007

 どうしよう。金がない。

 鍛冶師ギルドの前に来て気が付く。登録料がないということに。

 ここまで来てどうしようもないな。登録料がいくらかかるかだけでも聞いてみるか。

 そう思いながら、建物の中に入っていく。やはり、鍛冶師ギルドというだけにドワーフが多い。

 だが、全体を見れば人族の方が多かった。受付の女性も人族のようだ。

「すみません。お聞きしたいのですが、鍛冶師ギルドに登録する場合、登録料はいくらぐらいでしょうか?」
「はい、登録料は10万フィルとなります」
「じゅ、10万フィル……」

 おいおい、最初に持っていた金額が5,000フィルだぞ。

「しかし、推薦状があれば、登録料は無料となりますが、その代わり一年後の年間費に10万フィルが加算となり、払えない場合には登録が白紙に戻され、再登録をするには三年後からとなります。そして、その後二度同じ結果となった場合、永久に登録資格を失います」

 つまり、推薦場があれば後払いになるわけか。もしそれで払えなければ、推薦状を書いてくれた人の顔に泥を塗るという訳か……これはしっかりやっていかないとな。ガンバルさんの顔に泥を塗るわけにはいかないし。

「それならちょうど推薦状があります」

 俺はそう言って、受付の女性に推薦状を渡す。

「拝見いたします……え? あのガンバルさんの推薦状? っ、失礼いたしました。確かに拝見いたしました。こちらの用紙に必要事項の記入をお願いします」

 何やら受付の女性が驚いたような声を上げたが、すぐに落ち着きを取り戻すと、記入用紙とペンを俺に差し出した。

 異人の称号で文字は読めるし、書くのも問題なさそうだな。ある程度は異人という理由で空欄になってしまう。

 師匠の欄はどうしよう……ガンバルさんは推薦はしてくれたが師匠ではないし、余計な迷惑をかけそうなのでここも空欄。名前の欄は二つあるな片方が本名で、もう片方が偽名の方か。これは面倒だな。

 偽名で作品を出しても、それが俺が作ったということが鍛冶師ギルドにはわかってしまう訳か。しかし、これは仕方がないか。偽名は……よし、これにしよう。

 そうして、記入を終えると、俺は用紙を受付の女性に渡す。

「……男性? いえ、失礼いたしました。では、最後にこちらの方に手を乗せてください」

 少し気になるところがあったが、性別を書き直すように言われなかったので気にはしない。そして差し出されたのは、何やら平たい石板だった。

 大きさはA4サイズ? というのが与えられた知識にある。実際にA4サイズというのは見たことがないが、何となく大きさを理解した。
 
「わかりました」

 俺は言われた通り右掌を乗せると、受付の女性の使用しますね、という合図を言葉にした瞬間、石板に若干何かが吸い取られたような感覚がした。

 おそらく錬金鍛冶術を使用した時にも感じたことから、魔力が吸い取られたのだと理解する。しかし、吸い取られたといっても本当に微々たるものなので、特に問題はない。

「それでは、少々お掛けになってお待ちください」
「はい」

 そうして、登録料という問題を乗り越え、俺は受付のあるホールにあった長椅子に座った。

「うえ! こいつハーフだぜ! 才能ないくせにスキルでずるするやつだ!」
「ほんとだぜ! スキルで作った武器なんて魂がこもってないからな! そんな武器を使ったらすぐ死ぬことになる」
「ん?」

 突然すぎて、俺は自分のことだと気が付くのに少し遅れた。雰囲気的にどうやら若いドワーフのようで、俺と同じように登録しに来たらしい。

 若いからだろうか、髭は顔の周りにしかなかった。それでも老け顔でどこかおっさんに見える。

「ははっ! 図星で言い返せないのか!」
「それにハーフってマジで不細工だぜ! 背が高くて棒みたいに細いしよ! 体毛が全くないし、魅力ゼロだぜ!」

 どうやら、ドワーフの女性は背が低く、体は太め、そして体毛が多いのが美人らしい。

 すまないが理解できない。というか、未だに誰も俺が男だと気が付いてくれないな。否定しても意味はなさそうだから諦めてはいるが。

「チッ、つまんねえな。行こうぜ」
「どうせスキルだよりなんて一年も経たないうちに消えるしな」

 相手にされなかったからか、若いドワーフ二人は俺から離れていった。

 まあ、言い返すと面倒だしな。これでよかった。しかし、初めて不快なドワーフにあったな。そのことが残念だ。

 そんなことを思いつつ、俺はようやく呼ばれ、何やら金属のカードを渡される。

「こちらが鍛冶師ギルドの登録証明書である、鍛冶師カードです。ランクは定期的に開催されるランク別の品評会に出展していただき、そこで認められればランクが上昇いたします。また当ギルドには納品依頼などがございますので、そちらを積み重ねることでもランクを上げることができます。他にも――」

 それからランクに関してのことや、鍛冶師ギルドの細かいルールなどを聞き終えた。

「説明は以上となります。またわからないことがございましたら気軽にお声掛けください。定期的に説明会も行っておりますので、そちらもよろしければお越しくださいませ。それでは、ジャック・ジョーカー様の作品を、鍛冶師ギルド一同お待ちしております」

 その瞬間、頭の中に声が聞こえてくる。

 ≪称号【鍛冶師】を獲得しました≫

 どうやら、異人で鍛冶師ギルドに初めて登録したのだろう。

 思わず、俺は獲得した称号を開く。

 名称:鍛冶師
 説明:最初に鍛冶師ギルドに登録した者に送られる称号。
 効果:鍛冶関連スキルの取得と成長に補正。作成したアイテムの性能が僅かに向上する。

 やはりか、それに効果が鍛冶師ならだれでも欲しがりそうな効果だな。

「どうかなさいましたか?」
「いえ、なんでもありません。では失礼いたします」

 そうして、俺は鍛冶師ギルドを後にした。


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