025 猛攻のオーガ

「グガァアア!!」

 オーガの猛攻が続く、何とかパリィでやり過ごすが、現状を維持すれば消耗戦になってしまう。そうなれば、先にダメになるのは俺の方だった。

 くそ、向こうも体力の消費は激しいはずだが、やはりモンスター。人間とは基本的な体力が違い過ぎる。

 作戦の一つが無意味と化し、むしろ逆効果になってしまったのが痛かった。打開策を考えようと思考を割り振るが、攻撃の対処をするのが忙しくそれどころではない。

 本格的にまずいな。そもそもこいつ、現段階で戦うような敵では無いのだろう。

 オークとオーガを比べると、力の差は歴然だった。攻守素早さどれをとっても、オークの敵うところはない。

 確かオークはDランクモンスターだったよな? なら、オーガはその上のCランクか? いや、もしかしたらさらに上のBランクかもしれない。

 Bランクがどれほど強いのか正確には理解していないが、目の前のオーガを見れば、一般人が百人束になっても、簡単にやられてしまうと理解した。

 最早、俺の力だけ・・・・・で倒すのは不可能だな。

 目の前のオーガを見て、俺はそう確信をしてしまう。オーガを自らの力だけで殺すのは不可能だと。

 なら、やはり方法はこれしかないか。最終手段だが、現状維持をするよりはましだろう。

 軽く息を吐くと、自分の美学に反するが、それを実行することにした。

「ガガァ!?」
「足元がお留守だぞ?」

 唐突に、オーガは自ら空けた吊り橋の穴へ片足を取られる。まるでそんなはずはないとオーガは驚愕しているようだった。それもそのはずであり、穴には偽装のスキルで穴が無い風に見えていたはずだ。

 チャンスは一度きり。失敗すれば今度こそやられるが、この瞬間はたまらない。

 オーガが足を取られている間に、俺は背後に回り込んでその背中をよじ登る。そして。

「ッグガァアアアアア!?」

 二本のナイフで両目を貫く。血しぶきが上がり、オーガが苦痛で悶える。その光景に、俺は一瞬恍惚としながらも、次の行動に移す。

 この絶叫、たまらないな! だが、これで終わりではないぞ?

 素早くオーガの背から降りると、俺は近くに散らばっている木片にナイフを突き刺す。

 これで発動しなかったら、俺の負けだな。タイミングは……今だッ!

 苦痛に悶えるオーガが穴にはまっていた片足を引き抜いた瞬間、俺はあるスキルを発動する。

「シールドバッシュ!」
「グガァ!?」

 木片をナイフに刺して盾に見立てただけだったが、スキルが上手く発動し、オーガの巨体を僅かに吹き飛ばす。バランスを崩したオーガは、まさに転倒する直前だ。そこに。

「ウインドスラッシュ!」

 背後の吊り橋の縄を縦に切り裂いた。縄で受け身を取れなかったオーガは、背中から奈落の底へと落ちていく。

「グガァアアアアアアァァァァ!!!」

 そして、オーガの姿は叫び声と共に見えなくなり、無事勝利を収めた。

 自分の力で止めを刺すのは無理だったな。それよりも……。

 吊り橋の縄が片方切れた代償は、大きかった。イベントの仕様なのかどうか分からないが、吊り橋が急速に斜めになっていく。

 あのままなら、吊り橋がオーガによって落とされていただろうし、斜めで済んだことで勘弁してほしい。

 オーガは途中から吊り橋の板を狙い始めていた。最後には当然、吊り橋を落とすための行動へと出ていただろう。

 みんなには悪いが、何とかゴールしてくれ。

 時間稼ぎはあれが限界だったと、俺は息を吐きながら吊り橋の残された縄に、足をかけて乗る。

 あのオーガ、強かったな。もし次に同じようなのが出てきたら、今度こそ俺の手で始末したいところだ。

 吊り橋から突き落とすというのは、個人的にあまり好きな方法ではなかった。追い詰めた末に、片手でぶら下がっている手を踏みつけるのであれば、一考の余地はあるが。
 
 それと、ナイフが一本ダメになったな。これは試練が終わった後に修復されるのだろうか?

 木の板を刺して無理やり盾に見立ててシールドバッシュを使用した結果、ナイフは根元からぽっきり折れており、刃の部分はそのまま奈落の底へと落ちてしまった。ちなみに、残った持ち手部分は鞘に収納できないので、アイテムポケットに入れている。

 シールドバッシュか、控えのスペースを空けるために装着していただけだったが、まさかここまで役に立つとは思わなかったな。

 俺はつくづくそう実感した。そんなシールドバッシュの効果を思い出す。

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 名称:シールドバッシュ
 CP:10
【説明】
 一部の武具限定。
 発動することで対象に打撃ダメージを与える。
 また対象にスタンとふっとばし効果の可能性及び、発動瞬間高速化する。
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 まさにこの時のためにあるようなスキルだったな。だが、今後このスキルを使うことはあまりない気がするのも事実だ。

 今回の件が特殊であり、今後スキルも増えていくことから、シールドバッシュの出番はここまでだと予想できた。

 まあ、そろそろオーガについては一旦置いておこう。まだ試練は終わっていないわけだしな。

 ゴールの方を見れば、僅かにキャサリンと姫紀が縄に乗りながら、横向きに移動しているのが見えた。

 奥平は……仕方のない犠牲だったな。

 吊り橋が完全に斜めになるまでには多少猶予があったはずだが、奥平の姿が見えないことを考えると、間に合わずに奈落の底へと落ちたのだろうと予想できた。

 他にモンスターは見えないし、敵も落ちていったようだな。それなら、もう問題ないだろう。

 俺はそうは思いつつも、何かあるかもしれないとゴールを目指すことにしたが、それも杞憂に終わる。

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 第二の試練『勇気の吊り橋』コンプリート!

 獲得EP
 ・吊り橋を渡り切る+1,000EP
 ・ゴブリン撃破+10EP×22=220EP
 ・オーク撃破+30EP×8=240EP
 ・オーガ撃破+500EP
 ・コンプリートボーナス+1,000EP

 獲得合計2,960EP

【コメント】
 この試練を突破したの? 即席なのに凄いチームワークね!
 え? この試練の勇気とは何かって? それは以下の通り!
 ・吊り橋が落ちるかもしれない恐怖に打ち勝つ勇気。
 ・罠の可能性が高い宝箱を空ける勇気。
 ・貴重なアイテムを譲る勇気。
 ・強敵に立ち向かう勇気。
 その他にも、いくつか必要になった勇気があるよ。
 そういう訳で、この試練を突破した君たちは、まさに勇者だ!

 隠れボス撃破ボーナス
 ・撃破ボス名称:オーガ
 ・MVP【ルイン・セイジョウ】
 ・MVP報酬【赤鬼の小太刀】

【コメント】
 あのオーガ倒したの? えぇ~、あれは初心者ダンジョンに出てくる倒せない強敵ポジションだったのにな~。
 それを倒しちゃうなんて、バランスブレイカーだね。
 あれは、普通のオーガじゃなくて、強い固有スキル持ちでも苦戦するように創ったんだけどな~。
 まあ、苦戦した末に倒してくれたのならば、本望だよ。
 赤鬼の小太刀はマジックアイテムだから大事にしてね? 自動装着、自動修復など、基本機能はついていることはもちろん、固有能力があるから見つけてみてね。
 ちなみに所持者登録されるから、他の人は使用できないよ。奪おうなんて考えちゃだめだからね?

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 俺の目の前に、クリア画面が出現した。どうやら、キャサリンと姫紀が無事にゴールしたようだ。そして、第一試練にはなかった隠れボス撃破の項目が足されている。

 MVP報酬? あのオーガはやはり普通じゃなかったのか。何はともあれ、貰えるものは貰っておこう。

 倒して正解だったと納得しながら、俺は壊れたナイフをアイテムポケットから取り出す。そのときMVP報酬が見えたが、それは後にした。

 昨日クエストから戻ったとき、手荷物は綺麗になったが、アイテムポケットの中身は違った。試練にもそれが適応されるか分からないが、念のため出しておこう。

 そうしてしばらくすると、無事に俺は待合室へと帰還した。


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