「「「「「……」」」」」
どうしたんだ……正解なのか? それとも不正解なのか?
俺が答えた回答に、妹たちは沈黙する。
あと2回チャンスがあるとはいえ、それが俺をより不安にさせた。
「……おにいちゃん。本当にケリーちゃんでいいの?」
「え?」
「もう一度聞くよ、お兄ちゃんの後ろにいるのはケリーちゃん?」
「あ、ああ。け、ケリーちゃんだ」
「そう……」
なんだ? なぜそんなことを聞くんだ?
それによって不安が更に増す俺の顔に、妹の手が触れると、目隠しをしていた布を妹が突然外した。
「え?」
目隠しを取ると、そこにはほっぺたを膨らませた妹が目に入る。
「まさか1回で当てちゃうなんて、おにいちゃん空気読んでよもー。つまんなーい」
「ほんとほんとー」
「すごいけど悔しいよー」
「さすがお兄ちゃん……」
「絶対外すと思ったのになー」
妹たちがそう言いながら、俺を縛っていたロープも外す。
という事は……助かるのか?
当たりと聞いて、そのことが頭に過る。
「おめでとうおにいちゃん。ゲームに勝ったおにいちゃんにはプレゼントをあげます。それも1回で当てたから特別に2つだよ。この3つから選んでね」
そう言って3人の妹の両手にそれぞれスキルを得たときのガラス玉が出現した。
よく見るとそれぞれ色が違い、1つは見たことのある金色で2つ目が銀色、そして3つ目はピンク色。
展開が速すぎて微妙に頭がついていけないが、もらえる物はもらっておいた方がいいよな。
助かったことに喜ぶ暇もないほどの展開だったが、俺は気を何とか取り戻し、妹の持っているガラスについて説明を求める。
「え、選ぶにしてもそれがどういうものなのか軽くでいいので説明していただけませんか?」
「えー、おにいちゃん何その他人行儀? 妹なんだからいつもみたいに命令口調でいいんだよ?」
いつもも何にも今日初めてあったはず……これは口に出さない方がいいか。それに相手は見た目可愛くても得体のしれない存在……ここは従った方がいい。
「ご、ごめん。俺も緊張しちゃってさ。で、このガラス玉はどんなものなんだ?」
「へー、緊張してたんだ! なら全然いいよお兄ちゃん! じゃあ説明してあげるね!」
俺がある程度砕けた口調になると、妹は二カッと笑い元気いっぱいに説明し始めた。
「まずね。この金のオーブはスキルが手に入るんだよ! それでね、銀のオーブは便利なアイテム! そしてそして、このピンクのオーブは、ななんと妹がお兄ちゃんに特別サービスしちゃうよ! でもエッチなことじゃないからねっ! おにいちゃん期待しちゃった?」
妹がにやにやしながら俺の顔を覗き込んでくる。
その顔は何故か若干赤い。
「な、なるほど」
俺はそのことにあえて突っ込まなかった。
「何その反応―つまんないなーもう。で、おにいちゃん。この中の2つの中から選べた?」
普通に考えれば生き残るために金と銀のガラス玉……いやオーブを選ぶべきだ。
スキルは使った限り生き残るのには必須だし、アイテムもきっと役に立つ者だろう。
妹の特別サービスというピンクのオーブもすごく気になるが……生き残るのに関係ないのであれば必要ない。
そうだ。これは簡単なこと。選ぶオーブは決まっている。決まっているんだ。
そして俺が選んだ2つは……
「銀のオーブとピンクのオーブだ」
「さすがおに~ちゃん! わかってるぅ!」
俺は金ではなくピンクのオーブを選んだ。
ベ、別に妹のサービスとかは関係ない。そう、関係ないんだ。
これは確認のため。どういうものか知っておいて損は無いはず。
あとから知らずに選んでおけばと後悔はしたくないからだ。
そう、これは別にやましい気持ちは無い。
俺は自分にそう言い訳をして、選んだことを正当化させた。
「それじゃあまず銀のオーブからあげるね! はいっ!」
「あ、ありがとう」
「どういたしましてだよおにいちゃん!」
妹の1人から受け取った銀のオーブは、俺の手に渡るとその形を変えていき、何やら黒い手帳のような物になった。
≪アイテム『シスター図鑑』を取得しました≫
シスター図鑑?
スキルを手に入れたときと同様に機械的な声が聞こえたので、アイテムもと思い説明がでないか念じてみる。
シスター図鑑
効果
妹、姉をスキャンすることでその情報を得ることができる。
案の定効果内容が脳内に直接浮かび上がってきた。
「じゃあ次はお待ちかねのピンクのオーブだよ! 何が出るか楽しみだね!」
銀のオーブがアイテムに変化したことにより、妹がピンクのオーブを手渡してくる。
それは先ほどのように徐々に変化していき、1枚のチケットになった。
≪特殊アイテム『妹特製愛情弁当券』を取得しました≫
「……妹特製愛情弁当券?」
想像していた内容と異なり、チケットにはそう書かれていた。
「やったねおにいちゃん! それがあればおにいちゃんには特別に私の愛情がたっぷり詰まったお弁当を作ってあげるよ!」
そ、そうかお弁当か……これもサービスと言えばサービスか……
「あれ? おにいちゃんなんか元気ないけど大丈夫? う~ん心配。けど私たちこれから用事があっておにいちゃんと一緒にいてあげられないんだ……ごめんね」
「ごめんねお兄ちゃん」
「またあとでね」
「さみしいけど我慢するよ」
「さらばだおにぃちゃん」
渡す物を渡すと、突然妹たちはそう言って俺の目の前から消える。
そう、文字通りの意味でだ。
妹たちは光の粒子となって消失し、そこには俺だけが残された。
「は、はは。疲れた……」
あのゲームもそうだが、後半の急展開もあり、妹が消えると疲れが急に押し寄せてくる。
もはや妹が突然消えようともそのありえない現象を俺は受け入れていた。
妹化する世界だし、突然消えることもあるだろうと。
俺はそう思いながらも疲労を感じながら、先ほど手に入れた図鑑とチケットを見る。
図鑑は見た感じ手帳型スマホのようであり、中央下部にはボタンがあった。
試しに押してみると、画面には『使用者登録を完了しました』と表示され、どうやら使用者として登録されたらしい。
暫くすると、画面は左と右の2つに別れ、それぞれスキャンとシスター図鑑と表示されていた。
スキャンはカメラ機能のようであり、これで対象を取る必要があるようで、シスター図鑑は押してもスキャンしてないからか何も表示されない。
とりあえずこれは余裕があれば妹をスキャンしてみようと思う。
次にチケットだが、表には妹特製愛情弁当券となっており、裏には俺の名前がいつの間にか書かれていた。
これは俺にしか使えないという事か? とりあえずこれも効果が出ないか念じてみよう。
妹特製愛情弁当券
効果
妹に見せることで1日に3回お弁当をもらうことができる。
おお、これはかなりすごいんじゃないのか? こんな状況だし、食糧は貴重。それが1日に3回、つまり3食もらえるということは、それだけ危険が減り、俺の生存率が上がるということ。
今後食料の奪い合いが起こるかもしれないし、これは本当に助かる。
あのゲームをクリアできて本当によかった。
そう思うと、図鑑をポケットに入れ、チケットは大事にリュックサックの中にしまい、そのついでに水分を補給する。
ここまでは運が良かった。
しかし、この先そうとは限らない。
大多数の生徒が妹化したのならば、この学校には数百の妹たちがいることになる。その中を突破し脱出するのは至難。
今回のような油断は今後してはならない。
見捨てるときはきっぱりと見捨て、素早くその場を離脱しよう。
こんな状況だし、下手な情は身を亡ぼす。
漫画のような展開だが、俺は主人公ではない。妹化するときは妹化する。
くそっ、一度はこういう世界を想像したことはあったが、実際そうなるとたまったものじゃないな……
今後に不安しかない。何故なら、こういう物語は大抵最後打ち切りエンドや、残った人たちで頑張っていくという展開で終わるからだ。
その先がどうなっているのかが分からない。
普通に考えれば、いずれ人類は全滅し、妹化、あるいはまだ見ぬ姉化をし、世界は妹と姉しか存在しない世界になってしまうだろう。
「ははっ、絶望しかねぇや」
やはり落ち着いてくるとそう言うことを考えてしまい気分が落ち込む。
しかし、そう思ったところでどうにもならないし、死にたくはない。
だからわかっていても先へと進むしかないことには変わらず、それがより俺の不安を煽る。
こんな事……考えちゃだめだな。もう行こう。ここに留まると鬱になる。
俺はこの世界で既に情緒不安定になりかけていた。
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