037 北の回廊

 北のエリアにやってくると、相変わらずサハギンが現れる。リーダー一匹にノーマル数匹という構成が多い。

「マジックショットなんだな!」
「デルタアタックさね!」

 最早道中のサハギンはおまけのようなものだな。この試練はおそらく、生贄で人数を減らし、大部屋で難題を突き付け、道中で体力を減らす。こんな感じだろう。つまり、先に進めば進むほど、クリアが難しくなってくる訳だ。

 そのことに気が付いた俺だが、クリスタルブレスを全力で発動した影響がまだ残っており、未だ後方で休憩をしていた。

「ぶひゅひゅ、この試練は僕ちん大活躍なんだな!」
「あたしゃも今までより活躍できている気がするさね」

 対する奥平とキャサリンは、迫りくるサハギンたちを何度も倒していることによって、モチベーションがかなり上昇しているように見える。

 俺も戦いたいな……いや、ここは我慢だ。試練の最後の方には、きっと強敵が待っているに違いない。

 湧き上がる戦闘欲を抑えながら、俺たちは北の回廊を進んで行く。そうして、到頭二つ目の生贄ポイントが現れた。

「奥平、今度も頼むぞ」
「ぶひゅひゅ、行ってくるんだな!」

 まるで散歩にでも行くかのように、奥平は生贄ポイントである黒い十字架に近づき、磔にされる。そして生贄が実行されると、黒い炎が奥平を焼いていく。

「ぶひゃあああああ!!」
「お、奥平さぁああああああああん!!」
「……あいつ、確か痛みがあまりないはずだよな」
「そう言ってたさね」

 奥平の叫び声に対して、そのことを思い出す。しかし、生贄になってもらっていることもあり、俺とキャサリンはそれ以上何も言わなかった。

「ぶひゅ。酷い目に遭ったんだな」
「お疲れ様」
「さて、次に行くさね」
「なんだか二人が冷たいんだな……」

 五分後に復活した奥平の言葉を軽くスルーしながら、生贄によって開いた門を潜り、先へと進んだ。

 ◆

 出てくるサハギンの数が減ったな。まあ、本来なら二人目の生贄によって、パーティ人数も半減しているはずだから当然か。

「ウェオーッ」

 だが出てくるサハギンは、比較的にリーダーが多い気がするな。

 実際、サハギンリーダー単体か、複数で現れることが多く、稀にノーマルサハギンが現れる程度だった。

「何だか僕、ここにきてまだほとんど活躍できていない気します」

 そんなことを俺が考えていると、不意に姫紀が言葉をこぼす。確かに現状役に立ったのは一つ目の大部屋での補助魔法だけだが、姫紀が役に立つ場面はそうした威力が必要になる場面や、強敵が現れたときになる。

「そう落ち込むな。姫紀が活躍できるのは、きっと後半だ。焦る必要はないぞ」
「そうでしょうか?」
「ああ、これまでも大きな場面ではとても助かっているからな」
「ルインさん、ありがとうございます。そう言ってもらえて少し楽になりました」

 俺がそう励ますと、姫紀が嬉しそうにお礼を言って微笑んだ。男だが、相変わらず少女のような整っている顔だちをしている。

「ぶひゅひゅ、男の娘二人が仲良くしてるのは尊いんだなぁ!」
「あんた、二人をそんな汚い目で見るんじゃないさね!」
「なっ、失礼なんだな! 僕ちん清い心で二人を見守っているんだな!」
「あたしゃには不審者の目に見えたさね」
「ぐぬぬ、なんだな」

 ぞわっとした視線を感じたが、やはり奥平だったか。こういった視線はやはりなれないな。姫紀もきっとそうだろう。

 俺はそう思い姫紀に視線を向けるが、奥平の視線で不快になっているどころか、気が付いていないようだった。

 そもそも気が付かないというのもありだが、それはそれで心配になるな。

「変な輩に騙されて、ついていかないようにするんだぞ」
「やだなぁ、流石の僕だって怪しい人にはついていきませんよ」
「ルインたん変な輩って、もしかして僕ちんのことじゃ無いよね?」
「あんたやっぱり、自分が不審者という自覚があったんだね……」

 そんな会話を交わしつつ、俺たちはあっという間に三つ目の部屋に辿り着き、そのまま入っていった。

 さて、次はどんなことが起きるんだ?

 俺は少々わくわくしながら先へと進むと、大部屋の光景が目の前に広がる。部屋中央に置かれたオブジェは、鉄の棒が迷路状になっている変わった物であり、大きさは縦横一メートルはありそうだ。その横には警棒のような大きさのものが置かれており、何故か拘束椅子もあった。

「なんだこれ?」
「何でしょう?」

 俺と姫紀は、大部屋に用意されたものが理解できなかったが、キャサリンと奥平には分かったようだった。

「これは、イライラ棒さね」
「棒が触れたらビリビリくるんだな」

 イライラ棒? なんだそれは?

 初めて聞く言葉だったが、部屋の隅には説明用の看板があったので、確認をしてみる。

『この大部屋を突破したければ、一人が拘束椅子に座り、もう一人がイライラ棒をクリアする必要がある。棒が途中で触れてしまった場合、座っている者へ電流が流れる仕組みになっている。失敗してら再度スタートからやり直しになるが、それによる罰則は他にはない。何度でも挑戦可能である。なお五時間クリアできなければ、自動的に先に進む権利を得る』

 どうやら、戦闘面に頼らない面倒な内容の様だった。明らかにプレイヤーの神経やチームワークを崩壊させることが目的だと理解する。

「とりあえず、誰が拘束椅子に座るかだよな。手先が不器用な者が座るのが妥当だろう」

 俺がそう口に出すと、それぞれの視線が交差した。

「ぼ、僕ちんはこれでも器用なんだな!」
「あたしゃも繊細な動きは得意さね!」
「僕もチマチマした作業とか集中力には自信があります!」

 やはり拘束椅子に座るのは嫌なのか、それぞれ自身の器用さについて自慢し始める。だが普通に考えて、誰が座るのかは答えが出ていた。

「ここは痛覚が鈍い奥平が妥当だろう。頼めるか?」
「ぐぬぬ、ルインたんの頼みなら仕方がないんだな。それに、ルインたんや姫紀たんが電流で苦しむ姿は見たくなんだな」

 そう言って、渋々奥平は拘束椅子に座ると、自動的に拘束具が奥平の両手両足に取り付けられる。奥平はこれで、クリアするか時間切れになるまで動くことができない。

「さて、順番に挑戦するとして、誰からやる?」
「まずは、あたしゃから行くさね」

 俺が二人に問いかけると、キャサリンが名乗りを上げた。台に置かれた棒を手に持ち、イライラ棒に挑戦する。

「行くさね!」

 そして、スタートと表示された場所から棒を慎重に間へと通していく。

「難しそうですね」
「ああ、かなりの集中力が要求されるだろう」

 俺と姫紀は、キャサリンの頑張る姿を眺めながら会話を交わす。だが、その時だった。

『ブー』

 キャサリンの棒が壁に触れてしまい、どこからともなく機会音が鳴り響く。そして。

「ぶぎゃあああああ!?」
「お、奥平さああああん!?」

 電流が拘束椅子に流れ込み、数秒間奥平を苦しめる。

「し、失敗してしまったさね」

 キャサリンの持っていた棒は、気が付けば元あった台に瞬間移動していた。

 意外と難しいのだろうな。あの電流も通常ならかなりの苦痛を感じるはずだ。本来なら、それによる焦りで益々失敗やすくなり、拘束されている者は次第にわざと失敗しているのでは無いかと、怒りが込み上げるだろう。意外に考えられた試練だ。

 生贄で人数が減っていく現状では、仮に五時間後先に進めたとしても、その先にある生贄ポイントでもめる可能性が高まるだろうと、俺はそう予想をした。

 であるならば、次は俺が行くか。これでも身体の制御には自信がある。

「次は俺が行こう」

 俺は棒を手に持ち集中を高めながら、イライラ棒に取り掛かることにした。


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