それにしても、あの女性の作戦は英雄願望のあるプレイヤーが、面白いほどよく引っかかったのだろうな。
先ほどの集団、VRMMO風で言えばPK集団のことを思い出しながら、俺は森の中を進む。
そういえばあの集団、プレイヤーネームが赤くなっていたが、おそらくあれは犯罪者の証なのだろう。一応、俺のも確認してみるか。
そう思い、俺は一時的に偽装を解いて、プレイヤーネームを表示させる。そこには、問題なく青色の文字で、『レト・キサラギ』と表示されていた。
どうやら、PK集団を倒したとても、犯罪者にはならないようだな。それに、あのゴブリンプレイヤーを死に戻りさせたことについても、特に問題はないらしい。おそらく、魔物のプレイヤーをいくら倒したとしても、犯罪者になることはないのだろう。町の入り口での出来事を思い出しても、おそらくそれは間違いではないはずだ。
そのことに対して魔物のプレイヤーは不遇だなと思いつつ、俺は再び偽装でプレイヤーネームを隠した。
◆
あれからしばらく森の中を進みつつ、現れる魔物を倒していると、俺はあることに気が付く。
今更だが、この世界の生態系、いったいどうなっているんだ? さっきから、数種類しか魔物が出てこないのだが……。
ゲームの世界だからというのは分かっているものの、出てくるのは基本的にホーンラビット、スライム、ゴブリンの三種類だけだった。
……これは、どう考えても初心者エリアだ。やって来る方を向間違ったか。いや、そもそも、邪神がわざわざ初心者エリアを追加で作るのか? 町の周囲で足りているはずだ。
そう思いつつも、俺が来た道を変えようと方向転換しようかと考えた瞬間、突如として目の前に半透明の青い壁が出現した。
な、なんだ? さっきまでこんな壁は見えてなかったはずだ。
思わず近づいて左右を確認すると、同じように半透明な青い壁が、どこまでも続いているように見える。高さも同様に、その果てが見えそうにはない。
この壁は、この世界の端を意味しているのか?
そう警戒しつつ、俺は近くにあった石を拾って投擲してみるが、壁には特に変化は起こらず石は跳ね返って地面に転がる。
なるほど。簡単に想像できることではあるが、おそらくこれは破壊できないものだろう。ここは諦めて、別の道を行くしかないな。
俺はそう判断すると、そのまま右方向へと壁に沿って歩き始めた。
◆
≪一定の経験値により、通常スキル『魔力操作』を取得しました≫
「ん?」
道中影魔法でゴブリンを仕留めていたところ、突然脳内へと機械的な声が聞こえてきた。
え? この世界のスキルというのは、こんなにも簡単に手に入るものなのか? いや、逆に俺と同じくらい魔法を扱えていなければ、そう易々と取得できないものと考えると、意外と妥当なのだろうか?
俺はそんな風に若干驚きながらも、VRMMO風ならもしやと思い、ステータスと念じてみると、半透明なそれは突如として、目の前に出現した。
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名称 レト・キサラギ
種族 ヴァンパイア
通常スキル
【吸血1】【霧化1】【影魔法3】【再生1】
【浮遊1】【偽装10】【精神耐性5】【魔力操作1】
【未設定】【未設定】【未設定】【未設定】
【未設定】【未設定】【未設定】【未設定】
【未設定】【未設定】【未設定】【未設定】
特殊スキル
【聖魔法1】【状態異常耐性5】【豪運10】【未設定】
【未設定】【未設定】【未設定】【未設定】
【未設定】【未設定】
称号
【真祖】
___________________
流石VRMMO風ということだけはある。俺のいた異世界では、こんな風にステータスを呼び出すことはできなかった。
そう思いつつ、俺はステータスを確認すると、キャラクターメイキングの時にあった未設定が一つが無くなり、その代わりに魔力操作1が増えていた。
やはり、未設定の数だけスキルを取得することができるのだろう。つまり、キャラクターメイキング時に選択した拡張チケットのおかげで、俺は他のプレイヤーよりも多くのスキルを手に入れられるということだ。
俺はキャラクターメイキングの時に、約三分の一のポイントを拡張チケットに費やしており、通常スキルは+10枠で、特殊スキルは+7枠増えている。
これは、最高のアドバンテージだ。いくら俺が異世界帰りだとしても、世の中にはチートと呼べるほどの奴は必ずいる。おそらく、この世界にもいるだろうし、これから戦う多世界にもいるはずだ。だから、強くなる材料はいくらあっても足りない。
散々、そのことを異世界で思い知らされていた俺は、強くなることに対して妥協はなかった。
停滞は死を意味する。生きたければ、進み続けるしかないのだから。
俺は、その教訓を胸に、ステータスの確認に戻る。
さて、それと、いつの間にか影魔法もLV3になっているな。やはり、経験や知識などがあれば、その分LVの上昇も早いのかもしれない。そして次に魔力操作については、名称からして効果は簡単に判断できるが、一応その効果も確認しておくか。おそらく、これもステータスのように効果を呼び出せるだろう。
俺がそう思い魔力操作の効果を呼び出すと、ステータスのようにそれは目の前に出現した。
名称:魔力操作
効果:魔力の扱いがしやすくなる。
……やはり、簡単に判断できたな。
キャラクターメイキング時にも、実はスキル効果を確認することができるのだが、どれも名称から想像できるものであり、例えば影魔法の場合は、『影魔法が使用できるようになる』という、普通のプレイヤーからすれば、実質効果が不明のようなものであり、状態異常耐性の場合には『状態異常に耐性ができる』という適当なものだった。
明らかにスキル説明は手抜きだよな。いや、あえてそうしたのか? まあ、使用した時の感じからして、特に問題は無く、俺としては別に構わなかったが。それと、因みにだが、唯一称号である真祖だけは、しっかりと効果が説明してあった。それがこれ。
名称:真祖
効果:種族がヴァンパイアの場合、全てのバッドスキルを無効化し、ステータス上から消し去る。また全能力が上昇する。
これを見てチート能力を与えられたかと思うかもしれないが、そもそも異世界ではこれが普通だった。元々持っていた特性が称号になっただけなので、邪神がわざわざくれたものではない。むしろ、一度能力を全て剥奪されて、スキルをゼロから選択させられた分、かなり弱体化してしまった。それでもどういう訳か、真祖という特性までは剥奪できなかったのだろう。
俺は、真祖という本来持っていた特性まで剥奪されなかったことに安堵した。真祖の効果が無い場合、弱点だらけのヴァンパイアでは生き残るのは厳しく、いつか破滅していたかもしれないと思ってしまうほどだ。
しかし、日本に帰るためとはいえ、かなりの力を失っていたからな。それが影響して邪神にしてやられたが、幸い真祖の効果が残っていただけでも、良しとするしかないか。
そうして、俺が称号やスキルに関して色々と考えていると、いつの間にか周囲には、プレイヤーの姿をちらほらと見かけるようになってきた。
もしかして、この近くに村か町でもあるのかもしれないな。そろそろ日も暮れそうだし、一度行ってみるか。宿はともかく、食べ物は美味いものを食べたいし。
そう考え、俺はプレイヤーの数を頼りに、先へと進んでいく。しばらくすると森を抜け、立派な木の柵に囲まれている村を発見した。
なるほど。プレイヤーによっては、この村からのスタートだったわけか。物品の品揃えとかを考えると、おそらく前に立ち寄った町からのスタートの方が、プレイヤーとしては有利だったのだろう。
そんなことを考えつつ、俺が村の門に近づくと、そこには槍を持った門番が二名立っており、横には町で見た石板が台座へと置かれいた。
この石板、人が住んでいるところなら、おそらくどこにでもあるのだろうな。
とりあえず、俺は村に入るため、列に並んで順番を待ち、自分の番に石板へと右手を乗せると、以前と同様に石板は青く光り、何事もなく村にへと入る。門番も見慣れた光景なのか、特に何も言うことはなかった。
この世界の住民、この判別システムを信用しすぎているのではないかと、そう思うのだが……まあ、一応そのおかげで、ヴァンパイアである俺も村に入れるのだから、別に気にしなくてもいいか。
そうして、無事に村に入ることができた俺は、とりあえず食事が摂れるところを、まずは探すことにした。
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