 これはひどいな。数日もしないうちにだめになるだろう。しかし、俺が試したいのは、既に完成しているものを素材にできるかどうかだ。

 錬金鍛冶術で作り出したものは素材にできないが、それ以外の完成品を素材にできる場合、今後かなりのアドバンテージになるだろう。

 それに完成品をメイン素材にすれば、質をあまり下げずに近いものができる気がする。

 俺は左手に古ぼけた茶色いローブを持つと、右手には異人を倒したときに手に入れた物の一つ、ウルフの毛皮を持つ。

 さて、いったいどうなるか。

 そして、俺は錬金鍛冶術を発動した。

「え?」

 すると、何か侵食してくるような気持の悪い感覚と共に、目の前にはハンカチほどの布切れが出来上がる。

 名称:ウルフの布切れ
 作者:ドジャッドク・リジョスーカー
 階級:粗悪
 耐久:1/1

 なるほど……あの気持ちの悪さは他人の魔力とかそういうのだろう。

 それ以外にも何かありそうな気がするが。それに作者名がローブの作者と混ざっている。

 階級と耐久も最悪だ。分類がなくなったということは、装備ですらなくなったということか。そう何もかもうまくはいかないよな。

 俺はそう思うと、残った素材をストレージにしまう。

 とりあえず、それが分かっただけでも良しとするか。ある程度素材が集まったらまた作ろう。それに、ローブはおまけだ。

 そう、ローブはあくまでも目的のものを買うためのおまけに過ぎなかった。それを俺はストレージから取り出す。

 ははは、これで変態という汚名は返上だ。

 俺の手には、無地の男物の下着があった。そして、諸悪の根源たる少女用の下着を脱ぎ捨て、男物の下着に着替える。

 おお、なんというか、この救われたような感覚、やはり男物の下着の方が安心感がある。

 皮肉なことに肌触りは少女物の方が上だったが。あえてアイテムの性能は見ないことにする。

 因みに男物の下着はもちろん新品だ。変えもいくつか購入済み。抜かりはない。

 そうして準備を終えた俺は宿屋を出た。昼食はすでに済ませているので、このまま狩りに行くことにする。

 途中素材として消えてしまったローブの代わりに、それなりに新しい茶色いローブを購入して着込む。

 これで、多少は俺だと気が付かれないだろう。防具がまだ心もとないが、仕方がない。今日はもう少し先に行ってみよう。無理そうなら下がればいい。

 そう判断して、俺は北門を抜けると、右肩に初心者用の木槌を乗せて走り出す。

 この周囲にはまだ異人がいるし、むやみに武器を見せる必要はないしな。

 やはり視線をいくつか感じるが、昨日よりはましだった。そして、ストーンタートルのエリアを超え、街道沿いに進んでいく。すると、早速新たなモンスターが現れる。

「……」
「マッドドールか」

 目の前のモンスターの頭上に、マッドドールと表示されていた。人の形をした泥人形であり、乾燥しているためかひび割れがところどころある。

 だが安定して形を保っていることもあり、意外と敏捷性も高そうだ。150cmほどの身長と、スリムなボディをしており、手には乾燥した泥製のハンドアックスを持っている。それが三体同時に現れた。俺はすぐさまアクアタートルハンマーに持ち変える。

 おそらく見た目通り地属性だろうな。この武器は水属性を持っている。相性は悪い。

 そう、モンスターにはそれぞれ属性があり、基本属性に火、風、地、水があり、火は風に強く、風は地に強く、地は水に強く、水は火に強い。

 無理そうなら逃げ出すか。ただ敵も素早そうなんだよな。やれるところまでやってみよう。

 そう決断した俺は、一番近くにいるマッドドールに近づくと、薙ぎ払うようにして槌を振るう。

「!?」

 物理防御に自信があったのか、それとも反応が鈍かったのか、マッドドールは避けることなくその攻撃を食らうと、胴体が上下別れる。

 当然そう来るよな!

 残りのマッドドール二体も俺の攻撃に合わせたかのように、背後から飛び掛かってくるそれに、薙ぎ払った槌を遠心力に従ってそのまま回転して振るう。それにより、二体は上半身と下半身が分かれを告げた。

 相性が悪いはずだが、一撃で倒せたな。この武器の性能がそれだけ高いのか、それとも水属性以外のもう一つの能力、物理防御力突破(小)の影響かもしれない。それ以外だと、打撃武器という点は相性が良かったのか?

 などと思いつつ、俺はドロップアイテムを拾う。

 良質な泥か。軽装備防具の素材としては微妙そうな気がする。幸い狩りには問題なさそうだし、しばらくしたら東か西に向かったほうがいいかな。

 このまま北に行っても軽装備に適した素材は出ないかもしれない。どちらかといえば重装備の素材が充実しそうだ。

 そんなことを思いつつも、俺はマッドドールを狩り続けた。重量のある大型武器であるアクアタートルハンマーであるが、スキル効果によって体が振り回されることがない。体の一部のように振り回せる。それは、この三つのスキルのおかげだ。

 名称:大型武器
 効果:大型武器を扱う際に補正がかかる。

 名称:怪力
 効果:筋力に補正がかかり、それに加え握力に追加補正が入る。

 名称:自己重力操作
 効果:魔力を使用して自身にかかる重力を負荷なく上下することができる。装備している物自体には使用することができない。

 大型武器というスキルだけでも十分振り回すことができ、なおかつその重さに振り回されなくなるが、他の二つを合わせることで自由自在に巨大な武器を振り回すことが可能になる。俺の一撃は見た目以上に凶悪なものなのだ。

 レアドロップは魔力泥か。ある程度良質な泥の数も稼げたし、それ以外の魔物も複数種狩れたから悪くはない。

 エリアのメインモンスターはマッドドールだが、他にも前のエリアのストーンタートルや、人型の犬であるコボルトも出てきた。

 コボルトは数が多かったが、同じ人型のマッドドールより弱く、数が少なくなると逃げ出すので敵にはならなず、ドロップアイテムはコボルトの牙という、見た感じ軽装防具の素材としては向いていなさそうなものだ。

 今のところ、敵は一撃で倒せているし、先に進んでも問題はなさそうだが、逆に一撃でも喰らえばやられてしまう気がする。

 ここはやはり軽装防具の素材を求めて東か西に移動すべきだな。

 俺は北に進みたい気持ちを抑えて、東と西、どちらに行くべきか考える。


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