044 VSアブソリュートドラグーン①

『みんな待たせたな! 試合の時間がやってきたぞ! がはは!』
『第一試合は男の娘シスターズVSアブソリュートドラグーンだよ!』

 時間がくると、頭上の大型モニターにベントとナビ子が映り喋りだす。到頭試合が始まるようだ。

『どちらのチームも準備はいいか? では早速最初の選手の入場だぁ!』
『男の娘シスターズからは奥平邦夫おくだいらくにお! アブソリュートドラグーンからは横島剛矢よこしまごうやの登場だよ!』

 選手の宣言がされた途端、奥平がベンチからステージ中央に転移する。その正面には、敵のチームの先鋒である横島剛矢よこしまごうやという男がいた。

 体格は中肉中背でパッとしない人物であり、戦闘が得意そうには見えない。しかし、それをいえば奥平も同様なので、相手の固有スキルしだいで勝負が決まると考える。

『がはは! 改めて簡単にルールを説明するぜ! 何でもありで先に敵チームを全員殺したチームの勝利だ!』
『うんうん、分かりやすいね! ちなみに死んでもベンチに戻るだけだから安心してね!』
『それでは、試合開始のカウントダウンを始めるぞ! がはは!』
『どちらも頑張ってね!』

 ベントとナビ子がそう言い終わると、巨大モニターが切り、替わりカウントダウンが開始される。

「僕ちん、絶対に負けないんだな!」
「お、俺だって負けるわけにはいかない!」

 ベンチにいながらもまるで近くで聞いているかのように、二人の会話が聞こえてきた。そうしている間にもカウントダウンされていき、その時が来る。

 ……5.4.3.2.1.0!

 カウントがゼロになった瞬間、試合開始のブザーが鳴り響いた。先に動いたのは、奥平だ。

「マジックショットなんだな!」

 奥平が放つのは、おなじみのマジックショット。それに対する敵の顔は、驚愕に包まれている。

「う、うわぁ!?」

 何とかマジックショットを転がるように回避する横島という男。そこから反撃に出ると思いきや、代わりに怒声を上げた。

「ふ、ふざけるなぁ! 何でどいつもこいつも使えそうなスキルを持っているんだよぉ! こんな醜いやつでも持っているのに!」
「醜いとは失礼なんだな! それよりも、何だかいつもより技の切れがいいんだな! これはきっと、ルインたんと姫紀たんの応援のおかげなんだなぁ! ぶひゃひゃ!」

 どうやら試合は奥平の方が有利らしい、聞こえた感じからすると、横島という男は使える固有スキルを持っていないようだ。

「く、くそぉ! お、俺は死にたくない! 痛いのはもう嫌んだよぉ!」
「それでも僕ちんは撃つのをやめないんだなぁ! マジックショット!」
「や、やめッ――!?」

 容赦なく奥平はマジックショットを放ち続け、横島に命中させる。結果は当然、奥平の勝利に終わった。横島は光りの粒子となって消え去り、敵チームのベンチに戻っていく。

 すると、これまで試合映像を映していた巨大モニターが切り替わり、ベントとナビ子が映し出されて、勝敗を宣言する。

『がはは! アブソリュートドラグーンの横島剛矢よこしまごうやの死亡を確認! 勝者は男の娘シスターズの奥平邦夫おくだいらくにおだぁ!』

 その瞬間、観客席から歓声が巻き起こった。それに対して奥平の表情は、まんざらでもなさそうである。

「ぶひゃひゃ! 僕ちんの時代が来たんだな!」

 初戦は勝ったが、相手は一番弱い人物を切り捨てたと見るべきだな。次はどうなるか分からない。

「奥平さん凄いです!」
「これで一勝さね!」
「ああ、これであと三人だな」

 姫紀とキャサリンも奥平の勝利に喜ぶ。 だが敵チームにはまだ三人いるので、安心するにはまだ早い。一人の強者が連戦連勝する可能性も残されている。

『それでは、アブソリュートドラグーンより二人目、泥岩拾次どろいわじゅうじの登場だよ!』

 続いて敵チームの二人目は、ひょろっとした眼鏡の男だった。またもや戦闘は得意そうには見えない。

「ぶひゅひゅ。僕ちんまた勝つんだなぁ!」
「それは無理ですね。あなたの技はもう見させてもらいましたよ! 僕が勝たせて貰います!」
「ぼ、僕ちんはそれでも負けないんだなぁ!」

 軽く奥平と泥岩という男が言葉を交わすと、試合のカウントダウンが始まった。二人は睨みあい、始まる瞬間を待つ。そして。

 ……5.4.3.2.1.0!

「マジックショットなんだなぁ!」
「無駄です! マッドショット!」
「ぶひゃ!?」

 試合開始直後、奥平はお得意のマジックショットを放つが、それに対して泥岩はマッドショットという泥の塊を撃ちだすスキルで相殺した。

 更にそれだけには終わらず、泥岩はマッドショットを連射して奥平へと命中させていく。奥平のマジックショットは未だ瞬時に連発することはできないので、相手の攻撃をまともに受けて転倒してしまう。

「動けないでしょう? 僕のマッドショットは殺傷力は低いですが、命中した相手の動きを阻害するんですよ!」
「う、動けないんだな!?」

 泥岩の言う通り、奥平の全身はマッドショットの泥で覆われていることはもちろんのこと、付着時には水気を含んでいた泥が固まり、奥平はステージの床に接着されて動けなくなっていた。

「ふふふ、動けないのなら、非力な僕でも殺すことは可能ですよ。しかし、近づいて先ほどのマジックショットですっけ? それで自爆覚悟の脱出をされてもやっかいです。このまま生き埋めにして上げましょう! マッドショット!」
「ぐばば!?」

 ステージの床に倒れている奥平に向けて、マッドショットが次々に放たれる。そうして、奥平は泥の山に埋められてしまった。

「ぜぇ、ぜぇ、ここまですれば、僕の勝ちでしょう!」

 泥岩は、勝利を確信したように笑みを浮かべる。

「はわわ、お、奥平さんが!?」
「このままじゃ不味いさね!」

 姫紀とキャサリンも、現状に不安を覚えるようだ。俺もそれは同様であり、仮にこのまま奥平が死亡しても、奥平の固有スキルである残機による復活がされる前に、敗者として処理される可能性が高いと考えていた。

 このままだと、奥平は負けてしまうな……。

 俺がそう思っていると、ステージに変化が訪れる。

「な、何ですか!?」

 泥岩が驚愕する方に視線を向ければ、泥の塊から唐突に水が溢れだし、そして決壊した。

「ぼ、僕ちん復活なんだなぁ!」

 泥の塊から大量の水と共に這い出てきた奥平は、息を切らしながらも右手を上げて高らかにそう叫んだ。

 なるほど。奥平は確か水を出すワーシャという固有スキルを持っていたな。それに加えて、レストランの食事効果で基礎能力が全て上昇している。それによって這い出ることを可能にしたのか。

 俺は瞬時にそう理解したが、敵である泥岩は違うようだった。

「う。嘘だろ!? ど、どうやって出てきたんだ!? 水を出せたとしても、普通は無理だろ!? お前は見た目通りオーク並みの筋力ということなのか!?」
「ぶひゃひゃ! 僕ちんのパワーはオーク以上なんだなぁ!」
「く、くそ! 俺は負けるわけにはいかないんだぁ!」

 既に魔力切れを起こしていたのか、泥岩はアイテムポケットから棍棒を取り出すと、奥平に駆けていく。しかし、それをそのまま受ける奥平ではなかった。

「イターラなんだなぁ!」
「ギギャァ!?」

 奥平の右手から放たれた炎に、泥岩はあっさりと飲み込まれて消え去る。奥平の二勝目だった。

「や、やりましたよ! 奥平さんの勝ちです!」
「予想以上の活躍さね!」
「俺もまさか、奥平が二勝するとは思ってもみなかったな」

 俺たちが奥平の勝利に喜ぶと共に、そんな感想を述べる。そうしている間にも、巨大モニターから敵チームの三人目が紹介された。

『それでは、アブソリュートドラグーンより早くも三人目、 峰元若夜みねもとわかよの登場だよ!』

アブソリュートドラグーン三人目の相手は、整ったスタイルと顔をした二十代の女性であり、右手には刀が握られていた。


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