あの少女たちの正体がシスターモンスターという事実を知った俺たちは、改めて今後の方針を話し合うことにした。
場所は変わらず、メインルームにあるソファーだ。
俺の横には前回鬱実がいたが、今回は瑠理香ちゃんが座っている。
正面は夢香ちゃんであり、残った斜め正面が鬱実だ。
「えへへ」
「うぅ……はぁはぁ」
「瑠理香ったらもう……」
お兄ちゃん呼びを許された瑠理香ちゃんは、先ほどからこの調子で機嫌がいい。
それに対して夢香ちゃんはどこか呆れがちで、鬱実はいつも通りだ。
「さて、今後についてだが……正直、この秘密基地に引き籠る以外に何かあるか?」
俺はまずそう切り出した。
いずれ人類が滅ぶ可能性が高いとしても、できるだけ長く生き延びたい。
この秘密基地に引き籠る以外に、俺は何も思い浮かばなかった。
「引き籠るのにはあたしも賛成。でも、食料には限界があるよ?」
「確かに、それがあるよな……」
鬱実の言う通り、食料は有限だ。いずれ外に出て手に入れなければならない。
「そ、それじゃあ、こっそり近くで野菜などを育てるのはどうでしょう?」
「お姉ちゃん、近くでも怪しくない? それだとここが見つかっちゃうかも……」
「あっ、そうだよね……」
続いて夢香ちゃんの野菜を栽培するという案だが、近くとはいえ栽培しているのが見つかった場合、怪しまれる可能性があった。
既にロリ―ちゃんに見つかっている可能性を抜きにしても、警戒はするべきだ。
というより、そもそも種はあるのだろうか。
「鬱実、仮に植えるとして、種はあるのか?」
「種? もちろんあるよ?」
「おお、種はあるのか」
どうやら、この秘密基地に種があるらしい。
だが、何か妙だった。
鬱実の視線が俺の下腹部に向いている。
これはもしや……。
「うん、凛也君の種。今日からあたしに植えて育てよう?」
「ふぇ!?」
「り、凛也お兄ちゃんの種……」
やはりと言うべきか、種があるというのは鬱実の下ネタだった。
「お前、こんな時に何言ってんだよ……種は種でも、野菜の種のことだ」
俺は怒る気力もなく、溜息を吐きながらそう言って、呆れたように右手で額を抑える。
「残念。種違い。あ、野菜の種は流石に備蓄してないよ」
「そうか……」
だとすれば、仮に育てようと思ったらまず野菜の種から手に入れる必要があった。
まあ、根本的に野菜を育てることは現状難しそうなのだが。
「そもそも、野菜を作るよりも、買った方が早いよ?」
「は? ……いや、待てよ」
鬱実の発言に、最初は何を言っているんだと思ったが、先ほどの動画では普通にゼニスケという男がコンビニで買い物をしていた。
もしかしたら、食料問題は案外どうにかなるのか?
見た感じ、仕事中であれば襲ってくる可能性は低そうだ。
ゼニスケがコンビニで買い物する時も、仕事を優先しているように見えた。
ここから一番近いコンビニは、高校の東側にある。
買うならそこだろう。
しかし、当然行くときにはリスクがある。
買いに行く途中で襲われる可能性もあった。
どちらにしても、食料調達は命懸けという訳か。
「凛也君、もしコンビニ行くことを考えているのなら、深夜がいいわ」
「深夜?」
「そう、シスターモンスターたちは、普通に生活しているみたいだった。だとすれば、深夜は寝ている可能性が高いと思わない?」
「なるほど。確かにそれならいけるかもしれない!」
シスターモンスターが二十四時間活動することも考えられたが、動画内でスターちゃんは普通に生活するのは当たり前だと言っていた。
つまり、シスターモンスターも人間と同様に普通の生活を送るのであれば、睡眠をとる可能性はありえる。
それに賭けてみる価値は十分にあった。
それに働いているということは、食料を生産しているシスターモンスターもいるということだろう。
であるならば、野菜を育てるよりも買った方が早い。
俺はそこまで考えたとき、ふとあることを思う。
シスターモンスターになっていない人は逃げるのに精いっぱいで、当然働けない。
更に、シスターモンスターは倒されると光の粒子になって消えてしまう。
なら、消えたシスターモンスター分、働く人が更に減るのでは?
そうなると、食料の生産や流通、様々なことが滞る。
ここまで考えたところで、ある答えが導き出された。
「もしかして、今後は食料不足になるのか?」
「凛也先輩、食料不足って?」
「え? コンビニに買いに行くんじゃないの?」
俺の呟きに、夢香ちゃんと瑠理香ちゃんは意味が分からないようだ。
しかし、鬱実は違った。
「おそらくそうなるわね。だとすれば、買いに行くのは早い方がいいわ」
「ああ、近いうちに行くしかない」
この考えは、あくまでも予想に過ぎない。
食糧難にはならないかもしれないし、蓄えもあるだろう。
流通も、遅れは出てもどうにかなるかもしれない。
けど、もし仮に予想通りになってしまえば、少ない食料を求めてシスターモンスターたちがそこに集まるだろう。
そんなところに、俺たちが行けるわけがない。
シスターモンスターも、飲み食いはするはずだ。
それに、状況としては最悪な形になるが、シスターモンスターが増えれば働き手も増えて、食料問題も結果的に解決するだろう。
何時までかは分からないが、それを超えるまでの分の食料を早急に確保するべきだ。
その後のことは、またいずれ考えればいい。
俺はここまでの考えを、口に出して説明する。
夢香ちゃんと瑠理香ちゃんも、それを聞いて理解してくれた。
「つまり、いっぱい買う必要があるんですよね。あの、申し訳ないですが、私たちほとんどお金を持っていません……」
「るりは、今一円もないです……」
話を聞いた二人はそう言って金銭をほとんど持っていないからか、申し訳なさそうにうつむいてしまう。
「いや、大丈夫だ。お金は俺がコンビニのATMから降ろせるから、心配しなくてもいいよ」
不幸中の幸いにも、俺は一人暮らしということもあり、生活費をそれなりに親から仕送りしてもらっている。
更に節約をして貯めていたので、コンビニで食料を買うには十分だ。
夢香ちゃんと瑠理香ちゃんは、実家暮らしで普段銀行のカードなども持ち歩いていないのだろう。
俺は基本的にカード類は全て財布に入れていたので、今も持っている。
「あたしも、お金ならあるよ。り、凛也君、一回イチゴでどう? はぁはぁ」
「は? イチゴ?」
「え?」
「イチゴ?」
突然鬱実が息を荒げながら、人差し指を立ててイチゴがどうとか言い始めた。
言葉の意味が分からないが、鬱実だし、おそらく変な意味だろう。
瑠理香ちゃんも俺と同様に分からないようだが、夢香ちゃんは知っているのか、顔を赤くしている。
「あら? ふふ、凛也君、知らないの? 夢香ちゃん知っているみたいよ? 教えてもらったらどうかしら? イチゴは、あたしが払うわ……はぁはぁ」
「ふぇ!? お、教えるってどういう……でも、凛也先輩が望むなら……」
「いや、別に教えなくてもいいよ」
「へ?」
「え?」
盛り上がっているところ悪いが、これ以上は嫌な予感がした。
これまでの鬱実の行動から考えて、これを受け入れると取り返しが付かない気がする。
「どうせ、いかがわしいことだろ? 夢香ちゃん、無理することないぞ。たぶんこれまでのお礼がしたいんだろが、そういうのはしない方がいい」
「えっ……」
「凛也君、もったいない……」
夢香ちゃんは驚き、鬱実は何かを言っているが、それを無視して俺は話を続けた。
「とりあえず俺の持ち金だけでもどうにかなるし、問題ないはずだ。行く時期はなるべく早い方がいい。今日は早く寝て、深夜に買いに行こう。それで問題ないか?」
俺は言い終わると、三人に視線を送る。
「難し事は分からないけど、るりは凛也お兄ちゃんに賛成です!」
「わ、私も凛也先輩に賛成です!」
「あ、あたしだって凛也君に賛成! もちろんお金もエッチなことをしなくても無償で貢ぐわ!」
どうやら、三人とも賛成してくれたようだ。
それと、鬱実もお金を出してくれるらしい。
これは正直ありがたかった。四人分の食料となればかなりの量になる。
貯金に余裕はあるが、それでも少し心配だった。
今後に不安はあるし、途中で噛まれるかもしれない。
けど、ここで立ち止まってしまう方が、心のどこかで危ないと感じていた。
「ありがとう。皆で力を合わせて生き延びよう」
「うん!」
「はい!」
「体も合わせて生き延びるわ!」
一人変なのも混じったが、俺たちの団結力はより深まった気がする。
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