039 再会

 あれから何日も経過していた。黒栖は赤眼のデスハザードとして、いくつもの並行世界へと訪れていく。

「足りない。まだ足りない」

 覚醒エネルギー得るために、殺戮を繰り返している。同じ世界の黒栖やデスハザード、白羽も関係なくだ。数をこなしているからか、今では殺すことに何も感じてはいない。

 集まっていく覚醒エネルギーは、既に膨大な数値になっているが、それでも足りないと、黒栖は転移を繰り返していた。

「俺は、赤眼のデスハザード。お前らの覚醒エネルギーを奪うものだ!」

 そして、何回目か分からない転移の時、それは起きた。

「なっ!?」
「えっ……!?」
「おめぇは! デスハザード! それじゃあ目の前のこいつは何なんだ!?」

 並行世界にいたのは、いつもお通り黒栖と白羽。そして尖った硬い髪質をした茶髪の少年、ゴタロウだった。

 一瞬ゴタロウがいることに驚いた赤眼のデスハザードだったが、それも直ぐに収まり、いつも通り時空切断ディメンションカッターで命を奪っていく。

「グアッ!?」
「キャッ?」
「グベッ!?」

 会話をすることなど、既にしていない。まるで草を刈り取るように、そこにはその程度の感情しかなかった。ゴタロウの分を含めて、覚醒エネルギーが身体に満ちていく。

「まだ、足りないか……」

 いつものように、そう呟いた時だった。

『悲しいのぅ。悲しいのぅ。役目が意味を為さなくなったのは、初めてじゃのぅ』

 そう言葉を発したのは、どす黒い長剣だ。

『イレギュラーが、更なるイレギュラーになってやってくるとは、流石の儂も想定外じゃのぅ。それも、その原因は儂ときた』

 どす黒い長剣は、どこか悲しそうに呟く。その言葉に、赤眼のデスハザードは反応する。

「お前はあの時の長剣か。原因とは、いったいどういうことだ?」

 並行世界でも自分のことを覚えているどす黒い長剣だが、そういえば他の並行世界を行き来する特別な存在だったということを思い出す。

『むむ、知りたいか? まあ、教えて進ぜよう。お主の心の奥にある扉の鎖を、いくつか解いたのが原因じゃ。それによって、今のふざけた力のお主がおる』
「そうか」

 それを聞いて、赤眼のデスハザードはやはりなと思った。この状態になるために、心の鎖を自らから解いたのだ。その前段階で、どす黒い長剣が心の扉の鎖を解いていたからこそ、実現している。

『それに責任を感じておる訳ではないが、他とは隔絶した力はバランスが崩れておる。他の者では最早手も足も出まい。そんなお主が存在しておるということは、あの方がそれを認めたからにほかならぬのぅ』
「なに? 神が、俺を認めただと?」

 こんなふざけた状況の原因である神に認められたと聞いて、赤眼のデスハザードは怒りがこみあげてくる。神などに認められるのが腹立たしいと。

『そうじゃのう。認められているからこそ、その力を得られたのじゃ。そうでなければ、力に目覚めることは無いのぅ』
「……」

 白羽の復讐を果たすためには、この力が必要だった。しかし、だからといって神に感謝する気は全くない。

『ある意味、このゲームの勝者はお主じゃのう。残りは消化試合じゃ。それも、お主自ら率先して行っているようじゃしのぅ。終わりもすぐそこじゃ』

 それを聞いて、赤眼のデスハザードは気が気ではなくなる。

「今終わてもらっては困る! まだ覚醒エネルギーが全然足りないんだ!」
『足りないことは無い。むしろ、お主は既に既定の量は所持しておるぞ? あとは他の世界の者をすべて倒し、最後の一人になればよい。あとは、クリア条件に気が付けるかどうかじゃ』
 
 微妙に話が嚙み合わないが、赤眼のデスハザードはそれどころではない。どうにかして白羽の魂を蘇らせないといけないからだ。その方法を未だ知りえていない。そこで、一か八かどす黒い長剣にそのことを伝えることにした。

「俺の白羽は、魂が無いんだ。このまま終わってしまうわけにはいかない! どうにかして魂を戻す方法はないか? 頼む、教えてくれ!」

 突然の必死な懇願に、どす黒い長剣も言葉に迷うが、目の前の赤眼のデスハザードには端的に伝えた方が良いと理解する。

『方法はあるぞ。簡単じゃ。儂を使って他の世界のその子を斬り、魂のかけらを集めるのじゃ。それを吸収していけば、お主の大切な子も元に戻るじゃろう』
「ほ、本当か!?」
「うむ、本当じゃのぅ」

 どす黒い長剣の言葉は真実だった。平行世界とはいえ、どの世界も結局同じ白羽なのだ。その魂は、同じといっても過言ではない。それを、切り取って張り付けるだけだった。ただし、どす黒い長剣でも一度に集められるのは少しだけである。それを白羽の魂が完全に復活するまで注ぎこめばいいだけだ。

「それなら、早速行こう! 早く白羽の魂を集めなければ!」
『ぬぅ、切り替えが速いのぅ』

 そう言って、赤眼のデスハザードはどす黒い長剣を拾うと、他の平行世界へと早速転移した。

 ◆

「俺は、赤眼のデスハザード。お前らの覚醒エネルギーを奪うものだ!」

 いつもの決まり台詞を吐くと、赤眼のデスハザードはまず邪魔な平行世界の黒栖とデスハザードを始末する。

「なに――!?」
「赤眼だと!?」

 聞き飽きた似たようなセリフを無視して、技を発動した。

時空の箱ディメンションボックス!」

 それによって平行世界の黒栖とデスハザードは、キューブ状に押しつぶされて異空間に消える。

「黒栖君!」

 当然、その世界の白羽が泣き叫ぶが、それも無視だ。

「その魂。頂くぞ」
「えっ――」

 そして、手に持っていたどす黒い長剣を、白羽の心臓に突きさす。

『お主は鬼じゃのぅ』

 そんなどす黒い長剣の呟きは赤眼のデスハザードには届かない。魂を吸い上げているのか、どす黒い長剣が僅かに黒く光り、数秒でそれを終える。

「これで完了か?」
『完了じゃのぅ』
「では戻る」

 魂が吸われて抜け殻となった並行世界の白羽を打ち捨てると、赤眼のデスハザードは自分の世界へと帰還した。

 ◆

「それで、どうすればいい?」

 戻ってくると、早速黒栖はどす黒い長剣に魂を注ぐ方法を問いかける。

『それは簡単じゃ。儂の剣先を、その子に向けるだけでよい。後は儂が行うのでの』
「そうか。よろしく頼む」
『うむ』

 黒栖は緊張しながらも、時を止めていた状態の白羽をまずは解く。そして言われた通り、どす黒い長剣の切っ先を、白羽に向けた。

『では、行うぞ』

 すると、どす黒い長剣が光りだすと、その光が眠る白羽に移っていく。現状を見守る黒栖は、不安で心が引き締められる思いだった。時間にして一瞬に過ぎないそれが、やけに長く感じてしまう。そして光りが収まり、魂を注ぐ作業が完了する。

「どうだ? 成功したのか?」
『うむ。もちろん成功じゃ。しかし、注いだ魂はほんの僅かに過ぎん。変化が現れるには、もう少し必要じゃろう』
「そうか! それならもっと魂を集めに行こう!」
『ぬぅ!? さっき行ったたばかりではないか!?』
「魂を集めるのは早いに越したことはない!」

 そうして、黒栖が並行世界に行くため、先に白羽の時を再び止めようとした時だった。

『時を止めてはならぬ!』
「え?」

 どす黒い長剣から待ったの声がかる。

『魂を注ぐ作業は直ぐに終わったとはいえ、繊細じゃ。時を止めるなどの次元に干渉した場合、最悪二度と魂を注ぐことが出来なくなるかもしれぬ』
「何!?」
『お主は気が付いていないのかもしれぬが、お主の時空魔法はほんの僅かだが魂にも干渉するこができる。普段覚醒エネルギーを保存しているのは時空魔法によるものじゃろう? 覚醒エネルギーとは、魂の力じゃ。それを保管するために、あの方が能力を付けたからのぅ』
「……」

 その事実を聞いて、黒栖は手が震える。もしどす黒い長剣が止めていなかったら、今頃白羽を今度こそ永遠に失うかも知れなったからだ。

『理解したのならば、問題あるまい。その子は時を止めずに、そのままにしておればいいのじゃ』
「わかった。教えてくれて助かったよ」
『うむ』

 そうして黒栖は改めて、並行世界へと旅立った。白羽を救うために、他の白羽を進んで魂ごと殺している現実に目を逸らしながら。


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