ステージは残すところあと二つ。その四つ目まできたが、ようやく当たりが来たようだ。
「な、なんだいありゃ」
「ひっ!?」
全長約四メートルはありそうな巨大なワニ。それがステージ中央で存在感を放っていた。
あれは、ヤバそうだな。もしかしたらあのオーガに匹敵するか、それ以上かもしれない。
目の前の敵は、当然普通のワニではない。全体的に赤い鱗に覆われており、ところどころから火が出ている。その周囲には、熱気と共に火の粉が飛び散っていた。
「あ、あれはフレイムダイルなんだな!」
奥平がモンスター眼鏡から敵の名称を口にする。フレイムダイル。それが次に戦う相手だった。
「基本陣形で行くぞ!」
「ガァアアアア!」
俺が皆に命令を出した瞬間だった。フレイムダイルがその大きな顎を開くと同時に、火の玉を撃ってくる。
「ウインドスラッシュ!」
「――!?」
咄嗟に、俺はウインドスラッシュで向かい打つと、そのまま火の玉を両断して、フレイムダイルの口先を僅かに切り裂いた。
流石は赤鬼の小太刀だな。ウインドスラッシュの威力が以前とは比べ物にならない。だが、それでもあまりダメージが与えられなかったということは、火の玉の相殺分を加味しても、敵の硬さは相当なものだ。
「みんな気をつけろ! 敵は想像以上に硬い! 長期戦になるかもしれないから、体力の配分と敵の攻撃に注意してくれ!」
「は、はい!」
「わかったさね」
「りょ、了解なんだな!」
俺はみんなにそう指示を出したものの、そう簡単にはいかないと理解していた。フレイムダイルの火の玉は簡単に避けられるものではない。
そうなると、どうにかして俺に注意を集める必要があるな。
「威圧」
「ガァア!」
フレイムダイルに対して威圧を発動するが、当然効果はほとんどない。だが、苛立たせることには成功したようで、先ほどのウインドスラッシュもあってか、フレイムダイルのターゲットが俺に定まった。
「ウインドスラッシュ!」
連続で飛んでくる火の玉をウインドスラッシュで撃ち落としながら、ステージを駆ける。
「マジックショットなんだな!」
「聖なる光よ、みんなを守って!」
俺が敵の気を引いている間に、奥平と姫紀の援護が飛んできた。マジックショットは見事に命中し、聖なる光が俺を包む。
「グガァアアア!」
「ぶひゅっ!? 僕ちんの必殺技が効いてないんだなぁ!?」
マジックショットを受けたフレイムダイルだったが、その鱗は頑丈であり、ダメージがほとんど見られなかった。
不味いな。奥平のマジックショットが効かないとなると、戦いが余計に長期化する。接近戦をしようにも、あの巨体もさながらではあるが、周囲に纏っている炎が厄介だ。俺なら何とかなりそうだが、俊敏さに難があるキャサリンには厳しい。
結局のところ、フレイムダイルに対抗できる戦力が現状俺しかいなかった。
「自分が情けないさね。近づけそうにないよ」
キャサリン自身もそのことを理解しているのか、二人を守ることに専念しながらも、どこか苦虫を嚙み潰したような表情をしている。
これは、ひたすら攻撃を避けながら、チクチクやっていくしかなさそうだ――ぐッ!?
火の玉が当たらず、遠くから一方的に攻撃されることに我慢の限界だったのか、フレイムダイルが俺目掛けて突進してきた。その巨体からは想像を絶する速度だったが、ギリギリのところで回避する。
「グギャア――ッ!?
すると、フレイムダイルが唐突に悲痛の叫びを上げた。見れば、ステージの周りには見えない透明な壁があり、それに激突してしまったようだ。
これは、チャンスだ!
痛みで俺の存在が頭から消えたフレイムダイルへと急接近すると、その瞳に赤鬼の小太刀を突き立てる。
「ギギャァア!?」
「チィッ」
しかし、僅かに刺さったところでフレイムダイルが頭を捻ったため、深く貫くことができなかった。
だが、これで右目は奪ったぞ。
≪スキル『火炎纏い』をラーニングしました≫
ついでに、新たなスキルをラーニングしたようだ。何気に姫紀の補助魔法で守られていても、ラーニングは適応されるらしい。
「デルタアタックさね!」
キャサリンもチャンスだと思ったのか、フレイムダイルの巨体越しに、スキルを発動する声が聞こえた。
「ワーシャなんだな!」
そして、奥平は他にも所持していたスキルを発動したのか、細い線のような水が、雨のように降り注ぐ。
「グギャアアアアアアアアアア!?」
なっ!? 奥平の攻撃が一番効いているんじゃないのか?
これまでのフレイムダイルが発した悲痛の叫びの中で、奥平の攻撃が最も効いているようだと、俺はその声から感じ取った。
「ぶひゅひゅ! 火には水が弱点というのは、鉄板ネタなんだな! どんどん行くんだなぁ! ワーシャ!」
奥平もフレイムダイルに自分の攻撃が効いていることに気が付き、スキルを連発する。だが、それは危険な行為でもあった。
「おい! あまり攻撃をし過ぎるな!」
「ぶひ? ルインたん、手柄が取られるからってそれはないんだ――」
「ひやぁ!?」
「危ないさね!」
フレイムダイルの狙いが奥平に変わり、身体の向きを動かして火の玉を放つ。それに対してキャサリンは姫紀を引っ張り盾で何とか防いだが、奥平は避けることができずに直撃してしまう。
「お、奥平さぁああん!!」
「くッ、調子に乗るからさね……」
奥平は、跡形もなく消え去った。実際には、光の粒子になって消え去ったのだろうが、客観的には火の玉で何もかもが蒸発したかのように見えなくもない。
くそッ……だが、やられたのが奥平でよかった。あいつなら、五分もすれば固有スキルで復活するはずだ。
奥平は、第一試練の時に発動した固有スキルがある。その能力は、死亡しても五分で復活し、五秒間無敵になるという出鱈目なもの。なので、奥平がやられたことに対しては、そこまで心への影響はない。唯一姫紀だけはその優しさからか、悲しんでいるようだった。
「こっちの相手をしてくれよ! ウインドスラッシュ!」
「グギャァアア!」
俺は背を向けたフレイムダイルの尻尾に向行けて、ウインドスラッシュを放ちダメージが与えると、そのまま接近し赤鬼の小太刀で尻尾を両断する。
流石に根元は無理そうだったが、真ん中あたりなら案外いけるものだな。
フレイムダイルの尻尾を中間から斬り飛ばすと、一瞬血が吹き荒れるが、それも自身の纏っている炎が切断部を焼き、止血される。
何だ? 内側は自分の体でも火が効くのか?
火を平気で纏っていることから、そのことを意外に感じてしまう。
「ガァアアアアア!!」
「それはもう慣れた!」
どうやら、そんな悠長なことを考えている暇はないようで、飛んでくる火の玉を、俺はすれすれで回避する。
お返しだ。
「ウインドスラッシュ!」
「ガァア!?」
火の玉で相殺されなかったウインドスラッシュが、フレイムダイルの肉体を切り刻む。
相手の体力もだいぶ削れているようだな。火の玉の勢いが最初と比べて落ちている。これはもう、時間の問題だな。
「ガガガガァ!」
今度は連続か。
一発では効かないと考えたのか、続いて三発の火の玉が飛んでくる。だが、それも当然回避して、カウンターを決めた。
「聖なる光りよ、ルインさんに力を!」
そして、そこに姫紀の補助が届き、身体能力が強化される。
「これなら、行ける」
赤鬼の小太刀の固有能力で上がっていた身体能力に加えて、姫紀の補助が重なった今、最早負ける気がしなかった。
「ガァアアアア!?」
そうして、後はパターンと化したフレイムダイルを相手に、ウインドスラッシュと接近戦に持ち込んだ結果、無事に難なくフレイムダイルを撃破する。
「や、やりましたね!」
「ルイン、あんたが一番さね!」
「流石に、疲れたな」
フレイムダイルが消えたステージの中央には、赤と青の魔法陣が出現した。
「僕ちん復活なんだなぁ!!」
ついでに、奥平も復活して叫びをあげる。
「じゃあ、最後は赤い魔法陣にするか」
「次も頑張ります!」
「あたしゃも、次こそは活躍するさね!」
奥平の復活については、適当に反応しつつ、俺たちは赤い魔法陣に乗った。次が五回戦目、第三試練最後のステージだ。
フレイムダイル相手に少々消耗したが、次も強敵だといいな。
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