001 異世界帰りに拉致られる

 俺の名前は如月きさらぎレト。ごく普通の高校一年生だったが、ある日異世界に召喚され、いろいろあってTSヴァンパイアの真祖になったり、教会に追い回されながらも何とか邪神を仲間と倒し、さきほど涙ながらに別れを告げて、ほぼ全ての力を代償にこうして日本に戻ってきた……はずだった。

『VRMMO風世界! 邪神ちゃんワールドにようこそ!』

 しかし、そこは日本ではなく、何もない真っ白な空間に数多くの老若男女、そして俺の脳内へと直接聞こえてくる少女の声。

『これから君たちは不平等で、強者には優しく、弱者には辛い。そんなVRMMO風世界に行ってもらうよ。因みに君たちには拒否権はない。何故ならば、君たちは異世界への逃避願望者、様々な理由により死亡した者たちだからね。ある意味その代償さ。もちろん、中にはとくに理由はないけど、運悪くこの場に連れてこられた者たちもいるけれど、まあその者たちはご愁傷様。代わりにボーナスを与えるから許してね』

 そんな悪切れもしない少女の声に周囲は様々な反応をするが、不自然にも声を発する者は誰一人としていなかった。

『いろいろ言いたいことがあるだろうけど、そんな暇はないから次に進ませてもらうよ。これから君たちは、邪神ちゃんワールドに行くにあたって、まず与えられたポイントを使ってキャラクターメイキングをしてもらう。所持ポイントは公平・・に各自の才能や能力によって変わり、選択できる項目の消費ポイントもそれによって上下するよ』

 それを聞いて、先ほどまで喜んでいた多くの人が抗議を訴えるように何かを叫ぼうとしている。だが、当然何かに阻まれているのか、声が出ていない。

『あははっ、そんな絶望しなくても、ほとんど・・・・の人はポイントに大差ないよ。さて、キャラクターメイキングを終えた人からゲームスタートだよ。悔いのないようにね。最後に、他の邪神ちゃんワールドに敗北すると、世界の一部を取られるから気を付けてね。全部取られるとその世界は消滅するからね。あ、言い忘れていたけど、死に戻りはするけれど、デスペナルティは大きいから気を付けてね』

 その言葉を最後に少女の声が聞こえなくなると同時に、目の前には半透明の板が表示された。

 ……どうやら、まだまだ日本には帰れそうにないなぁ。

 周囲が目の色を変えてキャラクターメイキングを始める中、絶望したように俺はそんなことを思う。

 ようやく終わったと思ったのに、こんなのはあんまりだ。

 心の中で愚痴を吐きつつ、嫌々ながらもキャラクターメイキングを始めようと目の前の透明な板に視線を移す。

 ___________________

 名称 
 容姿
 種族
 スキル
 アイテム
 ランダム
 確認
 履歴
 完了

 所持ポイント:999
 ___________________

 異世界帰りに拉致されただけに、ポイントが多い。もしかしたらこれは限界値なのかもしれないな。

 ポイントの多さに驚きつつも、まず初めに容姿を選択する。どうやら元の体を基準にして、ある程度変更ができるようだった。他にも髪や瞳の色も変えられるが、性別は残念ながら変更することができず、見た目も大きく変えるにはそれ相応のポイントがかかるようだ。

 くそ、もしかしたら男に戻れると持ったのに……。

 ちょうど画面に表示されている自分の姿を忌々しく眺める。中学生のような身長に、腰まで伸びた銀髪と深紅の瞳。人形のように整った顔と白い肌、そして人間ではないとがった耳。閉じられた口には隠れているが、耳と同じくとがった犬歯が生えている。因みに、なぜか安っぽそうな村人風の格好だが、今はスルーしておくことにした。

 下手にいじるとおかしくなるよな……。とりあえず今はせめてもの反抗に髪の色を黒にして、瞳を青にしておくか。

 俺はそう思い髪と瞳の色を変更すると、画面を最初の項目に戻し、次に名称を選択する。

 ん? 未設定になっているな。元の名前が入っていると思ったのだが、まあいいか。

 予想と反して未設定だった項目に、俺は『レト・キサラギ』と異世界の時を思い出し、本名をカタカナにしてそのまま使うことにした。因みに初回の入力にはポイントを消費しないらしい。

 次は種族だが……これは、変更しないでいいか。

 次に開いた種族の初期設定に視線を移すと、そこには『ヴァンパイア』と表示されていた。

 たぶん普通は人間ってなってるんだろうな。俺も人間に戻りたいって気持ちはあるけれど、現時点で人間にすれば弱体化は免れないだろうし、戦闘に慣れているのも考えて他の種族にする必要もないだろう。

 そう考えると、種族をそのままに、ポイントをここまでほとんど消費することなく、スキルの項目に移動した。

 スキルか……異世界だと何を持っているのかも手探りだったし、簡単に増やさせるもでもなかったな。それに、種族で取得不能なものも多かった。そういえば、異世界で使っていたスキルはどうなったのだろうか。力のほとんどを失ったとはいえ、大体のスキルは残っていたはずだ。スキルを先に取るよりも、まずは確認しておいた方がいいな。

 俺はそう思うと項目を戻り、確認という項目を選択する。

 ___________________

 名称 レト・キサラギ
 種族 ヴァンパイア

 通常スキル
 【未設定】【未設定】【未設定】【未設定】
 【未設定】【未設定】【未設定】【未設定】
 【未設定】【未設定】

 特殊スキル
 【未設定】【未設定】【未設定】

 称号
 【真祖】

 ___________________

 
 ……うそだろ。

 異世界で所持していたスキルはすべて消え去り、何も残ってはいない。不幸中の幸いにして、種族としてのつながりが強いためか、唯一『真祖』というものが称号として残っていた。

 そうか、ポイントが多いのは所持していたスキルが消されたからか……それなら逆に999でも少なく感じる。上限が無かったらもっと多かったはずだ。この分だと、邪神の言っていた運悪くこの場に連れてこられた者へのボーナスとやらも上限のせいでなくなっているだろう。

 ポイントが多いことで浮かれていた気持ちが嘘のように消え去る。

 それに見た感じだと、スキルの所持数には制限があるんじゃないのか? だとすると、逆にポイントが余ってしまいそうなのだが……。いや、アイテムという項目もあるし、何とか使いきれるか。どちらにしても、元より弱体化は避けられないな。

 俺はその後、残りのポイントをうまく使い切り、今できるであろう最善を尽くした。因みにランダムという項目は嫌な予感がしたので、あえてスルーしている。

 思った以上にポイントが足りなく感じた。相性のいいスキルはポイントが少なくて済むのが、せめてもの救いか。

 俺はそんなことを思いつつ、履歴の項目を表示する。

 ___________________

 使用履歴

 容姿
 髪の色変更=3p
 目の色変更=3p

 通常スキル
 吸血1=5p
 霧化1=5p
 影魔法1=5p
 再生1=5p
 浮遊1=10p
 偽装10=100p
 精神耐性5=50p

 特殊スキル
 聖魔法1=100p
 状態異常耐性5=100P
 豪運10=300p

 アイテム
 拡張チケット(通)×10=100p
 拡張チケット(特)×7=210p
 初心者セット×1=3p

 合計
 999ポイント
 ___________________

 安全重視でバランスを取った結果、こうなった。ヴァンパイアとして最低限の能力に、各主耐性。偽装と種族的に相性の悪い聖魔法で、ヴァンパイアということを隠蔽。そして何事にも有利になる豪運のレベルを最大限まで高くした。それと後々持っていれば有利になるスキルの所持限界数を増やせるアイテムと、最低限の道具や食料、後は金銭などが入った初心者セットを選んだ。

 異世界でもそうだったが、確認したところどうやらこれから連れていかれるVRMMO風世界でも、真祖の称号効果でヴァンパイアの弱点を全て克服している。おまけに全能力値上昇効果もあった。おかげで人間のように太陽の下を歩けるし、神聖属性の癒しもダメージを受けることなく、普通に回復効果として受けることができる。よほどのことが無い限り、教会関係者にばれることはないだろう。

 異世界でさんざん協会勢力に付きまとわれ、邪神を倒してからはその代わりとして世界各地に流布され、結果として日本に帰ることにしたのだ。因みに、戻る間際に教会の諸悪は叩き潰したが、そのせいで余計に悪名が高くなってはいたけど。

 まあ、ここまで教会に警戒しているわけだが、邪神の作った世界だし、案外俺の知っている教会勢力はないかもしれない。だがそうだとしても、聖魔法の有用性は高いから持っていて損はないし、特に問題はないか。

 俺はそうしてキャラクタメイキングを終えると、軽く深呼吸をし、改めて邪神の作った世界にこう思う。

 VRMMO風に死に戻り、他の似たようなVRMMO風世界との争いか。俺の予想通りならば、最悪の地獄になるかもしれない。もしかしたら、俺はここで終わるかもしれないな。だが、それはそれである意味良いのかもしれない……いや、この考えはいけないな。邪神に善意はない。きっと碌な終わり方をしないだろう。結局、抗うしかないんだ。

 俺はそう決意を固め、最後に完了の項目を選択すると、その途端俺の視界は暗転した。


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