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それからNOを押せないまま三分経過後、俺はBADスキル【戦闘狂】を習得してしまった。

 

「はぁ……」

 

 あまりの幸先の悪さにため息を吐きながら画面を見ていると、何やら文章が複数表示される。

 

「え? まじか!」

 

 俺は思わず声を上げた。その文章には、こう記されている。

 

『初回スキルガチャでBADスキルを習得したことにより、救済処置が発動しました。初回スキルガチャをもう一度回すことができます。またBADスキルのレア度によって補正がかかります』

 

『初心者がBADスキルを習得したことにより、救済措置が発動しました。BADスキルのレア度により、スキル【初心者】の効果が上昇補正されます』

 

 どうやら初心者が詰まないように、救済処置があったらしい。ならそもそも初回スキルガチャにBADスキルを入れるなよ、とも思ったが、自分が得している以上文句はない。

 

 そもそも、戦闘狂ってそこまで酷いスキルか? ……いや、よく考えると、敵が強ければ強いほど戦いたくなるということは、いつ死んでもおかしくないということか。例えば、蟻がこのスキルを持っていて、偶然象と遭遇した場合、蟻は戦闘欲求が抑えられず、象を倒すまで止まらなくなる……まず勝ち目はないな。

 

 そう考えれば考えるほど、戦闘狂というBADスキルの効果が酷いということに気が付く。

 

 くそ、だがもうなってしまったことは仕方がない。救済措置でもう一度回せるんだ。そこに賭けるしかない。

 

 俺は、そう自分に言い聞かせると、救済措置によってもう一度回せるようになった初回スキルガチャに全てを賭ける思いで挑む。そして、先ほどのようにアニメーションが始まり、カプセルが排出される。排出されたカプセルは、七色に輝いていた。

 

「虹……色……」

 

 思わずそう口にした瞬間、虹色のカプセルが開かれる。出てきたカードのイラストには、平凡な男が倒したドラゴンの上に座り、その肉を喰らっているものだった。その内容はこう記されている。

 

 名称:格上喰い

 レア度:URウルトラレア

 種類:特殊

 効果

『自身より格上の敵を倒した際、倒した敵の優良スキルをランダムで一つ取得することができる』

 

 ある意味、強い敵ほど戦闘欲が増す【戦闘狂】のスキルと相性が良いな。まさか、BADスキルのレア度によって補正がかかるとはいえ、ここまで凄いスキルが手に入るとは思わなかったが、現状では何も変わらない。強敵に無謀にも戦いを挑んで簡単に捻り潰されるかもしれない。仮に運良く倒せたとしても、俺は強敵に出会うたびに戦いを挑むことになる。俺、結局いつか死ぬかもな……。

 

 強力なスキルを手に入れたとはいえ、俺は素直に喜ぶことができなかった。

 

 そういえば、BADスキルは強制的に習得させられたが、今回は違う気がする。ガチャからカードで出てきたということは、カードの項目か。

 

 そう思い、俺はカードの項目をタップすると、そこには【格上喰い】のカードが追加されていた。俺は迷わずそれを選択して習得する。続けて、そういえば救済措置で【初心者】のスキルが強化されたことを思い出し、スキルの項目に移動して確認をした。

 

 名称:初心者

 レア度:SR

 種類:特殊

 効果

『このスキルを所持している限り、以下の特典を得る。

1.一日三度初心者ガチャを使用することができる。

2.モンスター撃破時に獲得するオルガが五倍になる。

3.他のプレイヤーからの攻撃を無効化する。ただしこちらから攻撃した場合はその限りではない。

このスキルは所持してから六日後に自動消滅する』

 

 

 レア度が【戦闘狂】と同等まで上がり、初心者ガチャが一日一回から三回に、獲得オルガが三倍から五倍に、自動消滅までの日数が三日から六日にと、想像以上に強化されていた。

 

 期間限定とはいえ、非常に強力なスキルだな。救済措置にしては過剰すぎる気がするが……もしかして、普通に強力なスキルを手にするよりも、BADスキルを最初に手に入れたほうが優遇されるようになっているのか? このゲーム、邪神オルガが開催したらしいし、あり得るかもしれない。

 

 そんなことを思いつつも、俺は画面をガチャの項目に移動させる。すると、先ほどまであった初回スキルガチャの項目が無くなっていた。

 

 まあ、初回限定だから仕方がないか。それよりも、現状回した方がよさそうなのは回しておこう。

 

 俺はそう思い、初心者ガチャを三回、無料ガチャを一回することにした。その結果は、全て白色のカプセルで、初心者ガチャからは二リットルの水が一本、毛布が一枚、ライターが一つ手に入り、無料ガチャからはステンレスのフォークが一本だけだった。因みに四つ全てがレア度Cコモンとなっている。

 

 スキルの時と比べて酷い格差だな。まあ、普通はこんなものか。それと、無料ガチャは一日一回だけのようだ。

 

 そんなことを思いつつガチャを終えると、画面を一つ戻し、続いてフレンド、チーム、チャットと順番に選択していくが、現状何も表示されなかった。

 

 とりあえず、今やれることは大体やったわけだが……行くしかないよな。

 

 俺はため息を吐くと、部屋を出るためにドアに近づいた。

 

 ◆

 

 ドアに近づくと、ドアノブの上に数字で『10』と表示されていることに気が付いた。

 

 この数字は何だ? いや、ここで数字っていうことは、オルガしかないか。つまり、最初に全てオルガを使い切ったやつは部屋から出ることもできず息絶えるということだろうな。

 

 俺はそう思いながらドアに手を触れる前に、カードの項目からステンレスのフォークを選択する。

 

「ッ!?」

 

 その直後、目の前に浮遊した状態でステンレスのフォークが現れ、数秒後に床に落ち音を鳴らした。

 

 出てくることは分かっていたが、思ったよりも驚いたな。

 

 俺は床に落ちたステンレスのフォークを拾う。

 

 どういう原理か不明だが、これって一度出したらもう戻せないのだろうか。

 

 俺がそう思うと同時に、ステンレスのフォークが突然手から消え去る。

 

「もしかして」

 

 俺はそう呟いてカードの項目を確認すると、そこには問題なくステンレスのフォークが戻っていた。

 

 おお! 戻せるのか。ならこの部屋にあるものはどうだろう。

 

 俺はドアから離れ、部屋にあるものを適当に拾い、『戻れ』『カードになれ!』『収納!』などと念じてみるが、何も起こらなかった。

 

 戻せるのはカードだけか。ということは、無駄に部屋の物を持って行っても荷物になるだけだな。まあ元々使えそうなものはなかったが。

 

 そうして再びステンレスのフォークを取り出すと、俺はようやくドアに手を付け、深呼吸しながらもゆっくりと開く。その時、何かが体から減っていく感じがしたが、おそらくドアの上に表示されていた『10』という数字分だけ所持オルガが減ったのだろうと納得した。

 

 ここ、マジでどこだよ……。

 

 そして、部屋を出て最初に俺はそんなことを思う。目の前には、まるで洞窟内部のような空間が広がっていた。縦横五メートルと広く、壁には光る石が等間隔で埋まっており、思ったよりも明るい。背後には出てきたドアと同じものが場違いのように、そこにはあった。ドアノブの上には同じく数字で『10』と表示されている。

 

 ドアの向こうが洞窟の中って、おかしいだろ。くそ、幸いあの部屋には戻れそうだし、そこを拠点に少しずつ行くか。

 

 俺はそう思い、まずは時間を確認する。時刻はAM7時43分。9時には戻ってこようとそう決めた。そうして、ステンレスのフォークを手に、洞窟内を慎重に歩き始める。ドアが行き止まりにあるので、正面に進むしか道はない。


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