048 最終試合とこれから

 準備が完了すると、俺たちはステージ中央へと移動した。目の前には、対戦相手であるユニィと下僕たち☆彡のメンバー四人がいる。

「あんたたち、速攻で終わらすわよ!」
「もちろんだよユニィちゃん!」
「へへへ楽勝だぜ!」
「ユニィちゃんの力があれば問題ないはずだよ!」

 どうやら相手は楽に勝てると考えているらしい。それほど固有スキルに自信があるのだろうが、こちらは既に奥平の証言から敵リーダーであるユニィの対策は済んでいる。

「作戦通りにいけば大丈夫だ。この試合、勝つぞ」
「もちろんさね!」
「最後は僕ちん大活躍するんだなぁ!」
「はい! 勝ちましょう!」

 こちらの士気も高く、負けるつもりはさらさらない。全力で行かせてもらう。

『さてさて、これが泣いても笑っても4444フォーフォース最後の試合だよ!』
『がはは! どちらも頑張れよ! 四対四のチームデスマッチ。全滅したほうが負けになるからな!』
『悔いが無いようにね! それでは第四試合決勝戦、試合開始!』

 そうして、最後はカウントダウンも無く、ナビ子によって直接試合の開始が宣言された。

「作戦通りに行くぞ!」
「あんたたち! あたしを守りなさい!」

 試合が開始されると、俺とユニィは同時にメンバーへと命令を下す。どちらも迷いなく、動き始めた。

「我らを守れ、結界!」
「ウインドスラッシュ!」

 最初に行動を起こしたのは敵チームの眼鏡男であり、固有スキルなのか半透明の四角い結界を生み出す。それに向けて、俺はウインドスラッシュを飛ばすが弾かれてしまった。

 なにっ!?  くそ、あの結界、かなり頑丈だな。

「ホーリーアロー!」
「マジックショットなんだな!」

 続いて、弓を持つ男が光りの矢を結界の内側から放ってきたそれを、奥平が迎え撃つ。威力は同程度のようだ。

 そして相手側に残った戦士風の男は、こちらのキャサリンと同様に守りに徹している。

 そうした膠着状態が続くと思われたが、姫紀と敵チームのリーダーであるユニィの準備が同時に完了し、固有スキルが発動された。

「聖なる光りよ、皆を守って!」
「準備完了だわ! あたしの魅力に堕ちなさい! チャームアイ!」

 姫紀の固有スキルによって俺たち一人一人に結界が生み出されるのと同時に、ユニィの瞳からピンク色の光りが解き放たれる。それは一瞬心を苛立たせるような何かを感じたが、それだけだった。

 これは、精神を支配しようとしたのか? 他の皆は大丈夫か?

 俺は若干不安になり、仲間を見渡す。まず性別が同性だったからか、キャサリンは問題なさそうだ。続いて事前に対策してあったからか、姫紀にも変化は見られない。そして最後に奥平を確認すると。

「あ、危なかったんだなぁ。もしもルインたんと姫紀たんに出会わなければ堕ちていたんだなぁ!」

 奥平はそう言って額の汗を拭っていた。

「う、嘘でしょ!? あたしのチャームアイが効かないなんて!? そんなのインチキよ!」

 何やら効かなかったことが信じられないのか、ユニィが喚き散らしている。だが、今は試合中であり、それは大きな隙になった。

「今の内だ! 一気に畳みかけるぞ! ウインドスラッシュ!」
「了解さね!」
「援護するんだな! マジックショット!」

 俺とキャサリンは敵目掛けて突貫する。その行動に、ユニィが戸惑う。

「あ、あんたたち! どうにかしなさい!」
「わ、わかった!」
「ホーリーアロー!」
「け、結界!」

 結界の内側から戦士風の男が前に出てきたそれを、キャサリンが引き受けた。

「ここはあたしゃにまかせな!」
「頼む!」

 そうして次に飛んできた光りの矢を奥平が相殺する。

「僕ちんがいる限り、ルインたんには指一本触れさせないんだな!」

 これで道は開けた。後は、この結界を打ち破れば問題ない。

「聖なる光りよ、ルインさんに力を与えて!」

 最後に、姫紀から力を受け取ったことにより、俺は結界を打ち破れることを確信した。

「く、来るなぁ! アイスバレット! ひぃ!? なんでこれも効かないのよぉ!」

 苦しまぎれにユニィが氷の弾丸を飛ばしてくるが、事前に氷属性の対策をしていたため、難なく赤鬼の小太刀で弾き飛ばす。そして、俺は到頭結界の前に到着した。

「今の俺ならば、破ることは楽勝だ」
「ひぃ!? あ、あたしを守りなさいよぉ!」
「ゆ、ユニィちゃ……ぐあぁ!?」
「ホーリー……ぐびゃ!?」

 結界を赤鬼の小太刀による一太刀で打ち破ると、情けなくもユニィは尻もちをついて助けを求める。その声に応じて結界を張っていた眼鏡男と弓を持った男が襲ってくるが、当然相手にならず、首を容易にねて脱落させた。

「これで終わりだ」
「や、やめ……」

 それがユニィの最後の言葉になり、脱落してその場から消える。残された戦士風の男もいつの間にかキャサリンに倒されており、俺たちの勝利が決まった。

『試合終了! 4444フォーフォース決勝戦を勝したのは、男の娘シスターズだよ!』
『がはは! 始まってみればあっという間だったな!』
『優勝した男の娘シスターズには、EP三倍のボーナスだよ!』
『がはは、これからEP分配の後に、特別EPショップが利用できるからな!』
『それでは、次回のイベントでまたお会いしましょう! またね!』

 最後にそうナビ子が言葉を言い終わると、俺たちはその場から転移する。場所は辺りに何もない草原地帯だった。

 転移したのか……しかし、何故草原なんだ?

 俺がそう考えているのもつかの間、目の前にナビ子とベントが現れる。

「いやはや、おめでとう! 推しのルインくんと姫紀くんが優勝して、お姉さん嬉しいよ!」
「がはは、最初はチームを意図的に組ませるのには反対だったが、良い物が見れたし良しとしよう!」
「それはいったい、どういうことだ?」

 俺は戸惑っているメンバーを代表して、そう問いかけた。すると、ナビ子は笑みを浮かばせながら、説明を始める。

「言葉のままだよ。推しのルインくんと姫紀くんを同じチームにしたかっただけ。他の二人は本当に偶然なんだよ?」
「いやいや、変な奴が入らないようにフィルターをかけていただろ! がはは!」
「あはは、そんなこともしたね! でも、それでもその二人は本当に偶然さ」

 どうやら、俺と姫紀が組んだのは、仕組まれていたことらしい。それも、完全にナビ子の趣味によってだ。

 まあ、姫紀と組まされたことには文句はない。姫紀は今回のイベントで活躍したからな。

 俺はそう考えて、意図的に組まされたことに関しては気にしないことにした。しかし、気になるのは何故この何もない草原に転移したかである。そのことが気になったので、俺はナビ子に訊いてみることにした。

「姫紀と組んだのは俺としても良かったから別に構わないが、この草原にわざわざ転移したのはなんでだ? そのことを言うだけのためとは言わないよな?」

 ナビ子ならそのために転移させたといっても違和感はなかったが、しかし案の定理由があったようだ。

「そうだね。理由はあるよ。そもそも、イベントはまだ完全には終了していないからね!」
「そうとも、EPが完全に分配されるまでイベントは終わらない!」
「それはいったい……」

 その言葉に不穏な空気が流れると、ナビ子はニヤリと笑みを浮かべて次の言葉を発した。

「つまりEPの分配方法はね、均等とは限らないだよ。例えば、リーダーが総取りというのも可能なのさ!」
「もちろん、分配方法はなんでもありだ。交渉によって決めるもよし、殺して奪ってもよしだ」

 それを聞いて、俺はこのイベントがこれまで碌でもなかったことを思い出す。最後の最後で、やってくれたものだ。

 俺は背後にいる仲間に振り返ると、ナビ子の言葉によってどこか緊張した面持ちだ。しかし、俺の答えは最初から決まっている。

「皆。EPは均等に分配で問題ないだろ?」
「当然さね。あたしゃはルインのこと信じていたよ」
「ぼ、僕ちんだって最初か信じていたんだなぁ!」
「ぼ、僕だって信じていました!」

 三人は安心したように笑みを浮かべて答えた。すると、何やらナビ子はつまらなそうな顔をしながらも、EPを均等に振り分けてくれた。

 EPは優勝したことによって三倍になり、15,930になっている。そこから四人で均等に分けて一人当たりのEPは3,982となった。

「残念だよ。最後に面白いものが見れると思ったんだけどね。あ、そうそう、チュートリアルでルインくんに与えたそれは、もちろん特別なものだよ。可愛いからずっとそのままだよ!」
「なっ!?」

 最後にナビ子は俺の耳や尻尾について遠回しに偽装でつけたものではなく、また外すこともできないと言葉にした。俺はそれについて詳しく訊こうとしたが、途中で遮られてしまう。

「がはは! これにて4444フォーフォースは本当に終了だ! EPを使える特別なショップが期間限定で使えるからぜひ利用してくれ! 数量限定品もあるから、早い者勝ちだぞ!」
「では、また次の機会があれば会おうね!」
「ま、まて!」

 俺は手を伸ばしナビ子を掴もうとするが、気が付けばホームに戻ってきていた。周囲には当然、ナビ子やベント、仲間の三人もいない。

 はぁ、なんだか最後は呆気なかったな。だがイベントは無事に優勝できたし、信用できる仲間もできた。悪くはないか。

 俺は部屋にある椅子に腰かけると、長かったようで短かったイベントに想いを募らせながら、唯一の不満を口にする。

「ああ、最後まで、敵の苦しむ姿が見れなかったなぁ……」

 敵を痛めつけて許しを請わせるような自分好みの戦いは出来なかった。

 やはり、自分の欲求を満たすためには、今後一人で行動するのがベストだと改めて思う。

 信用できる仲間を見つけても、俺という存在は変わらないという訳か。むしろ、我慢した分だけストレスがたまったかもしれない。

「そうだ。次は自分好みに相手を切り刻むことができる依頼を受けよう。そのためには、それに適した装備が欲しいな」

 俺は一人そう呟くと、EPショップを開き、目当ての装備を手に入れた。黒狼の闇装束という、全体的に黒い暗殺者風の衣装だ。ローブには犬耳がついたフードがあり、俺にぴったりだった。ちなみに、何故か尻尾用の穴が空いていたので、そちらも快適だ。

 他にも役に立ちそうなものを揃えると、俺は席から立ち上がり、歩き出す。

 さあ、狩りに出かけるか。

 まだ見ぬ強敵を求めて、俺はホームを後にした。

 END


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