一つ問題が解決すれば、即座に次の問題が現れるのは、世の必然だろうか。
「え? という事は、黒栖君はずっと私の事を監視していたの?」
「あ、ああ」
「もしかして、着替えやお風呂、それに、お、おトイレも……?」
「待ってくれ、流石にそこまで覗いてはいない」
黒栖はそう言って、弁明をする。
そう、現在話している内容は、黒栖の追撃者と、時空魔法を併用した能力についてだ。
その能力を使用して、視界を飛ばし、覗き見をしていたことを白羽に伝えた。
別にやましい気持ちで覗いていたのではなったので、黒栖自身は問題ないと思っていたが、覗いたか覗いてないかは、本人しか分からない。
つまり、白羽は疑心暗鬼になっていた。
黒栖を信じていない訳ではないが、覗かれていたのならば、この上なく恥ずかしい。だが、逆に黒栖の言う通り覗いていないのであれば、それはそれで複雑な思いだ。
矛盾しているが、白羽の今の気持ちは、そんな風に混沌としている。
「本当に? 一回も? 一瞬も?」
「ああ、本当だ。そういう事を察したら、すぐに視界を部屋の周囲に移動させていたからな」
「……そうなんだ」
「ああ」
そこまで言い切られてしまうと、少し自信を無くしてしまう。これでも、白羽はそれなりに自分の体に自信があった。
身長は平均的だが、体重は平均よりも少なめであり、胸の大きさは学年、いや学校全体でも、トップクラスという自負がある。
それに、容姿だって悪くはないはずだが、もしかして黒栖の好みではないのかと、少々白羽は不安になってきた。
黒栖はそれを見て、白羽の体調が優れないのかと心配になり、声をかける。
「大丈夫か? 顔色が悪いぞ?」
「え!? 私の顔って、そんなに悪いの?」
「ん? ああ、具合が悪そうだ」
「そんな……」
「お、おい!?」
勘違いが勘違いを呼び、白羽はショックで膝から崩れ落ちそうになるが、それを黒栖は受け止めた。
「あ、ありがとう……」
「やっぱり体調が悪いのか?」
「へ? 体調?」
「ああ」
「……もう大丈夫」
白羽は顔を真っ赤にして立ち上がる。とても恥かしい思いをしてしまった。この事はお墓まで持って帰ると、白羽はそう決断する。
「本当か? 今度は顔が赤いぞ?」
「本当に大丈夫だから! もう気にしないで!」
「わ、わかった」
とりあえず、この話は終了し、黒栖がどこまで覗いていたかの審議も、うやむやとなった。
「それじゃあ、改めて今後の事についてなんだが、白羽、俺と一緒の部屋に寝ないか?」
「え、ぇええ!? な、何をいきなり言っているの!? そ、そういうのって色々と段取りがあると思もうの!」
お互いにまた何か勘違いをしたようだが、気がつかない。そもそも、黒栖は説明を端的に話すのが苦手だった。
更に、黒栖は十代なのにも拘らず、性に対する興味が薄い。
「あ、ああそうだな、準備が必要か、だけどなるべく早くしてくれないと、俺も我慢ができないと思う」
「ちょ、ちょっと待って! 黒栖君も男の子だからそうなのかもしれないけど、せめて数ヶ月は必要だと思うの!」
白羽は顔を真っ赤にして、慌てるように両掌を前に出した。
それに対して黒栖は、数ヶ月と聞いて、本気で悩み始める。
「数ヶ月……それは流石に死んでしまうな……」
「そ、そこまで……なら、恥ずかしいけど――」
「睡眠不足を補うためにはどうするか……」
「え?」
「……ん?」
途中から話が耳に入っていなかった黒栖は、数ヶ月に及ぶ睡眠不足をどうするかという事について、つい口に出てしまった。
白羽は、それによって、自分がとんでもない勘違いをしてしまった事に気がつく。
「く、黒栖君、睡眠不足って、いったいなんの話しなのかな?」
「いや、俺が数ヶ月徹夜で監視能力を使う話だが」
「……聞いてない」
「ん?」
「監視能力のためって聞いてない!」
「!?」
白羽は思わず、声を張り上げた。穴があったら入りたい。むしろそのまま埋めてほしい。
黒栖の説明が足りないのは明らかだったが、その説明で空回りしたのは白羽自身だ。
「黒栖君は説明が少なすぎるよ! 一から十までしかっかり説明して!」
「す、すまない」
顔を真っ赤にして八つ当たり気味に言う白羽の気迫に、黒栖は思わずたじろいでしまった。
それから、結局黒栖は再度説明をして、離れているとデスハザードが来た時に、対応が遅れてしまう事や、二十四時間監視するのは、体力的に厳しい事などを話し、ようやく白羽を納得させる事に成功する。
黒栖の説明不足は逆に狙ったのではないかと、白羽は一瞬そう思ったが、どう見ても素で言っているようにしか見えなかったので、ついため息が出てしまう。
「はぁ、黒栖君って真面目だけど、意外に天然だよね」
「天然? そうか?」
「うん」
黒栖自身は、天然などという自覚は全くない。
勘違いから始まった事だが、黒栖のそんな一面を知れて、白羽は実際うれしかったりする。
「とりあえずは、次からは気をつける」
「うん、絶対だよ」
「ああ」
そうして、不純な理由からではなく、白羽の安全と、黒栖の睡眠時間確保のため、二人は同じ部屋で寝る事となった。
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