032 第四の試練『生贄の回廊』

 ここが、生贄の回廊か。和風な寺や城の回廊って感じだな。

 見渡せば、そこは広々とした廊下の一角であり、背後には壁、外側には海、内側は和風庭園がある。ちなみに正面には廊下が長く続いていた。

「みんな! こんなところに看板があるんだな!」

 すると、奥平が廊下の角に看板が立っていることに気が付く。内容を確認すれば、それはこの回廊の見取り図のようだった。

「見取り図とは、やけに親切さね」
「それだけ、この試練は難しいかもしれないな」
「なんだか不気味ですね」

 明らかに怪しい看板だが、クリアのヒントに繋がるとなれば、確認せざるを得ない。

 どうやら現在の位置は、回廊南側の中央といったところか。そして背後の壁の反対側に、ゴールがあるらしい。

 一瞬壁を破壊してゴールできないかと思ったが、流石にそれはないだろうと考えを改める。

「むむ、内側の庭園には入れないようなんだな!」
「海側もそのようさね」

 回廊から出て回り込むのも不可能なようだった。

 やはり、正攻法で進めということだろうな。

 再び見取り図に視線を戻すと、回廊の四か所の角、突き当りに大部屋があり、そこで更なる試練があるということになる。

 試練の中で更なる試練か。それに加えて生贄を選ぶ必要があり、最終的には一人でゴールしなければいけない。これは厳しいな。

 生贄ポイントは西、北、東それぞれの中央に位置している。一番最初の生贄は、西のポイントだ。

 問題は誰が生贄になるかだが、これはある意味決まっているよな。本人が承諾してくれるかどうかは別になるが。

 誰しも、生贄になるのは嫌だと理解しつつも、このパーティメンバーの中で最も生贄に適している人物に声をかける。

「奥平、今回の試練、悪いが三回ほど生贄になってくれないか?」
「ぶひぃっ!? ぼ、僕ちんが生贄!? それも三回も!?」
「そうだ。これは復活できる奥平にしか頼めない」

 そう、奥平であれば、生贄になっても固有スキルで生き返る可能性があった。そうなれば、本来最終的に一人でゴールするはずの試練を、四人全員でゴールすることができる。問題は、奥平に三回生贄になってもらうのが前提であることだ。

「ぶひゅひゅ。ルインたんがそこまで言うのなら、考えなくもないんだな! ただし、流石の僕ちんでも、無償では聞けないんだな!」
「ぐっ、まあ当然だろうな」

 俺が奥平の立場でも、無償で三回も生贄になるのは御免こうむりたい。生贄になるということは、それだけ痛みと恐怖を味わうことになるからだ。

 一体どのような願いを口にするのか、俺は戦々恐々としていた。心なしか、奥平の俺を見る目が怪しい。

 その沈黙は、一瞬ではあったものの、俺には大変長く感じた。そして、奥平が願いを口にする。

「僕ちんの願いは、ルインたんと姫紀たんの二人と、フレンド登録することなんだなぁ!!」
「……え? フレンド登録?」
「ぼ、僕もですか?」

 何を要求されるのかと思えば、その願いはフレンド登録というもの。生贄の対価としてはいささか安すぎる気がしなくもない。だが、そんなことを言って藪蛇になると困るので、俺は黙ってその願いを聞き入れることにした。

「なんだい。もし変な願いを言ったらひっぱたいてやろうと思ったさね。それと、あたしゃも仲間に入れな!」

 そこにキャサリンも加わり、試練中ではあるものの、フレンド登録を始める。スタート位置が安全だったということも大きいが、この先何があるのか分からず、奥平の願いが忘れられる可能性もある。また先に願いを聞いた方が、生贄になる奥平の気持ちに整理が付くと思ったからだ。

 まあ、実際は先に願いを叶えたのだから、もう拒否することはできないと言っているようなものなんだが。

 そうして、パーティメンバー全員でスマホを取り出すと、フレンド登録を行った。フレンド登録をすると、連絡が可能になるほか、クエストでパーティが組みやすくなるなどの利点がある。他にも可能性として、イベントなどで同じチームになる確率が上がるかもしれない。

「ぶひゃひゃ! やったんだな! 男の娘二人とフレンド登録できたんだな!」
「おい、あたしゃのことを忘れてないかい? こんなレディとフレンド登録できて、うれしいはずさね!」
「ぶひっ!? も、もちろんキャサリンとフレンド登録できて、ぼ、僕ちん感激なんだなぁ!」
「そうかいそうかい。そりゃ良かったさね!」

 そんな軽口を叩きながら、ようやく俺たちは第四の試練を開始することにした。何とはなしに、心が軽くなった気がする。

「さあ、いくぞ。これがクリア出来れば、イベント前半も終了だ!」
「了解さね!」
「分かったんだな!」
「はい!」

 俺たちは、回廊の先へと進み始めた。

 ◆

 敵の姿は……無いようだな。大部屋にいるのか?

 赤鬼の小太刀を手に持ち、俺は先頭を歩く。ちなみに、配列は前に俺、真ん中に奥平と姫紀、後ろがキャサリンだ。

「これまでの試練と違って、なんだか不気味さね」
「はい、何だか怖いです」

 確かに、不気味すぎる。

 回廊の中は物音一つなく、外側の海から波が岩肌を叩きつける音が響く。それと、時折聞こえる鹿威ししおどしの音が、逆に不気味さを際立たせていた。これが試練の最中でなければ、その景色と風流は見ものだったことだろう。

「敵が出なくて、楽ちんなんだな!」
「なに気の抜けたことを言っているさね!」
「でも実際、敵が出てこないんだな!」

 のんきなことを言う奥平と、それを戒めるキャサリン。そんな空気の中、事は動き出す。

「ギョギョギョ!」
「ギョギョー!」

 回路の外側にある海から、勢いよくそれは飛び出してきた。

「なんだこいつは!」
「サハギンなんだな!」

 青く巨大な金魚に、人の手足を付けたような見た目のモンスター。サハギンが現れる。その手には、鉄の槍を持っていた。

「迎え撃つぞ! ウインドスラッシュ!」
「ギョエーッ!?」

 俺が先制攻撃を仕掛けると、サハギンは避けることもできず、独特な叫び声と共に倒れる。

「マジックショットなんだな!」
「ギィギョ!?」

 続いて奥平のマジックショットが命中し、サハギンがダメージを負う。だが、一発では倒れないようで、こちらに向かって駆けてきた。

「あたしゃに任せな! デルタアタック!」

 そこに、キャサリンが前へ出ると、向かって来るサハギンに固有スキルを行使する。キャサリンが逆三角形を描き剣を振るうと、赤く光ってサハギンを斬り裂いた。

「ギョエエ!?」
 
 それにより叫びをあげたサハギンは、光の粒子となって消えていく。

 ようやくキャサリンの固有スキルを見れたな。なかなか威力のありそうな技だ。近距離なら俺のウインドスラッシュよりも強そうだな。

 キャサリンの固有スキルにそんな感想を抱きながらも、俺たちは回廊の先へと進むことにした。

 あの鉄の槍、手に入れば良かったんだが……。

 ふと思うのは、サハギンの持っていた鉄の槍。サハギンが倒れて光の粒子になると、鉄の槍も同じように消えてしまった。

 まあ残念だが、簡単に鉄の槍が手に入るわけはないか。それに、今の俺には赤鬼の小太刀があるから、必要無いな。

「ギョエーッ」
「ギョエエ!?」

 こうした今も、サハギンは独特な叫び声を上げ、鉄の槍も消えていく。

「あの槍、もったいないんだなぁ……」
「そうですね。あの槍欲しかったです」

 第二試練で初期装備の棍棒を落とした二人は、特にそう思うらしい。

 この試練で何か武器が見つかったら、なるべく二人に回そう。

 奥平と姫紀が棍棒を落とした要因は、俺が吊り橋を斜めにしてしまったことなので、俺は殊更そう思った。

 その後も、何度かサハギンの襲撃はあったものの、サハギン自体の戦闘力はゴブリン以上、オーク以下なので、対処は容易だ。下手をすれば、ゴブリンに毛が生えた程度である。

「サハギン弱いんだな!」
「鉄の槍の扱いが酷すぎるさね!」
「ああ、流石に振り下ろしてくるのは無いな……」

 更にサハギンはまるで、鉄の槍を子供が木の棒で振り回すように扱っている。突きをしながら距離を取るという考えは無いようだ。

 頭の悪そうな見た目だが、その通り頭も悪いな。

「ギョエーッ!」

 そしてまた、サハギンが散っていく。

「何故だか僕、サハギンに愛嬌を感じてきました」
「確かに、何だか憎めない感じさね」

 二人はサハギンを気に入り始めていたようだが、敵であることには変わりはない。出てくるサハギンは全部屠っていく。

「ギョエーッ!」


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