023 保護をする理由

 魔力をかなり使ってしまったな。維持するための魔力も馬鹿にならない。だが、戦闘で使う分にはまだ余裕はありそうだ。

 途中からホームの拡張が楽しくなってしまい、魔力を湯水のように使ってしまった。しばらくホームの拡張は控えた方がいいだろう。

 さて、拡張は完了したし、まとめてあった荷物を移動させるか。

「みんな、これから荷物を別の部屋に運ぶから手伝ってくれ」

 食事を終えて暇になったからか、じろじろと獣人の子供たちの視線を感じた。見られながらの作業はやりづらいので、手伝ってくれと声をかける。

「おう。任せてくれ!」
「わたしもてつだう!」「ぼくも!」「はこぶよ!」

 すると、ベサルを含めて獣人の子供たちが張り切って、荷物の移動を手伝ってくれた。子供たちには、主に自分たちの部屋に必要な茣蓙ござや掛布団替わりの外套、机一つに椅子二つを運ばせる。

 北の俺の部屋には、貴重品や一つしかないベッドを運ぶことにしよう。

「エレティア、手伝ってくれ」
「あー、カミ」

 新しくあーとうー以外に、カミという言葉が増えたエレティアと共に荷物を運び込む。貴重品やベッド以外にも、机や椅子、ついでにエレティア用の茣蓙を設置する。

 流石にエレティアを他の部屋で待機させるわけにもいかないからな。獣人の子供たちにとは相性悪そうだし。

 念のため金銭や宝石などは、壁の一部を疑似天地で四角く穴を開け、そこにしまい込み薄い壁で蓋をしておく。

 流石に盗まれないだろうが、そのまま置くのも不用心だしな。

 そうして中央部屋に戻ると、獣人の子供たちも荷物を運び終えていたので、残りの物を東の倉庫部屋へとみんなで運んだ。内容は主に武器や道具、食料品などになる。

 とりあえず、現状はこれが最適だろう。事前に清潔化を発動したこともあって、綺麗になっているし、病気の心配はしなくてもいいはずだ。

 最後に、獣人の子供たちを集めて各部屋の説明や、ルールを教えることにした。といっても、内容は簡単だ。

 ・北の部屋は俺とエレティアの部屋なので、無許可ではいらないこと。
 ・東の倉庫部屋には無許可で入らず、物を勝手に持ち出さないこと。
 ・中央部屋のリップルは好きな時に食べていいが、食事に支障をきたさないようにすること。
 ・水飲み場を自由に使用していいが、水遊びは現状控えること。
 ・トイレの使用後は水飲み場で手を洗うこと。
 ・エレティアに乱暴しないこと。(エレティアはその逆で獣人の子供たちに乱暴しないこと)
 ・俺の指示には従うこと。

 このルールを、みんなによく言い聞かせた。

「わかった。ルールには従うよ!」
「うん!」「わかったー!」「やくそくは守るよ!」
「あー、カミ」

 獣人の子供たちはもちろんのこと、エレティアも納得してくれたようだ。

 さて、ホームについてはこれで問題なさそうだし、そろそろ俺もエバレスの宿屋に戻ることにするか。

「俺はこれから外に出てくる。ちょくちょく戻ってはくるだろうが、基本あまり戻ってはこないと考えてくれ。その代わり、一日に一度は必ず戻ることにするからな」
「えっ!? 俺たちは連れて行ってくれないのか!?」

 俺がホームを留守にすると伝えると、ベサルがそう抗議し始めた。だが現状これまで一人だった俺が、いきなり獣人の子供たちを連れて現れたら面倒になることは間違いない。

「すまないが、お前たちを連れていくことは出来ない。外は危険だ。何が起こるか分からないからな」
「……わかったよ」

 ベサルは心の中で外に出れないことを理解していたのか、案外素直に聞き入れた。それに対して俺は安堵する。

「じゃあ、俺は行ってくる。退屈かもしれないが、今は辛抱してくれ」

 そう言って、俺は宿屋へと自身を転送した。

 ◆

 宿屋、鳥のゆりかご亭に戻ってくると、外はとうに朝日が昇っている。

 ホームだと時間の間隔が掴めないのがネックだな。もしかして朝食を逃したかもしれない。

 そう思い俺は急いで下の階に行くと、まだ朝食は提供されているようだった。その後無事に朝食を終えると、受付で部屋のカギを渡して宿屋を出る。

 盗賊の塒では思わぬ収穫があったな。特に金銭や鉄の剣がありがたい。

 現在俺の左腰には、鉄の剣が身に着けられており、背中には短剣を装備していた。盗賊の荷物の中に、背中用の鞘があったのは僥倖だった。

 現状、獣人の子供たちは保護という名の人質だ。しかし、当初と違い予想以上に俺の能力を知られてしまった。安易にどこかへ引き渡すことは難しくなったと言えるだろう。

 最悪の場合、処分する必要が出てくるが、それは流石に気が引ける。だが、このまま特に理由もなく保護し続けるのは、俺が嫌う偽善的行為に他ならない。何故、俺は安易に獣人の子供たちを保護したんだ?

 助けるときは特に問題はないと思っていた。だが、時間を置いてから改めて考えると、自分の行動が軽率だったということに気が付く。

 明らかに、メリットよりもデメリットの方が大きい。獣人集団に復讐を遂げたら用済みだし、それまで食料や何やら必要になる。そもそも、事が終わったら恨まれるのは確実だろう。あの獣人集団は同じ村の出身だろうからな。

 そう考えると、ますます自分の行動が理解できなかった。最早今からどうにかするのは不可能であり、わざわざ助けた獣人の子供たちを処分する気にもなれない。

 俺はいったいどうしてしまったんだ。こんな後先を考えない偽善者では無かったはずだが……。

 自分が自分ではなくなったかのような、不安に襲われる。そうしてしばらく町を歩いていると、不意に鳩尾の辺りから違和感を覚えた。

 ん? なんだ? 鳩尾の辺りがおかしい。確かここにはダンジョンの核に相当するものがあったはずだ。これは……魔力?

 唐突に立ち止まり、俺は自身の核に意識を集中させる。すると、どこからともなく魔力が増えていき、魔力の最大値が僅かに上昇している気がした。

 これはいったい……もしかして。

 ダンジョン、核、魔力の増加。この三つから思いつくことは、深夜の出来事が関係していることは明白であり、それによる導き出された答えは、一つだった。

 獣人の子供たちから、魔力を得ているのか!?

 それが正解だと思うのと同時に、自分の矛盾した行動に納得がいく。

 そうか、ダンジョンに人を招き入れる。これはダンジョンの本能なのか。

 元の世界でも、ダンジョンは人を招き入れるため、あの手この手で人々の欲望を刺激した。食料や資源もそうだが、ダンジョンで発見される貴重品などを求めて、毎日探索者がダンジョンに足を運んでいる。

 たしかダンジョンは、探索者の死体や身体から発生されるエネルギーなどを目的としていると、そういう話をどこかで聞いたことがあった。

 俺の核から溢れてくる魔力が、ダンジョンが人を招き入れる目的だったわけか。

 つまり、俺が獣人の子供たちを保護しようと思ったのは、このダンジョンの本能が関わっていたのだと、そう理解した。でなければ説明が付かない。

 そうか、ダンジョン内に無関係の人を招けば、それはある意味魔力的な収入に繋がるという訳か。エレティアの場合、支配契約で俺の配下という理由から、おそらく魔力が得られなかったのだろう。

 そうと分かれば、考えが変わってくる。獣人の子供たちはこのまま飼い殺しにする方が、利益に繋がると理解した。そうすれば魔力の最大値が増えていき、ホームの更なる発展や、魔力を使ったスキルがより高出力になる。

 なら今後余裕ができれば、ホームに人を連れてくるのもありだな。

 俺は自分が偽善的になったわけではないと理解したことで、とても安堵した。

 さてと、問題も解決したし、冒険者ギルド行くか。

 俺はその場から再び歩き出し、冒険者ギルドを目指した。


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