045 VSアブソリュートドラグーン②

「ぶひゅ! 美人さんなんだなぁ! でも、僕ちん美人さんでも手加減しないんだな!」
「はぁ、別にどうでもいい。それよりも、さっさとこのイベントを終わらせたいわ……」

 奥平は対戦相手の美貌に目を奪われて若干舞い上がるが、対する峰元という女性はどこか辟易している。

 あの峰元というやつ。先に出てきた二人とは何かが違うな。もしかしたらかなり強いのかもしれない。

 俺は直感的にそう思いながらも、試合が始まるのを待つ。そしてカウントダウンが開始され、その時が来る。

 ……5.4.3.2.1.0!

「マジック――」
「一閃」

 試合が開始した直後だった。奥平がマジックショットを発動する瞬間峰元が刀を抜き、次に気が付けば奥平の背後へと移動している。

「ぶひゅっ……」
「ふんッ」

 そして峰元が軽く刀を振って鞘に戻すと、連動するかのように奥平の首がずり落ちて消えていく。瞬殺だった。

 速すぎる。峰元の動きが全く見えなかった。あれは居合斬りというやつか? 俺でも避けられるか分からないな……。

 峰元のスキルを目にした俺は対策を感がらも、やられて戻ってきた奥平に声をかける。

「残念だったが、二勝しただけでも上出来だ。それで、何が起きたのか説明できるか?」
「ぶひゅぅ。分からないんだな。気が付いたらやられていたんだなぁ」
「そうか」

 どうやら奥平にも何が起きたのか理解不能だったらしい。次に出るのはキャサリンであり、あの居合斬りを回避できるとは到底思えなかった。

「キャサリン、あれを受けたら即死は免れないだろう。何か手はあるか?」
「避けるのは無理さね。なら、受けきるしかないよ」
「だろうな。武運を祈る」
「行ってくるさね」

 そうして言葉を残すと、キャサリンはその場から転移してステージに中央に移動する。

『男の娘シスターズからようやく二人目、田中たなかキャサリンの登場だよ!』

 するとキャサリンが現れるのと同時に、客席が一瞬静寂に包まれたかと思えば、笑い声が巻き起こった。中年の女性がビキニアーマーを身に着けているのは、それだけ印象的だったらしい。

「あなた、何故そんな装備を?」
「見た目よりも性能重視さね」
「そう……」

 二人の会話はそこで終了して、カウントダウンの間睨み合う。キャサリンは剣と盾を構え、峰元は居合斬りの構えだ。

 ……5.4.3.2.1.0!

 そして試合が始まると同時に、峰元が動き出す。

「一閃」
「――ッ!」

 峰元が鞘から刀を抜き、一閃のスキルを発動した。その動きは奥平の時と同様であり、一瞬でキャサリンの背後に移動している。その結果、キャサリンの首からは血が流れた……が、それだけだった。

「……えっ?」
「ビキニアーマー、セクシーモードさね」

 気が付けばキャサリンのビキニアーマーは、以前第四試練の大部屋で見たように布の面積が少なくなっている。それにより、防御力が上昇したようだ。

「嘘……でしょ」

 それに対してスキル一閃、居合斬りが失敗に終わり、その反動か峰元の刀は刀身の半ばから折れてしまっていた。

「あたしゃの方が硬かったようさね」

 キャサリンがそう言葉にすると、峰元はその場で崩れて膝をつく。

「あたしの負けよ」

 そうして峰元が負けを宣言したが、試合が終わる気配がなかった。

「……どうやら終わらないようさね」
「……そのようね。パーティもクソだったけれど、このイベントも同じね。いいわ。一思いにやってちょうだい」

 諦めたように、峰元はキャサリンの前に立つ。キャサリンもこのままでは変わらないので、覚悟を決めたようだ。

「最後に教えてあげる。うちのリーダーは、精神を操る固有スキルを持っているわ。けどね。自分より弱い人しか支配できないようなの。決して心で負けなければ、あたしのように支配されないわ」
「そうかい、助かるさね……デルタアタック!」

 キャサリンは峰元の言葉にお礼を言うと、デルタアタックで試合を終わらせた。

 EPを使って敵リーダーのスキルを確認したとき、そこには強制命令という固有スキルがあったことを思い出す。

 そういえば奥平が倒した二人は、負けるわけにはいかないと言ってかなり必死だったな。もしかしたら、強制命令で支配されていたのかもしれない。

 しかし峰元の言葉が真実とするならば、敵リーダーである外道田より弱くなければ支配されないという。それは武力面なのか、それとも精神面からなのかは分からないが、少なくとも峰元に勝ったキャサリンは早々に支配されないはずだ。

 さらに付け加えれば、キャサリンには事前にEPで精神耐性も付与している。それを考えれば、支配される可能性は限りなく低いと思われた。

 これは、俺の出番が回ってこないだろうな。

 少々残念に思いながらも、ステージに視線を移動させた。

『さてさて! アブソリュートドラグーンより最後の一人! パーティリーダーの外道田杉助げどうだすぎすけの登場だよ!』

「ちっ、どいつもこいつも使えねえ。EPケチったのがいけなかったのか? こんなババアにやられるあのクソ女もふざけやがって。しかも俺の秘密をばらしやがるしよぉ!」

 外道田は金髪モヒカンをした筋肉質の若い男だ。素行の悪そうな印象を受ける。実際そうなのだろう。

「あんたはずいぶん問題のあるリーダーのようさね。あたしゃは別のパーティでよかったよ」
「あ? 俺だって、おめえみたいなきめぇババアはお断りに決まってるだろうが!」

 キャサリンと外道田は、試合の始まる前から険悪な雰囲気を出す。その間にも、カウントダウンが開始され、お互いに構える。キャサリンは変わらず剣と盾であり、外道田は長剣一本を両手で握っていた。

 ……5.4.3.2.1.0!

 カウントダウンが終わると、試合開始のブザーが鳴り響く。

「おらっ! 自害しやがれクソババア!」

 試合が始まると、さっそく外道田が強制命令の固有スキルを発動して、キャサリンに自害を迫る。だが、当のキャサリンはそれに従うはずはない。

「無駄さね。あたしゃの方があんたよりも強いさね!」
「なにッ!? ふ、ふざけるな! 俺がお前みたいなキモイババアより弱いはずがねえ!」

 自分がキャサリンよりも弱いことを受け入れられないのか、外道田は続いて長剣を握りしめ駆ける。

「返り討ちにするさね! 連続デルタアタック!」
「おらっ! 死にやがれ! ラッシュ!」

 迎え撃つキャサリンは重なり合い六芒星になったデルタアタックを放ち、対する外道田はラッシュという連続加速攻撃を仕掛けた。その結果。

「ふん、当然の結果さね」
「ふざ……けんな……」

 ステージに際まで外道田が吹っ飛ばされ、怨み言を呟いて消え去った。試合の勝者は当然、キャサリンだ。

 俺の出番は回ってこなかったが、外道田はそこまで強くなかったし、無駄なスキルをラーニングしないで済んだと考えればいいか。峰元と戦えなかったのは少し残念だが。

 若干峰元と戦ってみたかったと思いつつも、俺はステージに上にある巨大モニターへと注目をする。

『がはは! 第一試合終了だ!』
『結果は男の娘シスターズの勝利だよ! おめでとう!』
『しかし、試合を見れば圧倒的だったな! がはは!』
『順位を考えれば、一位と四位だし結構妥当かもね!』

 巨大モニターには、案の定ベントとナビ子が映っていた。勝利したパーティの宣言と、個人的な感想を述べている。

 そういえば、俺たちは前半戦一位通過で、相手は四位通過だったな。そもそも実力が無ければ、EPをそこまで稼げなかったのも納得だ。

 しかし、峰元だけは強者に見えたが、あの外道田がリーダーだったことを考えると、上手くパーティメンバーを使うことができなかったのだろう。峰元も外道田に協力的とは思えなかった。

『がはは! という訳で、この後は第二試合だ!』
『第二試合は、前半戦二位のユニィと下僕たち☆彡VS三位の臨時パーティ(仮)だよ!』
『それじゃあ、三十分後にまた会おう! がはは!』
『次の試合も楽しみだね!』

 そんなことを考えている間にベントとナビ子の話は終わったのか、巨大モニターの画面が消えると同時に、俺たちもその場から転移した。


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