それにしても、この顔と声は便利だな。露店で購入の時は値引きしてくれるし、聞いたことは丁寧に教えてくれる。それも男女関係なく。
そう、俺の見た目は幼さを残す少女であり、声は愛らしく、長い銀色の髪は後ろで大きな三つ編みにしており、どこか眠そうではあるが、透き通った紫紺色の瞳は安心感を与える。
これは露店で言われた俺の印象だ。因みに、三つ編みはドワーフの老人ゼブルドに編んでもらった。
なんでもハーフとはいえドワーフの象徴たる髭が生えないのであれば、せめて髪型だけでもドワーフの人気の髭型の一つである三つ編みにしてみてはどうか、ということで現在三つ編みとなっている。
髪留めはゼブルドとおそろいのかわいいらしい赤いリボンだ。
あの爺さん、今思えば良い人だったよな。おそらくチュートリアルという関係上、もう出会うことはないであろうが、それが少々残念だ。せめてこの髪留めは大事にしよう。
効果は特にないものの、耐久力無限ということもあってなくさない限り失う可能性がない。
さて、そろそろ北門か。スペードの陣営はどうやら大陸の北側にあるようで、他の陣営と早く争わせるためか、北門の近場は多少モンスターが強いらしい。モンスターが弱く安全を考えるなら南が一番だと露店の店主に教えられた。
だが、逆に俺にとっては人が少ないことこそが狙いだ。それに北に行けばおそらく鉱石類が見つかる可能性がある。まともな武器を手に入れるには向かうべきだろう。サラマンダーの素材もあることだしな。
そういう理由もあり、俺は北門に向かう。案の定北門はすいており、すぐに順番が回ってきた。
異人は各町を顔パスで通ることができるらしいので、特に問題はないと思われたが、門番に止められる。
「ちょ、ちょっと待て。お嬢ちゃん。異人だというのはわかっているのだが、この先は危険だ。安全な南門に向かったほうがいい。既に何人か異人が逃げ帰ってきてるんだ。出て行った数を考えると、数人はやられている」
親切でそう言ってくれているのは理解しているが、ここで引き下がるわけにはいかない。
「問題ない。無理だと分かれば逃げ帰ってくる。それに、逃げ足には自信がある」
「……そ、そうかい。どうやら止めても無駄そうだな。本当に危なくなったら逃げてくるんだよ?」
「ああ」
どうやら俺の真剣さが伝わったのか、門を通してくれた。ただ、後ろから眠そうな瞳が可愛かったなどと聞こえた気がするが、気にしないことにする。
そうして、俺は町を出ると、さっそくストレージから初心者用の両手持ちの木槌を取り出す。
これは異人ならだれでも使える称号の効果であり、木槌はスキルや種族からそれぞれに有った装備が渡される。
初心者用ということもあって性能は低いが、その代わり耐久力が無限となっていた。因みに、異人の称号効果はこんな感じだ。
名称:異人
説明:異人である証明であり、異人ならば必ず所持している。
効果:一定以上の知能を有する種族言語を理解し、また読み書きを可能とする。いくつかのシステムを使用可能とする。
ストレージは、いくつかのシステムの一つなのだろう。ほかにもパーティもシステムの一つだ。
俺は両手持ちの木槌を片手で軽々と持つと、右肩に乗せてその場から駆け出す。
狩りをするならばそれなりに進む必要があるのと、ぼけっと歩いていればわずかにいる異人に絡まれるからだ。
今もこちらを見ている者が幾人かいる。多少の足の速さが露見するのは仕方がないと割り切り、健脚のスキルのおかげで誰も追いつけない。あっという間に北門近くのエリアを超えた。
金がある程度できたらローブでも買ったほうがいいな。視線が気になって仕方がない。
やって来たのは、町から一番近い山の麓。街道らしきものがあるので、そのまま行けば町があるかもしれないが、既に宿をとっているため、今回は諦める。
「ガメェ!」
すると、岩陰から岩を背負ったようなカメが現れた。その頭上にはストーンタートルという名称が表示されている。
さっきまでは健脚と、サラマンダーを倒したときに獲得した逃走でここまで来たが、周囲には異人は見えないし、そろそろ戦ってみるか。
俺は木槌を構えて様子を見る。サラマンダーを倒したとはいえ楽観視できない。自分が最強だと勘違いすればすぐに足元をすくわれると、あの後ゼブルドに教えられたのだ。
「ガメッ!」
「!?」
すると、ストーンタートルは一瞬甲羅の中に身を潜めたかと思えば、高速回転と共に猛スピードで飛び掛かってきた。
これは、当たればまずいだろう。それに、避けてもすんなり方向転換してくるかもしれない。なら、幸い俺の武器は打撃武器だし、迎え撃つべきか。
俺はそう決断すると、ストーンタートルを迎え撃つことにした。下手に避けるよりも、こちらのほうが確実に安全だと判断したためだ。
初心者用の武器は耐久力が無限ということもあり、壊れる心配もない。そして、俺はタイミングを計り、ストーンタートルに木槌の一撃を叩き込んだ。
「ガメェ!?」
ストーンタートルは打ち返した玉のように一度地面にバウンドすると、二度目はそのまま滑るように転がった。
そこに俺は追い打ちをかけようと近づくが、どうやら今の一撃で仕留めることができたようで、光の粒子となって消え去ると、その場には小さな岩のようなものが残される。
タートルストーン……見た感じただの石でカメの要素はないが、ストーンタートルからドロップした物だから妥当な名称か。
ドロップアイテムをストレージにしまってそんなことを考えていると、周囲にモンスターが現れる。
「ガメェ!」「ガメッ」「ガーメ!」「ガメガメ!」
「これはまずいな……」
即座に逃げ出そうとするが、それよりも早く四匹のストーンタートルは、同時にあの高速回転で襲い掛かってきた。
くそ、一度に迎え撃つのは無理だ。何とか回避するしかない。
同時といっても迫るまでには多少の差がある。俺はサラマンダーを倒したときに獲得したスキルである軽業を使用して回避する。
そして三匹の高速回転を避けると、四匹目には木槌を叩き込む。
「ガメェエ!?」
「よし」
うまく一匹を仕留めると、あとはパターンの繰り返しだった。どうやらストーンタートルは一度高速回転をすると、再び使用するのには十数秒必要なようだ。
その結果、俺も息を整える余裕があり、難なく仕留めることができた。しかしそれと同時に、これ以上先に進むのは現段階では危険だと判断する。
そういえば新しいスキルはおろか、スキルレベルも上がらなかったな。やはりあのサラマンダーが特別なのか。
実際、サラマンダーを倒したときは、所持しているスキルのレベルがいくつも上昇し、健脚に至っては逃走と踵落としの影響か、スキルレベルが4になっていた。
格という概念があるためスキルレベルに上限はないが、それでもこの時点でスキルレベルが4というのは異常だ。
確か、スキルの合計レベルの差が基本的な格上かどうかの基準だったな。
だとすれば、俺のスキルレベルの合計は21。スキルレベルを上げるのは難しいかもしれない。人数差とかでその差が変動するといっても限界がある。
安易にスキルを増やせばいいという訳でもないんだよな。だとすれば、使わないものを控えに回して合計レベルを下げるべきか。
スキルレベルの合計は、選択されているスキルの合計であり、控えのスキルは加算されない。
俺の場合ただでさえ称号の効果で選択できるスキル枠が以前より増えていた。その数は二十四枠。ほかの異人は初期数が五枠だと考えると、活かせていない分が完全に宝の持ち腐れになっている。
最終的には役に立つだろうが、今はスキル枠を持て余しているな。たとえスキル数が二十四つになったとしても、馬鹿みたいにたくさんつけるわけにはいかない。
宿屋に戻ったらいくつか控えに回すか。今は変更するのは危険すぎるしな。
そう思いつつ、俺はストーンタートルのドロップアイテムを回収するのだった。
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