あれから俺は途中警戒しつつも昼食を摂り、数多く現れるストーンタートルを倒しながらも、手ごろな岩や石などを収穫し、そろそろ町に帰ろうかと考えていた。
「ガメェ!?」
一匹のストーンタートルが悲痛の声を上げて光の粒子となる。残されたのはおなじみのタートルストーン。
ふう、そろそろ帰るか。にしても、この付近はこのカメしか出ないのか? 効率を考えると助かるのだが。
そんなことを思いつつも、これだけ素材があればあれができるとわくわくしながら、町の方へと歩き出す。
因みに、今更だが町の名前は始まりの町スペードというらしい。ほかの陣営なら始まりの町ダイヤとか、始まりの町クラブとかなのだろう。
帰り道は疲労がたまっているためか、行よりも走る速度が落ちていた。それが原因だろうか、近くに身を潜めていた数人が突然現れたかと思えば、道を塞がれてあっという間に囲まれる。
「止まれ! お前朝に山へ行ったよな? それなのに見た感じ無傷ということは、逃げ足だけは一丁前で、アイテム収集していたんだろ?」
リーダーだと思わしき男がそう言うと、俺を囲んでいる残りの三人が薄気味悪い笑い声を零す。
「だとしたら、なんだ?」
俺は打開策を考えながら、そう返事をした。
「だったらなんだって? そりゃ、有り金まとめて全部出せってことだよ。この人数差なら逃げられねえぜ。逃げたとしても、俺たちはお前の居場所を特定できる。お前はもうおしまいだ! ついでに、俺たちの相手をしてもらわねえとな! これからは俺たちのパーティでかわいがってやるぜ!」
そういって下品な笑い声が響き渡る。
「まずはその手に持ってる武器を捨てろ! 抵抗すれば後ろからグサリだぜ!」
「チッ」
俺は言われた通り木槌を地面に捨てる――その瞬間、健脚と自己重力操作で加速すると、リーダーの男の首をスキルの怪力を使用してへし折ろうとしてそのまま引きちぎった。
「ヒェ!?」
「嘘だろ!」
「化け物!」
他の男がそう言って腰を抜かしている隙に、二人目の首を引きちぎる。
脆い。異人はこんなに弱いのか。そりゃあのチュートリアルを突破できないわけだ。
「ひぃいいいいいい!!」
「逃がすか!」
悲鳴を上げて駆け出す男に捨てた木槌を拾うと全力で投擲した。それは面白いようにまっすぐ飛び、男の上半身と下半身を分離させる。
「こ、殺さないでくれ! 俺が悪かった! 持ってるものは全部渡す! だから見逃してくれ!」
最後の一人がそう言って跪いて祈ったように両手を組んでいる。俺はその男に近づき、にっこりと笑みを浮かべた。
「へ、へへ、許してくれるのか?」
「許さないよ?」
「あぎゃっ!?」
表情を変えないまま俺は男の首を引きちぎる。なんの罪悪感も起きなかった。
俺はおかしいのか? まるであのカメを狩った時と大して変わらないな。だが、こういう輩は逃がしても同じことをするだろう。ここで始末するのが正解だ。
そう自問自答していると、モンスターの時のように、男たちの死体が光の粒子となって消え去った。
その場には、男たちが所持していたものがいくつか残される。どうやら最初に与えられるアイテムはなく、そのほとんどがこの周辺にいるモンスターのドロップアイテムだった。
そういえば、異人が罪を犯すと赤いオーラのようなものが出るんだっけ? その罪が重くなれば重くなるほど禍々しくなって、瞳の中が全部真っ赤になるんだよな? 俺はどうなのだろうか? 見た感じ赤いオーラは出ていないようだが……おそらく正当防衛と見なされたのかもしれない。
俺はそのことに安堵した。仮に犯罪者になったら異人だとしても町には入れないどころか、投獄されてしまう。そうなればせっかくとった宿が台無しになるところだった。
あれ? 異人を殺せば称号がもらえると思ったが、もしかして俺より先に異人を殺した奴がいるのかもな。だとすれば、最初から殺す気だったということ。できればそういった異人とは関わりたくないものだ。
落ちているアイテムを全てストレージに収納すると、俺は再び木槌を右肩に乗せ、何事もなかったかのように町に向かって走り出した。
◆
「至高、至福とはまさにこのこと!」
問題なく宿屋に戻ってきた俺は、下着姿でベッドに転がった。その時、下着が少女用のものでスペードの神にとてつもない殺意が一瞬湧いたが、そんなことすら些細なことに思ってしまう。
「あぁ……このまま眠りたぁい。うへへっ」
普段の自分が聞いたらこれは自分なのかと疑ってしまうような発言だが、睡眠がかかわると、どうやら自分でも知らないうちにおかしくなっているようだった。
だが、まだ早い。早いんだよなぁ。五時間しか眠れない関係上、今寝ると深夜に目が覚めてしまう。
「生殺しだぁ、何で十時間じゃないんだよぉ!」
睡魔との戦いで独り言が止まらなかった。このままではまずいと、俺は断腸の思いでベッドから転げ落ちるように脱出し、這い上がるように椅子に座った。
「……誰も聞いてないよな?」
素に戻った俺は顔を真っ赤にして狭い部屋の中を見渡す。
よかった。誰もいない。まさかここまで睡眠を我慢するのがつらいとは思わなかった……。
右手の平で隠すように顔を塞ぎ、俺はため息を吐くと、打ち捨てられた衣服を拾いすぐさま着込む。
絶対男用の下着を買う。金が入ったら絶対だ。
俺はデフォルメされたドワーフが描かれたパンツを見て、そう強く決意した。それと同時に、スペード神にいつか復讐するとも。
さて、いろいろあったが、とりあえず、スキルの整理でもするか、といっても今回異人に襲撃されたことを考えると、今持ってるスキルを外せそうにはないが。
そう思いつつも、俺はステータスを呼びだした。
____________________
名称:エルル・ショタール
種族:ハーフドワーフ
年齢:20
性別:男
選択スキル
【大型武器2】【軽装防具1】【怪力3】【頑丈3】【健脚4】【自己重力操作3】【再生2】【魔法耐性1】【状態異常耐性1】【体術2】【逃走1】【軽業2】【未設定】【未設定】【未設定】【未設定】【未設定】【未設定】【未設定】【未設定】【未設定】【未設定】【未設定】【未設定】
控えスキル
固有スキル
【至高の睡眠】【スキル適性】【能力干渉無効】【錬金鍛冶術】【神罰無効】【神殺し】
称号
【異人】【スペード神の使徒】【理不尽を超えし者】【ユニークキラー】【先達者】
____________________
「……」
今更だが、この名前はなんだ? 百歩譲ってエルルはいいとしよう。しかし、ショタールっていうのはなんだ? 絶対狙っているよな? しかもご丁寧にショタという意味を知識として寄こすとは、スペード神は相当いい性格をしているらしい。
見た目は少女にしか見えないのに加え、ファミリーネームのショタール。そして、何よりもそこまでしておいて年齢が二十歳という追い打ち。
「は、はははっ……」
怒りと共に変な笑い声が出てしまう。二十歳の男が少女物の下着をつけている。完全に変態だ。
もしこのことを誰かに知られれば、俺はたとえ聖人でも殺してしまうかもしれない。そんな最悪なことになる前に、迅速に男物の下着を入手する必要がある。
まさか俺が最高の寝床よりも下着を優先することになるとは……。
俺は、少しの間その現実に打ちひしがれつつも、どうにか自分のステータスに再び向き合う。
はぁ、狩りが終わった時も多少スキルレベルが上がっていたが、どうやらあの異人たちを倒した結果、また上昇しているな。怪力と体術が一つずつだ。人数差もあるが、何でだ? スキル数が多いとしても、まだレベルは低いことを考えると、もしかしたらあのカメよりもスキルレベルの合計は低いかもしれないのに……。
そう思ったところで、俺はある見落としをしていたことを思い出す。
ああ、そうか、人数が増えれば増えるだけ、敵パーティの総スキルレベルは増えるよな。それに加え、怪力と体術は狩りではレベルが上昇していなかったことも影響しているのだろう。
だとすれば、俺は単独であればスキル数を調整しなくてもいいのではないだろうか? あくまでも調整が必要なのは、パーティを組んでいるものたちだ。
一対一では経験値的に損をするが、全てで得をしようとすれば、それこそ足元をすくわれる。
それに、俺は何を生き急いでいるのだろうか。そもそも至高の睡眠を与えられたことでスペード神の手助けをしようとは思っていたが、数々の嫌がらせでその考えも少しどうでもよくなってきた。
もちろん死ぬつもりはないし、陣営の拠点がすべて奪われるわけにはいかないから、陣営には協力するつもりだが、あくまでも協力だ。
俺が積極的に頑張って片づけようとも思わない。目立ちすぎると恨まれそうだしな。
キャラクターメイキングの時を思い出すと、拠点が手に入り王になれるかもしれないと知った異人たちの醜さはあの場にいるだけで伝わってきた。
ほかの陣営との戦いで何度も戦功を上げれば、睡眠もままならなくなるかもしれない。至高の睡眠を理由に手を貸すのに、それでは本末転倒だった。
死なない程度に頑張るか。力を過信しているわけではないが、単独でうまく狩りを続けられれば、他の異人との差も早々に縮まることはないだろう。
それに、俺の役目は他の陣営との戦いの、その先にある気がするしな。
そう思うと、俺は二つの固有スキルと、一つの称号効果を開いた。
名称:神罰無効
効果:神罰を無効化する
名称:神殺し
効果:神を殺すことができるようになる。
名称:スペード神の使徒
説明:スペース神の使徒である証明。
効果:*********
このスペード神の使徒という称号でどうやらスペード神は保険をかけているのは確実だし、これは手を貸したのは間違いだったかもしれない。だが、それも今更もう遅いか。俺のできることは、死なないように先に進み続けることだけだ。
俺はため息と共にステータスを閉じると、椅子から立ち上がって軽く伸びをする。
さて、憂鬱なことはこれくらいにして、一度食事を摂ってから楽しみにしていたあれをしよう。
俺は頭を切り替えると、夕食を摂るために部屋を出た。
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