006 プレイヤー狩り狩り

 結局、町では死に戻りの復活地点を変更しなかったな。しかし、別にあの町を拠点にするつもりはないし、そう頻繁にいくつもりもないから別にいいか。

 そんなことを思いつつ、街道を歩いていると、周囲には魔物を狩るプレイヤーが数多くいた。

「くらえ! ファイアー!」

 あるプレイヤーは手の平から火を放ち。

「止めだ! スラッシュ!」

 あるプレイヤーは剣速を向上させ敵を斬りつけている。

 これは……酷いな。まるで能力のごり押しだ。

 効率や技術を無視したそれに、俺はあることに気が付く。

 やはり、素養のない者に無理やりスキルを使用可能にさせ、ある程度の補助だけをするのか。だからこそ、プレイヤーたちの粗雑な使い方でも、スキルは最低限発動することができる。だが逆に言えば、あのままではいずれ限界が来ることも確かだ。

 実際に異世界で戦ってきた俺は、LV1の影魔法でも様々な技を発動することができる。つまり、知識や技術力が無ければ、いくらスキルのLVを上げたとしても、効率の悪いスキルもどきでは、正直意味がない。

 だが、スキルLVが低ければ、まるで制限がされているかのように、スキルの扱いが難しくなり、効率や威力も落ちてしまう。つまり、スキルとは補助であり、LVは制限でもあるということだ。

 スキルに関してそう答えを出した俺は、歩きながらも人が減ってきたところで、街道を逸れて近くの森に入る。

 思えば、分からないことだらけだよな。普通のゲームとかならば、当然チュートリアルがあるはずだ。しかし、邪神はそれをあえてしなかったのだろう。

「ん? シャドーバインド」
「ギギ!?」

 そんなことを考えていると、目の前にゴブリンが唐突に現れたので、俺は影魔法を使ってとっさに縛り付ける。

「一応確認だが、プレイヤーじゃないよな?」

 ゴブリンの見た目がプレイヤーである白星銀河とほとんど変わらなかったため、俺は一応そう声をかけた。

「ギギガア!」
「これは、普通の魔物だな。シャドーウィップ!」
「!?」

 影を鞭のように振るい、ゴブリンの首を飛ばすと、瞬く間に光の粒子へと変わり、その場には、ゴブリンの腰巻だった汚れた布だけが残る。

 VRMMO風ということだけあって、魔物を倒すとアイテムをドロップするのはいいのだが……正直、これはいらない。

 そう思いつつ、ドロップした腰巻に近づくと、それは鼻の曲がるような異臭を放っていた。

 このまま捨てていくべきか……いや、逆にこれだけ汚れていれば、聖魔法の練習になるかもしれないか。

 俺は顔を若干引きつらせつつも、ゴブリンの腰巻に手を向け、浄化魔法の一つを唱える。

「クリーン!」

 すると、その言葉と同時に、ゴブリンの腰巻が淡く光ったかと思えば、そこには汚れが一つもない、真っ白な布だけが残った。

 よし、特に問題はなさそうだ。しかし、まさか本当に聖魔法を使える日がやって来るとはな……。

 異世界で聖なる属性の魔法というものは、ヴァンパイアという種族故に散々見る機会はあったし、この身に受けたことも一度や二度ではない。だからこそ、俺は初めてでも聖魔法を使うことができた。

 異世界では、適性のない属性は使うことができないからな。そう考えると、聖なる属性を扱えるヴァンパイア……すごい存在かもしれない。

 そう思いながらも、きれいになったゴブリンの腰巻を、俺は親指と人差し指で摘まんで、ストレージの中へと放り込んだ。

 さて、こんな風に自分のできることを少しずつ確認しながら、この世界にはいったい何があるのか、いろいろと散策しつつ、いずれ来る他の世界との争いに備えて、今後しっかりと鍛えていくか。

 俺がそう決意した瞬間――

「た、助けてええ!!」
「ん?」

 なにやら、女性が助けを叫びながら、こちらに向かって必死に走ってくる。その後ろには、ガラの悪い三人の男が笑い声を上げながら追いかけてきていた。

「俺たちと遊ぼうぜ~!」
「ほらほら、必死に走らないと追いつくぞ!」
「ヒャッハー! 今日はパーティだ!」

 くそ、面倒だな。それに、こういうのは助けるにしても、まずは気を付けたほうがいい。

「助けてください!」

 そう言って女性が俺の背後に隠れ、男三人が俺を取り囲んだ瞬間、俺は女性の手を捻り上げた。

「イギッ!?」

 女性の手には、いつの間にかナイフが握られていた。しかし、当然それは地面へと落ちていく。

「そんな今から刺しますって殺気を出してたら、バレバレだぞ?」
「クッ」

 女性は悔しそうに俺を睨んでくる。だが、その瞳には恐怖が浮かんでいた。

「あいつ声、きっと女だぜ!」
「だが、そうぞ以上に強そうじゃねえか!」
「だから俺はNPCは止めようって言ったんだ!」

 男たちはどこか逃げ腰気味に、そう口汚く口論をし始める。しかし、俺がプレイヤーネームを偽装で隠していることには気が付かず、どうやらNPCと勘違いしているようだった。

「た、助けなさいよ! もういい思いさせないわよ!」

 見捨てられるかもしれないとそう焦った女性は、必死に男たちに向けて助けを叫ぶ。すると、先ほどまで逃げ腰だった男たちは、よほどそのいい思いが重要なことだったのか、三人の男たちは覚悟を決め、俺に対して武器を向ける。

「く、くそ! 三人がかりで行くぞ!」
「「お、おう!」」

 結局、こうなるのか。

「シャドーニードル」

 襲い掛かってこようとした男三人に、俺は影魔法を発動させた。それぞれの影から無数の棘が出現し、それはなすすべなく、男三人を串刺しにする。当然三人とも死に戻りをして、アイテムなどを周囲にまき散らしていった。

「ひ、ひぃいいいい!!」

 その光景を見た女性は叫び声を上げると、恐怖から惨めにも、その場で尿を漏らし始める。

「うわっ……」

 俺は思わず、反射的に女性から距離を取った。

「こ、殺さないで! あの男たちに騙されていたの!」

 先ほどの言動からして当然嘘だろうと、俺は命乞いをしながらすり寄ってくるそれに対して――

「そういう情けは、等の昔に捨てたんだ」
「えッ―?」

 俺はそう言って、シャドーネイルを発動すると、女性の首を斬り飛ばした。当然、女性は光の粒子となり、死に戻りをしていく。

 ……プレイヤーでまともなやつは、どこにもいないのだろうか。ああ、もちろん、俺も含めてのことだ。

 俺は独り言のようにそんなことを思いつつ、周囲に散らばっているドロップアイテムを、一人淡々と集め続けた。


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