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「なあ、オルガゲームって知ってるか?」

「オルガゲーム? なんだよそれ?」

 

 俺、風音緋人かざねあかひとが教室で一人突っ伏していると、不意にそんな話声が聞こえてきた。

 

「何でも、邪神オルガってのが開催するデスゲームのことらしい」

「はっ、それ何のラノベだよ」

 

 真剣に話す声と、それを馬鹿にしたような笑い声が俺の耳に届く。

 

「いや、これがマジっぽいんだよ。不自然に人数の少ないクラスとかあるだろ。あれはオルガゲームに参加させられたかららしい」

「らしいって……しかもそれって連れていかれた奴がみんなの記憶から無くなっているのか? だとしたら、その情報元の奴はなんでそれを覚えているんだよ」

 

 その疑問は当然だと、盗み聞きしている俺も思ってしまった。

 

「はは、そりゃ、例外で記憶に残る奴がいるからさ。これを見てくれ」

「これは……何かのチケットか?」

 

 俺はそのチケットというものが気になり、突っ伏した状態から声のする方へと首を動かすと、クラスメイトである葛間の手には、禍々しい黒紫のチケットを持っていた。

 

「ああ、オルガゲームの参加チケットさ。これで指名したやつを強制参加させることができる。そして、指名した者と指名された者は、例外で記憶に残るってわけだ」

「お前……いくら何でも中二病過ぎるだろ……だが、そのチケットを俺には使わないでくれよな」

 

 チケットを持ったクラスメイトは、口角を上げて当然とばかりにうなずく。

 

「当たり前だろ。そんなもったいないことができるか。これがいくらしたと思っているんだよ。これはそう、消えてほしい奴に使うんだ。それに、あと二枚しかないしな」

「どう考えても騙されているだろそれ……」

 

 俺も騙されていると思ったその時、チケットを持ったクラスメイトと目が合った。そのクラスメイトは、何故か嬉しそうに俺に向けてチケットをひらひらと見せつけるように軽く振った。

 

「いいや、これは本物さ。だって既にこのクラスから一人消したからな」

「は? 嘘だろ?」

「はは、よく考えてみろ。一組と三組は二六人。そしてその中間であるこの二組は、何故か二十五人だ」

 

 それを聞いて確かにこのクラスだけ一人少なく、また使用されていない机と椅子が何故か一つずつある。

 

「ぐ、偶然だろ……」

「いや、偶然じゃないさ。明日になれば、このクラスの人数はまた一人減って二十四人になるはずさ」

 

 俺はこの時、理由はないが、嫌な予感がしてならなかった。

 

「ま、まじかよ……」

「ああ、明日だれが消えたか当てみろよ」

 

 その日は、それ以降特に何もなく帰宅し、教室でのことなど忘れて眠りにつく。だが、次に目が覚めると、それは起こる。

 

「え?」

 

 まず見えたのは知らない天井だった。そこに点滅している蛍光灯と、自分の周りを囲っている役割をほとんど果たせていない千切れたカーテン。

 

 ここはいったい……。

 

 起き上がれば、汚れていて今にも朽ちそうなベッドに寝ていたことに気が付く。そして、周りを見渡せば、割れた瓶が詰められた棚に、机と椅子。まるで保健室か診察室といった名称が脳裏をよぎった。

 

「え? 制服?」

 

 更に、身に着けているのは寝間着ぎではなく、高校指定の学ラン。着替えた覚えなど一切なかった。

 

 まじでどこだよ! なんで俺こんな場所に……。

 

 そこで思い出すのは、昨日の出来事、教室で盗み聞きした話。

 

「お、オルガゲーム……」

 

 邪神オルガが開催したというデスゲームだった。

 

 嘘だろ……あいつの言葉ってマジだったのか……だとしたら、俺は何か恨まれる様なことしたか? いや、記憶に……あ……。

 

 その瞬間、俺の脳裏にある人物が浮かび上がる。それは、神崎隼人かんざきはやとという俺の親友だった。

 

「そんな……どうして俺は……」

 

 昨日まで、親友のことなど記憶の片隅にもなく、教室から消えていることに何の違和感すらなかった。つまり、隼人は俺よりも先にこの場所に送られていたことになる。

 

 そうか、くそ、狙いは美麗か。

 

 俺は基本、親友である隼人といつもつるんでいたが、その隼人には篠崎美麗しのざきみれいという幼馴染がいた。なので、結果的に三人でいることが多く、俺と隼人が消えれば、美麗が完全なフリーになると思ったのだろう。

 

 だが、隼人がいなかった昨日、美麗は俺に話しかけることすらしなかった。つまり、そういうことだろう……。

 

 知らない方がいいことも、世の中にはあるんだなと思いつつ、俺はベッドから降りて立ち上がる。幸い靴はあり、履きなれたスニーカーだった。

 

 とりあえず、俺は隼人のおまけでこの場所に送られたようなものだよな。だが、これで隼人を恨むのはお門違いだ。まずは、状況を確認して、きっとどこかにいる隼人と合流することが第一だよな。

 

 思ったよりも冷静・・に判断できた俺は、とりあえず状況確認のために、部屋の中を見て回ることにした。

 

 この部屋は保健室みたいだな。けど、棚や引き出しには使えそうなものは何もない。それに窓もなく、出入り口は木製のドアだけだ。

 

 ある程度物色を終え、危険が無いと判断すると、次に気になっていたものに視線を移す。それは、いつの間にかつけていた腕時計。それもリストバンドのようになっており、全体が液晶画面となっている。画面には、現在の時刻なのか、AM7:13と表示されていた。

 

 これって、たぶんただの腕時計じゃないよな。

 

 そう思って液晶外面の右上に表示されているボタンらしきものをタップすると、液晶画面の表示が変わる。

 

 ・時刻表示

 ・オルガ

 ・カード

 ・スキル

 ・ガチャ

 ・フレンド

 ・チーム

 ・チャット

 

「え?」

 

 カードやスキル。それにガチャという項目に、俺は思わず間抜けな声を出してしまう。

 

 まるでゲーム……いや、そもそもオルガゲーム・・・っていうのに参加させられているんだったな。

 

 俺はそう納得すると、時刻表示はわかっているので、まずはオルガという項目をタップした。すると画面が変わり、文面が現れる。

 

『オルガはあなたの命であり財産。全てを失えば死が待っている。常に余裕を持つことをお勧めする』

 

 その文面を読み終えると、画面が再び変わり、そこには『500』と表示された。

 

 なるほど。何となくルールが分かった気がする。オルガという通貨を使用して状況を有利にしつつ、オルガを如何にして集めるかということだろう。全部失えば文字通り死亡する。細かいことはまだわからないが、現状この500オルガはなるべく節約したほうがいい。

 

 俺はそう納得すると、次にカードという項目をタップするが何も表示されなかった。

 

 何も表示されないな。つまりまだ何も所持していないということなんだろう。

 

 そう思いつつ、次にスキルをタップすると、ようやく画面が変化した。

 

『特殊』

【初心者】

 

 初心者? 確かに、今日このゲームに巻き込まれたばかりだが。

 

 俺はとりあえず初心者の項目をタップすると、内容が表示された。

 

 名称:初心者

 レア度:Cコモン

 種類:特殊

 効果

『このスキルを所持している限り、以下の特典を得る。

1.一日一度初心者ガチャを使用することができる。

2.モンスター撃破時に獲得するオルガが三倍になる。

3.他のプレイヤーからの攻撃を無効化する。ただしこちらから攻撃した場合はその限りではない。

このスキルは所持してから三日後に自動消滅する』

 

 おお、思っていた以上に凄い効果だな。それに、かなり情報が手に入った。特に、モンスターを倒せばオルガが手に入るということだろうか。つまり、このゲームには命を脅かすモンスターがいるということであり、簡単に死なれないために初心者ガチャということだろう。他にも、俺と同じようにゲームに参加させられた者、プレイヤーにも気を付けないというけないことが分かった。

 

 俺はそう理解すると、先にこのゲームに参加させられている隼人は大丈夫だろうかと心配になりつつも、左上にあるボタンをタップして画面を戻し、次にガチャという項目をタップすると、それは表示された。

 

 ・初回スキルガチャ

 ・初心者ガチャ(10)

 ・無料ガチャ

 ・通常ガチャ(100)

 ・食料ガチャ(30)

 ・11連ガチャ(1000)

 ・特殊ガチャ

 

 なるほど。おそらく横の数字が値段だろう。全財産が500オルガということを考えると、通常ガチャの値段が高く感じる。だからこその初心者ガチャというわけか。それと、特殊ガチャの項目は灰色だが、現在は使用できないということだろうか? 

 

 試しに特殊ガチャの項目をタップするが、やはり反応が無い。

 

 特殊ガチャは何か条件を満たさないと選択できないみたいだな。となると、次に気になるのはやはり初回スキルガチャか。何となく、この結果によってプレイヤー間での優劣がつきそうな気がするんだよな。現状何が起こるか分からないし、いいスキルを引いておきたい。

 

 俺は緊張しつつも、思い切って初回スキルガチャをタップした。すると確認ボタンが表示され、俺は問題ないとYSEをタップする。

 

 すると、突然画面が切り替わり、アニメーションが再生された。それはドーム状のガチャガチャであり、上部のガラスの中には様々な色をしたカプセルが見える。そして右部分にあるレバーが引かれると、中央の排出口からカプセルが一つ転がるように排出された。

 

「え?」

 

 出てきたカプセルは、黒く、また邪悪なオーラのようなものを纏っている。明らかにハズレだと俺が直感した瞬間、カプセルが開かれた。

 

「まじかよ……」

 

 邪悪な光の演出と共に現れたのは、一枚のカード。イラストと思われるところには、赤く光る両目と、赤いオーラに包まれ、体は全身返り血で真っ赤に染めた狂戦士が描かれていた。文章面には、こう表記されている。

 

 名称:戦闘狂

 レア度:SRスパーレア

 種類:BAD

 効果

『戦闘欲求が高まり、対象の敵が強ければ強いほどその欲求が増す。戦闘に対する恐怖心、痛覚、罪悪感が麻痺する。また戦闘センスが向上し、強敵の戦闘中感覚が研ぎ澄まされる』

 

 それを確認した瞬間、続けて文字が表示された。

 

『BADスキルは強制的に習得されます。キャンセルにはオルガを支払う必要があり、値段はそのBADスキルのレア度によって変わります。レア度がSRである【戦闘狂】のBADスキルをキャンセルするためには、100.000オルガ必要です』

 

「は?」

 

 俺があまりの出来事に思考を停止すると、画面が切り替わり、カウントダウンが始まる。因みに与えられた時間は三分だ。画面には、『100.000を支払いますか?』という文面と、YESとNOが表示されてはいるが、100.000オルガなど持っているはずはなく、YESの部分は灰色になっていた。つまり、キャンセル不能。俺はこのBADスキルを受け入れるしかなかった。


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