024 常時依頼

 俺が冒険者ギルドにやってくると、担当であるルチアーノの元へと向かう。

「やあ、いらっしゃい。早速依頼を受けるかい?」
「ああ、今日は討伐系を頼みたいのだが」
「討伐系? おや、どうやら剣を手に入れたようだね。武器無しなら厳しいと思ったけれど、持っているなら問題なさそうだね」

 俺の腰に下げている鉄の剣を見て、ルチアーノがいくつかの依頼票を取り出す。

「お勧めなのは、この三つかな。常時依頼だけれど、安定しているし同時に三つまで受けることができるよ」

 渡された三つの依頼票を確認してみると、以下のことが書かれていた。

 依頼名:スライムゼリーの納品
 ランク:G
 種類:常時
 報酬:スライムゼリー1匹分につき30アロ。5匹分から受け付けます。
【説明】
 スライムからドロップするスライムゼリーを納品しよう。

 依頼名:グリーンキャタピラーの糸を納品
 ランク:F
 種類:常時
 報酬:糸1匹分につき30アロ。5匹分から受け付けます。
【説明】
 グリーンキャタピラーからドロップする糸を納品しよう。

 依頼名:グリーンキャタピラー討伐
 ランク:F
 種類:常時
 報酬:グリーンキャタピラーの魔石1個につき50アロ。5匹分から受け付けます。
【説明】
 グリーンキャタピラーを討伐しよう。討伐証明に魔石を納品していただく必要があります。

 あれ、一セットやっても合計550アロにしかならない。昨日の依頼報酬を上回るには、最低三回分集めないといけないのか……。

 討伐の方が儲かると言っていた割に、対したことが無いと若干不満が出てしまう。

「やっぱり少ないと思ったかい? でもこれは、一度に受けられる・・・・・・・・というだけ・・・・・に過ぎないんだ」
「それはどういうことだ?」

 笑みを浮かべてそう切り出すルチアーノに対し、俺は思わず聞き返す。すると、待っていたとばかりに、ルチアーノは続きを話し始めた。

「常時依頼を受けさせるのは、あくまでギルド側が冒険者の行動をできるだけ把握するためさ。実際、先に納品物を集めてから依頼を受けることもできる。他のG級やF級冒険者は、慣れてくると討伐額の高いゴブリンや害獣でもあるスモールモンキーを主に討伐するんだ。そのついでに狩られるのが、今回の依頼になる」

 それを聞いて納得はしたものの、であれば何故ついでにやる方を依頼として勧めたのか不思議に思った。

「じゃあ何でゴブリンやそのスモールモンキーという依頼じゃないんだ?」
「ああ、それはこのギルドの通例でね、初めて町の外で狩りをする冒険者には、この三つをさせる必要があるんだ。君の実力は理解しているけれど、無視をすると上司に睨まれるからね。済まないが最初はこれを受けてほしいんだよ」
「なるほど……」

 おそらく、初心者冒険者がいきなりゴブリンなどに挑むと死亡する可能性が高いのだろう。だから、最初に簡単な方から勧めるという訳か。

 そのことを理解した俺は、ルチアーノの言われた通りの依頼を三つ受けた。ちなみに、スライムの討伐が無いのは、一般人や子供でも倒せるレベルだからだそうだ。加えて、冒険者ギルドで先に常時依頼を受けると、冒険者ギルドに協力的だと判断されて、ランクアップに影響するという理由もあるとのこと。

 受けた依頼を熟した後は、好きにゴブリンなどを狩ることにするか。

 俺がそう思っていると、ルチアーノが注意事項を説明しだす。

「ああ、そういえば、君なら大丈夫だろうけど、森の奥は魔素・・が濃くなっていてランクの高い魔物が出るから気を付けるようにね。稀にランクEのウルフが獲物を求めて魔素の薄いところまでやってくることもある。それと、グリーンキャタピラーはサナギから進化してランクDのグリーンバタフライになることもあるんだ。まあ、これはサナギの時に他の魔物にやられるからめったに出ないんだけどね」

 浅いところでも強いモンスター、いや、魔物が出るという訳か。それと、魔素というのが気になるな。聞いた感じだと、魔素の濃さが魔物の強さに関係しているようだが……とりあえず、今はそれだけ分かればいいか。

「分かった。気を付けることにする」
「よろしく頼むよ。ああ、それとこれをプレゼントしよう」

 そう言って、ルチアーノは布袋を二枚差し出してきた。大きさは横約二十センチ、縦約三十センチほどのものだ。

「助かる」
「君は手荷物が少なかったからね。契約冒険者になってもらったし、せめて入れるものくらいは用意しようと思ってね。スライムゼリーは少し滲むけれど、押しつぶさなければ問題なく運べると思うよ」

 俺はルチアーノのから布袋を貰うと、右腰にその紐を結びつけた。白い布生地からして、おそらくグリーンキャタピラーの糸から作られているのだろう。

 入れ物は無くても一回ホームに送れば問題なかったが、実際冒険者ギルドで出す時に困るから正直助かったな。

 そうして、そのあとは一応ゴブリンやスモールモンキーの依頼票も見せてもらうと、俺は冒険者ギルドを後にした。

 ◆

 入れ物か、盗賊たちから奪った中には、大きな麻袋しかなかったんだよな。これからは荷物を運ぶことも増えるだろうし、今度リュックサックでも買うことにするか。

 転送は送ることはできても、簡単に取り出すことができないのが残念なところだ。召喚に関しては、疑似天地で創り出したものか、支配契約を結んだ者しか基本的に呼び出すことができない。物を入れるリュックサックは今後必須だと思えた。

 しばらく町の中を歩き、東門までやってくる。ルチアーノにどこがおすすめか訊いてみたところ、東門から外に出て三十分ほど歩くと、そこには弱い魔物が現れる森があるらしい。

 門か。この町に来たときに呼び止められたのを思い出すな。だが現在は冒険者証もあるし、問題ないはずだ。

 若干緊張しつつも、門の列に並び門番に冒険者証を見せた。

「む、G級で契約冒険者なのか? 凄いな」
「そうなのか?」
「ああ、契約冒険者はそれだけ将来性があるという証だからな。君のことは覚えておこう」
「……それはどうも」

 どうやら、契約冒険者というのは一目を置かれる存在らしい。その後は特に問題もなく、俺は無事にエバレスの町を出る。

 さて、ここから東に歩いて三十分か。案外遠くに感じるな。時間短縮のために走るか。今の俺がどれだけ体力があるのか気にもなるし。

 そう思った俺は、東の森に向けて走り出した。気持ちはジョギング程度だが、元の世界では全力疾走に相当する速さが出る。

 これは凄い。あっという間につきそうだ。

 実際体感で約五分強ほどで、俺は東の森に辿り着いた。

 息もほとんど乱れていないな。体力も相当上がっている。これなら数時間激しく動いても問題は無さそうだ。

 俺は鉄の剣を抜くと、一人警戒しながら東の森へと入っていく。

 さっさと先に受けた三件の依頼を片付けて、報酬の高いゴブリンを倒すとするか。

 身体能力が高かったこともあり、若干気持ちが高揚しながらも、俺は森の奥へと進んでいった。


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