004 重要な可能性

 よし、最低限の準備が整ったな。

 俺は騎士風の男ゲスゴーノが持っていた片手剣を剥いだ鞘に入れて左腰に差し、盗賊の一人が持っていた短剣も同様に背中側の腰に身に着けた。

 やはり、剣があるだけで安心感が違う。元々剣士の称号をメインに戦闘を熟してきたわけだしな。

 異世界に来て一番活躍したのは探索者称号のスキルである飲水であったが、これからは剣術をメインに戦う予定だった。

「あーう」
「は?」

 そんなことを考えていると、いつの間にかエレティアの手には短剣が握られている。よく見れば盗賊の物よりも質の高そうな品だ。

 いったいその短剣はどこから……盗賊からか? いや、そもそも何故手に持っている――?

 危険ではないか、そう思った時、おもむろにエレティアが片手で自らのスカートをはだけ始める。

「お、おい! 何を……」
「うー?」

 純白の下着とガーターベルトが姿を現したところに一瞬視線を奪われるが、よく見れば左の太ももに短剣の鞘を身に着けていた。そこにエレティアの手に持っている短剣がピタリと収められる。

 そ、そういうことか。あの短剣は元々エレティアの所持品だったのか。生前? の記憶で自分の物だと認識していたのかもしれない。

 短剣を鞘に収納したエレティアといえば、まるで何事もなかったかのようにぼーっと佇んでいる。

 にしても、明らかに賢くなっているよな。盗賊の首をねじったこともそうだが、今のように短剣を鞘に収める行動もだ。仮に俺が襲われた時これくらい賢かったら、今頃俺は生きてはいない気がする。

 支配契約には対象を賢くする何かがあるのかもしれないと、俺は思い始めていた。

 とりあえず、エレティアが賢くなる分には損をしないわけだし、そろそろこの場を離れるか。

 他に手に入れた物は、小さな袋に入っていた小銭程度しかなく、遭遇時に見えた光源の元であったランタンのような物は、落とされたのが原因かガラスが割れて壊れていた。どうやら男たちは軽装でエレティアを探していたらしい。

 まあ、武器と金が手に入っただけでも良しとしよう。

「エレティア。これから森を抜けようと思うがついて来てくれるか?」
「あー」

 どうやらついて来てくれるらしい。そのことがなんとなく分かった。因みに、エレティアには救護者の称号スキルである清潔化、解毒、応急手当の順で治療済みである。血痕も消えてきれいにはなったが、胸元の短剣を刺した部分だけ服に切れ目が多少あるだけだ。

 ゾンビシスターであるエレティアとは途中で分かれることになりそうだが、護衛としてしばらく連れていくことにしよう。流石に人がいる場所に連れていけない気がするし。

 盗賊のような存在が再び襲ってくる可能性を考慮して、エレティアを連れていくことにした。

 まあ、エレティアはゾンビにしては顔色が良いし、少し肌白いほどだから、話しかけて来なければ早々にゾンビだとばれることは無さそうだけどな。

 そうして、俺とエレティアは森から抜けるために歩き始めた。向かう方向は盗賊の男に訊いていたので問題ない。しばらく歩けば街道があるとのことだった。

「ん?」

 すると、道中に何やらうごめく存在が現れる。それは青いゲル状のモンスター。スライムだ。

「この世界にもスライムっているんだな……」

 元の世界のダンジョンでもよく目にした存在に、俺はこれまでの癖もあって咄嗟に剣を振りぬいていた。スライムは簡単に両断されたかと思えば、煙のように消えて無色透明の小さな石を一つ残す。

「は?」
「うー?」

 俺はその光景にあっけにとられ、エレティアはそんな俺を見てどうしたのかと首をかしげていた。

 なんで素材が一瞬で無くなるんだ? もしかしてこの世界だと核だけ残すということか? だとすれば、この世界の人たちはどうやって食料や素材を集めているんだ?

 本来倒した敵はしばらく死体が残り、それを剥ぎ取って肉や骨、爪などの素材を手に入れるのが常識だった。しかし、この世界では一瞬のうちに死体は消え、なぞの石だけが残されている。不思議でならなかった。

 いや、スライムだけがそういう存在という可能性もある。決めつけるのは早計だ。

 もし仮にこの世界がそのようなルールとして成立っている場合、食料に対して大きな問題が発生してしまう。俺は不安に駆られながらも、その石を拾って一応ズボンのポケットにしまっておく。

 あたり前すぎて、このことは訊きそびれたな。もしかしたら、他にもこうしたことがあるかもしれない。

 それからも、スライムや小型犬ほどの芋虫が現れたが、その全てが小さな無色透明の石を残して消えてしまう。

 はぁ、嫌な可能性が証明されてしまったな。この世界では、モンスターから素材が手に入らないようだ。

 この世界の人々はどうやって生きているのだろうと、考えながら二匹目の芋虫を倒したその時、それは起こった。

「これは……」

 これまでと同じように倒した瞬間消えたのは変わらなかったが、そこには小さい無色透明な石と、白い糸の束が残されてる。つまり、モンスターが素材を残したということに他ならない。

 なるほど、そういうことか。倒すと数回に一回、素材を落とすということだろう。

 俺はそのことを知るや否や、目についたモンスターを次々に狩っていった。当然、周囲には警戒をしながらだ。その結果、おおよそ二~三回に一度の確率で素材を手に入れた。といってもスライムの落とした物は青いジェルであり、入れるものが無かったので放置するしかなかったが。

 芋虫の糸は当たりだな。これで針があればエレティアの服を縫ってやることができるのだが。それと、そろそろ入れるものが無いと厳しい。けれど無い物は現状言っても仕方がないか。

 現在履いている茶色のズボンにはポケットが多く、収納できる量はそれなりにあるが、それでも他に入れるものが無い以上、いくつか諦める必要がある。

 人が住んでいる場所についたら、リュックサックでも買う必要があるな。にしてもユニーク称号には、奇跡の運に導かれし者という称号があったはずだ。それを考えると、素材の出が悪い気がする。いや、これでも良い方なのか?

 俺はふとそんなことを思い、称号の内容を思い出す。

【奇跡の運に導かれし者】
 幸運の導き 直感 生存率向上 致死回避 虫の知らせ
 ___あなたは度重なる奇跡に導かれて無事に生還を果たした。
 それによりあなたは並大抵の不運では破滅しない。
 あなたを破滅に追いやれる存在がいるとすれば、その者もまた運命に導かれし者だろう。___

 この中のスキルでは、幸運の導きが運に作用する気はするが、詳しくは分からない。というのも称号のスキルは、何となくこのような効果だろう。という漠然としたものであり、正しい効果が分かるわけではなかった。先人の知恵や、自分でスキル効果を見つけるしかない。

 しかもユニーク称号は他の者が取得できない以上、自力で効果を見極めるしか無いんだよな……。

 使い方が分からなければ、宝の持ち腐れになってしまう。そうならないためにも、今後少しずつ自分の称号スキルを解明していこうと俺は決意した。

 特に、ユニーク称号は早い段階で知っておく必要があるよな。この世界で生き抜くためにも。

 ユニーク称号の性能は、戦争の引き金になるほど高いというのを理解しているだけに、強くそう思う。

 ユニーク称号もピンキリだろうが、特にダンジョン転移に巻き込まれた者が一番ヤバい気がする。エレティアを連れて歩けるのも、この称号のスキルな訳だし。

 俺は続けてこの称号効果を思い出す。

【ダンジョン転移に巻き込まれた者】
 転送/召喚 異空間生成/編集 擬似天地創造 支配契約 核生命
 ___あなたは不運にもダンジョン転移にピンポイントで巻き込まれてしまった。
 それにより異空間に放り出されたあなたの生存は絶望的だったが、奇跡的に生還した。
 ダンジョン核の影響を強く受けたあなたは、その恩恵としてダンジョンの力をある程度手に入れた。___

 ダンジョンの力ね……もしかして。

 スキル構成と説明文から、俺はその能力をある程度予想できてしまった。それと同時に無意識ではあったが、湧き上がる高揚からこのようなことを考えてしまう。

 俺がダンジョンを創ることも可能なのでは?

 そう思った瞬間、俺はある可能性を思いついてしまい、それを発動させた。

 異空間生成。

 すると目の前に、黒い円形の空間が姿を現した。


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