「はぁ……」
五回戦目最後のステージ。どのような強敵が出てくるのかと、それなりにわくわくしていたのだが、目の前のこれが流石にない。
「わっ、これ、僕でも知っているモンスターですよ!」
「あたしゃもクエストで倒したさね」
姫紀とキャサリンも知っている知名度の高さを持つ。そのモンスターの名称は。
「スライムなんだなぁ! 流石はルインたん、運が良いんだな! スライムなら僕ちんでも楽勝なんだなぁ!」
そう、スライムだった。青いジェル状の球体をしており、大きさはサッカーボールほどのモンスター。それが、たった一匹だけステージの上に存在している。
戦ったことは無いが、ゴブリンより弱い感じがする。もしかしたら、スモールモンキーより下の可能性すらあるな。
何とも言えない気持ちに蝕まれた俺は、その場で立ち尽くしてしまう。
「むむむ、これなら棍棒で一発なんだけど……落としちゃったんだよね……」
「僕ちんも棍棒、第二試練の吊り橋で落としたんだなぁ……」
二人の視線が何故か俺に向けられるが、気が付かないふりをした。おそらく、吊り橋が斜めった時に落としたのだろう。
というか吊り橋の下に落としたものは、無くなったままになるのか……。
そう思うと何だか罪悪感を覚えるが、あの時はそれしか方法が無かったので仕方がない。
「それじゃあ、今回はあたしゃに任せておくれ。この第三試練じゃあまり役に立てなかったからね」
キャサリンは言葉ではそう言うものの、やはりスライムが相手だから、どこかやる気が感じられない。
いや待てよ、一見ただのスライムにみせかけて、実は凄いモンスターってことは……なかったな。
一瞬雑魚に化けた強敵なのではないかと思ったが、スライムはキャサリンの剣によってあっさりと倒されてしまった。
「本当にただのスライムだったのか……」
思わずそんなことを呟いていると、ステージに魔法陣が現れる。それは、赤でも青でもなく、黄色い輝きを放っていた。
「わ、黄色ですよ!」
「五回戦全部倒した訳だし、あれはおそらくゴールなんだなぁ!」
呆気ない最後だったが、あと一つ試練が残っていることを考えれば、これで良かったかもしれない。
そうして俺たちは、黄色い魔法陣の上に乗ると、パーティメンバーと共に転移した。
◆
あれ? これで終わりじゃないのか?
気が付くと、そこは変わらずステージの上だったが、中央にはあるものが二つある。
「あ、また宝箱ですよ!」
「赤と青の宝箱。これはきっと、どちらか一つということなんだなぁ!
「あんた、今度は先走るんじゃないよ!」
「わ、分かっているんだな!」
盛り上がりを見せるパーティメンバーをよそに、俺は何だか嫌な予感がしていた。
なんだろうか。理由は説明できないが、あの宝箱の一つ、赤い方に何故か違和感を覚える。何だ、この違和感は?
俺は赤い宝箱から、どことなく危険な雰囲気も感じていた。
「開けるなら、青だな」
「え?」
「何でそう思うんだい?」
気が付けば、そう口に出していた。
「あ、いや、直感だ。赤い方からは何故か嫌な感じがする」
「ルインたんがそう言うなら、青を開けてみるんだな! 宝箱を開くのは僕ちんにお任せあれ!」
「あっ、待ちな! ……こういうときだけは足が速いさね」
奥平は宝箱を開けたくてうずうずしていたからか、俺の言葉を疑うことなく青い宝箱に手をかける。
「それじゃあ、開けるんだな!」
そして、奥平が青い宝箱を開いた瞬間、赤い宝箱の周辺に黄色いドーム状の結界が現れたかと思えば、衝撃的なことが起こる。
「ギャバババ!」
「ひっ!?」
「なんだいありゃ!?」
赤い宝箱が勝手に開いたかと思えば、そこから長い舌が現れ、左右からはミイラのような干からびた長い腕が現れた。
「あ、あれはミミックなんだなぁ! 今更僕ちんのモンスター眼鏡で鑑定出来たということは、相当擬態能力が高かったんだなぁ!」
奥平も驚き、思わず青い宝箱から離れてこちらに戻ってくる。
違和感の正体はこれか! だが、何故俺はそれに気が付けた? もしかして、偽装のスキルが関係しているのか? それ以外には考えれれない。
偽装のスキルには、隠したり偽ったりする効果がある。その繋がりから、相手のそうした状態を見破るきっかけが分かるような、副次効果があるのかもしれない。
だが、そうした効果の説明は無かったような気がするが……。
俺は偽装のスキル効果を思い出してみる。
____________________________________
名称:偽装
CP:30
【説明】
あらゆる対象を偽装することができるが、熟練度によって様々ななことが可能になり、複数を対象に発動することもできる。
____________________________________
そこには、確かに相手の偽装等を見破るといった記述は見当たらない。
スキルの説明には無い効果も、ものによってはあるということなのだろうか。
思わぬ情報を手に入れたと俺は考えつつも、それが完全にあっているという保証もないので、鵜呑みにはしないことにした。
とりあえず、スキル効果については置いといて、現状をどうするかだよな。ミミックは結界から出てこないし、大丈夫そうだ。まあ、少し戦えないのは残念ではあるが。
「危なかったさね。あんなのが突然出てきたら、対処に遅れていたかもしれないさね」
「ルインたんの言葉を信じてよかったんだな。赤い方を選んでいたら、今頃僕ちんあのミミックに食べられていたんだなぁ」
「うう、ミミックって怖いですね」
結界で出られないとはいえ、その恐ろしい見た目から警戒を解かず、俺たちはしばらくその場に留まったが、やはり一向に結界から出てこないので、問題なさそうだと警戒を緩める。
「そろそろ、青い宝箱の中身を確かめて来るんだな」
「一応気を付けるんだよ」
「頑張ってください!」
奥平がそう言ってゆっくりと青い宝箱に近づき、中にあるものを取り出すと、小走りで戻ってくる。
「ゲットしたんだな! 」
歓喜と共に掲げる奥平の右手には、四枚のカードが握られていた。
まさか、四枚もスキルカードがあったのか!?
「そ、それってもしかして!」
「お、大盤振る舞いさね」
姫紀とキャサリンも、俺のと同じようにスキルカードだと思ったのか、驚きを隠せないようだ。
「ぶひゅひゅ、一人一枚なんだな!」
奥平は独り占めするようなことは無く、それぞれに配っていく。
ん? これは……。
「10,000メニーカード?」
それはスキルカードではなく、金銭が得られるマネーカードならぬメニーカードだった。
「わぁ! 10,000メニーですよ! 大金です!」
「こりゃ、スキルカードじゃないのは残念だったけれど、これはこれでアリさね!」
「ぶひゅひゅ! 僕ちん金欠でヤバかったから、これで生きていけるんだな!」
まあ、確かに金は大事だよな。10,000メニ―はでかい。
早速使用するように念じると、メニーカードは消えてなくなり、スマホの残高に加算された。これで俺のメニ―合計は、端数を切り捨てると約22,000メニ―になる。
これだけで、このイベントに参加した甲斐があったな。
俺は思わず笑みを浮かべながら、スマホをの残高を見下ろした。
これで、今度こそ第三試練は終了か。
パーティメンバーも含め全員メニ―カードを使用した瞬間、目の前にクリア画面が現れた。ちなみに、その時ミミックは役目を終えたのか、結界ごと消滅している。
_____________________
第三の試練『モンスター50:50』』コンプリート!
獲得EP
・五連勝する+500EP
・雑魚敵撃破+100EP×2=200EP
・強敵撃破+300EP×2=600EP
・特殊+500EP
・コンプリートボーナス+1,000EP
獲得合計2,800EP
【コメント】
無事に五連勝おめでとう! え? そのあとに何かいたって?
あれは試合にはノーカンだよ! 実際正解を選べば回避できるしね!
あとはそのまま十分何もしなければ、自動的にクリアになっていたよ!
無事に突破できた君たちは、まさに幸運の持ち主だ!
……あれ? なんで想定にない撃破方法が!?
これって、テイムだよね? テイマー系スキルでも使役するのは無理なはずだんだけれど!?
むむむ、想定外だからテイムしても使役が無効になっているね。
そもそも、イベントモンスターを使役できたとしても、それは■■■■■なんだよね。
まったく、誰だよこんなことをしたのは!
はぁ、何もないのは可哀そうだけれど、不測の事態だから諦めてね。
僕は誰かと違って贔屓しないんだよ。誰かとは違って!
_____________________
コメント欄が凄いことになっているな。特殊で加点されているのって、おそらくレッサーウルフを仲間にしたことか。結局消えてしまったけれど、それ自体がイレギュラーだったようだ。それと、奥平は一回死亡したが、固有スキルで復活すれば全員生き残ったという扱いになるのか。やっぱりあの固有スキルは出鱈目だよな。
他にもコメントの中にある伏字も気になったが、今考えても仕方が無いので、次の試練に向けて気合を入れる。
次が最後の試練だ。それをクリアすれば、無事にイベントの後半戦に参加できる。ここまで来たら、試練を失敗せずに進みたい。そのためにも、気を引き締めなければいけないな。
ただでさえ、悪辣な試練が多い。何がきっかけで全滅するのか、気を張り巡らせる必要がある。
まあそれも、どんな試練になるのか分からなければ始まらないか。
そうして、無事に第三試練をクリアした俺たちは、待合室に転移した。
コメントを残す