003 血の誘惑と美少年

「助カッタゼ!」
「そう、こっちはいい迷惑だった」

 ゴブリンのプレイヤー、プレイヤーネーム白星銀河シラボシギンガを縄から解く。

「アー、キャラクターメイキングノランダムノセイデ、酷イ目ニ合ッタケド、ソレ以上ニ、超カワイイヒロインマジキタコレ!」
「……何言ってんだお前?」

 よく聞き取れなかったがおそらくこいつは、俺が都合よく現れたヒロインなのだと、そんなふざけたことを言っているようだった。

「アア、喋リハ、バッドスキルノセイダ。ランダムダト、バッドスキルモ出テクル。マジツイテネェ」
「いや、そっちの意味じゃないのだが……」

 どうやら自分を特別の存在だと思っているのか、都合よくそう解釈しているようだった。

「助ケテクレタシ、オ礼ヲスルゼ!」
「別に要らないけど」

 というかこいつ、盗賊に取られて今は何も持ってないだろ。もしかして、仲間になるとかいうんじゃないだろうな。

「遠慮スルナ。返セルモノハ、体シカナイ――」

 やっぱり仲間になるとか、そういう奴だろこれ……。

 俺がそう思った瞬間、白星銀河はとんでもないものを俺へと突き出す。

「ダカラ、快楽スキルデ気持チヨクシテヤル!」

 白星銀河はそう言うと、薄汚い腰巻のパンパンに膨らました部位を、見せつけるかのように指さした。

「――ッ!! 死ねッ!」
「エッ――」

 その瞬間、顔面に放った俺の渾身の右フックは、その醜い顔を首ごと千切り飛ばす。当然白星銀河は死に戻りして、光の粒子のように消え去った。

「変態確殺ッ!」

 俺は憎しみを込めてそう叫んだ。

 ◆

 あのクズがどうしてあの思考に行きついたのか、とてもではないが理解することができない。そうすれば俺が喜ぶとでも思ったのか? 仮にチョロイ女だとしても全力で引くだろ。

 俺がそう憤りを感じていると、どこからともなく人の声が聞こえてくる。

「おーい! ちょっと来てくれ! 家から出ると燃え尽きるんだ!」
「ん?」

 耳を澄ますと、あの灰になった美少年の声が聞こえた。場所はあの時出てきた家からだ。

 一応あの美少年のおかげで助かったわけだし、行ってみるか。それに、十中八九同類だろう。

 そんな思いから俺は美少年のいる家に入り、日の光が入らないようにドアを閉める。

「いやー、まさか日光耐性1じゃ数秒が限界とは思わなかった」
「ということは、お前はもしかして……」
「ん? ああ、そうだよ。俺はヴァンパイアさ!」

 美少年は両手を腰の添えると、勢いよくどや顔でそう言った。

「そうか。それはご愁傷様」
「え?」

 俺はヴァンパイアの弱点の酷さは理解しているので、つい同情してしまう。

「いや、さっき燃え尽きるところ見たからね」

 だとしても、わざわざ自分が同類と言う気はさらさらない。異世界での同類には、嫌な思いでしかないからな。

「そ、そうか。けどまあ、あのヴァンパイアだぜ! 強くなれば最強に決まっているじゃないか! 魔物、いや魔族の貴族だぞ!」
「貴族って……」

 イメージというものは凄い。だが、それは人間全体でみれば貴族が少ないように、普通のヴァンパイアはとても貧窮している。日が出ているうちは夕方でも危険だし、人間の血、妥協して人型生物の血が無ければ発狂して理性を失う。そして、人間はヴァンパイアを見れば、まるでゴキ〇リを発見した時のように全力で殺しに来る。ほとんどのヴァンパイアは、とても貴族のような暮らしは望めない。

「まあ、今はこんなのだが、いずれは凄いぞ! それでだが、実は声をかけたのには頼みがあるからなんだ」
「頼み?」

 偶然とはいえ、あの時チャンスを作ってくれたことだし、簡単な頼みならば聞くのもやぶさかではないが。

「ああ、血を吸わ――ぐぶぁらッ!?」
「変態がッ! 死ね!」

 吸血鬼の美少年は、俺のローキックを食らって床に勢いよく転がった。流石はヴァンパイアだけに頑丈でまだ息をしており、それもわずかな時間でヴァンパイアの再生能力によって復活する。

「ひ、ひどいじゃないか……た、確かに、ヴァンパイアが血を吸うというのは卑猥に聞こえたかもしれないけれど、こっちも切実なんだ! 死に戻ってから喉の渇きが止まらないんだよ!」
「……なるほど、わかった。ならば血を用意しよう」
「おお! 吸わせてくれるのか! 暴力系ヒロインは無いと思っていたけれど、このデレのギャップが素晴らしいッ!」
「いや、吸わせないし、デレてもないだろ……」

 吸血鬼の美少年は何故か一人で舞い上がっているが、俺はそう口にした後、一人外に出る。

「お、おい! どこに行くんだ! 話が違う……え?」
「ほら。死んだばかりで活きがいいぞ。時間が経てば鮮度が落ちるから、今なら吸い放題だ」

 そう言って、俺は盗賊の死体を一体床に置く。

「冗談だろ……お、俺は、初めてがこんな汚いおっさんとか、ぜ、絶対に嫌なんだが……」

 吸血鬼の美少年は絶望したような表情で、どもりながらもそう反論をする。 
 だが、それを無視して、俺はあえて可愛らしい声でこう言った。

「汚いおっさんで吸血童貞卒業だね! ほら、早く吸ってよ!」
「ひ、酷すぎる……かくなる上は……」

 その瞬間、吸血鬼の美少年は唾をのみ、ギラついた目で見つめてくる。

「じゃあ、外で待ってるから」
「ちょっ!」

 しかし俺は危険を察して、即座にヴァンパイアの美少年を一人残して外に出る。背後からは嘆きの叫びが聞こえたが、気にすることはない。ヴァンパイアに対する血を吸わせてくれというのは、それほどまでに重いのだ。いや、これでもとても軽くしている。知らなかったとはいえ本来の意味は、「俺の子供を産んでくれ!」というぐらいセクハラなのだからな。

 そうして、俺はしばらく盗賊のアイテムを剥ぎ、白星銀河とヴァンパイア美少年がドロップしたアイテムを拾ってしばらくその時を待った。
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「うぅぅ……俺は汚れてしまったぁあああああッ!!」
「ようやくか!」

 俺はその声を聞くと、吸血鬼の美少年がいる家に押し入る。

「こ、こんな汚いおっさんの血がうまいなんて! おっさんの血に抗えない! 体が汚いおっさんの血を求めて言うことをきないいいいいッ!!」

 吸血鬼の美少年がそう叫びながも、涙を流して汚いおっさんの首筋にむしゃぶりついていた。

「……なんか、ごめんな。これあげるから元気出してくれ」

 あまりに哀れすぎて、俺はヴァンパイアの美少年がドロップしたアイテムと、盗賊から剥ぎ取った物をいくつか置いていく。

 まあ、初めての吸血は刺激が強いから仕方ないんだけどな。彼が快楽に溺れないことを祈る。

 俺は残りの盗賊の死体を別の廃屋に捨てると、一人静かに廃村を去った。

 あの様子じゃ、残りの死体も血の匂いで見つけるだろう。下手に聖魔法で死体を浄化すると、逆にその場所に近づいた彼が消滅するかもしれない。埋めてもどうせ掘り起こしてしまうだろし、ああするのがベストだろう。そういえば、彼のキャラクターネームを確認しなかったな。まあ、会うことはないかもしれないが、次合った時に覚えていたら確認するか。

「汚いおっさん最高ッ!」
「ん? き、気のせいだよな……」

 何か背後から声が聞こえてきた気がしたが、俺は頭を振って聞こえなかったことにする。そして、次に会った時に彼の性癖が歪んでたら、素直に謝ろうと思った。


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