004

 視界が戻ると、そこは体育館ほどの広さをした場所だった。作りは先ほどまでいた洞窟と同じだったが、決定的に違うところがある。それは、俺以外にも人がニ、三十人ほどいるということだった。

 

 とりあえず、俺は長剣の鞘をカード欄から出現させ長剣を収める。

 

 念のため、長剣はこのまま持っておくか。腰にぶら下げらればいいんだが、そんな仕掛けはどこにも……できたな。

 

 何となく左の腰に鞘を近づけてそう思っていると、まるで磁石のように左腰に装備され、安定しているのか長剣が滑り落ちる様子もなさそうだった。

 

 流石ゲームの世界。こういうところは融通が利く。

 

 そうして問題なく両手がフリーになると、俺はその場から移動し始める。しばらく聞き耳を立てながら歩いていると、どうやらこの空間にはあのチュートリアルをクリアした者が集まっているらしい。

 

 なるほど。ここは初心者の集まりか。だとすると、狙いはなんだ? やはり現時点でチームを組ませることだろうか。

 

 左手に装着されているリストバンドのような機械、――面倒なので適当にオルガウォッチと命名する――には、チームという項目がある。また他にも他者が必要なフレンドやチャットなどもあり、現状初心者しかいないこの空間では繋がりを得る絶好の機会と言えた。

 

 よく見れば既にチームらしき集まりがいくつかできているな。そして準備ができたら複数あるドアの一つから一つ選び、そこから消えるように集団移動、いや集団転移しているようだな。そう考えると、この先は一人だと厳しいわけか。

 

 俺がそんなことを考えていると、周囲から声が聞こえてくる。

 

「遠距離攻撃可能な方募集です! こちら現在前衛三名!」

「ヒーラーいませんか! 獲得オルガ優遇します!」

「サポート職募集! スキルによっては攻撃に加わらなくても構いません!」

「俺ちゃんチームに美少女募集! レアスキル手に入れた俺ちゃんまじ優秀だぜ!」

 

 まるでオンラインゲームのダンジョン前広場を思い出す光景だった。叫んでいる人間はどれもゲーム感覚という印象を受ける。

 

 といっても、俺も人のことは言えないか、戦闘欲を抑えられそうにないし……。

 

 そう思いつつ、しばらく歩ているが、やはり隼人はいなさそうだった。

 

 やっぱり俺よりも一日前だし、もしかしたもう先に行ったのかもしれないな。

 

 親友の安否が気になりながらも、これからどうしたものかと思考する。単独でこのまま進むか、それとも周囲の人間のようにチームを組むべきかと。

 

 だが、チームを組むとしても、俺の戦闘狂は厄介だ。仮に勝ち目のない敵と遭遇した場合、チームを巻き込むことになってしまう。下手をすれば、俺だけ生き残ってしまうというパターンがあるかもしれない。そうなれば目覚めが悪いどころではないな。

 

 やはり単独でいこうと、そう俺が思った時だった。

 

「あ、あの! ちょっといいですか!」

「ん?」

 

 緊張しつつも元気よく話しかけてきたのは、俺と歳の近そうな栗毛色をしたボブカットの少女だ。カーディガンを羽織った学生服姿なので、おそらくそうだろう。

 

「お兄さん強そうですね! もしよろしければ私のチームに入りませんか?」

 

 小首をかしげて上目遣いのそれはとてもあざとく見えた。よく見れば、少女の背後には顔の整った男が二人ほどこちらを睨んでいる。

 

 うわっ、もう姫プレイヤーいるのかよ……それに、こういう輩は苦手だ。

 

 俺は隼人の親友というポジションでいることもあり、よくこういった隼人に近づくために媚を売ってくる輩がいたのだ。それも、中には隼人が無理なら俺で妥協しようとする者までいる始末だった。自分で言うのもなんだが、俺の見た目はそこまで悪くはない。ただ隣に隼人という完璧超人がいたために、目立たず、周囲からは取り巻きAとしては合格ラインだと思われていた。

 

 まあ、そう思われていても別にどうでもよかったんだがな。

 

「あ、あのあの! どうかしましたか?」

 

 少女が瞳をうるうるさせながらそう問いかけてくる。

 

「すまない。遠慮しておくよ」

「え!? そんな! こんなにお願いしているのにだめですか?」

 

 少女がそう言って涙を流す。実にあざとい。

 

「てめえ! 俺の姫歌ひめかを泣かせたな!」

「せっかくやさしい姫歌ちゃんが誘ってくれたのに、それを断るとは、もしかしてあなたホモですか? それとあなたの姫歌ちゃんじゃないですよ!」

 

 そう言って細マッチョ系イケメンと、インテリ系イケメンが現れた。

 

 マジか……最早長剣を寄こせとかで絡まれるかもしれないと思ってはいたが、まさかこんな形で絡まれるとは思ってもみなかった……だが、人間が相手か、それも楽しそう……いや、待て、流石に人間相手はまずい。収まれ戦闘欲。

 

「見ろよ! こいつなんか震えてるぜ! とんだ腰抜けだ!」

「どうせ見かけだけでしょう。こんなやつチームに入れたところで足を引っ張るだけですよ」

 

 俺が戦闘欲を抑えていると、何を勘違いしたのかイケメン二人が失笑する。

 

「ふ、二人とも止めてください! 強い二人が睨んだら怖いに決まってるじゃないですか!」

「ご、ごめん。そうだよな。強い俺が睨んだら怖いよな」

「そうですね。姫歌ちゃんの言う通りです。弱い者いじめはかっこ悪かったですね」

 

 イケメン二人は少女、姫歌に誤った。いや、俺に謝れよ。とも思ったが、それもそれで腹が立つなと俺は思った。そして、そんな俺に姫歌が振り向くと、俺の両手を掴む。

 

「大丈夫ですか? すみません、あの二人が暴走しちゃって。本当は二人とも優しいんですけど、私のことになるとたまにああなっちゃうんです。でも、安心してください。あの二人は仲間にも優しいです! なので、やっぱりお兄さんも私のチーム、姫歌シューティングスターに入りませんか?」

「え?」

 

 姫歌シューティングスター? どうしよう。ここで笑ったら余計話が拗れるよな。耐えろ俺。

 

「見ろよ、今度は姫歌のやさしさに感動して震えてるぜ」

「あれは堕ちましたね。彼も姫歌ちゃんの素晴らしさを知ったのでしょう。今日から彼も同志ですね」

 

 イケメン二人はまたもや勘違いしていた。というか、お前らよくこれに騙されたな。これはYesというまでしばらく粘着されそうだ。

 

「本当にすまない。今は一人でいろいろ考えたいんだ。また機会があったらよろしく」

「え? ちょっとッ!」

 

 俺はそう言って姫歌の手を振りほどくとその場から駆け出した。背後からイケメン二人の罵声が聞こえるが気にしない。

 

 あれって、不良に絡まれている女の子を助けて惚れさせるの男ヴァージョンだよな。それに加え、私のために争わないでッ! を若干混ぜてきている。あの姫歌とかいう少女、なかなか姫レベル高いな。

 

 俺は過去に、ああいった姫に粘着されたことがある。隼人に近づくために、まず俺を堕とそうとしたのだ。先ほどの似たようなことは既に経験済みだった。結局あの時は隼人に助けられ、その幼馴染である美麗がその姫の本性を暴き、その株を大暴落させたのだ。その後、その姫はなんだかんだで転校していった記憶がある。

 

 そんなどうでもいいことを俺は思い出しつつ、俺はこの空間にあるドアの一つに辿り着いた。

 

 そういえば、何気に初めて戦闘欲抑え込めたな。強ければ強いほど欲求が高くなるということだし、おそらくあいつらはそこまで強くはないのだろう。

 

「待ちやがれゴラッ!」

「姫歌ちゃんに謝りなさい!」

 

 うわっ、まだ追ってきてる。

 

 この空間の広さが体育館ほどということもあり、先ほどのイケメン二人がしつこく追いかけてきていた。

 

 ああ、もう面倒だし、このままいくか。どうせ俺にはチームは無理そうだし、この際仕方がない。

 

 俺はそう判断すると、目の前にあるドアノブを掴んだ。それと同時に、文章が浮かび上がる。

 

 ミッション:チーム対抗戦

 形式:殲滅戦

 期間:二日

 終了条件:期間終了、モンスター殲滅、プレイヤーの全滅。

 勝利条件:終了時最もポイントが高いチーム。

 出場チーム数:5 現在4/5 

 説明『モンスターを倒して終了条件を満たしましょう。順位によって報酬が変化します。最下位には厳罰有』

 

「は?」

 

 その内容に思わず声を上げるが、俺視界はそのまま暗転した。


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