014 新たな情報

 そういえば今更ながら、瑠理香ちゃんが何故音楽準備室にいたのか、とても気になった。

 秘密基地の案内が終わり、丁度いいこともあって俺は瑠理香ちゃんに理由を聞いてみる。

「えっと、音楽で使うリコーダーが何故か無くなっていて、学校のリコーダーを借りることになったんです――」

 どうやら、瑠理香ちゃんのリコーダーが無くなっていたらしい。もしかしたら、誰かに盗まれたのかもしれない。

 いじめられている雰囲気もないし、容姿も優れている瑠理香ちゃんであれば、魔が差す男子生徒もいることだろう。

「――その日、リコーダーを借りるのはるりだけだったので、るりが先生に音楽準備室の鍵を借りて丁度取りに行ったとき、音楽室から叫び声が聞こえてきて、覗いたらクラスメイト達が、あのロリーちゃんという少女たちに襲われていたんです」

 なるほど。そういった理由から、瑠理香ちゃんはあの音楽準備室にいたのか。

 リコーダーを盗まれたのは運が悪かったが、結果的に助かったので運が良かったのだろう。

 しかし、クラスメイト達が襲われている中、一人で恐怖と戦っていたことには違いない。

「それは大変だったな。よく頑張った」
「あっ……」

 俺はそう言って、瑠理香ちゃんの頭を撫でてあげる。

 突然の出来事に、瑠理香ちゃんは小さく声をこぼして顔を赤くした。

 しまったな。つい撫でてしまった。

 瑠理香ちゃんも中学生だし、流石に恥ずかしかったか。

「ごめん、嫌だったか?」
「い、いえ。嫌じゃないです。でも、少しだけ恥ずかしいです」
「はは、それは失礼した」
「あっ、何だかいま子供扱いされた気がします! もうっ!」
「ごめんごめん」

 恥ずかしがる瑠理香ちゃんを見て、何となく子供扱いしてしまった。

 中学生ではあるが、俺たち三人が高校生ということもあり、この中では一番幼い。

 俺は謝りつつも、瑠理香ちゃんの頭を撫でるのだった。

「じー……」
「はぁはぁはぁはぁ」

 そういえば、ここは秘密基地内だったな……。

 こんなことをしていれば、見られるのも仕方がない。

「もしかして凛也先輩、ロリコンでしょうか……?」
「くっ、あたしのムチムチボディが逆効果に……」
「いや、俺はロリコンじゃないからな! 瑠理香ちゃんはなんというか、妹的存在というか、つい撫でたくなっただけだ!」

 ロリコンだと勘違いされるのも嫌なので、俺はそう反論した。

「妹的存在……」

 すると、何故か瑠理香ちゃんが落ち込む。

 これは、女心を傷つけたのかもしれない。

 それからしばらく、俺は瑠理香ちゃんの機嫌を取ることになった。

 ◆

「凛也君。あたしもあれから情報を集めていたの、それで気になる動画あるから、見てくれる?」

 メインルームにて一息ついていた俺に、鬱実がそう声をかけてくる。

 俺が瑠理香ちゃんを助けている間に、情報を収集していたらしい。

 当然気になるので、俺は他の二人も集めてその動画とやらを見ることにした。

「それじゃあ、再生するね」

 鬱実がそう言うと、六つあるモニターの一つが切り替わる。

 そこには、風呂でシャワーを浴びている俺の姿が映っていた。

「わわっ!?」
「す、すごい……」
「あっ、動画間違えちゃった」

 湯気で股間は見えていないようだが、他は丸見えである。

 どうしてこんな動画を所持しているのかは、最早聞くまい。

「おい。これ、消せよ?」
「えぇ! お宝映像なのにぃ!」
「もちろん、他のもな?」
「うぅ、凛也君のいじわるぅ!」
「け・す・よ・な?」
「はい……」

 鬱実に目の前で動画ファイルを削除させる。

 いったい、どれだけ盗撮しているんだよ……。

 動画ファイルだけで、余裕で1TBを超えているぞ。

 そして削除が完了すると、俺は鬱実からマウスを奪い取り、ゴミ箱ファイルからも削除しておく。

「あぁ!!」

 大げさに声を上げる鬱実であるが、どうにかしてこの削除した動画を復活させるかもしれない。

 それに、盗撮動画がこれだけとは思えなかった。

 だがこれ以上、俺にはどうすることもできない。

 半ばあきらめに似た感情が浮かび上がる。

 はぁ、もう、今更だよな。

 それから改めて、本来見るはずだった動画が再生された。

『チッスチッス! おらゼニスケ! 今日はなんと! 生放送しちゃうぜ! ジャージですまんな! あっ、これ俺の標準装備だからヨロヨロ!』

 なんだこいつ……。

 そこには、やけにテンションの高い赤いジャージ姿の二十代ほどの男がいた。

 しかもそこは路上であり、現状を考えれば大変危険だ。

 どうやらこの動画は、今日生放送されたものを鬱実が録画したものらしい。

『いや~さっき目が覚めたら、おでれえたぞ! かわい子ちゃんがおっさんに噛みついたかと思ったら、そのおっさんもかわい子ちゃんになるなんてな! まるでゾンビ映画みたいだ!』

 このゼニスケという男の言う通り、俺も当初ゾンビ映画みたいだと思っていた。

『噛まれたら一発アウトだぜ! でもでも大丈夫! 必勝法があるんだぜ! おっと、丁度いいところに、かわい子ちゃんを発見!』

 すると、ゼニスケが一人の少女にカメラを向け、背後から近づいていく。

『あれ? お兄ちゃんどうし――ひゃぁ!?』
『うっへっへ! いい揉み心地だぜ!』

 そして背後から空いている右手で、少女の胸を揉みしだいた。

 うわっ、こいつ最低だな。

「うわぁ……」
「キモッ……」

 夢香ちゃんと瑠理香ちゃんもドン引きしている。

『も、もうっ! いきなりエッチなことするなんて! お兄ちゃんなんかもう知らない!』

 胸を揉まれた少女は恥ずかしそうに声を荒げると、走り去っていく。そして、光の粒子になって消えていった。

『どうだ! これこそ必勝法! 噛まれる前にエッチなことをすれば、今みたいに逃げ出すんだぜ! これを見つけたおらは最強だ! あ、これ特許とるから真似したら一回十万な?』

 そう言ってゼニスケは歩き出す。

 今のところ、ただの屑にしか見えない。

『うん? ありゃりゃ、誰とも遭遇せずにコンビニに着いちまったな。残念。さてさて今度は、コンビニを使ってみるぞ!』

 え? コンビニは営業しているのか? しているようだな……。

『いらっしゃいませー』

 コンビニのレジには、俺も見たことがあるあの女子大生のような女性がいた。

『やっぱりレジにかわい子ちゃんがいるならこれっしょ! コン〇ーム!』

 まじかこいつ……。

ゼニスケはコ〇ドーム片手にレジに向かう。

『弟くんいらっしゃい。えっと、ココココこれ買うの? お、お姉ちゃんすこし恥ずかしいわ』
『うっへっへ、お姉ちゃんキャワイイネー! 今度お姉ちゃんにも使ってあげるから、コンドー〇驕ってくんね?』
『へっ!? お、お、お、弟くん……仕方ないわね。こ、今回だけよ?』

 女性はどこからかお金を取り出すと、ゼニスケの代わりに会計を済ませる。

「屑ですね……」
「気持ち悪い……」

 当然と言うべきか、夢香ちゃんと瑠理香ちゃんの目が険しくなった。

 俺のことじゃないとしても、すごい迫力だ。

 鬱実といえば、特に変化はない。

『ラッキラッキ! この世界最高だな! やり方次第じゃ、かわい子ちゃんにどんどん貢がせることができそうだぜ! あ、これも特許とるから、真似したら十万な?』

 ゼニスケが馬鹿笑いしながら、〇ンドームの入った袋片手にコンビニを出る。

『おおっ!? なんだあれ! でけぇ!』

 続いてゼニスケの驚く声と共に、目の前には身長がおよそ180cmはありそうな女性がいた。

 黒髪ポニーテイルに、白いTシャツとジーパンという一見シンプルな装いをしているが、顔は整っており、ツリ目と犬歯から猛獣のような雰囲気を画面越しにも感じる。

『うっへっへ、早速エッチなことしてやるぜ! ――へ?』

 嬉々としてゼニスケが女性に近づき、正面から胸を揉んだ。

 しかし、女性は恥ずかしがることはせず、むしろ怒っているようにも見えた。

『おいおい、愚弟の癖にいい度胸じゃないか。ええ?』
『ひぃ!?』

 女性は怒りの声を上げ、ゼニスケの胸倉を掴んだ。その拍子にカメラが落ち、下から見上げるように画面が映る。

『許可なくあたしの胸を揉んだ愚弟にはお仕置きだ!』
『や、やめっ!?』

 そして、女性がゼニスケを引き寄せると、おそらく首元に噛みついた。

 大きな胸が邪魔をして、噛みついているかどうか見えない。

 しかし、ゼニスケが光輝いたかと思えば、その姿を変える。

『ハロハロー! スターちゃんだよー!』

 ゼニスケは、ピンクツインテールに星型の瞳をした少女に変わってしまった。

 自撮り棒を拾い、カメラに自身を映している。

 ピンク色のアイドルが着ていそうなドレスに身を包み、笑顔で手を振っていた。

 まるで噛みつかれたことなど、なかったかのように。


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