「それじゃあ、お前らを俺のホームに招待しようと思う」
「ホーム?」
獣人が囚われていた部屋に戻ると、俺は早速そう切り出す。ベサルはそれに対し、若干不思議そうに訊き返してくる。
「ああ、ホームだ。俺が拠点としている場所だが、安全は保証しよう。移動手段も問題ない」
「そうなのか? でも、俺以外はまともに戦えないぞ?」
ベサルは徒歩で移動することを考えているのか、不安そうにしていた。それに感化されたのか、他の子供たちも不安そうな表情をし始める。
普通はそう思うよな。だが、転送を使えば何も危険はない。ただ全員を同時に転送するには、工夫が必要そうだが。
「大丈夫だ。特殊な方法で移動する。そのために、まずはみんな手を全員繋がるようにしてくれ」
「え? 手を繋ぐ?」
俺の言葉に戸惑いを見せるが、獣人の子供たちは手をつなぎ始める。ちなみに、俺もベサルと手をつないだ。これで全員の手がつながり条件を満たす。
「よし、全員手をつないだな。今から移動するが、慌てずに頼むぞ」
そうして、俺は獣人の子供たちと共に、ホームへと自身を転送する。ちなみに、盗賊の塒にはまた来るかもしれないと、目印の石をいくつかばら撒いておいた。
◆
「何だここ? 洞窟か?」
「くらぁい」「どこー?」「ちらかってるー」
ホームに着くと、獣人の子供たちが辺りを見渡す。ホーム内には盗賊の塒から奪ってきたもので散らかっており、天井には光る石が埋め込まれているものの、獣人の子供たちには薄暗く感じるらしい。
「あー?」
すると、そこに待っていたとばかりにエレティアが近づいてきた。
「ひ、人族! しかも教会のやつだ!」
「ひぃ!?」「来ないで!」「いやー」
その姿を見た獣人の子供たちは、人族ということはもちろん、教会の関係者だとエレティアのシスター服に反応を示す。
「待て、大丈夫だ。こいつ、エレティアはもう教会とは関係ない。それに、種族も今は人族じゃないんだ」
「な、何言ってんだよ! どう見ても人族じゃないか! それに、教会が俺たち獣人をこんな目に合わせているんだぞ! やっぱり騙していたんだ!」
ベサルはそう言って俺を睨みつけると、他の子供たちを守るように自身の背に隠す。
ここまで教会と獣人の相性が悪いとは、考えが抜けていたな。だが、今更どうしようもない。
「騙してはいない。こいつは本当にもう教会と関係ないんだ。今は人族ではなく、ゾンビだからな。つまりモンスター、ここでは魔物だったか。それに分類される」
「は? ゾンビ? 肌白いだけの普通の人族じゃないか!」
俺がエレティアをゾンビだと教えても、見た目はベサルの言う通りなので、納得させることが出来なかった。
「あー?」
「な、なんだよ! 文句あるのか!」
すると、エレティアがベサルに近づいて何かを訴えかけるように俺を指さすと、驚くべきことが起きる。
「カ、カミ」
「は?」
「え、エレティアが喋った……」
なんと、エレティアが俺を指さしてカミ、おそらく神と言葉を発した。
「い、意味わかんねえ! それが何だって言うんだよ!」
ベサルと同様に、俺も一瞬エレティアが何を言いたいのか理解に苦しんだ。しかし、何を伝えようと考えているのか、契約を通じて伝わってくる。
なるほど。そういうことか。
「ベサル。エレティアは俺を指さして神と言った。つまり、これまで信仰してきたアウペロ教を捨てることを意味している。これがどういう意味か分かるか?」
「わ、分からねえよ!」
「まあ落ち着け、要するにエレティアは、もう教会とは関係なく、お前たち獣人に酷いことをしないということだ」
「ッ……だ、だけどよ」
意味は理解したようだが、感情では受け入れがたいようだ。子供とはいえ、獣人と人族、特に教会との確執は大きい。
「直ぐに受け入れろとは言わない。だが、ここは俺を信じてはくれないか? エレティアとは仲良くしてほしいが、絶対ではない。どちらにしろ、ここで生活してもらうんだ。悪いが我慢してくれ」
「……あ、あんたには借りがある。分かったよ。仲良くはできないが、辛抱する」
「助かる」
どうにかなったな。エレティアがまさか喋るとは思わなかったが、上手くまとまった。これで、しばらくは大丈夫だな。
獣人の子供たちとエレティアの問題は解決したので、次は一人一人怪我をしてないか見ることにした。
「よし、問題は解決したな。じゃあ次は一人ずつ俺の前に来てくれ。怪我や汚れをどうにかする」
そうして、獣人の子供たちを一人ずつ見ていく。といっても医者のようなことはできないので、救護者の称号スキルを全員に発動するだけだが。
「わぁ! お兄ちゃんありがとう!」
「ああ、どういたしまして」
獣人の子供に、清潔化、解毒、応急手当の順に発動することで、汚れた身体は服ごと綺麗になり、身体の怪我は治っていく。解毒は念のためだ。それによって、子供たちは風呂上がりのような清潔な状態になる。
「すげえな。あんたこんなことまで出来るのかよ」
それを見てベサルが驚いたようにそう呟く。ベサルも今では清潔になっており、頭部の白い虎頭の毛並みも良さそうだ。
さて、これで全員綺麗になったな。次は、食事か。
「あー、カミ」
すると、エレティアが盗賊の塒から奪ってきた木箱に、大量のリップルを入れて持ってきた。
「おお、ありがとな。よし、お前ら腹が減っているだろ? これを好きなだけ食べていいぞ」
「まじか!」
「りっぷる!」「やったー!」「ありがとー!」
エレティアからリップルが入った木箱を受け取り、獣人の子供たちの前に置いてそう言うと、嬉しそうに群がってリップルを食べ始める。
これで次は、ホームの整頓だな。散らかりすぎているし。
次に行うのはホーム内の整頓だった。周囲には盗賊の塒から奪ってきた物が無造作に並べられている。それを、俺とエレティアで整頓し、ホームの角に並べていく。ちなみに、汚かったのでその都度清潔化を行っている。
これで大体は片付いたか。しかし、ここで暮らすには足りないものが多いな。これまでは俺とエレティアの二人だったが、今は獣人の子供たちが七人増えて合計九人になっている。最低限必要な物を増やすか。俺の力を知られるのは、もう諦めるしかないな。
知られることを承知で、俺は疑似天地創造を発動していく。まず必要なのは、飲水の確保。ホーム南西の角に水が湧き出る管と、排水溝を創造する。
やばいな。やはりこういった永久機関は魔力の消費がえげつない。だが、無いと獣人の子供たちが死んでしまう。
魔力生産工場のスキルで蓄えた十のストックが勢いよく消費されていく。このままではまずいと、一日に一度だけ使える効果を使用し、魔力の生産量を一時間毎秒10%にすることで対応する。そしてホーム内に、無限に水が出続ける場所を生み出すことに成功した。
な、何とか出来たな。次は……トイレか。
手を洗うことも考えて、水飲み場の近くに新たな部屋を創造する。まずは廊下を拡張し、その奥に四角い部屋を作った。その中央に、深い穴を生み出す。穴の底には、異空間生成/編集で、トレイ用の異空間を創り出す。
ダンジョンでいう二階層だよな。つまり、うちの二階層は糞尿エリアか。嫌な響きだ。
新たな異空間ということもあり、かなり魔力を消費したが、水飲み場ほどでは無かった。なおその水飲み場の排水溝も、後からここに繋げている。
丸見えは流石に可愛そうだな。盗賊の塒からドアを持ってくるか。
そう考え、一度一人で盗賊の塒に戻り、無事に残っていたドアを枠ごと二つ手に入れた。そのうちの一つをトイレ用にセットする。疑似天地で調整すれば問題なかった。
これで最低限必要な物はどうにかなっただろう。そういえば、俺もエレティアもこれまで何故か排泄がなかったんだよな。便秘とかそういうのではなく、まるで必要が無い感じだ。理由はまだ分からないが、今は置いておこう。
そう考え、次は部屋について考える。現在ホームはトイレ以外にはこれまでの部屋しかない。
一応部屋を創っておくか。
現在の部屋を中央部屋と考え、東に倉庫部屋、西に獣人の子供たちの部屋、そして北に俺の部屋を創ることにした。トレイの時と同様に廊下をまずは作り、その奥に四角い部屋を創っていく。部屋の広さは中央部屋と変わらず、三辺が各五メートルほどになっている。
こんなものだろう。あとは俺の部屋だけ残ったドアを取り付けるか。
一応このホームの主は俺なので、部屋の前にドアを設置しておく。その光景を、先ほどから獣人の子供たちが凄い凄いと騒ぎながら見ていたが、あえて無視をしておいた。ちなみに、廊下や各部屋の天井には、新しく光る石を生み出して埋め込んでいる。
そしてようやく、ホームの拡張作業を完了した。
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