007 盗賊を探せ

 クエストをスタートすると、俺は見知らぬ森の中にいた。

 周囲には草木が生え、盗賊が潜伏している小屋らしき建物は見つからない。

 どうやらクエストと言っても、開始早々目の前に小屋があるということにはならないようだな。

 制限時間は五時間。短くは無いが、終了まで小屋自体を発見できないというパターンもある。

 これはもしかして、探し出すことの方が難関だったりするのだろうか。

 とりあえず、俺は辺りを警戒しつつ森の中を歩き出す。ところどころに何か痕跡が無いかを探しながらだ。と言っても、俺に何かを探し出すようなスキルは無い。

 ラーニングで状況下に合わせたスキルを手に入れるという方法もあるが、ピンポイントで盗賊の小屋を発見可能とするスキルを使ってくるモンスターと出会う確率は限りなく低いだろう。

 逆に運に任せて進んだ先に盗賊の小屋があるという可能性の方が高いかもしれない。

 なるほど……もしかしていきなりクエストを失敗してしまうかもしれないな。

 今更ながらに、自分なら何でもできるような全能感に支配されていたのかもしれない。

 ラーニングという固有スキルに、クリスタルブレス。それに加えてナビ子の贔屓だ。一人森の中で何もできない状況下に置かれて、ようやく自分が先走っていたことに気が付いた。

 はは……記憶はないけど、俺は案外何も特徴のない地味な少年だったのかもしれないな。

 すごいのはスキル自体なのに、まるで自分自身が優れているような錯覚に囚われていた。死んでも生き返るという状況もそれを後押ししていたのかもしれない。

 俺は森の中で自分が思ったより何もできないことに気が付き、滾っていた炎が静まっていくのを感じていた――その時。

「ギャッ――!?」
「!?」

 棍棒を持っていた右手が反射的に動き、何か小さいものが棍棒と木の間で潰れていた。

 よく見れば、大きさはソフトボールほどであり、毛の生えた手足と尻尾が見えている……悲惨にも中央は確認できないが、おそらく小動物系のモンスターのようだ。

「た、倒した……のか?」

 気が付けば、小動物らしきモンスターは光の粒子となり、その場には魔石だけが残される。

「……まじか」

 俺は思わずそう呟きながら、魔石を拾ってスマホを呼び出すと、アイテムポケットにしまった。

 よく分からないが、運よく倒せたようだ。実際、あの場面で棍棒を触れていなかったら攻撃を受けていた可能性は高い。

 そのことに対して若干背筋が寒くなる。

 俺は森の中でなに悠長に自己反省なんかしているんだ。敵はいつどこから来るのか分からないというのに。

 唇を噛みしめて自分に言い聞かせると、俺は一層手に持っている棍棒を強く握りしめ、森の中を警戒しながら進み始めた。

 無駄な思考は邪魔だ。集中するんだ。

 集中を高めると同時に、森の中に耳を澄ませ、鼻を利かす。

 聴こえてくるのは、鳥の囀りとわずかな風の音。漂ってくるのは草木や土の香りだ。

「――だ――ぜ」
「う――だ――はや――う」

 !?

 その時、微かに俺の耳に届いたのは、確かな人の声だった。

 これはッ……見つけたかもしれない。

 およそ南東の方角から聞こえてきた話し声を参考に、俺は慎重に気配を消しながら歩き出す。身体はなるべく低くして、音を立てず、神経を鋭くしながら。

 クエストで盗賊は二名だと表記されていた。見つかって先制攻撃された場合、対処できるか分からない以上、見つかるわけにはいかないよな。

 相手は刃物を持っているかもしれないし、それ以上の手札を持っている可能性するらある。棍棒一つでどこまで戦えるか、俺は少々不安になってきた。

 こういう時に偽装のスキルをうまく活用できればよかったんだが……。

 熟練度が高ければ、自身の気配や足の音までも偽装できたかもしれないが、生憎熟練度不足であり、スキルの欄を偽装することで精いっぱいだった。

 その熟練度も、どいうやらスキル欄に表示されていなかったし、どれだけ熟練度を上げれば他のことができるようになるのか分からないんだよな。

 少々思考が脱線しつつも、すぐに頭を振って思考を切り替える。

 今はできないことを気にしても仕方がない。それよりも、この機会を逃さないために集中だ!

 集中を維持時して音のした方へ進んでいると、こちらの方が移動の速さが上回ったのか、話し声が近づいてくる。

「ついてる――肉――」
「ここ――安全――な!」

 見つけたッ!

 俺は到頭、クエスト対象である盗賊二名の発見に成功した。


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