021 復讐を願う者

 そこは、砂漠地帯だった。肌を焼くような暑さに、砂丘以外には変化のとぼしい場所。人が生きるには、厳しい環境だ。

 しかし、その過酷な砂漠地帯に、三人の男女がいた。そして、そのうちの一人、尖ったような硬い髪質の茶髪に、悪戯好きに見える顔立ちをした少年、ゴタロウは、その手に一人の少女を抱いている。少女に息は無く、胸には人の腕程の穴が空いていた。
 そう、少女は、デスハザードによって、その命を奪われた人物である。

「ゴタロウ、いったい何があった!」
「何でエルファが死んでいるのよ!」

 叫ぶようにゴタロウへと近づく二人、筋骨隆々きんこつりゅうりゅうの大男、ハーベストに、魔術師姿の女性、ミュレイだ。

 二人は、ほんの一瞬で変化した状況に、驚きを隠せない。しかし、それもそのはずであり、デスハザードの隔離空間は、外界との時間が切り離されている。
 故に二人にしてみれば、歩いていたら突然仲間の一人である少女が、死亡していたという訳だ。

「はは、なんだよあれ、反則だろ……ちくしょう……ちくしょう……」

 ゴタロウは、エルファの遺体を強く抱きしめながら、言葉を吐き続ける。
 異世界転生したという夢物語に、自分は主人公であるというおごりがあった。

 彼女ヒロインであるエルファが死ぬはずは無い、主人公である自分は、最終的に誰にでも勝てるはずだと、そう思っていたのだ。

 しかし、現実はどうだろうか、訳も分からないまま突然現れた存在によって、大切なものが奪われてしまった。
 覚醒したことにより、想像以上の力を手にしても、デスハザードという男に対して、ゴタロウは勝てるイメージができそうにはない。

 だがそれでも、ゴタロウはエルファの仇をとりたかった。他のいかなるものを犠牲にしたとしても。
 神がいるのならば、このような理不尽があっていいのかと、心の中でうったえる。

 何度も何度も、繰り返し願う。あの男だけは許さないと、自分と同じ目に遭わせてやるという、強い想いだ。しかし、いくら願ったところで、現実というものは残酷であり、その願が叶うことは無い――と思われた。

「え?」

 ゴタロウはつい声に出す。
 確かに聞えたのだ。復讐のチャンスを与えると。

「どうしたゴタロウ! 説明してくれ!」
「突然死ぬ何ておかしいわ!」

 仲間の言葉がゴタロウには、まるで他の言語にように理解できない。
 それよりも、そのチャンスを獲得する為に、自分は証明しなければいけないのだ。その覚悟を。

「おい! ゴタロウ! 聞いて――」
「な、何を!?」

 その瞬間、ゴタロウはエルファを地面に置くと、仲間であるハーベストの首を手に持った長剣で斬り飛ばした。

「俺のため、そして、エルファの復讐のために死んでくれ」
「い、いやぁああああああ!!」

 ゴタロウは、もう一人の仲間、ミュレイも斬り殺し、砂漠地帯でたった一人となる。

「これでいい、これで、復讐ができるんだ! ははっ! エルファ、待っていてくれ! 俺はやるぞ! やってみせる!」

 狂ったようにそう叫ぶゴタロウ。右手に持ち、真上に掲げる長剣は、復讐の資格を満たしたのか、にごったかのように、その色を暗くしていく。

「デスハザード、待っていろ! 俺がお前の彼女ヒロインを同じように殺してやる!」

 その表情には、以前の悪戯好きな雰囲気は消え去り、復讐に燃える、一人の悪鬼羅刹あっきらせつとなった少年がいた。

 そして、その少年、ゴタロウは、今いる世界より転移する。場所は当然デスハザード、黒栖の住む町、陸央町りくおうちょうだ。


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